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3話 未だに大好きだから
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莉愛から結婚する未来を見た、と言われた翌日。
蓮は予知夢、夢の実現、夢を見る原因などのキーワードを使ってせわしなくスマホで検索をしていた。
なにせ、気にならないわけがないのだ。
元カノと言っても莉愛は大切な存在だし、ただの幼馴染と呼ぶにはあまりにも複雑だ間柄だから。
「願望夢。その人の欲求が夢に出ているのだと」
……てことはあいつ、ましかしてまだ俺のこと好きなのか?
一瞬そう考えたものの、蓮は素早くその仮説を頭から打ち消した。未だに好きでいられるはずがない。
あんなひどい別れ方をしたのだ。お互いにボロボロに泣いて、互いを傷つけたのはいい。でも、蓮は見たのだ。
自分が先に別れようと言い出した時、莉愛がどんな表情をしていたのかを。
未だに鮮明に生きているあの記憶。
一瞬、何を言われたか分からないと言わんばかりにぼうっとして、ただただ涙を流していたその顔。
蓮はあれからずっと、罪悪感を抱いていたのだ。
「なら、あの夢は本当に未来……?いや、でも普通にそんなことありえるのか?」
ベッドでがしがしと頭を掻いても答えは出てこない。蓮は深いため息をついた。
莉愛がウソであんなことを言ったとは思えない。腐っても幼馴染なのだ。莉愛のことなら自分が一番よく知っている。
なら、本当にその結婚する夢を一ヶ月以上も見たってことになるけど……なんて夢見てるんだ、あいつ。
どうしたらいいんだ、と蓮は思う。だって、彼は未だに―――
「……莉愛」
七瀬莉愛のことが、大好きなのだ。
頭では一向に否定するものの、体の反応は正直だった。あいつといるとどうしても胸が弾んでしまう。
あいつの笑顔を見たら嬉しくなって、あいつが照れている姿を見ると同じく照れてしまう。
本当に、自分はどうしようもない男だと思う。救いようのない……バカだ。
そうやって自分自身を罵っていると、急にコンコンとノックの音が聞こえてきた。
「うん?」
蓮は起き上がって、さっそくそのドアを開く。相手は当然莉愛で、蓮は驚きながらも彼女を部屋に入れた。
年頃の男女が、同じ部屋の中で。
それも、未だに好きな元カノと一緒にいる空間が出来上がってしまい、蓮はとてつもない気まずさを感じていた。
莉愛も落ち着かないのか、何度も部屋をきょろきょろとした後にようやく机の椅子に座って、ベッドにいる蓮を見つめ直す。
「とりあえず、ありがとうって言っておきたくて」
「は?なにを?」
「なにって……朝に卵焼き作ってくれたでしょ?あれ、結構な手間だったんじゃない?」
「いや、大したことでもないし、そもそも俺が料理慣れしているのは君も分かってるでしょ?」
「…………」
その言葉の通りだった。蓮の両親はとにかく海外赴任が多いから、蓮は嫌でも家事スキルなどが身につくようになったのだ。
しかし、莉愛はそれを知っていながらも、わざわざ感謝を伝えている。
その事実を嬉しく思いながらも、蓮はつっけんどんな答えを返すしかなかった。
今の自分たちは恋人じゃなくて、友達だから。
「で、用件は?」
「ああ~~その言い方はないじゃない。私たち、友達でしょ?」
「いやいや、友達は普通こんな風に話すって。で、本当になんなんだ?まさか退屈~~と言ってまた昔のように一緒にアニメ見ようとかは言わないだろうな」
