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40話 惚れ直してもらえるように、頑張るから
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「莉愛、ちょっと話がしたいけど」
「…………」
コンコン、としたノックの音が部屋中に響き渡る。
莉愛はベッドの上で布団をかぶったまま、ぶうと頬を膨らませた。会いたくない。
今の私は、絶対に変な顔になっているはずだから。こんな、涙に濡れた顔なんて絶対に見せたくない。
なのに、ノックの音がもう一度鳴った。
「……莉愛。俺が悪かった。莉愛?」
……ああ、あの男は本当に。
昔から、なにも変わっていない。昔と言うことが同じだ。俺が悪かった。先に謝りたい。そんな風に、私を宥めようとする。
あなたは何も悪くないのに。
悪いのは全部……重くて、執着して、つい束縛したいと思っちゃう私が悪いのに。
莉愛ははあ、とため息をついてからのろのろと布団から出て、立ち上がった。
今日はもう一人にさせて、ど言ってもいいだろう。会いたくないと言ってもいい。
でも、それじゃ本当に昔のままだ。付き合っていた頃、蓮を勝手に縛り付けようとした私のままだ。
勝手に拗ね散らかしてごめんなさい。我儘言ってごめんなさい。これくらいは言うべきだろう。
少しは、私も成長したいから。
そんな意気込みを持って、莉愛は部屋のドアを開けた。
「えっ」
「……………なに、その顔」
そして、ドアが開いた途端に蓮は目を見開いて固まってしまった。
なにせ、こういう時に莉愛がドアを開けてくれたことがないのだ。今日もてっきり、なし崩し的に部屋の中に入って宥めるつもりだったのに。
「………莉愛」
「………なんで、来たの。今日は休ませてって言ったのに」
「いや、その……謝りたいことがあって」
「……………………」
莉愛は長い沈黙を持った後、心の底にあった言葉を引き出す。
「なにも悪くないじゃん」
「えっ?」
「なにも、悪くないじゃん……昔からそうだった。あなたは何も悪くないの。私がただ変に拗ねただけ。我儘なのは、いつも私の方だもん」
「……莉愛?」
「でも、私は無理やり私の願望をあなたに押し付けて……今日だって同じじゃない。だから、謝らないでよ」
驚きを通り越して驚愕している蓮を癪に思いながらも、莉愛はなんとか言う。
「悪いのは全部、私だから」
…………本当に莉愛か?
本当に、こいつが俺が知っている七瀬莉愛……?
蓮はつい、そういった本音をこぼしてしまった。
「誰だ君。俺が知っている七瀬莉愛はどこに行った」
「………………………この期に及んで冗談言うつもり!?」
「だっておかしいだろ!!早く俺が知っている莉愛を返せ!俺が知っている莉愛はこんな場面で謝ったりしない!さらに拗ねて拗ねて拗ね散らかして、キスでもしなきゃ絶対に機嫌直してくれないめんどくさ女なんだよ!!」
「ああ、そう~~悪かったですね、そっちが知っている七瀬莉愛じゃなくて!!もうダメ!!あなたなんか嫌い!早く出てって!!」
「ちょっ……!?ドア閉じるなって!悪かった。俺が悪かったからさ」
蓮は普段の人のよさそうな顔で、素早く部屋の中に入ってくる。
せっかく踏ん張ったのに、戻ってくるのがあの反応なんて。
割と本気で傷ついた莉愛は、ただ恨めし気に蓮を見上げるだけだった。
「ごめんって。俺が本当に悪かったから」
「……知らない。早く出てって」
「俺も悪かったよ、莉愛」
「……え?」
「昔のこと」
ここでは、自分もちゃんと本当の気持ちを伝えた方がいいだろう。
そう考えた蓮は、笑い気を飛ばした顔で語っていく。
「あの時の俺、けっこう言葉が足りなかったからさ。莉愛がそうやって束縛してくるたびに会話を諦めたりとか、めんどくさいとか……ぶっきらぼうなことばっか言ってたし」
「でも、それは私が……」
