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4話 今はそんな関係でもないのに
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「は?1年も!?」
『ああ、悪いと思ってるよ。あなたに先に言っておくべきだったのに』
「本当だよ、父さん。いや、1年も一緒に住むなんて無理だろ!?だって、俺たち―――」
『ん?なにかあったのか?』
そこで、蓮はかろうじて言葉を飲み込んで、ふうと深呼吸をする。
危ない、危ない。蓮の両親はまだ、息子と莉愛が付き合っていたことを知らないのだ。そして、それは莉愛の両親も同じで。
だからこそ、莉愛を蓮の家に住ませようという発想が出てきたのだろう。確かに、女の子一人で住むのは色々危ないし。
「いや、なにも。確か、お父さんたちはアメリカだっけ?」
『ああ、ここで1年くらい暮らすことになってる。悪いけど莉愛ちゃんをよろしく頼むよ、蓮』
「茜さんたちは?茜さんたちもそこにいるんだよね?」
『もちろん。なにせ、働いている職場が同じだからね。というわけで、また後で連絡するか―――ちょっ、茜さん!?』
『やっほ~~蓮ちゃん!元気してる?』
「お、茜さん」
『ふふっ、いきなりごめんね?私たちも転勤が急に決まっちゃったから、仕方なく』
七瀬莉愛の母親―――七瀬茜は、電話の向こうでもニヤニヤすることが分かるくらいに声を弾ませていた。
『ふふっ、おばさんはいつでもOKだからね?』
「うん?何がですか?」
『何って、決まってるでしょ?早く私の娘をもらってよ、蓮ちゃん~~!』
「ちょっ……!も、もらうってどういうことですか!?」
『ふふっ、実はちょっぴり事故が起きるのを期待しちゃったりして』
「うわ、頭痛くなってきた……茜さんは莉愛のこと心配にもならないんですか?」
『うん、当たり前じゃん。だって、蓮ちゃんが傍にいるんだし』
蓮が言葉を詰まらせていると、すぐに茜が言葉を付け足す。
『あなたは誰よりも……誰よりもよく莉愛のことを見ていて、理解してくれているからね。莉愛をこっちに連れてくるのも考えたけど、蓮ちゃんと一緒なら別にいいかな~って思ったし』
「いやいや、俺のこと信用しすぎじゃないですか、茜さん」
『しすぎではないかな~?だって、実際に蓮ちゃんは私が一番信頼している男の子だし』
「ははん~~俺は思春期男子ですよ?獣ですよ、獣?」
『うん?いいよ、蓮ちゃんなら。むしろ早く事故って欲しいくらいだし』
……マジで頭痛くなってきた。本当に大丈夫なのか、この母親!?
蓮が片手で頭を押さえていると、元気いっぱいの茜の声が次々と飛んでくる。
『早く莉愛をもらってよ~~莉愛だって蓮ちゃんのことずっと待って―――あちゃちゃちゃちゃ』
「うん?待って……?」
『なんでもないですよ、なんでも。とにかく、莉愛をよろしくね?蓮ちゃん』
「分かりました。茜さんも体調には気を付けてくださいね?」
『ふふっ、優しいんだから。ありがとう、じゃまた後で電話するね~?』
「いやいや、電話は莉愛にしてくださいね~~?それじゃ」
通話を切って、蓮は大の字になってベッドでぱたんと倒れた。
まさか、元カノと1年も一緒に暮らさなきゃいけないなんて……これはもう地獄だろ、地獄。
それに、罪悪感も半端ない。茜さんはあんなにも自分を信じてくれているけど、実は――――
「もう、いっぱい傷つけてしまったもんな……はあ」
これはもう仕方がない。お風呂にでも入って気持ちを切り替えよう。
そう思った蓮が、部屋を出た瞬間―――
「あ」
「あ」
同じく部屋から出てきた莉愛とぱったり鉢合わせてしまって、気まずい沈黙が流れた。
先にその沈黙を破ったのは、蓮だった。
「そっちもお風呂?」
「うん、あなたも?」
「ああ、でも俺が後でいいよ。先に入れば?」
「……ありがとう。じゃ、そうさせていただきます」
何故か莉愛は少し顔を染めて、蓮の前を通り過ぎていく。
蓮はそんな彼女の後姿を見ながら悩みに悩んだ結果、前から考えていたことを口に出した。
「あの、莉愛」
「うん?」
「その……お願いがあるんだけどさ」
莉愛は目を丸くして振り返る。
蓮は手を空中で何度か回してから、非常に気まずい顔で言った。
「……部屋着、もうちょっと真面目なヤツとかないの?」
「えっ?」
「だって、今のは……な?」
それ以上は言うことが恥ずかしくて、蓮は口を閉じる。
しかし、その言葉の意味を察した莉愛はすぐに顔を真っ赤にさせて、唇を震わせた。
そう、彼女が今着ているのは薄い白シャツ一枚と、丈の短い黒のショートパンツ。
あまりにも体のラインが浮き彫りになっていて、なおかつ露出も多いわけだから―――蓮からすれば、とにかく目の居場所に困るのだ。
しかし、莉愛は少しだけ恨めしそうな顔で、棘立った声で言う。
「……やだ」
「……は?」
「やだって言ったの」
……は?何言ってんだ、こいつ。やだって……!?
じゃ、これからもずっとそんな薄着で、家をウロウロするつもりなのか……?俺の目の前で!?
「な、なんで嫌なんだよ!他にも服はいっぱいあるだろ?」
「ここはもはや私の家でもあるんでしょ?私の家で私がラフにしたいのに、ダメな理由があるの?」
「いやいやいや、俺がいるだろ、俺が!!」
「……あんたは全部見たじゃん」
その瞬間。
蓮は後頭部を殴られたような衝撃を受けて、ただただぼうっとしてしまって。
そんな反応を見た莉愛は、もう首筋まで真っ赤にさせて再び言葉を紡いだ。
「全部、見たじゃん……私のすべて」
「………………………あ、の」
「今更どうってことないでしょ?あんたが我慢して」
その言葉だけを残して、莉愛は逃げるように1階に降りていく。
残された蓮は、バクバクと鳴る心臓の音を感じながら、ふうとため息をついた。
「マジで、なんなんだよ……あいつ」
そりゃ、確かに全部見たけど。触ったりもしていたけど。
でも、今の俺たちは、別にそんな関係じゃないだろ……。
『ああ、悪いと思ってるよ。あなたに先に言っておくべきだったのに』
「本当だよ、父さん。いや、1年も一緒に住むなんて無理だろ!?だって、俺たち―――」
『ん?なにかあったのか?』
そこで、蓮はかろうじて言葉を飲み込んで、ふうと深呼吸をする。
危ない、危ない。蓮の両親はまだ、息子と莉愛が付き合っていたことを知らないのだ。そして、それは莉愛の両親も同じで。
だからこそ、莉愛を蓮の家に住ませようという発想が出てきたのだろう。確かに、女の子一人で住むのは色々危ないし。
「いや、なにも。確か、お父さんたちはアメリカだっけ?」
『ああ、ここで1年くらい暮らすことになってる。悪いけど莉愛ちゃんをよろしく頼むよ、蓮』
「茜さんたちは?茜さんたちもそこにいるんだよね?」
『もちろん。なにせ、働いている職場が同じだからね。というわけで、また後で連絡するか―――ちょっ、茜さん!?』
『やっほ~~蓮ちゃん!元気してる?』
「お、茜さん」
『ふふっ、いきなりごめんね?私たちも転勤が急に決まっちゃったから、仕方なく』
七瀬莉愛の母親―――七瀬茜は、電話の向こうでもニヤニヤすることが分かるくらいに声を弾ませていた。
『ふふっ、おばさんはいつでもOKだからね?』
「うん?何がですか?」
『何って、決まってるでしょ?早く私の娘をもらってよ、蓮ちゃん~~!』
「ちょっ……!も、もらうってどういうことですか!?」
『ふふっ、実はちょっぴり事故が起きるのを期待しちゃったりして』
「うわ、頭痛くなってきた……茜さんは莉愛のこと心配にもならないんですか?」
『うん、当たり前じゃん。だって、蓮ちゃんが傍にいるんだし』
蓮が言葉を詰まらせていると、すぐに茜が言葉を付け足す。
『あなたは誰よりも……誰よりもよく莉愛のことを見ていて、理解してくれているからね。莉愛をこっちに連れてくるのも考えたけど、蓮ちゃんと一緒なら別にいいかな~って思ったし』
「いやいや、俺のこと信用しすぎじゃないですか、茜さん」
『しすぎではないかな~?だって、実際に蓮ちゃんは私が一番信頼している男の子だし』
「ははん~~俺は思春期男子ですよ?獣ですよ、獣?」
『うん?いいよ、蓮ちゃんなら。むしろ早く事故って欲しいくらいだし』
……マジで頭痛くなってきた。本当に大丈夫なのか、この母親!?
