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36話 悪質同盟、復活
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絶対に落としてやる。
その宣言を聞いて、正気でいられるはずがない。蓮は授業を受けている間にもぼうっと、昨日の莉愛を思い出していた。
中間テストが迫ってきて、クラスには普段より真面目な雰囲気が流れている。
にも拘わらず、蓮の意識はあの言葉にずっと縛られていた。
『私たちが結婚したその夢通りに、してやるから』
……おかしいだろ、あいつ。
そもそも、なんであんな夢なんか毎日見てるんだよ。
いや、もちろん本人の意志と関係なしに見ちゃうって言ってたから仕方ないかもしれないけど、でも―――
『……ヤバいな、これ』
正直、蓮には莉愛の攻めに我慢できる自信がないのである。
だって、蓮も莉愛のことが……好きなのだ。大好きなのだ。
莉愛と同じく別れてからもずっと好きだったし、無意識に莉愛を第一に思いながら生きてきたのだ。
たった1年、友達でいることで薄まるような愛じゃない。蓮が莉愛に抱いている感情は、それくらいのものだった。
『なに考えてるんだ……別れたく、ないのに』
だから、蓮は莉愛が見せてくれた態度に戸惑うしかなかった。
もし、また莉愛と付き合って今度も上手く行かなかったら、本当に取り返しがつかないから。
莉愛だってそれを分かっているはずだ。蓮のことが好きなら、なおさら戸惑って色々と悩むはずだ。
なのに、莉愛が下した結論は告白だった。
「……陽太、俺もうダメかもしれない」
「うん?どうした?」
「死んだら日当たりのいいところに埋めてくれよ……」
「マジでどうした!?」
授業が終わった後の休み時間、蓮は魂が抜けだした顔でそんなことをつぶやいていた。
隣で陽太が引いている中、由奈がその二人にずいずいと近づいていく。
そして、由奈も陽太のように呆れた顔をしながら―――さっそく蓮に質問を投げた。
「あのさ、日比谷」
「えっ、白水?どうしたんだ?」
「あんた、また莉愛になにかしたよね?」
「だからなんであいつのことばっか言うんだよ!!俺は知らねーわ!!」
「ウソつけ!!あんた、あれを見てなんとも思わないわけ!?」
由奈が指さしたところへ視線を向けると、そこには机に突っ伏した状態の莉愛がいた。
しかし、それだけじゃない。
莉愛はなにかをぷつぷつと語りながら、とんでもない負のオーラを出していて―――周りの子たちが怖気づいて、莉愛を避けていたのだ。
「死にたい…………死にたい死にたい死にたいぃいいい…………………」
「……………………」
「……あれは重症だな。何をやったんだ?蓮」
「な、なんで俺がなにかやった前提なんだよ!」
蓮が慌てて反論すると、次にまた由奈の横やりが飛んでくる。
「じゃ、本当になにもやってないわけ?」
「………………………えっ、と」
「やっぱりなにかやったじゃんか!!!」
急速に顔を赤らめる蓮を見て、由奈はもどかしい気持ちに耐えられなくなる。
本当に、なんなのこいつら……!?元恋人でしょ?あんなに公開の場でちゅっちゅしてたんでしょ!?
なのに、なんで今になって二人ともヘタレているのかな!?両想いなのに!?互いのこと好き好きなのに!?
「山本、ちょっと」
「うん?ああ、うん」
なにか策を練らなきゃいけないと思った由奈は、陽太を連れて教室の隅っこに行く。
「えっ、ちょっ……!?どこ行くんだよ、お前ら!!」
蓮の話し声を綺麗に無視して、由奈は小声で陽太と話を始めた。
「どう思う、山本君?あれ、絶対にキスくらいはした反応だよね……?」
「いや、もしくはキス以上のこともしたかもしれないぞ?」
「だよね、だよね!?山本君もそう思うよね!?」
ただ二人がイチャイチャするのを眺めたい悪質女の子は、激しく頷きながら言葉を続ける。
「で、今朝からちょっと考えたの。あの二人をいち早くくっつけるためにはどうした方がいいかなって」
「おお、それで?」
「で、結論が出たわけ。もうすぐ中間テストじゃん?だから、勉強会と称したイチャイチャ眺め会を開くのはどうかな?」
「悪質すぎるな……!七瀬のあの反応見たら分かるだろ!?二人は今、絶対に気まずい状況だって!」
「いや、そこがいいんでしょ!?私たちが間に挟まることで雰囲気も和やかになるし?なにが起きたのかもわかるようになるし?二人をくっつけるチャンスがあるかもしれないし!一石三鳥じゃん、一石三鳥!」
「もしかして君の前世は覗き魔だったのか?」
「失礼ね。ただ、二人の友達として二人が幸せになって欲しいだけなのに~~」
まあ、半分くらいは二人のイチャイチャを眺めながら飯食いたい……とは思ってるけど。
そんな由奈の心の声が漏れるはずもなく、陽太は口をあんぐり開いて彼女を眺めるだけだった。
しかし、七瀬のあの反応。そして、さっき蓮が見せてくれた真っ赤な顔。
さすがに、これに乗っからない手はないか。
「いいぞ、俺は。今週の週末に押しかけるか?」
「えっ、いいの?さっきは私のこと覗き魔かなにかって言ってなかったっけ!?」
「いや、面白そうだから。蓮はいじり甲斐があるんだよ」
「やっぱり、山本君も悪質だよね……」
こうして、親友たちの恋路を最前列で眺めることしか興味のない。
悪質極まりない同盟が、再び復活したのであった。
その宣言を聞いて、正気でいられるはずがない。蓮は授業を受けている間にもぼうっと、昨日の莉愛を思い出していた。
中間テストが迫ってきて、クラスには普段より真面目な雰囲気が流れている。
にも拘わらず、蓮の意識はあの言葉にずっと縛られていた。
『私たちが結婚したその夢通りに、してやるから』
……おかしいだろ、あいつ。
そもそも、なんであんな夢なんか毎日見てるんだよ。
いや、もちろん本人の意志と関係なしに見ちゃうって言ってたから仕方ないかもしれないけど、でも―――
『……ヤバいな、これ』
正直、蓮には莉愛の攻めに我慢できる自信がないのである。
だって、蓮も莉愛のことが……好きなのだ。大好きなのだ。
莉愛と同じく別れてからもずっと好きだったし、無意識に莉愛を第一に思いながら生きてきたのだ。
たった1年、友達でいることで薄まるような愛じゃない。蓮が莉愛に抱いている感情は、それくらいのものだった。
『なに考えてるんだ……別れたく、ないのに』
だから、蓮は莉愛が見せてくれた態度に戸惑うしかなかった。
もし、また莉愛と付き合って今度も上手く行かなかったら、本当に取り返しがつかないから。
莉愛だってそれを分かっているはずだ。蓮のことが好きなら、なおさら戸惑って色々と悩むはずだ。
なのに、莉愛が下した結論は告白だった。
「……陽太、俺もうダメかもしれない」
「うん?どうした?」
「死んだら日当たりのいいところに埋めてくれよ……」
「マジでどうした!?」
授業が終わった後の休み時間、蓮は魂が抜けだした顔でそんなことをつぶやいていた。
隣で陽太が引いている中、由奈がその二人にずいずいと近づいていく。
そして、由奈も陽太のように呆れた顔をしながら―――さっそく蓮に質問を投げた。
「あのさ、日比谷」
「えっ、白水?どうしたんだ?」
「あんた、また莉愛になにかしたよね?」
「だからなんであいつのことばっか言うんだよ!!俺は知らねーわ!!」
「ウソつけ!!あんた、あれを見てなんとも思わないわけ!?」
由奈が指さしたところへ視線を向けると、そこには机に突っ伏した状態の莉愛がいた。
しかし、それだけじゃない。
莉愛はなにかをぷつぷつと語りながら、とんでもない負のオーラを出していて―――周りの子たちが怖気づいて、莉愛を避けていたのだ。
「死にたい…………死にたい死にたい死にたいぃいいい…………………」
「……………………」
「……あれは重症だな。何をやったんだ?蓮」
「な、なんで俺がなにかやった前提なんだよ!」
蓮が慌てて反論すると、次にまた由奈の横やりが飛んでくる。
「じゃ、本当になにもやってないわけ?」
「………………………えっ、と」
「やっぱりなにかやったじゃんか!!!」
急速に顔を赤らめる蓮を見て、由奈はもどかしい気持ちに耐えられなくなる。
本当に、なんなのこいつら……!?元恋人でしょ?あんなに公開の場でちゅっちゅしてたんでしょ!?
なのに、なんで今になって二人ともヘタレているのかな!?両想いなのに!?互いのこと好き好きなのに!?
「山本、ちょっと」
「うん?ああ、うん」
なにか策を練らなきゃいけないと思った由奈は、陽太を連れて教室の隅っこに行く。
「えっ、ちょっ……!?どこ行くんだよ、お前ら!!」
蓮の話し声を綺麗に無視して、由奈は小声で陽太と話を始めた。
「どう思う、山本君?あれ、絶対にキスくらいはした反応だよね……?」
「いや、もしくはキス以上のこともしたかもしれないぞ?」
「だよね、だよね!?山本君もそう思うよね!?」
ただ二人がイチャイチャするのを眺めたい悪質女の子は、激しく頷きながら言葉を続ける。
「で、今朝からちょっと考えたの。あの二人をいち早くくっつけるためにはどうした方がいいかなって」
「おお、それで?」
「で、結論が出たわけ。もうすぐ中間テストじゃん?だから、勉強会と称したイチャイチャ眺め会を開くのはどうかな?」
「悪質すぎるな……!七瀬のあの反応見たら分かるだろ!?二人は今、絶対に気まずい状況だって!」
「いや、そこがいいんでしょ!?私たちが間に挟まることで雰囲気も和やかになるし?なにが起きたのかもわかるようになるし?二人をくっつけるチャンスがあるかもしれないし!一石三鳥じゃん、一石三鳥!」
「もしかして君の前世は覗き魔だったのか?」
「失礼ね。ただ、二人の友達として二人が幸せになって欲しいだけなのに~~」
まあ、半分くらいは二人のイチャイチャを眺めながら飯食いたい……とは思ってるけど。
そんな由奈の心の声が漏れるはずもなく、陽太は口をあんぐり開いて彼女を眺めるだけだった。
しかし、七瀬のあの反応。そして、さっき蓮が見せてくれた真っ赤な顔。
さすがに、これに乗っからない手はないか。
「いいぞ、俺は。今週の週末に押しかけるか?」
「えっ、いいの?さっきは私のこと覗き魔かなにかって言ってなかったっけ!?」
「いや、面白そうだから。蓮はいじり甲斐があるんだよ」
「やっぱり、山本君も悪質だよね……」
こうして、親友たちの恋路を最前列で眺めることしか興味のない。
悪質極まりない同盟が、再び復活したのであった。
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