13 / 76
13話 私にとっての男は、あなただけ
しおりを挟む
調子が狂う。
蓮と一緒に住んでから、莉愛は段々とそう思うしかなくなった。
調子が狂って、関係を区切る線が有耶無耶になって、どうすればいいか分からなくなる。
『大体あいつ、総力戦とか言ったの絶対ウソだよね……?』
自惚れかもしれないけど、莉愛が知っている蓮はあの場面で必ず気を遣う人間だ。
だから、莉愛は余計に蓮が恨めしくなる。未だに自分のことを第一に思っているのが嫌だけど、やっぱり嬉しくて。
そこで嬉しくなる自分も、蓮も、全部恨めしくなる。
「うわぁ、こんな辛気臭い顔でコスメ選ぶ人初めて見た」
そして、親友の反応をジッと見つめていた由奈は、かなり呆れた表情を浮かべた。
「……別に辛気臭い顔なんかしてない」
「いやいや、ここに鏡あるでしょ?ほら、よく見てみな~?」
……確かに、ちょっとだけ嫌な顔になっているのは認めるけど!
でも、仕方ないじゃん……!仕方ないじゃん!あいつが悪いんだし。
おまけに、今日もラブラブにキスする変な夢見ちゃったし!
「由奈……私もうダメかもしれない。頭でも打ったら幸せになれるのかな……?」
「ああ~~よしよし。どうしたんですか~?また日比谷にいじめられたんですか~?」
「なんでそこであいつが出るの!」
「ふふっ、なんでかな~~?私はよく分からないな~?」
由奈は莉愛の頭を撫でるふりをしながら、ニヤニヤとするだけ。
莉愛は頬を膨らませてから、そんな親友を恨みがましい目で睨む。
「でも、なんで急にコスメ買いたいとか言い出したの?莉愛、普段はメイクなんかあんまり気にしないでしょ?」
「それはそうだけど……でも、なんとなく」
「ふふ~~ん?」
「……これ以上いじったら私帰る」
「あああ!!分かった、分かったから~~あはっ、もう」
絶対に日比谷絡みでしょ、これ!この前はすっぴん見られるのちょっと嫌だとか言ってたし!
この子、本当に上手く隠せていると思ってるのかな……?
まあ、当事者の日比谷にはちゃんと隠せているようだから、別にいいけど。
「じゃ、私がこの前買ったヤツで試してみる?これ、けっこう有名なヤツなんだよね」
「うん、お願いします」
「でも、学校ではメイク禁止でしょ?週末にするつもり?」
「たぶんそうなるんじゃないかな?家にいる時にするわけにもいかないし」
「ふふん~~日比谷にすっぴん見られるのは嫌なのに?」
「わたし帰る」
「あああ~~!?!?分かった、分かったから!!」
完全に拗ねてしまった莉愛をなんとか宥めながら、由奈は莉愛の横顔をジッと見つめる。
……本当に毎回思うんだけど、詐欺だよねこれ。
普通のアイドルやモデルも簡単に打ち負かしそうな完璧な顔だ。実際に、今も店の中にいる人たちがちらちらと莉愛を見てるし。
内側が少しポンコツだけど、とにかく莉愛は綺麗すぎる。
「……由奈?」
「うん?」
「なに?そんなにじっと見て」
「いや?綺麗だなって思っただけ」
「……また適当なこと言ってるでしょ」
「適当なことだといいけどね~~本当に、中身とは真逆なんだよな、莉愛って」
「ねぇ、なにさりげなくディスってるの?喧嘩売ってる?喧嘩売ってるよね、これ!?」
こんな綺麗な顔で一人の男だけ考えるなんて、普通にあり得るのかな……。
そう思いながら、由奈はまたもや苦笑を浮かべた。
「この後どうする?普通にお昼食べようか?」
「そうしよっか。私もう腹ペコだよ~~どこの誰かさんが同居人の好みばかり考えていたせいで、ずっと立ちっぱなしだったから」
「…………………」
「分かった、分かったからそんな人を殺しそうな目しないで……」
由奈は冷や汗を掻きながら両手を振ると、莉愛はふうとため息をついた。
別に、蓮によく見てもらいたくてコスメを買ったわけではない。
そりゃ、すっぴんを見られるのはすごく気になるし、なるべく綺麗な状態を見せたいとは思うものの―――綺麗にメイクした顔を見せる必要が、ないのだ。
別れたから。もうデートもしないから。ただの……友達だから。
『明日、約束あるからちょっと出かけてくるね』
『おぉ、ついに男?』
『……………………』
『……し、白水だよな?分かったからそんな辛気臭い顔するなよ、本当に』
蓮は自分に振り向いてくれない。
もう、私の隣にどんな男がいても平気そうな顔をしている。
昨日の夜の会話を思い出しながら、莉愛の心はなおさらモヤっとなってしまう。
分かってはいる。もう別れたんだし幼馴染だから、他の男に会っても問題がないってことくらいは。分かってはいるけど―――
『………仕方がないじゃん。私にとって男は、昔からあなた一人だったから』
別れてもなお、蓮は莉愛の中にあまりにも溶け込んでいるのだ。
さっき選んだファウンデーションだって、結局蓮の好みに合わせてなるべくナチュラルに仕上げるものを選んでしまった。
それを選んでしまうのが嫌だと思いつつも、どうしても派手なものを選ぶ気にはなれなくて。
結局、莉愛は認めるしかなかったのだ。自分は未だに、別れて1年が経ってもなお、蓮に縛られていると。
……結婚する夢を見ているからかもしれないが。
「どこ行く?この辺りにいいパスタ屋さん知ってるんだよね」
「パスタいいね!じゃ、付き合ってくれたおかげでお昼は私が買うから」
「わ~~い!莉愛大好き~~!」
すぐに抱き着く由奈とじゃれ合いながら、莉愛は困り顔になる。
まあ、ちょっとした気分転換はいいっか。最近あいつのことを意識しすぎているし、今日ばかりはなにも考えずに精一杯遊ぼう!