「残念だったね。私、もう脱オタしてリアルに充実しているから」
「ぷはっ」
「ねぇ、なんでそこで笑うの……?ねぇ?」
蓮が反射的に笑い出すと、莉愛の顔が途端に険しくなる。
しかし、おかしすぎる言葉を聞いた蓮は、もはや腹を抱えて笑い始めた。
「あはっ、あはははっ!!いや~~今年一番のギャグだったわ。脱オタ~?そんなのできるわけないだろう!君がBLと百合を捨てられるはずないじゃんか!」
「いやいや、BLと百合は論外でしょ!あれはオタクの範疇に入らないから!」
「BLと百合が入らなかったらなにが入るんだよ!!むしろオタクの中でもガチのヤバいやつじゃんか!」
「ヤバくないし!むしろ尊すぎて涙が出ちゃうくらいだし!いい?BLと百合は禁断の愛なんだよ!?社会や世の中が認めてくれない、そんな愛なんだよ!?周りの人から白い目で見られるのも構わずに互いに引き寄せられるわけじゃん!!最高じゃん!」
「ああ~~オタク特有のラップが始まったわ。ていうか、話すのめっちゃ早いな。どっかのコンテストにでも出た方がいいんじゃない?」
「あんたが私をからかうからでしょ……!あんたが!」
莉愛は拳をぶるぶる震わせながら立ち上がって、蓮に近寄っていく。
命の危機を感じた蓮は枕を取って、素早く自分をガードした。
「ぼ、暴力反対!暴力反対!」
「暴力賛成だって?ありがとう~~じゃ、試しに一発だけやっちゃうからね?」
「落ち着け!今時にボコデレなんて流行らないからな!?」
「大丈夫だよ?デレじゃなくて純粋なボコだし」
「たまには純粋にデレてみろよ!」
「一生のデレをあんたの前で使ったのよ、このバカ!!」
言われたらなおさらムカッと来た莉愛は、割とマジパンチをかまそうとしていた。
しかし、その瞬間に膝がマットレスにぶつかってしまい、莉愛はそのまま前に倒れて―――
「―――っ!」
「ぁ………えっ?」
反射的に蓮はその体をぎゅっと抱き留めて、ベッドに倒れた。
次に蓮の前で広がるのは、何百回も目にしてきた金髪の髪の毛。
しかし、けっこう久しぶりに近くで感じる、好きな人の香り。やや赤くなった、好きな人の耳たぶ。
莉愛は呆然とした表情で顔を上げる。ベッドの上で互いの視線が混ざり合い、莉愛は目を見開いて――――
「ぁ………っ!!」
勢いよく、その体を蓮から離した。
危ない。体には全く怪我はないものの、蓮にああやって抱き留められていると……心が怪我をする。
もう、取り戻せない温もりだから。
蓮に抱きしめられるとどれだけ満たされるのか、莉愛はちゃんと知っているのだ。
「……だ、大丈夫?」
「…………………」
大丈夫じゃない。大丈夫なはずがないじゃん。
そう返したい気持ちをぐっと抑えて、莉愛は言葉を紡ぐ。
「うん、大丈夫……ありがとう」
「あ、そう……」
非常に気まずい沈黙が流れる。
莉愛は蓮に抱きしめられた温もりと、やや広くなった胸板の感触を思い返して、益々顔を赤くさせていた。
そして、蓮も。
『………っ、あ……』
前よりずっと大きくなった胸の感触を思い出しながら、悶えていた。
蓮たちが別れたのは、中学2年の冬休み。
あれからもう2年近く経っているわけだから、体が成長するのは別におかしな話じゃない。
でも、ダメだ。意識してしまうと益々ややこしくなる。こんな気まずい雰囲気なんか耐えられるか……!
そう思って、蓮は先に話を切り出した。
「あの、莉愛」
「うん?」
「一つ、提案をしたいんだが」
「……なに?」
心臓の音がうるさい……!ああ、もう。少しは落ち着けよ、俺!!
そう叫びたい気持ちをぐっとこらえて、蓮は人差し指を上げた。
「こ、これからはこの家に俺たち二人きりで住むんだろ……?だから、ルールを決めなきゃいけないと思うんだよ」
「うん」
「まず、身体接触はなしで。いいよな?」
「それはや……っ!!」
やだ。
反射的にそう零そうとする自分に驚いて、莉愛は両手で自分の唇を抑える。
予想外の反応に蓮が目を丸くしていると、莉愛は何度も首を振ってからようやく、頷いた。
「う、うん!大丈夫……そうしよっか!身体接触はなしで!」
「……………ああ」
何百回も抱きしめてきた。
キスも何百回はしてきたし、ああいう行為も……何回かは、した。
だから、二人は知っている。互いの肌に触れるとどれだけ気持ちよくなるのか、どれだけ安心できるのかを、ちゃんと知っている。
だから、この提案は確かに有効なものだった。肌が触れているとどうしても、頭が変になって―――よからぬことをしそうになるから。
でも、副作用があるとするなら。
『どうしたらいいんだ、これ……』
『どうしたらいいの、これ……』
我慢をすればするほど、もどかしさが募るというわけで。
それは、思春期を迎えた二人にとって、あまりにも大きな問題だった。
蓮は予知夢、夢の実現、夢を見る原因などのキーワードを使ってせわしなくスマホで検索をしていた。
なにせ、気にならないわけがないのだ。
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自分が先に別れようと言い出した時、莉愛がどんな表情をしていたのかを。
未だに鮮明に生きているあの記憶。
一瞬、何を言われたか分からないと言わんばかりにぼうっとして、ただただ涙を流していたその顔。
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「なら、あの夢は本当に未来……?いや、でも普通にそんなことありえるのか?」
ベッドでがしがしと頭を掻いても答えは出てこない。蓮は深いため息をついた。
莉愛がウソであんなことを言ったとは思えない。腐っても幼馴染なのだ。莉愛のことなら自分が一番よく知っている。
なら、本当にその結婚する夢を一ヶ月以上も見たってことになるけど……なんて夢見てるんだ、あいつ。
どうしたらいいんだ、と蓮は思う。だって、彼は未だに―――
「……莉愛」
七瀬莉愛のことが、大好きなのだ。
頭では一向に否定するものの、体の反応は正直だった。あいつといるとどうしても胸が弾んでしまう。
あいつの笑顔を見たら嬉しくなって、あいつが照れている姿を見ると同じく照れてしまう。
本当に、自分はどうしようもない男だと思う。救いようのない……バカだ。
そうやって自分自身を罵っていると、急にコンコンとノックの音が聞こえてきた。
「うん?」
蓮は起き上がって、さっそくそのドアを開く。相手は当然莉愛で、蓮は驚きながらも彼女を部屋に入れた。
年頃の男女が、同じ部屋の中で。
それも、未だに好きな元カノと一緒にいる空間が出来上がってしまい、蓮はとてつもない気まずさを感じていた。
莉愛も落ち着かないのか、何度も部屋をきょろきょろとした後にようやく机の椅子に座って、ベッドにいる蓮を見つめ直す。
「とりあえず、ありがとうって言っておきたくて」
「は?なにを?」
「なにって……朝に卵焼き作ってくれたでしょ?あれ、結構な手間だったんじゃない?」
「いや、大したことでもないし、そもそも俺が料理慣れしているのは君も分かってるでしょ?」
「…………」
その言葉の通りだった。蓮の両親はとにかく海外赴任が多いから、蓮は嫌でも家事スキルなどが身につくようになったのだ。
しかし、莉愛はそれを知っていながらも、わざわざ感謝を伝えている。
その事実を嬉しく思いながらも、蓮はつっけんどんな答えを返すしかなかった。
今の自分たちは恋人じゃなくて、友達だから。
「で、用件は?」
「ああ~~その言い方はないじゃない。私たち、友達でしょ?」
「いやいや、友達は普通こんな風に話すって。で、本当になんなんだ?まさか退屈~~と言ってまた昔のように一緒にアニメ見ようとかは言わないだろうな」
「残念だったね。私、もう脱オタしてリアルに充実しているから」
「ぷはっ」
「ねぇ、なんでそこで笑うの……?ねぇ?」
蓮が反射的に笑い出すと、莉愛の顔が途端に険しくなる。
しかし、おかしすぎる言葉を聞いた蓮は、もはや腹を抱えて笑い始めた。
「あはっ、あはははっ!!いや~~今年一番のギャグだったわ。脱オタ~?そんなのできるわけないだろう!君がBLと百合を捨てられるはずないじゃんか!」
「いやいや、BLと百合は論外でしょ!あれはオタクの範疇に入らないから!」
「BLと百合が入らなかったらなにが入るんだよ!!むしろオタクの中でもガチのヤバいやつじゃんか!」
「ヤバくないし!むしろ尊すぎて涙が出ちゃうくらいだし!いい?BLと百合は禁断の愛なんだよ!?社会や世の中が認めてくれない、そんな愛なんだよ!?周りの人から白い目で見られるのも構わずに互いに引き寄せられるわけじゃん!!最高じゃん!」
「ああ~~オタク特有のラップが始まったわ。ていうか、話すのめっちゃ早いな。どっかのコンテストにでも出た方がいいんじゃない?」
「あんたが私をからかうからでしょ……!あんたが!」
莉愛は拳をぶるぶる震わせながら立ち上がって、蓮に近寄っていく。
命の危機を感じた蓮は枕を取って、素早く自分をガードした。
「ぼ、暴力反対!暴力反対!」
「暴力賛成だって?ありがとう~~じゃ、試しに一発だけやっちゃうからね?」
「落ち着け!今時にボコデレなんて流行らないからな!?」
「大丈夫だよ?デレじゃなくて純粋なボコだし」
「たまには純粋にデレてみろよ!」
「一生のデレをあんたの前で使ったのよ、このバカ!!」
言われたらなおさらムカッと来た莉愛は、割とマジパンチをかまそうとしていた。
しかし、その瞬間に膝がマットレスにぶつかってしまい、莉愛はそのまま前に倒れて―――
「―――っ!」
「ぁ………えっ?」
反射的に蓮はその体をぎゅっと抱き留めて、ベッドに倒れた。
次に蓮の前で広がるのは、何百回も目にしてきた金髪の髪の毛。
しかし、けっこう久しぶりに近くで感じる、好きな人の香り。やや赤くなった、好きな人の耳たぶ。
莉愛は呆然とした表情で顔を上げる。ベッドの上で互いの視線が混ざり合い、莉愛は目を見開いて――――
「ぁ………っ!!」
勢いよく、その体を蓮から離した。
危ない。体には全く怪我はないものの、蓮にああやって抱き留められていると……心が怪我をする。
もう、取り戻せない温もりだから。
蓮に抱きしめられるとどれだけ満たされるのか、莉愛はちゃんと知っているのだ。
「……だ、大丈夫?」
「…………………」
大丈夫じゃない。大丈夫なはずがないじゃん。
そう返したい気持ちをぐっと抑えて、莉愛は言葉を紡ぐ。
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「あ、そう……」
非常に気まずい沈黙が流れる。
莉愛は蓮に抱きしめられた温もりと、やや広くなった胸板の感触を思い返して、益々顔を赤くさせていた。
そして、蓮も。
『………っ、あ……』
前よりずっと大きくなった胸の感触を思い出しながら、悶えていた。
蓮たちが別れたのは、中学2年の冬休み。
あれからもう2年近く経っているわけだから、体が成長するのは別におかしな話じゃない。
でも、ダメだ。意識してしまうと益々ややこしくなる。こんな気まずい雰囲気なんか耐えられるか……!
そう思って、蓮は先に話を切り出した。
「あの、莉愛」
「うん?」
「一つ、提案をしたいんだが」
「……なに?」
心臓の音がうるさい……!ああ、もう。少しは落ち着けよ、俺!!
そう叫びたい気持ちをぐっとこらえて、蓮は人差し指を上げた。
「こ、これからはこの家に俺たち二人きりで住むんだろ……?だから、ルールを決めなきゃいけないと思うんだよ」
「うん」
「まず、身体接触はなしで。いいよな?」
「それはや……っ!!」
やだ。
反射的にそう零そうとする自分に驚いて、莉愛は両手で自分の唇を抑える。
予想外の反応に蓮が目を丸くしていると、莉愛は何度も首を振ってからようやく、頷いた。
「う、うん!大丈夫……そうしよっか!身体接触はなしで!」
「……………ああ」
何百回も抱きしめてきた。
キスも何百回はしてきたし、ああいう行為も……何回かは、した。
だから、二人は知っている。互いの肌に触れるとどれだけ気持ちよくなるのか、どれだけ安心できるのかを、ちゃんと知っている。
だから、この提案は確かに有効なものだった。肌が触れているとどうしても、頭が変になって―――よからぬことをしそうになるから。
でも、副作用があるとするなら。
『どうしたらいいんだ、これ……』
『どうしたらいいの、これ……』
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