「いや、俺もなかなか不器用だったんだ。俺もほら、なんか嫌だなと思って避けるばかりで、莉愛とちゃんと腰を据えて話そうとはしてなかったし」
「…………」
「だから、そんな風に自分一人のせいにしないでくれよ。昔のことなんて……きっと、どちらも悪かったからさ」
違う。
違うの。悪いのはどう思ったって、私だった。
私があなたをもっと信じていれば、私がもうちょっと大人しく対応していれば。
私が、もっとあなたのことを理解しようと努力していれば……別れることは、なかったはずなのに。
「うん、言いたいのはそれだけ。今日も……悪かったよ、俺が。急に無愛想になって。気に食わなかっただろ?」
「……何を言ってるの、今日こそあなたは何も悪くないでしょ?」
「えっ?」
「今日のあなたのどこが悪かったの?私たち、恋人でもないじゃない。由奈と楽しく話してたのは……仲のいい友達だから、仕方ないし。山本君と由奈が帰ってからした話もほぼ一方的に、私の屁理屈だったし」
「……マジでどなたですか、あなた?本当に七瀬莉愛さん?」
「話を茶化さないで!!とにかく……その」
莉愛は若干俯きながらも、なんとか心を振り絞って言葉を放つ。
「ごめんなさい……蓮」
「…………」
「さっきもそうだし、昔もそうだし。あなたのこと、彼女でもないのに勝手に束縛しようとして……ごめんなさい。いや、彼女でもしちゃいけない行為だって分かってるけど」
「……莉愛」
「……あはっ、そうだね。いくら幼馴染といってもこんなに重くなるのは嫌だよね?だから別れたんだし……でも、これからは頑張るから」
「……………」
「私、本気だったよ?あなたのこと落とすって言ったのも、ちゃんと本気だった。だからさ、これからは……ちゃんとあなたに惚れ直してもらえるよう、頑張るから」
蓮は目を見開いて、ただただ莉愛を見つめた。
「…………」
コンコン、としたノックの音が部屋中に響き渡る。
莉愛はベッドの上で布団をかぶったまま、ぶうと頬を膨らませた。会いたくない。
今の私は、絶対に変な顔になっているはずだから。こんな、涙に濡れた顔なんて絶対に見せたくない。
なのに、ノックの音がもう一度鳴った。
「……莉愛。俺が悪かった。莉愛?」
……ああ、あの男は本当に。
昔から、なにも変わっていない。昔と言うことが同じだ。俺が悪かった。先に謝りたい。そんな風に、私を宥めようとする。
あなたは何も悪くないのに。
悪いのは全部……重くて、執着して、つい束縛したいと思っちゃう私が悪いのに。
莉愛ははあ、とため息をついてからのろのろと布団から出て、立ち上がった。
今日はもう一人にさせて、ど言ってもいいだろう。会いたくないと言ってもいい。
でも、それじゃ本当に昔のままだ。付き合っていた頃、蓮を勝手に縛り付けようとした私のままだ。
勝手に拗ね散らかしてごめんなさい。我儘言ってごめんなさい。これくらいは言うべきだろう。
少しは、私も成長したいから。
そんな意気込みを持って、莉愛は部屋のドアを開けた。
「えっ」
「……………なに、その顔」
そして、ドアが開いた途端に蓮は目を見開いて固まってしまった。
なにせ、こういう時に莉愛がドアを開けてくれたことがないのだ。今日もてっきり、なし崩し的に部屋の中に入って宥めるつもりだったのに。
「………莉愛」
「………なんで、来たの。今日は休ませてって言ったのに」
「いや、その……謝りたいことがあって」
「……………………」
莉愛は長い沈黙を持った後、心の底にあった言葉を引き出す。
「なにも悪くないじゃん」
「えっ?」
「なにも、悪くないじゃん……昔からそうだった。あなたは何も悪くないの。私がただ変に拗ねただけ。我儘なのは、いつも私の方だもん」
「……莉愛?」
「でも、私は無理やり私の願望をあなたに押し付けて……今日だって同じじゃない。だから、謝らないでよ」
驚きを通り越して驚愕している蓮を癪に思いながらも、莉愛はなんとか言う。
「悪いのは全部、私だから」
…………本当に莉愛か?