蓮が片手で頭を押さえていると、元気いっぱいの茜の声が次々と飛んでくる。
『早く莉愛をもらってよ~~莉愛だって蓮ちゃんのことずっと待って―――あちゃちゃちゃちゃ』
「うん?待って……?」
『なんでもないですよ、なんでも。とにかく、莉愛をよろしくね?蓮ちゃん』
「分かりました。茜さんも体調には気を付けてくださいね?」
『ふふっ、優しいんだから。ありがとう、じゃまた後で電話するね~?』
「いやいや、電話は莉愛にしてくださいね~~?それじゃ」
通話を切って、蓮は大の字になってベッドでぱたんと倒れた。
まさか、元カノと1年も一緒に暮らさなきゃいけないなんて……これはもう地獄だろ、地獄。
それに、罪悪感も半端ない。茜さんはあんなにも自分を信じてくれているけど、実は――――
「もう、いっぱい傷つけてしまったもんな……はあ」
これはもう仕方がない。お風呂にでも入って気持ちを切り替えよう。
そう思った蓮が、部屋を出た瞬間―――
「あ」
「あ」
同じく部屋から出てきた莉愛とぱったり鉢合わせてしまって、気まずい沈黙が流れた。
先にその沈黙を破ったのは、蓮だった。
「そっちもお風呂?」
「うん、あなたも?」
「ああ、でも俺が後でいいよ。先に入れば?」
「……ありがとう。じゃ、そうさせていただきます」
何故か莉愛は少し顔を染めて、蓮の前を通り過ぎていく。
蓮はそんな彼女の後姿を見ながら悩みに悩んだ結果、前から考えていたことを口に出した。
「あの、莉愛」
「うん?」
「その……お願いがあるんだけどさ」
莉愛は目を丸くして振り返る。
蓮は手を空中で何度か回してから、非常に気まずい顔で言った。
「……部屋着、もうちょっと真面目なヤツとかないの?」
「えっ?」
「だって、今のは……な?」
それ以上は言うことが恥ずかしくて、蓮は口を閉じる。
しかし、その言葉の意味を察した莉愛はすぐに顔を真っ赤にさせて、唇を震わせた。
そう、彼女が今着ているのは薄い白シャツ一枚と、丈の短い黒のショートパンツ。
あまりにも体のラインが浮き彫りになっていて、なおかつ露出も多いわけだから―――蓮からすれば、とにかく目の居場所に困るのだ。
しかし、莉愛は少しだけ恨めしそうな顔で、棘立った声で言う。
「……やだ」
「……は?」
「やだって言ったの」
……は?何言ってんだ、こいつ。やだって……!?
じゃ、これからもずっとそんな薄着で、家をウロウロするつもりなのか……?俺の目の前で!?
「な、なんで嫌なんだよ!他にも服はいっぱいあるだろ?」
「ここはもはや私の家でもあるんでしょ?私の家で私がラフにしたいのに、ダメな理由があるの?」
「いやいやいや、俺がいるだろ、俺が!!」
「……あんたは全部見たじゃん」
その瞬間。
蓮は後頭部を殴られたような衝撃を受けて、ただただぼうっとしてしまって。
そんな反応を見た莉愛は、もう首筋まで真っ赤にさせて再び言葉を紡いだ。
「全部、見たじゃん……私のすべて」
「………………………あ、の」
「今更どうってことないでしょ?あんたが我慢して」
その言葉だけを残して、莉愛は逃げるように1階に降りていく。
残された蓮は、バクバクと鳴る心臓の音を感じながら、ふうとため息をついた。
「マジで、なんなんだよ……あいつ」
そりゃ、確かに全部見たけど。触ったりもしていたけど。
でも、今の俺たちは、別にそんな関係じゃないだろ……。
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