そんな希望もむなしく。
「ゲッ」
「?」
あまりにも聞きなれた声が聞こえて。
莉愛が振り向くと、そこにはクラスメイトの山本陽太がいて。そして―――
「な、なんであなたがここにいるの……!?」
「こっちのセリフだよ、それ!」
元カレ同居人である日比谷蓮が、気まずそうな顔で立っていた。
蓮と一緒に住んでから、莉愛は段々とそう思うしかなくなった。
調子が狂って、関係を区切る線が有耶無耶になって、どうすればいいか分からなくなる。
『大体あいつ、総力戦とか言ったの絶対ウソだよね……?』
自惚れかもしれないけど、莉愛が知っている蓮はあの場面で必ず気を遣う人間だ。
だから、莉愛は余計に蓮が恨めしくなる。未だに自分のことを第一に思っているのが嫌だけど、やっぱり嬉しくて。
そこで嬉しくなる自分も、蓮も、全部恨めしくなる。
「うわぁ、こんな辛気臭い顔でコスメ選ぶ人初めて見た」
そして、親友の反応をジッと見つめていた由奈は、かなり呆れた表情を浮かべた。
「……別に辛気臭い顔なんかしてない」
「いやいや、ここに鏡あるでしょ?ほら、よく見てみな~?」
……確かに、ちょっとだけ嫌な顔になっているのは認めるけど!
でも、仕方ないじゃん……!仕方ないじゃん!あいつが悪いんだし。
おまけに、今日もラブラブにキスする変な夢見ちゃったし!
「由奈……私もうダメかもしれない。頭でも打ったら幸せになれるのかな……?」
「ああ~~よしよし。どうしたんですか~?また日比谷にいじめられたんですか~?」
「なんでそこであいつが出るの!」
「ふふっ、なんでかな~~?私はよく分からないな~?」
由奈は莉愛の頭を撫でるふりをしながら、ニヤニヤとするだけ。
莉愛は頬を膨らませてから、そんな親友を恨みがましい目で睨む。
「でも、なんで急にコスメ買いたいとか言い出したの?莉愛、普段はメイクなんかあんまり気にしないでしょ?」
「それはそうだけど……でも、なんとなく」
「ふふ~~ん?」
「……これ以上いじったら私帰る」
「あああ!!分かった、分かったから~~あはっ、もう」
絶対に日比谷絡みでしょ、これ!この前はすっぴん見られるのちょっと嫌だとか言ってたし!
この子、本当に上手く隠せていると思ってるのかな……?