本当に、こいつが俺が知っている七瀬莉愛……?
蓮はつい、そういった本音をこぼしてしまった。
「誰だ君。俺が知っている七瀬莉愛はどこに行った」
「………………………この期に及んで冗談言うつもり!?」
「だっておかしいだろ!!早く俺が知っている莉愛を返せ!俺が知っている莉愛はこんな場面で謝ったりしない!さらに拗ねて拗ねて拗ね散らかして、キスでもしなきゃ絶対に機嫌直してくれないめんどくさ女なんだよ!!」
「ああ、そう~~悪かったですね、そっちが知っている七瀬莉愛じゃなくて!!もうダメ!!あなたなんか嫌い!早く出てって!!」
「ちょっ……!?ドア閉じるなって!悪かった。俺が悪かったからさ」
蓮は普段の人のよさそうな顔で、素早く部屋の中に入ってくる。
せっかく踏ん張ったのに、戻ってくるのがあの反応なんて。
割と本気で傷ついた莉愛は、ただ恨めし気に蓮を見上げるだけだった。
「ごめんって。俺が本当に悪かったから」
「……知らない。早く出てって」
「俺も悪かったよ、莉愛」
「……え?」
「昔のこと」
ここでは、自分もちゃんと本当の気持ちを伝えた方がいいだろう。
そう考えた蓮は、笑い気を飛ばした顔で語っていく。
「あの時の俺、けっこう言葉が足りなかったからさ。莉愛がそうやって束縛してくるたびに会話を諦めたりとか、めんどくさいとか……ぶっきらぼうなことばっか言ってたし」
「でも、それは私が……」
「いや、俺もなかなか不器用だったんだ。俺もほら、なんか嫌だなと思って避けるばかりで、莉愛とちゃんと腰を据えて話そうとはしてなかったし」
「…………」
「だから、そんな風に自分一人のせいにしないでくれよ。昔のことなんて……きっと、どちらも悪かったからさ」
違う。
違うの。悪いのはどう思ったって、私だった。
私があなたをもっと信じていれば、私がもうちょっと大人しく対応していれば。
私が、もっとあなたのことを理解しようと努力していれば……別れることは、なかったはずなのに。
「うん、言いたいのはそれだけ。今日も……悪かったよ、俺が。急に無愛想になって。気に食わなかっただろ?」
「……何を言ってるの、今日こそあなたは何も悪くないでしょ?」
「えっ?」
「今日のあなたのどこが悪かったの?私たち、恋人でもないじゃない。由奈と楽しく話してたのは……仲のいい友達だから、仕方ないし。山本君と由奈が帰ってからした話もほぼ一方的に、私の屁理屈だったし」
「……マジでどなたですか、あなた?本当に七瀬莉愛さん?」
「話を茶化さないで!!とにかく……その」
莉愛は若干俯きながらも、なんとか心を振り絞って言葉を放つ。
「ごめんなさい……蓮」
「…………」
「さっきもそうだし、昔もそうだし。あなたのこと、彼女でもないのに勝手に束縛しようとして……ごめんなさい。いや、彼女でもしちゃいけない行為だって分かってるけど」
「……莉愛」
「……あはっ、そうだね。いくら幼馴染といってもこんなに重くなるのは嫌だよね?だから別れたんだし……でも、これからは頑張るから」
「……………」
「私、本気だったよ?あなたのこと落とすって言ったのも、ちゃんと本気だった。だからさ、これからは……ちゃんとあなたに惚れ直してもらえるよう、頑張るから」
蓮は目を見開いて、ただただ莉愛を見つめた。
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