まあ、当事者の日比谷にはちゃんと隠せているようだから、別にいいけど。
「じゃ、私がこの前買ったヤツで試してみる?これ、けっこう有名なヤツなんだよね」
「うん、お願いします」
「でも、学校ではメイク禁止でしょ?週末にするつもり?」
「たぶんそうなるんじゃないかな?家にいる時にするわけにもいかないし」
「ふふん~~日比谷にすっぴん見られるのは嫌なのに?」
「わたし帰る」
「あああ~~!?!?分かった、分かったから!!」
完全に拗ねてしまった莉愛をなんとか宥めながら、由奈は莉愛の横顔をジッと見つめる。
……本当に毎回思うんだけど、詐欺だよねこれ。
普通のアイドルやモデルも簡単に打ち負かしそうな完璧な顔だ。実際に、今も店の中にいる人たちがちらちらと莉愛を見てるし。
内側が少しポンコツだけど、とにかく莉愛は綺麗すぎる。
「……由奈?」
「うん?」
「なに?そんなにじっと見て」
「いや?綺麗だなって思っただけ」
「……また適当なこと言ってるでしょ」
「適当なことだといいけどね~~本当に、中身とは真逆なんだよな、莉愛って」
「ねぇ、なにさりげなくディスってるの?喧嘩売ってる?喧嘩売ってるよね、これ!?」
こんな綺麗な顔で一人の男だけ考えるなんて、普通にあり得るのかな……。
そう思いながら、由奈はまたもや苦笑を浮かべた。
「この後どうする?普通にお昼食べようか?」
「そうしよっか。私もう腹ペコだよ~~どこの誰かさんが同居人の好みばかり考えていたせいで、ずっと立ちっぱなしだったから」
「…………………」
「分かった、分かったからそんな人を殺しそうな目しないで……」
由奈は冷や汗を掻きながら両手を振ると、莉愛はふうとため息をついた。
別に、蓮によく見てもらいたくてコスメを買ったわけではない。
そりゃ、すっぴんを見られるのはすごく気になるし、なるべく綺麗な状態を見せたいとは思うものの―――綺麗にメイクした顔を見せる必要が、ないのだ。
別れたから。もうデートもしないから。ただの……友達だから。
『明日、約束あるからちょっと出かけてくるね』
『おぉ、ついに男?』
『……………………』
『……し、白水だよな?分かったからそんな辛気臭い顔するなよ、本当に』
蓮は自分に振り向いてくれない。
もう、私の隣にどんな男がいても平気そうな顔をしている。
昨日の夜の会話を思い出しながら、莉愛の心はなおさらモヤっとなってしまう。
分かってはいる。もう別れたんだし幼馴染だから、他の男に会っても問題がないってことくらいは。分かってはいるけど―――
『………仕方がないじゃん。私にとって男は、昔からあなた一人だったから』
別れてもなお、蓮は莉愛の中にあまりにも溶け込んでいるのだ。
さっき選んだファウンデーションだって、結局蓮の好みに合わせてなるべくナチュラルに仕上げるものを選んでしまった。
それを選んでしまうのが嫌だと思いつつも、どうしても派手なものを選ぶ気にはなれなくて。
結局、莉愛は認めるしかなかったのだ。自分は未だに、別れて1年が経ってもなお、蓮に縛られていると。
……結婚する夢を見ているからかもしれないが。
「どこ行く?この辺りにいいパスタ屋さん知ってるんだよね」
「パスタいいね!じゃ、付き合ってくれたおかげでお昼は私が買うから」
「わ~~い!莉愛大好き~~!」
すぐに抱き着く由奈とじゃれ合いながら、莉愛は困り顔になる。
まあ、ちょっとした気分転換はいいっか。最近あいつのことを意識しすぎているし、今日ばかりはなにも考えずに精一杯遊ぼう!
そんな希望もむなしく。
「ゲッ」
「?」
あまりにも聞きなれた声が聞こえて。
莉愛が振り向くと、そこにはクラスメイトの山本陽太がいて。そして―――
「な、なんであなたがここにいるの……!?」
「こっちのセリフだよ、それ!」
元カレ同居人である日比谷蓮が、気まずそうな顔で立っていた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです
坂合奏
恋愛
「I love much more than you think(君が思っているよりは、愛しているよ)」
祖母の策略によって、冷徹上司であるイギリス人のジャン・ブラウンと婚約することになってしまった、二十八歳の清水萌衣。
こんな男と結婚してしまったら、この先人生お先真っ暗だと思いきや、意外にもジャンは恋人に甘々の男で……。
あまりの熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです。
※物語の都合で軽い性描写が2~3ページほどあります。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで
和泉杏咲
恋愛
1度諦めたはずのもの。もしそれを手にしたら、失う時の方が怖いのです。
神様……私は彼を望んでも良いのですか?
もうすぐ40歳。
身長155cm、体重は88キロ。
数字だけで見れば末広がりで縁起が良い数字。
仕事はそれなりレベル。
友人もそれなりにいます。
美味しいものはそれなりに毎日食べます。
つまり私は、それなりに、幸せを感じられる生活を過ごしていました。
これまでは。
だから、これ以上の幸せは望んではダメだと思っていました。
もう、王子様は来ないだろうと諦めていました。
恋愛に結婚、出産。
それは私にとってはテレビや、映画のようなフィクションのお話だと思っていました。
だけど、運命は私に「彼」をくれました。
「俺は、そのままのお前が好きだ」
神様。 私は本当に、彼の手を取っても良いのでしょうか?
もし一度手に取ってしまったら、私はもう二度と戻れなくなってしまうのではないでしょうか?
彼を知らない頃の私に。
それが、とても……とても怖いのです。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる