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フロイント~友達~
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フロイント~友達~
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「おいっ! 近藤! お前今度やったら退学だぞ!」
担任が大声で俺を怒鳴りつける。俺の名は近藤竜彦(こんどうたつひこ)十七歳の高校二年生だ。俺の通っている高校は名門私立の一貫校で金持ちばかりが集まる俗に云うお坊ちゃま学校だ。生徒もご立派で良家(りょうけ)の子女ばかりで校風もご立派……だが――、
「テメェ! でかいツラしてんじゃねぇぞ!」俺の怒声と共に俺の拳が相手の顔面に炸裂した。
「誰だ!? 昨日俺のダチをやったのは!? あぁテメェか?」俺のドスの効いた声と表情に相手は腰が抜け怯え逃げ出そうとしたが俺はそれを逃(のが)さず「テメェか?」と聞くと相手は首を精一杯左右に振り「オレじゃありません! オレじゃありません!」と言ってるとア相手チームの不良のリーダーがやって来て俺とタイマンを申し込んできて俺はそれに応じた結果――俺の圧勝だった。が、その後警察がやって来て今に至る。
「全くお前は今月に入って二十件目。お前の親が政治家じゃなかったら即刻退学だが今回も親の顔に免じて――って聞け! 近藤!」担任がうるせーが俺は無視して教室に向かう。俺が教室の入ると先程までうるさかった教室は波打ったように静かになりひそひそと陰声が聞こえる。俺のことをゴミやら親のことやら。俺にとって学校(ここ)は居心地が悪い。ウマが合わない連中ばかりだからだ。だから俺の友達は学校外(がい)の外(そと)の連中だ。連中は世間からは不良やらドロップアウト組やらと言われており親は俺と連中が付き合うことを良く思っていないが俺が誰と付き合おうと勝手だし犯罪に手を染めていないのだから問題ないと思う。そう思っていると黒い髪を七三分けにし分厚い瓶底(びんぞこ)眼鏡(めがね)をした優等生で堅物(かたぶつ)なクラス委員長の梶井(かじい)渉(わたる)が「近藤君! キミはまた教師のお世話になったんだって!」と眼鏡をクイッと上げて聞いて来た。「キミはもう十七歳! 大人なんですよ! もう少し大人としての摂理(せつり)を――」ときゃんきゃん小うるさく言うと「あぁ! うるせぇんだよ!」と俺が睨みを利かせて言うと「ひっ!」と梶井は怯(ひる)み「な……なんだね? その態度は! ぼ……僕は暴力なんかに屈しないぞ!」と怯えながら言った。俺は付き合いきれずに席を立ち教室のドア勢いよく開けて「早退する!」と言い勢いよくドアを閉めた。そして俺はぼやく。「これだからお坊ちゃん校は……」と。
翌日、通学の為バスに乗り座席に座っているとよぼよぼの婆さんが立っており元気そうな若者がゲラゲラ笑いながら座席に座っていた。俺はいたたまれなくなり「婆さん、ここどうぞ!」と言い座席を譲ると婆さんは微笑み「ありがとう」と言い座席に座った。そして、俺は立ち、バスに揺られ(学校まであと少しか……と)思い溜息をつき周囲を見回した。バスの乗客は眠そうなサラリーマンや読書をしている大学生や友達と楽しそうに話している学生やらと様々だ。と、その中で一際(ひときわ)目を引く人物がいた。その人物は俺の座っていた座席の後ろに座っておりセミロングの黒髪に色白で目鼻立ちの整ったスッキリした顔をした少女で水色の服に白いフード付きパーカーに紺色のジーンズを着こなしていた。
(もろタイプー! 結婚したーい!)と俺は思い少女を見た。するとよく見ると少女は何かとても憂鬱な顔をしていた。やがて、バスが停留所に着くと少女は降り俺は学校の最寄(もよ)りの停留所じゃないのに少女が気になり釣られており少女の後を着けた。
少女は人目を気にし怯えた様子でキョロキョロし俺は隠れながら上手く尾行(びこう)した。そして、尾行するうちに(あれ? これ俺ストーカー?)と思いながらも尾行しやがて自転車置き場に着き俺はブロック塀の壁の陰に隠れた。
「き……来たよ……」と少女はハスキーボイスで言った。すると奥から三人組の見るからにガラの悪そうな男が現れ「金は持って来たんだろうな?」と少女に凄んで言い少女は封筒を手渡した。封筒からは札束が入っており「ちっ! これだけかよ。しけてんなぁ」と不良は少女に言った。どう見てもカツアゲだ……これ。
「おいっ! もっと持って来いよ!」不良の一人が少女をドンと押し少女はよろめき地面に尻餅(しりもち)をついた。「で……でも……」少女が言いかけると不良が「でももクソもねぇんだよ! お前は俺達の言うことを聞いてればいいんだよ!」と言いもう一人が「そーそー、そうすれば痛い目見ないで済むんだから」と言い終いには「そうだよ。お前は一生俺達のおもちゃなんだよ」と言いその言葉に俺は男達に対してキレ「じゃあ早く親からでもパクって――」「流星(りゅうせい)キィィッック!」と俺は飛び蹴りを男の一人に一発かました。それをモロに受けた男は勢いよく吹っ飛んだ。他の男と少女が呆気(あっけ)に取られていると「おいっ! テメェらよってたかってなに女の子を苛(いじ)めてんだ?」と俺はドスの効いた声と表情で聞いた。するとそれを聞いた男の一人が「は? 女?」と頭に疑問符を浮かべ言い仲間達にも聞いてる。そしてやがて何かに納得し「オイ兄ちゃん。なんか勘違いしてるかもしれないがそいつは――」と男が言いかけると「問答無用!」と俺の蹴りが男の一人に炸裂した。「女の子を苛めるのは人類の敵だぜ!」と言い不良の一人が「なっ、なんだこいつ? バカつぇえ! 何者だ!?」と俺に聞き俺は「ただの女性と正義の味方さ……」と言い男達は「は?」と言い「ふ……ふざけたことぬかしやがって! やっちまえ!」と言い男達が三人束になってかかったが「おせぇよっ!」と俺は言い男達の攻撃を瞬時(しゅんじ)に避(よ)けて不良のもう片方の一人に腹パンをし不良の一人をのした。残った不良は俺に恐れなしたのか伸びている二人を起こし「くっそぉー、おっ覚えてろー!」と安い捨て台詞(ぜりふ)を吐きこの場を去って行った。
「ったく……女の子を苛めるなんて男の風上(かざかみ)にも置けない奴だぜ。平気か?」そう言い俺は少女に手を伸ばした。少女は「え? あ? う……うん」と戸惑いながら俺の手を取り立ち上がった。「ったく、か弱い女の子苛めるなんてけしからん奴らだ」と俺が忌々(いまいま)しげに言うと少女が「あ……あの……」と口を開いた「ん? なんだ?」と俺は言い少女を見た。見れば見るほどかわいい少女だった。サラサラの髪にスッキリとした鼻筋。柔らかそうな唇。
(マジで可愛すぎる!)と俺は思い「なぁ、お前どこの学校? 年は? 名前は?」と即座にナンパした。少女は呆気に取られた感じでおずおずと「聖(ひじり)薗(その)学園(がくえん)高等部(こうとうぶ)年齢は十八で名前は……奏(かなで)蒼(あおい)……」と遠慮気味(えんりょぎみ)に言い「うんうん蒼ちゃんか! かわいいな!」と俺は一人納得して言うと「蒼ちゃん?」と蒼ちゃんは言い「もしかしてキミ勘違いしてる?」と蒼ちゃんが俺に聞いて来た。「え? 勘違い?」と俺はオウム返しのように聞き蒼ちゃんは「……うん……」と遠慮がちに言い「僕男だよ……」と言った。
「うんうん男……ってえぇ――――――っ!?」
「ほらよ!」と言い俺は自販機で買ったアイスティーを蒼に投げて寄越(よこ)した。「わっ! わわっ!」と蒼は言い何とかキャッチした。
俺達は今丘の上の小高い公園にいる。蒼が男と知った直後俺は脱力し凹(へこ)んだ。理由は至極(しごく)簡単だ。モロタイプの女が実は男でそこら辺の女よりよっぽどかわいいからだ。
「マジ凹む……」と俺が呟くように言うと「ねぇ……」と蒼が声を掛けて来た。「ん? なんだ? もう何言われても驚かねぇぞ……」俺が不機嫌全開で聞くと「名前……」と蒼が遠慮がちに聞いて来た。「え?」俺が聞き返すと蒼は「だから僕……キミの名前……」とごにょごにょと小さく言い俺はイラァッとし「ハッキリ言え!」と怒鳴って言うと「僕っ! キミの名前聞いてないっ!」と大声で叫ぶように言い俺はぽかんとしやがて「お前面白れぇー!」俺は腹から笑いだし「竜彦! 近藤竜彦っていうんだ!」と自己紹介をした。
「改めてお礼を言うよ。近藤君ありがとう!」と言うと俺は「竜彦。竜彦と呼べ」と言い「た……竜彦」蒼は頬を紅潮(こうちょう)し微笑みながら言うと(マジ可愛いぃぃぃ!)と俺は思い(反則だろ! その笑顔ー!)と心の中でツッコんだ。「竜彦? 竜彦?」気付くと蒼が上目遣いで俺を覗き込んでいる。俺はハッとし「あ! いいってことよ! あんなこと日常(にちじょう)茶飯事(さはんじ)だし……」と言うと蒼は「じゃあいつも誰かを助けてるんだ! 本当に正義の味方みたいだね!」と純粋な瞳で言った。
違うただのガキの喧嘩だ。学校でも家でも喧嘩ばかりしている。しかし、目の前の人間は純粋な瞳で俺を正義の味方としてみている。痛い。蒼(コイツ)に嘘をつくのが……。
「いつもあぁなのか?」
俺はいたたまれなくなり話題を変えた。「その何時(いつ)もカツアゲ……されてんのか?」と俺は蒼に尋ねると蒼は顔を曇らせて「うん……最近はしょっちゅう……」と呟くような小さな声で言った。「なんでお前はアイツらにカツアゲされてんだ? 明らかに違う人種(じんしゅ)だから接点はないだろ?」と言うと「うん。出会うまで全く知らなかった……」蒼はすすり泣き始めた。俺は「聞いてみるから話してみろ」と先を促した。
事の発端は三ヶ月前に遡る。購買でパンを買う時あの不良がお金を忘れたらしくその時購買にいた蒼を見つけ金をせびって来た。蒼は最初パン一個くらいのお金ならと仕方ないと思いお金を渡した。次の日も不良はお金を忘れたと言いせびって来た。次の日もその次の日も。終(しま)いにはその不良は事あるごとに蒼に付きまといいつか返すと言い金をせびり続けた。
「それって……」
「それで僕たまらなくなって学校に相談したんだけど相手にされなくて。いつか返すって相手は言ってるんだからって……でも、あの人達返す気ないよ……」
蒼は泣きながら言い「だから僕学校行くのが嫌になって休学してるんだけどあの人達電話で呼び出すんだ。僕もう嫌だよ……どうすればいいのか解らないよ……」そう言い胸の内を訴えた。黙って聞いていた俺は少し考え「言ったのか?」と聞いた。
「え?」
「だから嫌だってあいつらに言ったのか?」
俺の言葉に蒼は下を向き「言えるわけないじゃないか! 言ったらもっと酷いことされちゃうよ……」と切実に言った。それに対して俺は「今がすでに酷いじゃねぇか! お前このままじゃもっとヤバいことされるぞ!」と言い「そういう奴らは黙ってるとますますつけあがるだけだ! なら一発かませ! お前も男ならガツンと言え!」俺の言葉に蒼は「僕なんかに……出来っこないよ……」その言葉に俺はキレ蒼の胸倉を掴み「ならこのまま一生惨めにアイツらのおもちゃでいいのか! 俺だったらごめんだ! あんな奴らのおもちゃになるくらいなら死んだ方がマシだっ!」と怒鳴り散らし最後に「このチキン野郎」そう言うと「ぼ……僕だって……竜彦みたいに……強くなりたい。でもダメなんだ。僕じゃなれないんだ……竜彦じゃないから……」蒼は泣きながら言い「僕は竜彦みたいに強くないっ!」蒼はそう大声で叫び地に膝を着き泣いた。俺は呆気(あっけ)にとられ唖然(あぜん)とし、そして「言えるじゃん!」といたずらっぽく微笑んで言った。
「え?」
「蒼! お前言えるじゃん。そうだよ! それ! その気持ちを相手に精一杯ぶつければいいんだ! そうすれば正義の味方は必ずお前に味方する! 正義の味方は努力する奴を見捨てない! だろ?」
俺の言葉に蒼はポカンとし蒼は黙りやがてクスクス笑い「竜彦って戦隊で言うとレッドみたいだね!」と言いやがて「僕もう帰るね。病院の時間だから……」そう言うと蒼は帰り俺は先輩が経営しているカフェバー、canaryに向かった。
「ふーん。運命のお姫様かと思(おも)た相手が実は王子様やったという話か……」
先輩はそう言い俺にノンアコールのカクテルシンデレラを出した。この人の名は橘(たちばな)都(みやこ)と言ってこのカフェバーcanaryマスター。大阪弁で喋り(十歳まで大阪にいたらしい)金髪サングラスで整った顔に抜群(ばつぐん)のプロポーションで料理もさることながら人当たりがよくトークレベルも高く挙句にピアノも弾け店にあるグランドピアノを優雅(ゆうが)に弾ける為女性のファンが多くの大半は女性客で都先輩目当てに店に来ている人も少なくない。その事は都先輩も気付いている。しかし、一つ盲点(もうてん)が! 都都先輩は結婚している。最(もっと)も奥さんを見たことないが。また昔は暴走族の総長で金色(こんじき)の金(きん)狼(ろう)といわれその界隈(かいわい)では有名だったらしい。まぁ、奥さんの話は設定なのかもしれないけど。まぁそれは置いといて……。
「都せんぱーい! 俺の話聞いてますか? 俺のせいで蒼が死んだらどうしよう? 俺蒼にあんな奴らのおもちゃになるなら死んだ方がマシだー! って言っちゃたんです……」俺はカウンター席に突っ伏し涙を流した。何故俺が都さんのことを先輩と呼ぶのかは昔喧嘩で負け知らずの金狼に勝負を挑んでみたいと思い俺は都先輩に勝負を挑んでボロ負けし諭されそれ以来俺は都先輩に憧れているからだ。
「せやったら電話すればええやろ?」先輩の言葉に俺は「電話番号知らないです……」と答えた。
「メアドは?」
「知らない……」
「ラインは?」
「以下同文……」
「呆れたわぁーたっちゃん。へたれにも程があるわぁ!」
都先輩が呆れ顔で言った。(因(ちな)みにたっちゃんというのは都先輩特有(とくゆう)の俺のあだ名である)
「だって~」
「電話番号もラインも聞く時間充分あった筈やろ! なんで聞かんのや?」
「ついうっかり」俺はそう言うとテヘペロポーズをした。
「可愛く言うても無駄やで……」先輩はツッコんだ。(流石大阪出身!)
「じゃあ、しゃあないけど明日今朝のバスと同じ時間のバスに乗るしかあらへん。運任せになるかもしれんがそれしかないがな……」と言い都先輩は脱力した感じで言い俺は「成程!」と言い「ありがとうございます都先輩!」と言い俺は店を出た。
翌日俺はバスの車内を見回した。ちょっと離れた所から昨日と同じ座席を見る。そこに蒼はいた。今日は聖薗学園高等部の男子の制服の学ランを着ている。
(良かった生きてる)俺は内心ほっとした。実は俺は後悔していた。死んだ方がマシと言い蒼が本当に死を選び自殺するんじゃないかと。やがてバスが停留所に着き蒼が降りると同時に俺も降り蒼を尾行し学校に潜入した。
「――ったく、あのジジイ。漸く俺を解放してくれたぜ……」
実は潜入したと同時に職員に呼び止められ先程まで教師から説教を喰らい蒼の従弟(いとこ)で忘れ物を届けに来たんですよ」と作り笑顔で言うと教師は俺を品定めするように見て俺の学校の制服が隣町のお坊ちゃん校星宮(ほしみや)高校(こうこう)と解ると態度を豹変(ひょうへん)し手もみしながら漸く俺を解放しご丁寧にクラスまで教えてくれた。
「――ったく、あのクソ教師は……」俺はぐちぐち文句を言いながら蒼の教室に向かって歩く。蒼が教室にいればセーフ。いなければ――。いや嫌なことは今は想像しないでおこう。そう自分に言い聞かせ頭を左右にブンブン振る。
漸く蒼のクラスに着きクラスを覗くと蒼の姿がいなかった。竜彦は嫌な予感がしクラスメイトに蒼の所在を聞くとクラスメイトは怪訝な顔をし「蒼?」と首を傾げた。
「もしかして奏?」と言い別の男子生徒が「奏だったら田宮(たみや)達に連れていかれたよ」と言った。恐らく田宮とは昨日の不良達の一人だろう。どこ行ったかと訪ねるとクラスメイトは「知らない」と答え俺は考えて(不良+(プラス)大人しい+カツアゲ……となると校舎裏か屋上だ)と考えつき俺は(通称不良の)自分の勘(かん)を信じとりあえず校舎裏に向かった。間もなく校舎裏に着こうとしたとした瞬間「ふざけてんじゃねぇぞー!」という怒声が聞こえたと同時に誰かが殴られた音がした。竜彦が恐る恐る見ると竜彦が蹲(うずくま)っていた。「テメェなんて言ったんだ? もう一度言ってくれなきゃ解んねぇなぁ? あぁ!」と不良は凄むと蒼はしっかりとした声で不良に「キミ達にはもうお金を渡さない!」と言い不良は蒼の腹部に蹴りを喰らわし「テメェ……オモチャの分際(ぶんざい)で何抜かしてんだぁ? 痛い目見てぇのか?」不良は凄むと蒼は尚もしっかりとした声で言い「キミ達の……オモチャにされるくらいなら今ここで殴られた方が……マシだ!」と言い不良の怒りは頂点に達し「ならお望み通りに!」と言い蒼を殴ろうとした時パシッ! と俺は不良のパンチを止めた。
「竜彦!」蒼は驚き俺はいたずらっぽい笑みで蒼の方を振り向き「正義のヒーロー参上! ってな!」と言い不良共の方に振り向きドスの効いた声と表情で「さて、よくも俺のダチを痛めつけてくれたなぁ。覚悟は出来てんだろうな?」と言い乱闘(らんとう)になった。
「痛っ!」と蒼は言い口元を押さえた。俺は蒼の口元を見ると口元が切れていた。多分俺が来る前に顔面パンチでも喰らったのだろうと俺は思い「男だろ耐えろ!」と言った。
「しっかしまた派手にやらかしおったたなぁ。他校に殴り込みに行って乱闘騒ぎって何十年か前のヤンキーマンガみたいやわ」と都先輩は大笑いで言い俺に絆(ばん)創(そう)膏(こう)を渡した。
あの後、騒ぎを聞き駆け付けた教師に取り押さえられ俺と不良共は取り調べを受け蒼が警察に全てを話し不良達の悪事は白日(はくじつ)の下(もと)に晒(さら)され俺は釈放され蒼をカフェバーcanaryに連れて来た。蒼は最初都先輩を見た時怖がっていたが今ではすっかり打ち解け「やー、カッコエエ話やわぁ!『キミ達のおもちゃにされるくらいなら殴られ方がマシだ!』って男やわぁ!」と都(みやこ)先輩が言い蒼が赤面して「そ、それは言わないで下さい」と言い冗談を言い合っている。
「まぁこれで一件落着やな! たっちゃん!」と言った。「たっちゃん?」蒼は俺に疑問符を浮かべて聞くと「あ~、先輩にだけ許した俺の愛称。近藤竜彦だから! で、たっちゃん!」俺は顔を赤くして言い「っと、これは先輩だけだからな! いくら蒼でも言ったら許さないからな!」そう言い蒼にビシッと人差し指を指して念を押した。
「あだ名で呼び合うっていいですね! 親しさが増して……僕友達いないから……」と蒼が言うと「俺が居るだろ!」と俺を指し「え?」蒼が驚いて聞き返し俺は自分を親指で指さして「オ、レ!」と言い「竜彦……僕と友達になってくれるの?」蒼の言葉に「もう友達だろ?」と言い蒼は嬉しいのかぽろぽろ泣き出し「ありがとう竜彦……」と言った。
「わっ! バカッ! ここは泣くところじゃないだろ? こういう時は笑うんだよ!」と言い蒼は少し微笑み「うん!」と言い頷いた。そして、俺は右手を差し出し「よろしくな、蒼!」と言い蒼が嬉しそうに微笑み左手で優しく握り「よろしく、竜彦!」と言った。
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「――でよぉ。ウチのクソ親父がうるせぇんだわ。『お前は私の後継げー!』って、よ」
「でも、お父さんは竜彦のことを心配してるんじゃないかな? だから厳しいのかもしれないよ」
「けっ! どこが……」
俺と蒼はカフェバーcanaryで女子会(じょしかい)ならぬ男子会(だんしかい)を開いていた。
あの日、蒼と友達になった日俺は家に帰るとお袋からは小言を言われ親父とは大喧嘩(おおげんか)し部屋に戻りベッドの横になると(家も学校も地獄だ……)と思い眠りについた。翌日バスに乗ると蒼は乗っており俺に手招きし俺達は小声で会話したがやがて俺が話に夢中になって大声で話すと隣にいたサラリーマン風の男性に静かにしろと言わんばかりに睨まれ俺は赤面した。やがてバスは蒼の通う高校の最寄り駅に着き「じゃな! 放課後都先輩のcanaryで!」と言い蒼は笑顔で「OK!」と言い俺はバスの中から蒼を見守り(一応)学校に向かった。俺が学校を歩いて行くと多くの生徒が俺を避ける。俺と関わると碌(ろく)なことにならないから。ましてここは良家の子女が通う名門私立校。そんな中に場違いな不良。こんな奴に関わった自分とって百害(ひゃくがい)あって一利(いちり)なし。要するに自分の肩書が下がるのが嫌なのだ。そして俺は自分をゴミでも見るような目と尾ひれのついた噂話にイライラした。教室に入るとクラスメイト達が波を打ったように静かになり根も葉もない噂話を始める。「例えば俺が暴力団とつるんでるとか薬(ヤク)をやっているとか。バカか。何せ俺は暴力団とつるんでないし薬もやっていない。第一そんなことやってたら今頃留置所(りゅうちじょ)にぶち込まれて学校(ここ)にはいない。そう思いながら席に着くとクラス委員長梶井が「聞きましたよ! キミ昨日他校に殴り込み行ったそうですね!」と眼鏡をクィッと上げ小言を言って来た。
(あ! これは半分本当だわ)と思い俺はめんどくさそうに「え? あぁ……」と適当な相槌(あいづち)を打つ。それに対し梶井が「なんですか? そのやる気のない返答。キミはここの生徒。もっと我が校の生徒と言うことに誇りを持ち人々の模範(もはん)となる行動を心掛けて下さい! でなければ我らの品位(ひんい)が下がります!」ときゃんきゃん小言を言う。それに便乗(びんじょう)して他の生徒もそうだそうだと言い始めた。正に赤信号皆で渡れば怖くない、だ。俺は溜息を吐き「悪い方の見本で悪うござんしたね。むっつりスケベさん」と言い教室は静まり返りクラス中が一斉に梶井を見た。梶井が「む……むっつりスケベ……」と顔を赤面させ硬直した。何故俺がコイツのことをむっつりスケベと言ったのかは理由がある。それはこの間蒼とショッピングモールをブラついていた時書店の中で明らかに怪しく挙動不審(きょどうふしん)な男性を見かけた。春だというのに黒いニット帽に厚手のコート、そしてサングラス。明らかに怪しい人こんにちはな格好だった。
「なんかアイツ怪しくね?」俺の言葉に蒼は「万引きかな?」と言い暫く男のことを観察した。やがて、男は周囲をキョロキョロし始めエロ本を一冊手に取り始め。その時下を向いた為かけていたサングラスが落ちた。その人物は「梶井!」と叫び梶井はビクッとし俺はしまったと思い本棚の陰に隠れた。梶井は終始(しゅうし)キョロキョロし安心したのかエロ本を一冊買って行った。その姿を俺と他校生で面識のない蒼に目撃されている。
「だ……誰がむっつりスケベですか!」梶井はムキなって言い「テメェだよ、このスケベ大魔王!」と言い梶井に小声で「だったら大声で言いふらしてもいいんだぜ? テメェがこの間書店でエロ本買ってたことを……」と言うと梶井は赤面し「くっ! き……今日の所はここで引きましょう。た……ただしこれは敗北ではなく撤退です!」と負け惜しみを言い「これで勝ったと思わないで下さい!」と安い捨て台詞を吐きすごすごと自分の席へ戻って行った。
(バーカ!)俺は内心そう毒づいた。そして、教師が入って来て俺と目が合うとゴミでも見るような目で俺を見て授業を始めた。
学校が終わると俺は都先輩が経営しているcanaryに向かった。そして今現在――、
「――ってわけよ。俺は親父の敷いたレールを走るつもりはないって言ってやったわけよ! それでいつも大喧嘩になるんだ……」と俺は言うと蒼は「竜彦って結構俗に言うファンキーなんだね」とクスクスと花がほころびそうな笑顔で言った。
(か……カワイイ……って違う! コイツは男だ男! しっかりしろー、俺!)と俺は脳内で暴れまくった。
「竜彦?」蒼の言葉に俺は我に返り「あっ! そういや蒼ってスマホ持ってる?」と聞くと蒼は「う……ううん。持ってない!」と気まずそうに言った。
「はぁっ! 持ってないっておまっ……現役(げんえき)高校生(こうこうせい)必須(ひっす)アイテムだぞ!」
俺の剣幕に蒼は驚いたのか「ご……ごめん……」と言った。「謝るとかそうじゃなく……ハァー、しゃーねぇ。今からスマホ買いに行くぞ!」
「で……でも僕お金……」「あぁ!」と俺が睨みを利かせて言うと「何でもありません」と蒼は黙り俺は黙った蒼を引っ張って馴染みの携帯ショップに向かった。
「おっ! 久しぶりー、竜彦―!」と赤髪の髪にパーマがかかった陽気そうな男性店員が俺と蒼に話かけて来た。
「おう! 飯田(いいだ)!」
蒼はびくびくしながら俺の背中に隠れ「た……竜彦。この人は?」と聞くと俺は「コイツは飯田。俺の(不良)チームの仲間。怖そうな外見だが根はやさしく友達思いのいい奴だ」と説明すると蒼が警戒を解き「竜彦の仲間! じゃあ正義の味方なんだ!」と笑顔になり飯田が「は? 正義の何?」と聞き返すと「うん! 正義の味方!」と言い「うわー! いっぱいある!」とスマホを手に取った。それを見ていた飯田が「竜彦? あのねぇちゃんになんて自己紹介したんだ?」と聞き俺は顔を赤らめ「……正義と女の味方……」と言うと飯田は吹き出し「ないない! そんなこと今時の小学生でも言わねぇわ」と言い俺を赤面させた。「――にしてもかわいいな!あのねぇちゃん……どこの高校の子?」と聞いてきたので「隣町の高校」と言い「後アイツ男だから……」と言うと飯田は驚き「えっ! 男っ!」と絶句した。「あっ! 竜彦! これにする!」と言い蒼は水色のスマホを持ってきて俺は手に取り「じゃあこれにするわ」と俺は飯田に言うと飯田は「毎度―」と笑顔で返答しスマホを少し割引して売った。
「お前新機種じゃなくて良かったのか? もっといいのあったのに……」と言い俺は蒼を見た。蒼に買ったスマホはいわゆる在庫(ざいこ)処分品(しょぶんひん)のスマホだ。
「これがいいんだ……なんか色合いがきれいだし!」と笑顔で言い俺は(女子かよ)と心の中でツッコんだ。
「じゃあスマホ貸せ」と言い蒼からひょいっとスマホを取り上げると連絡先を打ち込み始め「終わったぜ!」と言い蒼は頭に疑問符を浮かべていると「お前のスマホに俺の電話番号とライン番号登録しといたから!」と言い「え? でも……」と蒼が口ごもっていると俺は「もう蒼(お前)とはダチだしな! ダチ同士が連絡して何が悪い!」と言い蒼はポカンとしやがて笑顔で「ありがとう竜彦!」と笑顔になり今日はこれで解散した。
家に着くとお袋が仁王立ちし「竜彦……ちょっと……」と言い俺をリビングに通した。すると親父が険しい顔をしており「今日学校から連絡があった。お前の成績が著(いちじる)しく落ちていると」と恐ろしいほど静かな声で言った。「……」俺は無言になった。「全くお前は、遅刻早退はするわ。喧嘩はするわ。不良共とつるむわ。我が近藤家の恥さらしだ。もっとちゃんと――」と親父が溜息を吐きながら言い掛けていると俺は「俺は俺のやりたいようにやる!」と言い「竜彦!」とお袋が金切り声を上げたが俺は聞こえないふりして二階の自室にこもりベッドにヨコになった。
(学校も家も地獄だ……)と思いラインを見た。ラインにはメッセージが入っており開くと蒼からで『早速ライン使ってみたよ!』という文字と同時にクマのキャラクターのスタンプが押されていた。俺は嬉しくなり笑みをこぼした。
以来俺と蒼はどこ行くのも何するのも一緒になった。服屋に行って洋服を観たり流行(はや)りのものを観たり。ある日ゲーセンに行こうとすると蒼が「僕ゲームセンター行ったことない……」と言い俺は面食らった。(今時高校生でゲーセンいかないなんてどんな生活してんだ?)と俺は思い蒼にゲーセンを案内し格ゲーやろうと言うが当然ゲーセンに行ったことがない蒼はやったことがないと言い俺は蒼に格ゲーをレクチャーした。すると蒼は難なく覚え俺を倒し次の挑戦者が来たがそれも難なく倒し気付くと二十人抜きを達成しギャラリーが増え終いにはチャンプが現れチャンプとも勝負したがチャンプも難なく倒し店の新王者に認定された。
「しっかし蒼お前強いな……初めてで二十人抜きって……」俺の言葉に「そうなの?」と蒼は聞き「そうだよ!」と俺は言い「まぁ、あの指裁き見てたら当然だわな……」と言い俺は蒼の指裁きを思い出した。物凄い速さでボタンを連打し次々と技を繰り出して相手を倒す様はまさしく王者そのものだった。
「蒼なんかやってたのか?」と言うと蒼は「なにかって?」と聞き「いや、ボタン裁きスゲーなって思って……もしかして。指を使う習い事とかしてのかなって……」そう言うと蒼は少し顔を曇らせ「……何もしてないよ……」とつまんなそうに言った。「あ? うん? そっか……」と俺はそんな蒼に対して疑問を覚えながらも喉が渇いたので「喫茶店に行こうぜ! 俺イイ喫茶店知ってっから!」と言い喫茶店に向かおうとした時「竜彦!」と声を掛けられた。振り向くと同時に声を掛けてきた相手が俺に抱き着いて来た。「会いたかったぁ! もう一ヶ月近くも会ってくれないんだもの! ラインも既読にならないし……」と相手は泣きながら言った。相手はピンク色の髪をツインテールにし毛先にウエーブをかけ私服でその私服は肌の露出が多く下はミニスカートと流行(はや)りの服に身を包み。耳には小さなリング状のピアスを付けたいかにもオシャレに敏感の今風の少女だ。
「な……奈央……」俺は奈央をひっぺ?がし「今更なんだ?」とめんどくさそうに俺は言うと奈央は「酷いわっ! それが一ヶ月ぶりに会った恋人に言うセリフ!」と奈央は嘘泣きをし「俺とお前はもう終わってるんだ! 頼むからもう俺には関わるな! 行くぞ蒼!」と言い俺はこの場を後にしようとしたが奈央が俺の腕を掴んで「どこ行くのっ?」と言い離してくれなかった。
中島奈央(なかじまなお)。隣街の女子高に通う俺の元カノ。といってもコイツはまだ俺の彼女気分でいるらしい。
「でもどうしたの? 最近ライン送っても既読にならないし電話しても着信拒否になるし……」奈央が涙ながらに言うと俺は「そうか。じゃあ別れよう」と言いうと奈央が怒り「ちょっとそれが第一声。私がこんなに切実に訴えているのにっ!」と怒った。俺達は今街の喫茶店にいる。あの後俺は奈央に捕まりこの今いる喫茶店に連れ込まれた。
「私はこんなに竜彦のことが好きなのよ! どうして!」と奈央はヒステリックに喚き散らすが俺は尚も平静に「俺とお前はとっくに終わっている。だからこの際ちゃんと言っておく。俺はお前のことがもう好きじゃない……それだけだ」と言い奈央が更にキレ「この娘(こ)なの……?」と言い蒼を見た。「この娘が私から竜彦を奪ったの?」と誰に問うわけでもなく聞いて来た。
「は?」
俺はポカンとして蒼を見た。蒼の方もポカンとし「あの……僕男なんだけど……」と蒼がおずおずと言うと奈央が「え?」と言い蒼をまじまじと見た。そして、奈央が蒼の胸を服の上から触った。
「おわぁっ!」
「本当だ……ない」
「ねぇ……キミ僕が男じゃなかったらどうなってると思う?」と珍しく蒼が怒気(どき)を孕(はら)んだ声で奈央に聞いた。「お……落ち着けって……って無理もないか……おいっ、奈央っ!」俺が珍しく蒼を宥(なだ)めてると奈央は困惑して「う~ん」と唸り考え込んでいた。そして「もしかして竜彦が新たな道に目覚めた?」とよく解らんことを言って来た。
「は?」俺は間抜けな声を出した。「新たな道ってなんだよ?」と言うと奈央は「要するに男の娘(こ)好きになったとか……」奈央の言葉に瞬間俺はぼっと顔が赤くなり「ち……ちが……っか俺はノーマルだ!」とムキになって言い「だよねぇ! 竜彦とこの子ってどう見ても釣り合わないじゃん。人種が違うっていうかぁ」と奈央はまたまじまじと蒼を見て言った。「――っていうか地味~」と言い俺の低いが沸点(ふってん)が頂点に達し俺は飲みかけのアイスコーヒーを奈央の頭上から勢いよくぶっかけた。
「え?」
奈央と蒼は一瞬何が起きたか解らずポカンとし、やがて奈央が泣きだし「二度とそのツラ見せんな!」と俺は奈央にハッキリ言い放ち蒼の腕を掴んで店を出た。
「た……竜彦?」蒼が戸惑いながら聞くと「ワリィ、気を悪くさせて……」と俺は言い蒼の腕を掴みズカズカ歩いた。やがて俺達は公園に着き自販機でジュースを買い一息ついた。
「ん~、やっぱコーラはサイコーだ!」と俺は言い蒼はレモンティーを飲み「いいの?」と聞いて来た。「ん? 何が?」と俺が言うと「さっきの元カノ……」と言った。俺は黙り「いいんだよ。どうせアイツもブランド目当てだから……」
「ブランド……?」
「俺の通ってる高校星宮校って言って俗に云う金持ち高校なんだ」俺の言葉に「うん……」蒼が相槌を打ち「――で、女ってブランドに弱いじゃん。んで、俺は金持ち校に通ってる。オシャレで金持ち校に通う俺はブランドに弱い女にとっては格好の自分のステータスを上げる材料だ」と言い「これまで何人か女と付き合ったけど皆俺のステータス目当てだった……」と俺は蒼に告白した。「だからアイツも……奈央もどうせ俺のブランド目当てだ……」そう言い俺は残りのコーラを飲んだ。
「……」蒼は無言になり「僕と同じだ……」と呟いた。
後日、俺は喫茶店で他校の仲間達とテスト勉強していた。
「あ~、数学マジ解んねぇ……」と仲間の一人が言い「っていうか数学なんて割り算まで出来れば生きていけるんじゃねぇ?」俺の言葉にもう一人の仲間が「竜彦それ算数」と言い「あ~、中間だりぃ……」と仲間の一人が言い「息抜きにゲーセンでも行くか?」と俺が言うと仲間が「さんせーい!」と言った。その時一組の客人が入って来た。それは蒼と奈央だった。
「おい! あの子可愛くね!」仲間の一人が蒼を見て「でも男じゃん」ともう一人がツッコミ「男でも俺はOK!」と言った。
俺達がそう話してるいる内に蒼と奈央は座席に着き蒼はレモンティー、奈央はハニートーストを注文した。
「よく私の通ってる高校解ったわね?」奈央の言葉に「この辺で私服の高校って乃木坂(のぎざか)女子校しかないから……」と蒼はそう返答し程なく二人が注文したものが届いた。
「――それでさー、竜彦にコーヒーぶっかけられて私超不機嫌なんだぁ!」奈央はそう言いながらハニートーストを次々と平らげていく。「私のどこが悪かったのか解らない! それで急に竜彦から別れようって言われてハァ? ってなったわけよ……解るぅ?」奈央の言葉に「あ……あはは」蒼は苦笑いでなんとかその場を和(なご)ませようとした。
「笑い事じゃないわよ! 全く失礼しちゃう!」と言い最後のハニートーストの一切れを平らげ「――で本題何?」と奈央は蒼に聞き「わざわざ私の高校まで来たってことは私に用があったってことでしょ?」と聞くと蒼は「うん……」と小さく返事して「奈央さんはどこが好きなの?」と聞き「は?」奈央は困惑し蒼は「奈央さんは竜彦のどこが好きなのかなぁっって……」と再度聞いた。すると奈央は顔を赤らめ「やっぱぁ、カッコいいし、おしゃれだしイケてるし守ってくれるし~」と言い「じゃあ竜彦がお金持ち校に通ってるっていうステータス目当てじゃないんだ?」と蒼が聞くと奈央は「はぁっ! あったりまえよ! 私はお金持ち高校に通ってる竜彦じゃなくて竜彦自身が好きなの!」と言い「私……中学までは俗に云う芋ガールでよくイジメられてたんだ……」と奈央が言い「学校行ってもキモいとか暗いとかってすごい苦痛で……んで、ある日他校の人達からカツアゲに遭ってお金を出そうとした瞬間竜彦が助けてくれて『俺は女性と正義の味方だって!』笑っちゃった。だって中学生にもなって正義の味方って……でも、凄いカッコ良かった。自分に正直で周りに流されない竜彦が……それから私は竜彦に振り向いてもらいたくてすっごいイメチェンしたんだ。眼鏡止めてコンタクトにしてファッション誌を見てファッションを勉強したりお化粧もしたり、んで、漸く竜彦に再会して告白して付き合って恋人になったの……だけど、竜彦は心ここにあらずでいつもつまんなそうだった。それで別れようって言われて……なんとなくやっぱりな……って思っちゃった。だけど、アンタといる時の竜彦は楽しそうだった。アンタ達気付いて無いけど私竜彦とアンタがいるとこ何回も目撃してるのよ」と言い「それで、なんとなく気付いた。竜彦に必要なのは私じゃないって……でも諦めらきれなくて……」と奈央は言い「悪あがきってこういう事よね……竜彦のことよろしく……って言うわけだから竜彦出てきたら~?」と言い俺はソロ~って出て蒼は驚き「た……竜彦?」と鳩が豆鉄砲喰らった表情をし仲間達は状況が掴めず困惑し「え? 何これ? どういうこと?」と言い奈央は「じゃあねっ!」と涙を流し店を出て行った。
「俺……奈央(アイツ)の事信頼してなかったんだな……」とぼやいた。仲間が俺に気を使い俺と蒼の二人きりにしてくれた。蒼は残りのレモンティーを飲み「奈央さん(あの人)は本当に竜彦の事が好きだったんだね……」と言った。俺は机に突っ伏して「俺ってカッコワリィ……」と言い蒼は「完璧な人間なんていないよ。それに人間殆(ほとん)ど肩書で判断するし……」と言い俺の頭を撫でた。「なんで頭撫でんだよぉ?」と俺が蒼に聞くと「元気の出るおまじない」と優しく微笑みながら言った。
3
テスト……それは学生にとっては世紀末より恐ろしいものである。きっと多くの学生がこの世からテストなんかなくなってしまえと絶対思うだろう。そして俺も――……
「近藤―。お前また赤点だぞー。追試だからな……」とテストを配る教師がいつものようにげんなり顔で言う。俺はテストを見る。
『数学十三点』
「こりゃマズいわ……」と言いテストをクシャッと握りしめる。次に「梶井―」と梶井の名が呼ばれた。クラス委員長梶井は学年トップの秀才だ。いつも九十点代が当たり前だ。それで出来の悪い(特に俺を)見下している。
(まぁ今回もコイツは九十点代だろう)と思ったが教師が「お前どうした? 体調悪いのかー?」と梶井に対して意味深なことを言った。
放課後になり俺は蒼にラインを送った。
『俺バカ過ぎて補習だわ』というメッセージを送ると蒼から『どんまい……』というクマのスタンプが返信され俺は微笑ましい気持ちになり補習組の教室へ向かった。
補習は退屈だ。っていうか地獄だ。何が悲しくて学校の授業が終わったのに勉強しなきゃならんのだ。俺はそう思いながらで横目で周囲を見た。みんな一生懸命だ。
(御苦労なこって……)と思いまた横目で周囲を見るとこの場に似つかわしくない奴が一人いた。それは梶井だった。俺は目の錯覚かと思い目をこすった。しかしそれは紛れも無く梶井だった。
(なんで?)と思い俺は補習そっちのけで梶井に集中した。
補習は無事に終わり追試を迎え俺は追試を無事クリアし久しぶりに蒼と会う事が出来ると思うと心が弾みはやる気持ちでcanaryへ向かった。
Canaryのドアを開け店内に入るとそこには蒼と制服姿の黒色の長い髪をした少女が話していた。制服から察するに蒼と同じ学校の生徒だろう。
(もしかして恋人か?)と思い俺は内心ヒヤヒヤした。ただ一応冷静に振舞い「よぉ、蒼久しぶりー!」というと「あっ! 竜彦。イイところに!」と蒼が言い彼女の紹介と説明をした。
「ストーカー?」俺の言葉に女は「ハイ……」と気まずそうに答えた。
彼女の名は里川(さとかわ)美香(みか)。蒼と同じクラスの聖薗学園高等部の生徒だ。ルックスよし勉強よしスポーツ万能でテニス部に所属している俗に云う学校のマドンナ的な優等生と蒼に紹介された。そんな彼女は今ストーカーに悩まされている。
「最初は気のせいだって思ったんです。予備校から帰る時いつも後を付けられていて……」
事の発端は一月前の夜。予備校から帰る時後ろから足音がしその時はさして気に留めなかったらしい。しかし、それがいつも頻繁(ひんぱん)に続きこれはもう意図的(いとてき)につけられていると思い彼女が早足で歩くと相手もそれに合わせ早足で付いて来て遂には彼女は予備校に行くのが怖くなった。そしてそれを心配してくれた蒼に相談しただけの様だ。俺は内心ホッとし(なんで俺ホッとしてんだ?)と思った。まぁ、話は戻るが「じゃあ予備校やめりゃあいいんじゃね?」俺の言葉に里川は「親にやめたいって言ったけど聞き入れてくれなくて……」と言い「じゃあ警察に相談は? ストーカー規制法があるんだし……」蒼の質問に「相談したけどなんかあまり真剣に取り合ってくれなくて……」と言い俺はハ~と溜息を吐き「八方(はっぽう)塞(ふさ)がりか……」そう言うと里川は頭を抱えて悩み込み蒼がおろおろうろたえているとそれを見かねていた都先輩が「それやったら囮(おとり)捜査(そうさ)をやったらええんちゃう?」と提案してきた。
そして夜道。
「竜彦付いて来てるよ……」
黒色の長い髪のウィッグと今日の里川と同じ女物の服を着た蒼がびくびくしながらスマホで俺に伝える。
「よし! そのまま人気(ひとけ)のないところに誘い込め!」と俺はそう言い蒼を誘導した。
蒼は「こんなの上手くいくのかなぁ?」と自信無さげにぼやいた。
「囮捜査?」
俺と蒼と里川は同時に声を揃えて聞いた。
「そや! よく刑事ドラマとかであるやん!一般(いっぱん)市民(しみん)に扮(ふん)して正体は実は警察でした~、なんて!」
都先輩の提案に「どういうこと?」と俺は聞き返し都先輩は「つまりや要するに里川ちゃんには予備校の授業に出てもらい帰る時お手洗いとかで入れ替わって変装(へんそう)した奴が里川ちゃんのふりをして帰るっちゅうことや……」都先輩の提案に「成程! それ名案!」俺と蒼は同時(どうじ)に相槌(あいづち)を打ち「でも、誰がその囮役やるの?」と蒼が聞いて来て「そりゃあやっぱり……」俺と都先輩は蒼を見た。
「え~、僕! 無理無理無理! 無理だって!」蒼は必死で抗議するが「平気や後ろ姿やからバレんて!」そう都先輩は力説し「そうだそれに暗いから細部(さいぶ)までは解らねぇし!」俺も力説した。
「竜彦……自分がやりたくないからって……」蒼の言葉に都先輩が「蒼君……冷静に考えてみぃ。たっちゃんの女装姿……」と恐ろしいことを言い蒼と都先輩は考えるしぐさをしてやがて二人して大笑いした。で――……、
「竜彦……ホントにこれ平気?」蒼の言葉に俺は「任せとけって!」
今に至る。
蒼が歩くと相手は歩き立ち止まると相手も立ち止まる。俺はストーカーの後ろから観察し蒼に指示を出しやがて蒼は行き止まりに差し掛かりストーカー野郎が蒼に声を掛けようとした瞬間「残念だったなストーカー野郎!そいつはニセモンだ!」と俺が言うと蒼は振り向き「ぼ……僕でした……」と蒼がウィッグを外して正体をばらした。ストーカー野郎は明らかに動揺してこの場から逃げようとするが「甘い!」と言い俺はストーカー野郎の足を引っかけてストーカー野郎を転ばせて取り押さえた。
「さーて、素顔(スッピン)を見せて貰おうか?」と言いストーカーが目深(まぶか)にかぶっていたパーカーのフードを取るとそいつは「か……梶井!」クラス委員長の梶井だった。
「じゃあ、なにかお前がストーカーの犯人か?」俺達は梶井をcanaryに連行して詰問(きつもん)した。しかし、梶井は「ス……ストーカぁ? 違う! 断じて僕はストーカーではない! 夜道は暗いから見守っているだけだ!」と言い切り「あぁ……それよりもこうしている間に彼女に危機が迫ったら……」と言ってると蒼が「安心して下さい。彼女今家に着いたようですから……」と言った。それを聞き梶井は安心し「そうか良かった……」と呟くと「良かねぇんだよ」俺は梶井を睨んで言い「アイツはテメェの自称見守り行為のストーカーに悩んでたんだよ……」と言うと梶井は「なっ!」と驚き蒼は「ねぇ、どうしてこんなことしてるの?」と聞き梶井が「それは――」と語り始めた。
それはふた月前くらいのことらしい。模試があり梶井が解答を間違えて消しゴムで消そうとしたら消しゴムを切らしていることに気付きオタオタしていると隣の席から消しゴムを貸してくれた人物がいた。それが里川だった。
「それ以来僕は寝ても覚めても彼女のことが頭から離れなくなりそして気付いたんです! これは、そう。恋だと!」梶井は目を輝かせて言い「だから僕は夜道は危ないからボディーガードをしていたんです……」
「なんともはた迷惑なボディーガードだな……」俺の言葉に梶井は泣き喚(わめ)いた。
「でも、里川さん迷惑してるしもうやめよう……」と蒼が諭すと「じゃあ僕はどうやって彼女と接すればいいんですか?」と聞いた。
「キミ達みたいな人間には解らない筈だ。いつも見ていたいとか話したいとかと思っている気持ちが……」
すると今まで黙っていた都先輩が「お前さんなぁ。それは恋やなくて押し付けの愛情や……」と言い「好きな女が困っているのに、そんなことをするのがホンマの愛情なんかいな?」と言い梶井を諭した。梶井は黙り「……そっ、それは……」言葉に詰まり「相手のことも考えろ」俺の言葉に梶井は「……帰ります……」そうしょげて言い元気なくとぼとぼと店を出て行った。
「……都先輩凄いっすね……」俺の言葉に都先輩は「伊達(だて)に二十九年男やってるわけじゃあらへんからな……」と言うと蒼が「えっ? 都さん二十九歳なの? もっと若いかと思ってました!」と蒼がマジで驚いていた。
――そして数日後、俺に厄介(やっかい)ごとが舞い込んでくる。
事の発端は学校の授業が終わり放課後。自分の席でだら~としてると梶井が「近藤君! 話があります!」と言って来た。「なんだよストーカー野郎……」と俺はめんどくさそうに言い梶井は「本来ならキミなんかに頼りたくありませんが――」と言ったので「じゃあ頼るな」と俺が言い帰ろうとすると梶井が「あぁ、ちょっと待って下さい! 今の冗談です! 置いてかないで!」と泣きながら俺の腰に必死にしがみついて来たので「離せっ! 俺は暇だけど暇じゃないんだ!」と言い梶井をひっぺ剥がそうとすると「暇なら話を聞いて下さい!」と泣きながら言い「だー、解ったから離せっ! うっとおしいっ!」と言い梶井を落ち着かせた。そして梶井は俺に話始める。その内容は――、
「――ほんでカッコよくなりたいて?」都先輩はしかめっ面をして梶井を見た。俺達は今canaryにいる勿論蒼も一緒だ。
「――ってもなぁ……」俺は頭を悩ませる。今更ながら言うが梶井は学問に対して優秀でもオシャレ度はからっきしだ。そんなコイツがいきなりカッコよくなりたいと言って来たのだ。周囲が知ったら天地がひっくり返る。
「恋の力は偉大だわ……」俺がそう言うと蒼が「ラブイズビュ―ティフル」と言った。
「せやけどなぁ、一番は見た目やろ……」と言い「まずその七三分けに分厚い瓶底眼鏡! それからきっちり第一ボタンを絞めたワイシャツのボタン! 地味過ぎるわ」と都先輩は梶井を指さして言い「いくら制服をきっちり着るにも限度があるやろ!」と言い蒼が「僕もワイシャツの第一ボタンは開けている……」と呟いた。「まぁまずは眼鏡を取ってみろ!」と俺は言い梶井からひったくるように眼鏡を取った。するとクリッとした緑色の丸い瞳に俗に云う可愛い系のイケメンの素顔が現れた。
俺達は黙りやがて「えっ? マンガ?」と俺は言い「眼鏡取ったらイケメンって……」と都先輩が言い「眼鏡キャラあるあるだね」と蒼が言った。「ち……ちょっと返して下さい! 眼鏡ないと何も視えないから!」梶井はそういうと俺から眼鏡をひったくるように眼鏡を取り掛け直した。
「梶井……お前コンタクトにしろよ……」俺はそうツッコんだ。
「じゃあ、梶井君改造計画始動やで!」都先輩がそう言い俺達は梶井改造計画を聞いた。
都先輩が指摘したのはまずは服。服がダサすぎる事。もっとセンスのある服を選ぶこと。
その二。もう少しオシャレに気を使う事。学校ではきっちりしてても学校外はどんな服装してても自由だからだ。
その三。ヘアスタイルを変える事。梶井は七三ヘアをしている。ハッキリ言ってダサすぎる。もう少し髪型を変えるべき。
その四。眼鏡を外しコンタクトにすること。仮に眼鏡キャラを突き通すならもっとオシャレなメガネにすること。
以上その四点。
――と言うわけで俺達はまず服を選ぶ為ショッピングモールの服屋に来ている。――が「まずは服選びもコンセプトだよな……」と俺が言うと蒼が「コンセプト?」と聞き返した。「そっ! とりあえず梶井お前は里川にどう見られたいの?」と俺は梶井に聞くと梶井は「とりあえず真面目で誠実な……」「ちげぇよ」俺は梶井の言葉を遮り「それは人間性だ」とツッコみ「俺が言いたいのはどういうイメージを与えたいかだ。例えばシンプルで大人っぽいイメージを与えたいとかスポーツ大好きなイメージを与えたいとか……色々あるだろ!」と言うと蒼と梶井が「成程!」と言った。「イヤ。なんで蒼まで頷くんだ?」と俺はツッコんだ。そして(なんか俺今日ツッコミ多くねぇ?)と自分にまでツッコんだ。梶井は悩み考え「蒼君だっけ? 里川さんはどんな男性が好み?」と聞くと蒼は少し困り「僕もそんなに親しくないから……この間の相談は成り行きだし……」と言い俺達は悩み「とりあえず色々見て廻ろうぜ! とりあえず梶井お前の思うカッコいい服ってどんなの?」俺の言葉に「う~ん」と唸り「やっぱりあれかな?」と梶井は言い俺達をある店前に連れって行った。そこは……スーツ服売り場。店先にはカッコよくかっちり系のスーツが飾られている
「おい……お前はこれを着てどこに面接に行く気だ?」俺の言葉に梶井は「えっ? でも僕が思うカッコいい系統これですよ……」と梶井が言いかけると「違うよ。こっち系だよ!」と蒼が隣の店を指した。その店先のショーウインドウにはカッコよく奇抜なデザインの衣装が並んでいる。そう衣装が。つまり――「これコスプレだろ?」
そうコスプレ屋である。要するに蒼と梶井にはファッションセンスが無い事が解った。
「オメェらマジで探す気あ・ん・の・か?」俺は怒気を孕んだ声で二人に聞き「あー、もういい! 服は俺が選ぶ! お前等はこの紙に書いてあるもの買って来い! あと梶井お前の服のサイズ教えろ」俺はプリプリ怒りながらそう言い梶井から服のサイズを聞き出し集合場所を決め男の服を売っている手頃な店を探しショッピングモールを歩き「――ったく、なんで俺がこんなこと……俺はアイツらの保護者か?」とぐちぐち文句を言いながら店を探した。その時「あっ! 近藤君!」と後ろから声を掛けられた。俺は振り向くと「里川……」だった。里川は友達と来ており友達は俺を見てビビっていたが里川が俺のことを説明すると俺に対する警戒を解いたのか多少態度が軟化(なんか)した。
「あれからストーカーもいなくなって漸く平穏が戻ったんです!」と里川が声を弾ませて言った。それを聞き俺は梶井に対して(不憫(ふびん)だな……)と思った。「あとそれから今日これから部活の練習で――」と里川が言葉を続けようとすると「あ! ワリィ、ちょっと質問があるんだけど。里川はどんな格好をした男性が好み?」と聞くと里川は首をこてんと傾(かし)げて「え? う~ん。一応大人っぽくてシックな感じの服装をしてる人がいいかなぁ……」と答え「でも何でそんなこと聞くんですか?」と里川が不思議そうに聞いたので「あぁちょい今イメチェンしたい奴がいるんだけどどこを目指せばいいか解らくて困ってるんだ」と説明をしその場をごまかし「参考になったわ! ありがとうな!」と言い俺はその場を後にした。
(大人っぽくてシックか。それならモノトーンかグレー系だな)と俺は思い男性服売り場を何件か廻り梶井に似合いそうな大人っぽいシックな服をいくつか見繕(みつくろ)った。
集合場所に着くと蒼と梶井はすでにおり蒼は俺の姿を見つけると「あ! 竜彦!」と嬉しそうに顔をほころばせ梶井が「全く遅いですよ! 自分で決めといて!」と小言を言った。「誰のためにこんなことやってんだよ?」と俺は怒気を孕んだ声で言い梶井が黙った。
Canaryに着いた俺達は早速梶井のイメチェンを始める為住宅スペースの物置でセッティングした。もっともセッティングするのは俺なので蒼には店で待ってもらった。まずは七三ヘアを解くために髪をとかし買ったばかりのモノトーンの服を着せ蒼達に頼んだ香水をかけ最後にコンタクトレンズをはめさせて「かんせーい!」と言い「じゃあ早速お披露目(ひろめ)会だ!」と言い「えっ? でも……」梶井は恥ずかしがったが俺はそんな梶井をよそに店に連れて行った。
「出来たぜー!」と言い俺は店のドアを開け皆に報告し店の外にいる梶井を引っ張り出して皆に見せた。そこにはグレーのワイシャツに薄茶色のサマーコートを着脚(あし)を細く見せる為に黒いテーパードパンツを着こなし黒い髪七三ヘア―ではなくサラサラのストレートヘアーになりコンタクトレンズで緑色のクリッとした大きな瞳が際立ち微(かす)かに香るシトラス系の香水が爽やか感を演出している。
衣装に着せられている感じもなく正に大人っぽくシックな感じだ。
俺と梶井以外の皆は一斉に口を開いての第一声が「誰?」だった。
「ほー、エライ化けたなぁ」都先輩の言葉に蒼が「最初誰だか解らなかった……」と続き梶井が照れながら「そ……そうかな?」と口ごもりながら言い「どうだ? 俺の腕は?」と俺が言うと蒼が「竜彦って本当凄いんじゃあ……」と呟くように言った。「まぁ、素材がええんやけど……」都先輩の言葉に「えー、なんですかそれ?」俺は抗議した。そして、蒼がクスクス笑い「なんかこういうのってイイね」と言った。「まぁな! まっ、勝負はこれからだけどな!」と俺は言い梶井の肩を持ち「じゃあ行くか?」と言い梶井は「え? どこに?」と聞いて来たので俺は「戦場(せんじょう)だ!」と比喩(ひゆ)表現(ひょうげん)で答えた。
聖薗学園高等部のテニスコート。そこでは里川とチームメイトが練習していた。ラリーは激しくやがて里川のボールが相手のコートに入って相手が撃ち損じ里川が勝った。
「テニスってすげーな……」俺の言葉に蒼は「僕は無理……」と言い「カッコいい」と梶井が木の陰に隠れて言い完全に恋する乙女(男だけど)の目だ。やがて休憩タイムになりテニス部員達が休憩に入り例に漏れず里川も休憩に入り「よし蒼今だ!」と言い「う~、僕が行くのぉ?」と蒼は困った表情をし「だってよ、いきなり他校の奴が行ったら警戒するしテニスコートに入れないじゃん! だったら同じ学校の奴の紹介の方が安心度は高いじゃん!」と俺は言い「そんなものなのかなぁ?」と蒼は考えながら言い「とりあえず行け! 今はお前は蒼ではない恋のメッセンジャー蒼だ!」と言い蒼があまり乗り気ではなくテニスコートに入って里川に接触し里川を呼び出すことに成功しそれと同時に丁度蒼と里川テニスコートから出てきて里川が「私に会わせたい人って誰?」と蒼に聞き蒼が「あ……うん。その前にちょっとイイかな?」と里川に尋ね「里川さんってその……今……彼氏とか欲しい?」と聞くと里川は「え? う~ん。彼氏よりもまずはその人の人柄で判断するから一概(いちがい)には……」と言い淀(よど)み「じゃあ一応彼氏(かれし)募集中(ぼしゅうちゅう)系(けい)なんだ?」と蒼は聞くと「ん? まぁ一応……」俺は心の中で(よっしゃあ!)とガッツポーズをし「よし、梶井お前にもチャンスはある! 行け!」俺の言葉に梶井は「え? ぶっつけ本番?」と梶井は困惑(こんわく)し「当たり前だろ。何の為に戦場(ここ)に来たと思ってるんだ?」俺の言葉に梶井が顔を赤らめて「で……でも……まだ心の準備が……」と言ったので俺は「あー、情けねぇなぁ! いいか? 男は度胸だ! ど・きょ・う! 今がチャンスなんだよ!」と俺は力説したが梶井が「でも……」と煮え切らない態度だったので俺はキレて「いいから早く行けぃっ! 特攻(とっこう)!」と言い梶井を押した。そして「ぅわっ!」とは俺が押したせいか梶井は盛大(せいだい)にこけて登場した。
(やっちまった……)俺はそう思い梶井が「うきぅ。覚えてろ……」と目に涙を浮かべて俺を見て言った。そして「あの? 大丈夫ですか?」と里川が梶井に手を差し伸べて来た。梶井は里川の手を握り立ち「あ……ああああああの……ありがとうごさいます!」盛大に噛(か)みながら言った。そして本題……。
「あの……いきなりで失礼します! 実は僕前から貴女のことが好きで……よろしければお友達からでいいんで付き合って下さい!」とハッキリ言い木の陰から見ていた俺は(小学生かよ……)と頭を抱えた。そしてそれと同時に(終わったな……)と思い退散(たいさん)しようした時「まぁお友達からならいいけど……」と里川は言い俺は(え? マジ?)と思った。
「よかったやんけ! お友達からでも一応付きおうて……」都先輩の言葉に梶井は顔を真っ赤にし下を向き「え……えぇ、まぁ……」と照れながら言った。
俺達は今canaryにいる。
「マジ俺ヒヤヒヤしたわ。まさか、お友達からって……小学生じゃないんだから……」俺の言葉に梶井が「じゃあ他になんて言えばいいんですか?」と梶井が聞き俺は、んーと考え「例えば一目見た時からキミのことが頭から離れないので付き合って下さいとか?」俺の言葉に「竜彦……それは引くよ……」と蒼にツッコまれた。
「まぁ、何はともあれ結果オーライだ! 早速何か注文しようぜ! ここは梶井の奢(おご)りだ!」と俺が言うと「なんで僕の奢りなんですか?」と梶井がツッコんだ。
俺達は(梶井の奢りで)食事をした後都先輩が「そう言えばライン番号聞いたんやろ?」と都先輩が梶井に聞くと梶井が「え? あ、はい……」と答え「う~ん、おうてすぐメアドもライン番号聞かなかったどこぞの誰かとは大違いや……」と都先輩は俺を見てトゲのあることを言った。
「じゃあ、はい!」と俺は色々な風景の写っている雑誌を梶井の目の前に置いた。
「え? なにこれ?」梶井の言葉に「見て分かんねぇのか? この近辺のデートスポットだよ」と俺は言い梶井はボッと顔を赤くし「で……ででデートォ? そんなのまだ早過ぎるよ! だってまだ僕達まだ付き合い始めたばっか……第一友達だし……」と言いあたふたしたが「お前なぁ……いいか、俺からいわせりゃお前は恋愛に幼稚(ようち)過ぎる。お花畑を歩くより最近の女は遊園地とか過激な方が好きなんだよ!」俺の言葉に「それはたっちゃんの趣味やないの?」と都先輩がツッコんだ。「過激……」梶井はデートスポットの写真を見て「考えてみるよ」と言いいくつか雑誌をもって店を出て家に帰った。俺と蒼は道中途中まで一緒に帰り「全く人の恋愛をプロデュースするのは大変だわ……な! 蒼!」俺は蒼を見た。蒼は黙っており何かを考えこんでいるようだった。「蒼? 蒼? おーい、蒼……」俺は蒼の目の前で手をひらひらさせ「わっ?」蒼は我に返ったのか驚いた。「ど……どうしたの竜彦?」蒼の言葉に俺は「どうしたはこっちのセリフだよ? どうしたんだよ? 浮かない顔をして……」と聞くと蒼が「う……うん。本当にこれでいいのかなって思って……」蒼の言葉に俺は頭に疑問符を浮かべた。
「え? いいんじゃね。好きな子とまだ友達だけど上手くいって恋人になれば万々(ばんばん)歳(ざい)じゃないか?」俺の言葉に蒼が「う……う~ん、そうだけど……」と蒼が浮かない顔をして考えこみ「そ……そうだね! 僕の考えすぎだよね! なんかごめん! 僕なんでも悪い方に考える癖があって!」と言いぎこちない笑みを浮かべた。
一週間後梶井から相談を持ち掛けられた。学校ではあれなのでcanaryに行き相談内容を聞いた。内容はデートスポットが多すぎて決められないという内容だった。
「――と言うわけでどうしましょうか?」梶井の言葉に「そんなこと自分で決めろや……」俺は呆れながら返答した。すると梶井は泣きながら「だって、僕十七年間勉強(べんきょう)漬(づ)けの毎日で女子と一緒に出掛けたことがないんだよ! それがいきなりデートってハードル高すぎだよ……」と嘆きテーブルに突っ伏した。
「そんな難しく考える事じゃないんじゃね? デートって気負(きお)いするから緊張するんだ! もっとリラックスしろって!」俺の言葉に梶井は「そもそも僕にデートは無理だ! 手を繋いだことさえない!」と更に嘆いた。
(小学生かよ……)俺はそう心の中でツッコみ都先輩に至っては「今時珍しいピュアボーイやなぁ……」と口でツッコんだ。
すると今まで黙っていた蒼が「あ……あのさ……その……変に飾る必要はないんじゃないかな……ありのままの自分で行けばいいと思うんだ。例えば自分の好きな物とか。何か好きな物ないの?」と聞き梶井が「好きな物……う~ん」と考え「一応あるけど映画……」と答え「じゃあそれだ!」と俺はそう言い「デート定番の映画デート! これだぜ!」俺の言葉に皆は賛同して梶井は今人気の映画を探した。そして「これにしよう!」と梶井は言い早速チケットを予約し里川にラインを送りすぐに『イイよ!』と返信が来たので梶井が喜び小躍りした。俺が「なんて題名の映画?」と聞くと「風と共に去りぬ」と答え蒼が「名作ですよね」と言った。
そして、俺達は梶井にデートのレクチャーをした。まずは一つは映画のダメ出しをしない。相手が不快に思ってしまうから。その二、ここぞというばかりにいきがってはいけない。その三、過干渉にならない。以上三つをレクチャーし梶井の初デートの日がやって来た。
そして、当日――。
梶井はイケてる男性バージョン(要するに俺が前にレクチャーした服の一つ)になり梶井の初デートを見守ることにした。しかし、実際は俺達も映画が見たかった為見守るという大義(たいぎ)名分(めいぶん)を掲げて映画館に向かった。梶井はレクチャー通り自分は車道側を歩きエスコートし映画館に辿り着きオンラインで購入したチケットを提示して俺達は現地でチケットを購入し座席に座った。そして、上映が始まった。
風と共に去りぬはアメリカ発祥の小説で文学に疎(うと)い俺でも大まかな話は知っているくらい世界的にも有名な話で内容はアメリカの南北時代から始まる美しい女性スカーレットの一大巨編だ。
俺はポップコーン片手に映画に見入り話が佳境に入り横目でちらっと隣の蒼を見ると蒼の瞳(め)が潤みやがて上映が終わると蒼がボロ泣きし俺が「蒼―、出るぞー」と蒼に話しかけると蒼は泣きながら頷き俺達は映画館を出た。そして俺達はバレないように梶井の後を付けた。喫茶店に入り俺はアイスコーヒー。蒼はアイスレモンティーを注文し梶井の話に聞き耳を立てていた。が蒼はまだ泣いており俺だけが話を聞くことになった。梶井はレクチャー通りに映画のダメ出しをせず二人は花が咲き誇る様にイイ雰囲気で俺はこれなら心配ないなと思い俺達は注文した飲み物を飲み店を出た。
翌日学校で俺は梶井に「デートどうだった?」と聞くと梶井は満面の笑顔で「好感触!」と言い俺は安堵した。この時は……。事件は放課後に起こった。
下校時間になり梶井が財布がないと言い出しカバンを探したが見つからず梶井が「もしかしてあの喫茶店に置いて来た?」と言った。あのとは昨日映画の帰り寄った喫茶店だ。
「ヤバい!」と言い梶井が学校を出た時ばったり里川と会った。俺達は動揺した。何故なら今の梶井は昨日のオシャレな梶井じゃなくて七三分けで地味で瓶底眼鏡をかけた梶井だからだ。俺達は一瞬で固まり里川は「あの……お財布私のバッグに入ってたから……届けに来たん……だけど……」里川は明らかに動揺している。俺は終わったと思い梶井が里川に「ごめん……」と言いその場から逃げるように立ち去り俺達はcanaryに向かった。
「――んで、正体バレて凹んどるわけか……」都先輩は溜息をついて言い蒼が「やっぱり……」と言い「嘘はいつかバレるものだよね……」と言うと俺は「確かに……」と言った。俺達は里川に嘘をついた。オシャレしていかにもリア充よろしくな梶井を作りその結果バレたのだ。
「やっぱり僕に恋愛なんて無理だったんだ……」と梶井が泣きながら言うと「僕今まで何もなかったんだ。親からいつも勉強勉強って言われいつも期待通りのいい子を演じてきた。毎日がつまらなくてだけど彼女にあった時衝撃が走ったんだ。それでこれが恋って気付いて今まで何もなかった僕の人生に幸せな気持ちを運んで来たんだ……だから僕見てくれだけで……でもやっぱり無駄だったんだ」と言い涙を流し始めた。するとドアのベルがチリンとなり誰か入って来た。俺がドアの方を振り向くと「里川」だった。
「見つけた!」
「なんでここが?」俺の問いに「蒼君がラインで教えてくれたから……」と言い俺は蒼を見た。梶井は泣きやみ涙を拭き「ごめん……」と言うと里川が「なんで謝るの?」と聞いた。梶井は「嘘ついてて……」と言い「本当の僕はこんなんだ。地味でダサくて何もないんだ……だけど、里川さんの前ではいいカッコしたくて嘘ついて偽りだらけの自分を演じてた……それを謝っているんだ」と言うと里川が「私だって嘘をついているよ……」と言った。
「私学校では優等生で学校のマドンナって言われてるけどそれは嘘の私なの……」と言い自分の学生カバンをひっくり返した。すると中からはマンガ雑誌にマンガの単行本にコスプレ特集といかにもアキバ系オタクの本が出て来た。「本当の私はアニメやマンガが大好きなオタクなの。でも……中学時代それを馬鹿にされて友達が出来なくてだから高校行ったら隠そうって思っていわゆる理想の自分を演じてたの……だから謝るのは私の方……ごめんなさい……」と言った。「梶井……」と俺は梶井に促(うなが)し梶井が「今度教えて……イイマンガ!」と言った。「僕マンガとかあんまり読んだことなくて解らなくて……!」と言い「梶井君……」里川はそう呟き「仲直りだよ」と蒼が笑顔で言い一組のカップルが誕生し俺達は安堵し俺と蒼は顔を見合わせ微笑んだ。
4
今日俺は上機嫌だった。事の発端は昨夜――。
『じゃあチェリーは社会人なんだ……』
俺はネットゲームのアバターを使って同じパーティチェリーという女キャラとチャットをしていた。
チェリーは長い金色の髪にその長い髪を水色のリボンでポニテ―ルにしベビーピンク色のエプロンドレスに身を包んだかわいらしい容姿の女キャラで職業はアルケミストだ。(因みに俺は剣士)
『ええ。学校の先生なんですけど最近の生徒はなかなか扱いが難しくて……』チェリーは難しそうに言った。
『あぁ。でもやっぱ生徒って大人のいう事を聞かないもんですよね! 反抗するっていうか』俺は自分のアバターのキャラ湊(みなと)にそう書き込んだ。その時『ごめん! 待った?』とセリフと共に一人の青年がやって来た。
『あ? 来た来た! こっちこっち!』と俺は言い青年を呼び込んだ。青年の名は響(ひびき)と言い蒼のアバターで職業はスナイパーだ。蒼のアバター響は焦げ茶色の羽織りマントに白色のチュニックを着こなし青色の髪をしている。
『ごめん……ちょっと接続に時間がかかって……』響が申し分けなさそうに言うと『いいってことよ! 俺等だってちょっと前にログインしたばっかだしよ!』と俺は言いチェリーは『ええ! そうですよ! 気にしないで下さい!』と励ました。
俺は一週間前に蒼をこのネットゲームに誘った。事の発端はcanaryで俺が都先輩にこのネットゲームの期間限定のイベントの話をしていると蒼が興味を示し俺が話すと蒼が「やってみたいな……」と言い俺は接続方法やアクセスの仕方を教えた。ただ蒼はネットゲームをやったことが無く最初のうちは真っ直ぐに歩くことさえ出来ず中級者の俺がレクチャーし、蒼は歩くことが出来た。(しかもすぐに……)そして俺は古くからのネット仲間のチェリーと蒼演じる響を会わせ俺達はパーティー銀翼(ぎんよく)に響を入れた。
『そう言えば湊さんと響さんってリアルでも友人なんですよね?』チェリーの質問に『ん? そうだけど』俺の言葉に『湊が教えてくれたんだ』と響が言うと『なんか私だけ仲間外れたみたいです!」チェリーがむくれたので『そうだ、じゃあオフ会やってみないか?』と俺は提案した。『オフ会?』響が聞き返したので俺は「要するにリアルで会うってことだよ!」と言いチェリーが『それいいですね! 私も皆さんに会ってみたいです!』とチェリーは言い俺達はオフ会の場所と日程を決めその日はログアウトした。
「あ~マジ楽しみ! チェリ! どんな子なんだろ?」と俺が独り言のように呟いていると数学教師の桜庭(さくらば)司(つかさ)が教室に入って来た。桜庭司はまだ教師になって六年の新米教師で年齢は二十代でいつもポーカーフェイスのイケメン教師だ。それ故女生徒から人気がある。が、桜庭は女生徒のアプローチを無視しいつも通りのポーカーフェイスだが色々噂も飛び交っている。前の学校で女子生徒と親密になってその生徒を妊娠させた挙句中絶させてこの学校に転任してきたともっぱらの噂だ。もっとも信憑性(しんぴょうせい)がないが。そして「竜彦―、近藤竜彦」と俺を呼び俺の小テストの答案を返した。小テストの答案は五十点満点で七点。こりゃひどいわ……。俺はそう思い席に着いた。桜庭が全てのテスト答案を生徒に返し終え授業を始めたが俺はそんなこと聞かず適当に授業をやり過ごし漸く退屈な授業が終わり昼食の時間になり俺は一目散に朝購買で勝った卵サンドに齧(かじ)りついた。その時教室から出る桜庭を見るとクラスメイトの女子が桜庭に色目を使い「先生~、ここが解んなかったんですけど~」と言うと桜庭は「この教科書の七十三ページを見るとイイ」と会話を終わらせ俺は(女子共報われないな)と俺は思い紙パックの牛乳を飲み干した、そして(あぁいうのを堅物(かたぶつ)って言うんだよな……多分ゲームとかやったことない人種だな)と思った。その時桜庭が「近藤後で職員室に来い。話がある」といいつも通りの調子で言い出て行った。(誰が行くかよ。バーカ!)俺はそう思い舌を出した。
「ふ~ん、じゃあ竜彦はその人のこと苦手なんだ?」蒼の言葉に「だってよー」と俺は言い「俺はああいうスカしたタイプが一番嫌いなんだよ!」俺の言葉に都先輩が「まぁ、たっちゃんには嫌いなタイプだわなぁ……」と言い「でも、自分の気に入った先生なんていないよ」と蒼は言った。「う……まぁ、そりゃそうだけど」と俺は口ごもった。
「っていうか、なんで店(ウチ)をオフ会の場所にするんや?」都先輩の言葉に「だってここ俺と蒼が知ってるし何と驚いたことにチェリーもこの近辺に住んでるっていうから……」と俺は言うと「せやけどええんか? オフ会なんて……リアルとネットはちゃうからリアルの姿見たらイメージとちゃうって会わない方がよかったってこと多いで……」都先輩の言葉に「う……そりゃまぁ……」俺は言葉を濁し「ねぇ、竜彦? チェリーさんに聞いてみたら……苦手な教師がいるんだけどどうしたらいいか……あの人学校の先生って言ってたし」と蒼が提案した。「う~ん」俺が悩んでいると「やめといたほうがエエで、嘘かもしれへんし……」都先輩が制止させた。「え? 嘘?」蒼が聞き返すと俺は「ネットの世界はいくらでも言いようがあるんだ。当然嘘も言う。現に三年位前にネットで知り合って仲良くなった女性キャラが相手のプレイヤーに会いに行ったらプレイヤーが男と知って殺人事件を起こした例もあるんだ」と俺は言い「オフ会って怖いものなんじゃ……」と蒼が言うと「平気だって。俺喧嘩には強いから……」と俺は腕まくりして言った。「はぁ、そう問題じゃないんやけどなぁ」と都先輩は溜息をつきながら言い「エエか? ネットとリアルは別モンや。よう覚えとき!」と都先輩は念を押すように言い「解りました」と俺は生返事をした。「――で、オフ会とやらはいつなんや?」都先輩の言葉に「明日の十三時です」と蒼が言うと「偉い急やな」と都先輩が言い「チェリーの仕事の関係で空いている時間がそこしかなかったんですよ! 丁度一学期修了式だからって」と俺が言い「あ~、マジどんな子だろ?」と俺はテンションを高めに言い楽しみで胸が高鳴った。すると都先輩が「蒼君これネトゲに陥りやすい奴で女キャラ使ってるとリアルも女と思いやすいから要注意や」と言い蒼は「成程」と頷き話し込んでいた。そして、この日は解散した。
そして翌日――。
俺と蒼は予定より早くcanaryで合流した。俺の今日の服装は歯車がプリントされた黄色パーカーにジーンズ。一方の蒼は白いティーシャツに先端がたれ耳みたいなウサギの様な割れた黒いフード付きのパーカーを着て下は白いズボンを履いていた「俺蒼の私服姿見たの二度目だわ。こういうカッコも出来んだな」と俺は蒼を見た。思えば蒼と遊ぶ時蒼はいつも学校の制服の学ランなので私服を見るのは二度目だが新鮮味があった。「竜彦も相変わらず服のセンスいいよね!」と蒼は言い「褒めても何も出ないぜ!」俺は照れながら蒼の肩を叩いた。
「――で、チェリーさんはどんなカッコで来るんだろ?」蒼の言葉に「あ、そっか、昨日蒼ログインしてなかったもんな……」と俺が言い昨日のチェリーの言葉を思い出し「確か黒系と白の服で来るってたな……ゴスロリかな?」と俺は推測して店の中で待つことにした。今は七月。夏本番だ。この暑い中外で待つのはハッキリ言って酷だ。その点店の中はクーラーが効いてて涼しい。「地上の楽園だー」と俺が呟くと店の扉に着けられたベルがカラン! と鳴り「すまない遅くなった!」と聞き覚えのある男性の声がした。俺は声の方を見ると「げっ! 桜庭!」がいた。「近藤! なんでお前がここに?」桜庭は驚いたので俺は「オフ会だよ! お・ふ・か・い! そういうお前こそなんでいるんだよ!」と俺が怒りながら聞くと「奇遇(きぐう)だな……俺もオフ会だ……」と答え俺は「え?」と言い「俺もオフ会だ。ネトゲのパーティと……」俺は固まり蒼が「ねぇ……竜彦チェリーさんって……」と恐る恐る俺に聞き「あぁ……」と思い俺は桜庭を見た。今の桜庭は黒のブイネックのシャツを着ておりその上に黒のサマーコート。そして、白いズボン。黒系と白い服だ。そして桜庭。桜=(イコール)チェリー。俺は違ってくれと思いながら「もしかしてチェリー?」と聞くと桜庭は驚き「もしかして湊……?」と聞き返した。
「驚いたな……」桜庭の言葉に俺は(こっちがだよ)と心の中でツッコんだ。
いや、だってまさかあの少女趣味全開で可愛いキャラがヤローで俺の嫌いな奴。更にはこんな不愛想キャラなんて思わないだろ。
「と……とりあえず何か注文とろうか? 僕アイスティー」と蒼が言うと俺は「オムライス……」と仏頂面で言いチェリーこと桜庭は「俺はシンデレラ」を注文した。程なくして注文した料理が出てきたがかなり気まずい空気が流れた。
すると蒼が「そう言えば桜庭さんって学校の先生なんでよね? 担当している教科は何ですか?」と桜庭はぶっきらぼうに「数学だ」と言い「そ……そうですか……」と蒼は縮こまって俯いた。「それより何か言いたいことがあるんじゃないのか?」と桜庭は聞いた。
「え?」と蒼は声を漏らす。「何か言いたいことがるならハッキリ言った方がいい……?」
「そ……それは……」蒼は顔を赤らめて更に縮こまった。
更に桜庭は「それとここで言うが近藤……何故、昨日職員室に来なかった? 話があると言っただろ。いくら高校が付属校でもこのままじゃお前留年するか退学のどちらかだ……」と溜息交じりいつも通りのスカした顔で言い「お前は一体何をしたいんだ?」と聞いて来た。俺はブチギレ「うるせーな!」俺は桜庭に怒鳴った。「テメーさっきから何様のつもりだよ? 担任でもないくせに……」俺は桜庭に掴みがかり「テメーだって色々問題行動起こしてるじゃねぇか?」俺の言葉に桜庭はすまして「俺がなんだ? 今はお前の話をしている」と言ったので俺がキレて「じゃあ大声で言ってやるよ! お前前の学校で女子生徒を妊娠させておまけに中絶させてウチの学校に逃げて来たんだってもっぱらの噂だぜ!」と俺は爆弾を投下し蒼と都先輩、それとこの場にいた客全員が俺と桜庭の二人を見た。桜庭は「それがどうした? そんなのただの噂だろ」とすました顔で言い更に「それはバカな生徒が勝手に風潮(ふうちょう)しただけだし仮に俺がその生徒と関係を持っていたらなんだ? お前には関係ないだろ」と言った。その一言に俺はキレ俺は「最悪だ……」と俺は言い「こんなことならオフ会なんてするんじゃなかった……」と言うと桜庭も「生憎(あいにく)だな。それはこっちもだ……」と冷静に言い桜庭は出されたシンデレラを飲みお代だけ払ってさっさと出て行った。あとには気まずい雰囲気が残り俺は無言でオムライスを食べ蒼は気の毒そうな顔をした。
家に帰ると親父が仁王立ちしており「竜彦。ちょっとこっち来い……」と言いリビングに連れて来られた。テーブルには俺が丸めて自室のゴミ箱に捨てたテストの答案用紙が置かれており「この点数はなんだ?」と親父はテストの答案用紙を俺に見せた。そこには見事に十二やら十七と十点代ばかりの点数が並んでいた。俺は黙り「お前はこの家の跡取りだぞ。それなのにこのテストの点数はなんだ!」親父が怒りながら俺に聞くと「親父には関係ねぇだろ!」と言い「誰が生んでやったと思っているんだ!」と親父が怒鳴ると「生んでくれなんて頼んだ覚えねぇよ!」と俺は返答し更に「俺は政治家にはならねぇよ!」と言いリビングを出て二階の自室に向かった。俺はベッドに倒れ込み「疲れた……」とぼんやり呟きそして(現実はクソだ……何事もゲームのようにいかない……)と思いながら眠りに堕ちた。
ピロン! とスマホの音で俺は目を覚ました。俺はスマホを見ると不良仲間の一人から合コンの誘いが来た。俺はムシャクシャしていたので『行く』と返答した。その時別の一人から『じゃあ後一人、人数合わせに連れてきて』というオーダーが来たので仲間に連絡した。
「じゃあ奏君って聖薗学園なんだ……」と不良仲間の男性は蒼に聞き「う……うん」と蒼は戸惑い気(げ)に返答し俺は不良仲間の一人に小突かれ「なぁ……なんで女よりかわいい男連れてきてんだよ?」と言われた。そう、俺は咄嗟(とっさ)の合コンだったので片っ端から不良仲間に電話したが皆生憎夏休みのせいか補習やら旅行やらと空いておらず仕方なく恐らく合コンに不慣れな蒼に電話した。そして結果――、
「ねぇ、奏君俺とライン交換……」「イイやオレだ!」ともう一人が遮り喧嘩になりその隙にオレだオレだと言い合いになった。
男共は女子そっちのけで女子よりかわいい蒼に夢中。女子達は不機嫌そうにジュースを啜(すす)ったり運ばれてきたフライドポテトを摘まんだりしている。最早これは合コンではなく学校の給食状態だ。
(まさか蒼が合コン荒らしになるとは……)
俺はジュースを啜り蒼が泣きそうな顔で「竜彦~、なんか怖い……」と言い俺にしがみついて来た。
(泣きそうな顔も正直可愛い……)と俺は不覚にもそう思いながらも女子達が怒り心頭で「帰る!」と言い今日の合コンは終わった。
「まぁ、そうなるわなぁ! 顔面(がんめん)偏差値(へんさち)高い蒼君連れてったら……」都先輩は笑いながら言い食器を拭いた。
俺と蒼は今canaryにいる。
「まぁ、そりゃそうですけど……」と俺が溜息交じりに言うと蒼が「な……なんかごめん……」とすまなそうに言うと「あー、いいよいいよ! 悪いの俺だから……」とカウンターに突っ伏しながら返答した。その時、ピロン! とスマホが鳴った。着信を見ると俺のクソ親父からだった。俺は即座にスマホを切った。「出なくていいの?」蒼の言葉「いいんだよ。どうせ小言だろうから……」と言い俺は溜息をついた。家は息苦しい。いつもピリピリしているから。いつからだろう? こんなに親に反抗的になったのは。俺はぼんやりと思うと「そういや蒼んとこは?」と蒼に尋ねた。蒼は「え?」と聞き返すと「蒼んとこの親はどんな奴?」俺の問いに蒼は少し考えて「僕に本気で自分の将来を託していた人かな?」と答えた。「えぇー、なんかそれってプレッシャーじゃねぇ?」と俺が言うと「でもそれしか僕にはないから……」と答えた。「ちゅうか、蒼君なんかやっとるんか?」と都先輩が聞くと「ん……う……うん。一応……」と蒼はその場を少し濁しながら言い「そういえば竜彦の所は?」蒼の問いに「クソ親父とクソババァ……」と答えた。「え……?」蒼が困惑し都先輩が「あー、たっちゃん父親政治家なんよ……んで、親が一人息子のたっちゃんに後継がせたいんやけど――」都先輩が蒼に耳打ちした。「そうなんだ……結構意外だね……」蒼の言葉に「あ~、よくそう言われる……」と返答し「親なんてクソ喰らえだ……」俺がそう呟くと「竜彦……親のことをそういうのは良くないよ……」と蒼が制止した。「だってよぉ……」俺が反論しようとすると「で……でも……」蒼が何か言いたそうだった。「なんだよ? 何かはっきり言えよ!」俺は怒気を孕んだ声で蒼に聞くと蒼は下を向き「言いたいことがあるならハッキリ言えよ! 大体お前は前からそうだ! 言いたいことを言わないで周りから助けを求めてばかりいて! そういう所ムカつくんだよ!」俺は怒りの限り蒼を罵倒(ばとう)すると蒼は目に一杯の涙をため「僕だって自分でも解ってるよ! 解ってるけど治せないんだ!」そう言うと蒼は店を出て行ってしまった。「あらら、出て行ってしもうたわ……」都先輩がそう言うと「俺も失礼します……」と言い店を出た。
俺がアスファルトの歩道を俯きながらとぼとぼ歩いているとぽつりぽつりと雨が降ってきてやがて土砂降りになった。
「最悪だ……」俺はそう呟き未(いま)だ俯いたまま歩いた。すると「危ないっ!」という声と共に俺の服の襟首を掴みグイッと引っ張っられた。そのすぐ後車が通り過ぎた。信号を見ると赤だった。「オイっ! お前自殺でもする気か?」と引き寄せた人物が言った。俺は命の恩人にお礼を言う為顔を上げると「げっ! 桜庭!」がいた。
「よし! これでヨシっと!」桜庭はそう言い俺の腕に包帯を巻いた。「かすり傷だから大したことはないが一応後で病院に行っておくとイイ。破傷風になったらあとあと面倒だからな」と言い救急箱に包帯をしまった。
俺は、今桜庭の家で手当てを受けている。引っ張られた時腕を少し掠(かす)ったので桜庭に強制的に連れて来られた。
「これくらいどうってことねぇのに……」と俺がぼやくと桜庭が「怪我を甘く見るな!」と言いタンスから何かを取り出し俺にポイポイと渡した。「? なんだ?」と俺が聞くと桜庭が「俺の服だ……」と言い「お前今びしょ濡れだろ。とりあえず服乾かすから服(これ)に着替えろ」と言い俺は着替えた。
「もっとちっせー服ねぇの?」
俺は桜庭の服を着て文句を言った。と、いうのも桜庭の服は大き過ぎてハッキリ言ってぶかぶかで最早(もはや)彼シャツ状態だった。「これが一番小さいサイズだ」と桜庭は反論し「文句があるなら裸にバスタオルを一枚だけ羽織るか?」と意地悪そうに聞いて来たので「喜んでこの服を着させていただきます」と俺は言った。そして俺は正座し桜庭は「飲み物を淹(い)れてくる」と言いキッチンに引っ込んだ。
(お……落ち着かねぇ。年上の野郎の部屋。しかも教師)
俺は緊張しながらも改めて桜庭の部屋を見た。ワンルームでベッドにタンスにテレビ。勉強机に本棚には難しそうな本がきれいに整理整頓され並んでいる。
(コイツ本当に教師なんだな……)と俺は改めて実感した。その時ふと一枚の写真立てが目に入った。俺は近づいてみるとそこに写っていたのは桜庭と白髪で学生服を着た自分と同い年くらいの少年が写っていた。二人共笑顔でとても楽しそうだ。
(誰だ? コイツ?)俺がそう思ってると「その写真が気になるのか?」という声が後ろから聞こえ後ろを振り向くとマグカップを二つ持った桜庭が立っていた。「え……あ~……その……」俺は気まずくなり上手く返答出来ない。すると桜庭がテーブルにコトッとマグカップを置き「お前はケガ人だからホットミルクだ。早く飲め。冷めるぞ……」と言い自分のぶんのコーヒを飲み始めた。相変わらずの桜庭の命令口調に俺はちょっとムカッとしてミルクに口をつけた。ホットミルクは暖かく冷えた体を温めてくれ心が穏やかな気分にさせた。
「言っておくが俺の噂は根も葉もない噂だ」と桜庭は口を開いた。
「え?」
「俺が前の学校で生徒を妊娠させたっていうのは……」
「……」俺は黙った。
「俺はこう見えても教師生活に命を懸けているんだ」と言い「――で、本題だがお前は何していたんだ? 車の前に飛び出して……」
桜庭の質問に俺は黙りやがて「まぁ大方親と喧嘩でもしたんだろ?」桜庭の直球の言葉に俺は言葉を失くした。そう、当たりだ。俺は「だって親がうるせぇんだよ。将来の事真剣に考えろとか。しっかりしろとか! 俺だってガキじゃねぇんだ」と言い昨日のことを話した。すると桜庭が「それはどう考えてもお前が悪いだろ」と桜庭が一喝して言った。「だけど親がいなくなれば俺は自由だし……」と俺が言うと桜庭が「なら一つ言うがお前の学費はどこから出ている? 家は? 食事は? 全部親の金だろ」と言い俺は言葉に詰まった。「確かに親が死ねば自由だ。だが、同時に社会に放り出されて責任が付く、何事にも。今のお前……まして成績最低のお前にその覚悟があるのか? 否、ないな」
「そんなこと解って――」「いや解ってないな!」桜庭は俺の言葉を遮って言った。「今のお前があるのは親がいて守ってくれている人がいるからだ。つまり、お前は親が居なければ何も出来ないただのガキだ! 自分一人で大きくなったと勘違いするな!」と言い「一つ言っておく親孝行したい時に親はいない」と言いコーヒを飲んだ。俺は黙りこくった。確かに桜庭にいう事は全て的(まと)を得ている。確かに俺の学費も食費も家も親がいて成り立っている。親が居なければ今の俺は確かにいない。それなのに蒼に当たり散らして喧嘩した。
「最低だ、俺……」と呟いた。「どうした?」桜庭の問いに「俺今日蒼と喧嘩したんです。親のことで……それで当たり散らして……」すると桜庭が「蒼? あぁ、あの子か。親(した)しい人と喧嘩したなら早く謝るのが一番の近道だ。いつか謝ろうと思ってもそのいつかは訪れなくなり謝りたくても謝れず後で『あぁ、あの時』と思った時にはすでに時遅しだ……」と桜庭は言い写真立ての写真を見た。俺は残りのホットミルクを啜った。ホットミルクは冷めており冷たくなっていた。その時乾燥機がピーッ! と音を鳴らした。「服が渇いたようだな。取ってくる」桜庭はそう言うと乾燥機から俺の服を取り出し俺に手渡した。俺は自分の服に着替えてcanaryに走って向かった。
Canaryに着いた頃は息切れをしながらも「み……都先輩……」と俺は遠慮気味に店のドアを開けた。
「おっ! たっちゃん復活したかいな?」都先輩が軽快な笑顔で俺を迎えた。俺は口ごもりながらもやがて「ごめん……」と言うと都先輩が「何がや?」と聞き返したので俺は「その……昼間……」と口ごもりながら言うと都先輩は「謝るのはワイやのうて蒼君やろ……しっかり今の気持ちを伝えや!」と言い俺は「はい」と頷くと俺のスマホにメッセージが入った蒼からだ。俺は早速謝ろうとするとビデオ通話になり『よぉ、近藤元気かぁ?』と人相の悪い男が出た。「てっ、テメェは!」この男は前蒼をパシっていた男、田宮だ。
『よぉ、この前はよくもやってくれたなぁ? だからちょっと俺達に付き合えよ?』
「はぁ? なんで俺がお前らに付き合わなきゃなんねぇんだよ?」
俺がイラついた声をあげると後から下卑(げび)た笑みを浮かべた男の仲間が現れ『来た方がいいぜ?』と言い指で合図すると蒼が画面に映しだされた。
「あっ、蒼っ!」
『た……竜彦ぉ……』
『一時間後薗(その)川(がわ)町の三丁目の廃工場に一人で来な。来ないと……』と男は蒼にナイフを突きつけた。
『ひっ!』その途端映像はキレた。
「あっ! おい蒼! 蒼!」
俺はいてもたってもいられず急いで指定された廃工場に向かった。その時俺の頭の中は蒼のことでいっぱいだった。
(蒼に何かあったらどうしよう? まだ何もされてないよな?)俺はそう思いながら廃工場へ向かった。
廃工場前は不気味な程静かだった。俺は地面に生えている草むらを踏みしめて慎重に一歩一歩進んだ。そして廃工場の入り口に入り「来てやったぞ!」と大声で叫ぶと「ようこそ」と蒼をパシっていた男田宮が不気味な笑顔でパチパチと拍手をし「いやぁ、友情って美しいねぇ」と嘲(あざけ)る様に言い「おいっ! 蒼は無事だろうな?」すると田宮は「あぁ無事だよ、ホラ」と言うと手下が縄で縛られた蒼が連れて来た。
「竜彦―!」
「蒼っ!」
「――っと動かねぇ方がいいぞ。動いたらコイツのこのきれいな顔に傷がつくからな」田宮はそう言うとナイフの切っ先を蒼の顔に近づけた。
「おいっ! テメェなんで俺達にこんなことするんだよ! なんか恨みでもあんのか!」俺の言葉に田宮は「くく……ははは……はははははは!」と狂ったように笑いやがて「あるに決まってるだろ!」と怒り心頭で言った。
「あの事件の後学校を退学になって両親も家庭内不和を起こしてお袋は家を出て親父は俺に暴力を振るうようになって家庭が滅茶苦茶になったんだよ!」
「んなの自業自得だろっ! 蒼から金巻き上げといて何自分だけが被害者面(づら)してんだよ!」俺の言葉に「うるせぇっ! 俺んちの家庭が滅茶苦茶になったのは全部オメェらのせいなんだよ!」と理不尽(りふじん)に怒りながら言った。そして「おい、お前等!」そう言うと周囲にいた仲間達に合図を送った。すると仲間達は転がっていた鉄パイプやら木の棒やらを持ち出し「一言言っておくぜ。テメェが少しでも抵抗したら……どうなるか解ってるよなぁ? 自称正義のヒーロー君」と言い仲間に合図をし仲間の一人が俺を殴った。
「がっ!」
俺は鉄パイプで腹を殴られ苦悶(くもん)の声をあげた。
「竜彦! 竜彦!」
蒼は俺に対して声を掛けるが田宮が蒼の頬をパンッ! と殴り「黙ってろよ!」と言った。「テメッ! 蒼には手を出さねぇ約束だろ!」俺の言葉に田宮は「あぁ、手は出さねぇよ。大人しくしてればな。今のは騒いだペナルティだ」と下卑た笑みで言った。「もういいよ。やめて……お金出すから――」と蒼が言いかけると「よくねぇっ!」と俺が声をあげて蒼の言葉を遮った。「こんな奴に屈するなっ、蒼! 俺は大丈夫だから!」と言うと「ほ~、さすが正義のヒーロー君はいう事がご立派……だなぁっ!」
田宮の手下の不良が俺の顔面を殴った。
「ぐっ!」俺は床に崩れ落ちる。そして、田宮の不良の一人が俺の前髪を乱暴に掴み俺の顔を無理やり上げ田宮が俺を覗き込み「ははっ! いい眺めだぜ。俺に立てつくからこうなるんだよ」と言うと言い俺の間にズイッ!と靴を出し「俺の靴を舐めたら蒼だけでも開放してやるぜ」と言って来た。「その代わりお前が靴を舐めた姿は動画に納めさせて拡散(かくさん)してやるぜ。タイトルはそ~だなぁ『悪に屈服した自称正義のヒーロー』とかな」とニヤニヤして言い「ど~する~、大切の自分の親友と自分のプライドどっちが大事かなぁ?」と田宮は言い「竜彦! 耳を貸さないで! 僕のことはどうでもいいから逃げて!」蒼が涙ながらに訴えると「うるせぇ!」不良仲間が蒼に腹パンをした。「うっ!」「蒼っ!」俺が悲痛な声を上げると「さぁどうする? 友人をこれ以上酷い目に会わせたくなかったら――」俺は決意を決め「……解った。その代わり約束な……蒼は開放しろよな……」俺はそう言い田宮が「ぎゃはは! 聞いたか? ヒーローが俺達に屈服した! よし、じゃあお前等! 動画撮れよ」と仲間に命じて俺が田宮の靴を舐めようとした時ドゥルン! ドゥルン! とけたたましいバイク音が入口の方から鳴り響いた。「なっ! なんだ?」俺達がバイク音のする入口の方を見ると「よぉ、ガキ共。ちょいイタズラが過ぎたよぉやのぉ?」と都先輩がバイクに乗って現れた。見ると後ろの方には大勢の仲間が集い仲間の一人が「総長(そうちょう)……こいつ等ですか? 総長の弟分を苛めるのは?」と聞くと「そうやしいな!」と都先輩は言い都先輩達は臨戦(りんせん)態勢(たいせい)を取り「ワイの弟分と友人傷つけるたぁ、エエ度胸や! 覚悟出来てんのやろうなぁ?」と言い「やるでっ!」と言い乱闘が始まりそのどさくさに紛れて都先輩の仲間が蒼を縛っていた縄をほどき蒼が泣きながら「竜彦っ!」と泣きながら駆け寄ってきた。「蒼……無事か……?」俺の問いに蒼はコクコクと頷き「僕は平気だよ! それよりも竜彦の怪我の方が酷いよ!」と言い「はは……かもな……」と俺は言い俺は乱闘場所に向かった。残るは田宮だけで田宮は「お……おい……待てよ……待ってくれよ。これはガキの喧嘩で……」と怯えながら言うと「ガキでもやってええこととわるぅことがあるんや!」と都先輩が拳をボキボキならしながら言うと田宮が「ひ……卑怯だぞ! 大人がガキの喧嘩に入るなんて!」と涙ながらに言うと「ほぅ、ほんなら自分はどうなんや? 人質使(つこう)て無抵抗なたっちゃんボコボコ殴っとる自分は?」と言うと「ぐっ!」と言い「まぁ、ウチはとどめを刺さんへんで。とどめは??」と言い俺を親指で指して「たっちゃん次第や」と言った。
「よぉ……さっきはよくもやってくれたな……」俺は拳をポキポキ鳴らしながら近づき田宮は「ひっ!」と声を上げ「覚悟出来てんだろうな?」と俺は怒り心頭で言い「ちょっ、ちょっとまっ――」「問答無用!」と俺は田宮の言葉を遮り正拳突きをかます……筈だったが寸止めした。「本来ならテメェを殴っているところだがそれは蒼が嫌がるからやめてやる……だが!」と俺は言葉を一旦遮りそして、ドスの効いた声で「もし、今度同じようなことしたら次はこの程度じゃすまさねぇぞ!」と吐き捨てるように言った。田宮は震えながら「はい……」と言いお漏らしをしていたので保険として俺達はその画像を撮りその場を後にした。
「痛っ!」
俺の手当てに蒼は小さく声を上げた。「男だろこのぐらい耐えろ」と俺は蒼に言い聞かせた。蒼は黙りやがて「でも橘さん凄い強いですね……」と言った。すると都先輩は「あぁ、あのくらいなんてこことないわ。金(きん)狼(ろう)の名は伊達やない!」と都先輩は腕組みして言い「金狼?」蒼がオウム返しに聞くと都先輩の昔の暴走族の仲間の男が「そうだ……結構いろんな伝説を持ってるんだぜ! 通称は金色の金狼って名で未だに暴走族界隈では有名なんだぜ!」と笑顔で言い「なのに急に現役(げんえき)引退(いんたい)して料理の道に入っちまうし……もったいねぇ……」と男は凹み「そう言えばなんで都先輩カフェバーのマスターやっているんですか?」俺の問いに都は少し照れ「カミさんに料理が上手いって褒められたからだよ」と言い事の経緯(けいい)を話し始めた。
都先輩の親は都先輩をピアニストにしたかったらしく小さい頃からピアノの英才教育をさせていた。しかし、なかなか思うような結果は出せずまた親からのプレッシャーに押し潰されそれが重荷になり中学生の時にグレてしまった。喧嘩はするは未成年なのにタバコを吸うは酒は飲むは今の竜彦よりも酷く手の付けられない不良で十八歳の頃家を追い出された。そして、町を彷徨(さまよ)っているうちに今のカミさんに発見されたらしい。
「最初『なんや、コイツ?』って思うたわ。どう見てもまともやないワイを家に上げて看病して……しかも料理はくそマズだし??で、ワイがキレて『料理というならこれくらい作れやっ!』ってオムライス作ったらカミさんが美味しいって言ってくれて……それが嬉しくて……それからワイはちょくちょくカミさんの所に行って仕事の手伝いや料理作ったりしてたんや……その頃からワイは料理が楽しくなって理解者の叔父に頼んで叔父の家に下宿させえもろうてレストランで働いて料理人の資格を取ってこの店をオープンさせてカミさんにプロポーズしたんや!」都先輩が顔を赤らめて昔の仲間らしき男が「すごい照れて噛み噛みだったんだぜ! その時の総長の姿見せたいぜ!」と言うと都は「今は総長やのうてただのカフェバーのマスターや!」と言いやがてお開きになり店には俺と蒼と都先輩の三人だけになりやがて蒼が「ありがとう」と言った。俺は頭に疑問符を浮かべ「何が?」と俺が聞くと「僕を助けてくれて……」と呟くように言い「やっぱり竜彦は正義のヒーローだね」と言うと俺は「ちげぇよ……俺は正義のヒーローなんかじゃない」と呟くように言い「喧嘩ばっかして人に迷惑かけて今回の事の発端だって原因は俺だし……」俺がそう言い掛けると「そんなことない! 竜彦はヒーローだよ! 現に僕を助けてくれた! だから誰が何と言おうとヒーローだよ!」と力説(りきせつ)した。すると俺は涙を流した。「た……竜彦?」と蒼は驚くと「ワリィ、俺ホントは泣き虫なんだ……」と言い蒼が俺を優しく抱きしめ「平気だよ……人間誰だって泣きたい時はあるから……」と言い俺はわんわん泣いた。それを見ていた都先輩は「男の友情やなぁ」と呟いた。
5
「あ~、だりぃ」
俺は教室で机に突っ伏していた。
夏休み明けの学校は怠(だる)いし多くの生徒が休みボケをしている。勿論俺もその一人。やがて黒髪の若い男が入って来た。その男は鼻筋が通った色白で俗に云うイケメンの部類で女子達の目がハートになった。
「このクラスの担任小暮(こぐれ)先生は怪我の為今日から臨時で一ヶ月間このクラスの担任になる柊(ひいらぎ)修(しゅう)です。今日から一ヶ月間だけですがキミ達のお世話になります! よろしくお願いします!」と謙虚に挨拶し軽く一礼した。俺は心の底で変な奴と思った。
「じゃあ柊先生って彼女いないんですか?」女子生徒の質問に柊は笑顔で「うん、いないよ」と答えた。休み時間柊は早速女子からの質問攻めにあっていた。確かにあの女子受けするルックスなら解らなくもない。しかし柊は「でも好きな人はいるんだ」と言い女子達が「えー!」と言い「やっぱり同じ大学の人ですか?」一人の女子の質問に「違うよ。僕より年上!」と笑顔で答えると「おぉ~、正に大人同士のお付き合い憧れるっ!」と女子生徒が言い柊の周りは盛り上がっていた。俺は柊をよく観察した。何故観察しているのかというと俺は柊を始めて会った来がしないからだ。というよりも、絶対どこかで会っているに近い。でもそれがどこでだか思い出せないのだ。やがてチャイムが鳴り生徒達は席に着きやがて次の授業が始まった。
放課後、俺はcanaryに行く為教室を出ようとすると「ちょっと、近藤!」と女子のクラス委員長に呼び止められた。「アンタ日直でしょ! 日誌届けなさいよ!」と俺に日誌を押し付けた。「はぁ? テメェも日直だろ? そんなもん自分で届けろよ」俺の言葉に「私は生徒会で忙しいの!」と言った。確かに彼女は生徒会に所属している。俺に日誌を押し付け自分はさっさと生徒会に行ってしまった。
「――ったく、あのブス……」俺はぐちぐち文句を言いながら日誌を書いた。「えーと……」と俺が日誌の今日あったことをどう書くか悩んでいると「臨時教員が来ました、とかどう?」とヨコから言われ「そうそうそれな……って、うわぁっ!」俺は驚いて後ずさった。すぐ傍に「やほ!」と言って笑顔を向けている柊がいた。「ひ……柊? なんでここに?」俺の質問に「そんなに驚くことなくない? 見学だよ。け・ん・が・く!」と陽気に言い「あ~、見学ねぇ」と俺は脱力したように言い「とりあえず日誌書くんで邪魔しないで下さい」と言い「なんか近藤君って僕に塩対応じゃない?」と言った。俺は「そうですか?」と答えた。確かに俺は塩対応だがそれはこの柊という言う男が怖いのだ。何を考えているか解らないしこの笑顔も作りものっぽい。ハッキリ言って気持ち悪い。その一言の尽きる。俺がそう思っていると「ねぇ、近藤君……桜庭先生ってどう?」と突然尋ねて来た。「はぁ、なんでいきなり桜庭が出てくるんだ?」俺の質問に「答えてくれないかな?」と背筋が凍るような笑顔で言い俺は一瞬怯え「か……堅物(かたぶつ)だけどいい奴だぞ」と俺は言い「いい奴ってどんな風に?」と聞いて来たので「え……と、例えば家に上げて怪我の手当てをしてくれたりとか……」すると柊は「家に上がった?」と呟くように言い「ふ~ん……そっかぁ」と言い「ありがと! 桜庭先生っていい先生してるんだね!」といつも通りの陽気な調子に戻り「じゃあ、職員会議があるから! じゃね!」と言い教室を出て行った。
「――でよぉ。なんか気味悪いんだよ! そいつ!」
俺はcanaryで蒼と都先輩に柊の話をした。「そら、くせ者やっちゃな」と都先輩が言い「っていうかその柊先生って桜庭先生となんか関係あるのかなぁ?」と蒼が言った。俺は知らんと答えた。「でもどっかで見たことあるんだよなぁ~、あの顔! でも思い出せねぇ~!」俺はイスに座りながら伸びをした。「それってデジャブじゃないか?」という声が後ろからし見ると桜庭がいた。
「おっ! 桜庭はん、いらっしゃい」と都先輩が言い「フロリダを一つ」と桜庭が注文すると「はいな!」と都先輩がフロリダを作り始めた。(因みにフロリダとはノンアルコールのカクテルのことだ)。その間に桜庭がデジャブのことを話し始めた「デジャブとは――」「一度も見たことがない物を見たことがあると思ったりすること」俺の言葉に「ご名答」とパチパチ拍手をし「馬鹿にするな!」と俺は言った。
程なくして桜庭の前にフロリダが出され桜庭は一口飲み「やはり美味(うま)いな」と言い都先輩が「おおきにー!」と笑顔で言い「なんで二人共こんな親しげなん?」俺の問いに「あぁ、二人には言うてへんか? あの例のオフ会の後桜庭はんが謝って来てなぁ――」陽気に話す都先輩に対して桜庭が慌てて「いっ、言うな!」いつものポーカーフェイスからは想像もつかないくらい慌てふためき「なになに~?」と俺は悪(わる)乗(の)りし蒼は「可愛いところあるんですね」とクスクス笑いながら言い桜庭は「べっ、別に俺は……」と顔を赤らめてそっぽを向いた。(おっ! ツンデレか? 意外とかーわいぃ)と俺が思っていると「そう言えば近藤。お前今週の小テスト七点だっぞ! もっと勉強しろ!」と言って来た。
(前言(ぜんげん)撤回(てっかい)! やっぱかわいくねぇ……)
こうして俺達はcanaryで思い思いの時間を過ごした。
翌日学校に行くと下駄箱に何か入っていた。下駄箱に入っていたものは封筒で封を開けるとそこには『サクラバニチカヅクナ』という新聞の切り抜きの脅迫文といつ撮ったのか解らない写真が出て来た。写真に写っていた俺達は恐らくcanaryから出て帰る時だろう。しかも写真の俺と蒼の顔にマジックでバツ印が書かれていた。(しかもご丁寧に油性だ)。
「なんだ……これ?」
俺は身の毛もよだつ恐怖に襲われた。教室に行くと黒板にでかでかと『近藤竜彦は尻軽男』と書かれていた。俺は急いでそれを消し急いで桜庭の所へ向かった。すると廊下で桜庭と鉢合わせ桜庭も慌てた様子だった。そして俺を見た第一声が「近藤無事か?」だった。
俺達は屋上へ行き脅迫状と写真のことを話した。すると「俺の所にも脅迫状と写真が来た」と言い脅迫状と写真を見せて。桜庭に届いた脅迫状には『アナタハワタクシダケノモノ』とチラシの切り張りで俺のところにきた文面は違えどほぼ内容はストーカーよろしくの文面で写真は全く同じで俺と蒼の顔の所には同じくバツ印が書かれていた。俺は蒼が心配になり蒼にラインでメッセージを入れた。するとすぐに返信が着て『今先生に呼び出しを受けた』と返信が来た。
「これイタズラなんて可愛いレベルじゃねぇぞ」俺の言葉に「しかし、俺にこんなメッセージを送る奴は……」桜庭が言いかけていると屋上のドアがバン! と開き「あ! 桜庭先生!……と近藤君……? どうしたの?」と柊が現れ俺達を見て疑問符を浮かべた。俺は事のあらましを一応説明して「ん~、それは随分悪質なストーカーだね……」と顎(あご)に指を添え考えながら言い「なら、警察に連絡とかストーカー規制法とかはどうでしょうか?」と提案すると桜庭が「警察は事件があってからしか動かない。それならストーカー規制法を使うならもう少し様子を見た方がイイ」と言い「とりあえず一応周りの人にも怪しい人がいないか注意を呼び掛けてみるよ」と柊が言い「あ! そう言えば桜庭先生。職員会議が始まるそうです。内容は多分……」と言い俺達に宛てられた脅迫状を見た。「だろうな……」と桜庭は言い屋上を出て行った。俺は写真を見て写真を怒りで握り潰した。
放課後になりcanaryに行く途中柊が写真部の奴らに何かをお願いされていた。内容は顧問の小暮が怪我の為一ヶ月休むからその間代理で顧問になって欲しいというものであった。何故柊に頼むのかと言うと柊が大学の頃写真サークルに入って写真を撮るのが得意でズブな素人より頼りになるからというものだった。結局押し切られる形で柊は臨時顧問になってしまい俺は心の中で合掌しcanaryに向かった。
「しっかし、また偉いもん送ってきおったわ……」都先輩は写真を見て溜息をついた。店にはすでに蒼が来ており都先輩に送られてきた写真を見せていた。「こら本格的なストーカーやな」と言い「たっちゃんと蒼君も要注意した方がええで……このテのタイプはなにするかわからんから……」と言い俺達にオレンジジュースを出した。「え? それってどういう?」蒼の質問に「梶井君の時とは違(ちご)うて顔を潰してるやろ・それは一般的ヤバい系統なんや」と都先輩は言った。「ちゅうかこれ、スマホやなくてカメラで撮ったやつやな……」都先輩は写真を見て溜息をつきながら言った。「え? 解るんですか?」俺の言葉に「解るわぁ、ワイの叔父写真家やし」と言った。「あぁ例の理解者の叔父ですね?」と蒼が聞き「そうや!」と都先輩は相槌を打ち「前に叔父に聞いたんや。スマホはノイズが走って手振れ起こすからキレイの撮れへんって……でもこの写真は手振れもノイズも走ってへんやん。せやからカメラっちゅうことになるんや」と答えた。「そうなると「犯人はカメラに精通(せいつう)した人?」俺の言葉に「それは解らんけどその可能性は大やな。ちゅうてもデジカメもあるから一概にそうとも言い切れんけど……」と都先輩は言った。その時客が入って来たので俺達は退散した。
それから数日が過ぎた。その間何事もなく写真の件も忘れ平穏に過ごした。そして柊の任期も終わりクラスのH・R(ホームルーム)で柊が別れの挨拶をし帰りのH・R(ホームルーム)が終わり俺はcanaryに行く為蒼にラインを入れると「近藤! ちょっとお前! 職員室に来い!」と教師から呼び出しを喰らい俺はめんどくさかったが逃げきれないので蒼に『ちょっと遅れて行くわ』とラインにメッセージを入れ職員室に向かった。教師の話はテストの成績の話で俺は適当に聞き流し教師もさじなげて「もうイイ、今日はもう帰れ」と言ったので俺はお言葉に甘えて帰り支度を整えて昇降口に向かう途中急に誰かから口をハンカチか何かで口を塞がれた。何か薬品が仕込まれていたのか俺の意識が遠のいた。
ザァァァァァ。
俺は雨音で目を覚ました。目を覚ますとそこはマンションの一室で壁には一面写真が貼られていた。
(どこだここ?)と俺は思い手足を動かそうとすると手足が動かず自分が結束バンドで拘束されているのが解った。
「なんだよこれ?」
俺は茫然と呟き近場にあった周囲の写真を見た。そこには桜庭が写っていた。
「なんで桜庭が?」俺の声に「僕の初恋の人だから」と声がした。俺が声の方を向くとそこには柊がいた。
「柊……おいっ、これどういうつもりだよっ! 放せよっ!」俺の要求に「うん、いいよ、僕の要求を呑んでくれたら」と柊は言い「要求?」と俺は聞き返した。「そ!」と柊は言い「じゃあ単刀直入(たんとうちょくにゅう)に言うけどキミ達邪魔だからどっかに転校するなりなんなりして桜庭先生の前から消えてくれない?」柊の言葉に「は?」と俺は言葉を漏らした。なんでこいつにこんなこと言われなきゃならんのだ? 俺の低い沸点が沸き上がり怒りがこみあげて来た。
「なんでテメェにそんなこと言われなきゃならねぇんだよ?」俺の言葉に柊は不敵に微笑み「僕ね、桜庭先生の教え子なんだ。高校の頃学校で桜庭先生のお世話になって好きなったんだ」と言い俺はますますワケが分からず混乱した。そして、柊は続ける。「だけど先生は僕の気持ちを受け取ってくれなかった。教師と生徒でしかも男同士だからという理由で……」と言い「なのに君は先生の部屋に入ってあまつさえ先生に手当された? 羨(うらや)ましいっ! 僕は先生の部屋に入ったことないのにっ!」と喚き散らした。
(何言ってんだコイツ?)と俺は思い唖然として聞いていた。
「だから消えてくれない?」と言い包丁を持ちだしてきた。「ちょっと待てっ! 俺だって好きであんな学校行ってるわけじゃねぇんだよ! っーか、滅茶苦茶だろ! 片想い(?)している相手に振り向いてもらえないからってその邪魔者を殺す思想! ヤンデレかよ?」俺の抗議に柊が耳を貸さず包丁を振り上げた。
(もうダメだ!)と思い俺は目を瞑った――瞬間、バンッ! 勢いよく玄関のドアが開いた。それと同時に「竜彦!」と蒼が入って来た。「どうしてここが?」と柊が聞くと桜庭が現れ「GPS機能を使わせてもらった」と言い「やっぱりお前だったか? 鵲(かささぎ)……」と言った。「先生……俺のこと覚えて……」と柊は言うと「当たり前だ。自分の元生徒で教え子を忘れるわけがないだろ……」と言い「最初は解らなかったよ。苗字が違うし白髪だった髪の色も違うし……」桜庭の言葉に柊は包丁を落とし泣き崩れ蹲った。(ん? 白髪……)そしてと聞き漸く思い出した。「あーっ、お前桜庭の部屋にあった写真の奴!」
そう、柊こと鵲(らしい)は前に桜庭の部屋にあった写真立てに収まっている写真の男だった。
俺は結束バンドを解かれて柊改め鵲の話を聞いた。鵲は昔から髪の色せいで周囲からバカにされ人に馴染めず孤立していた。高校でも同じく孤立しぼっちだった。そんな鵲が高二の時に当時教師になりたてで写真部の顧問の桜庭が鵲に部員が少ないからという理由で鵲を写真部に誘った。最初の頃は中々写真に馴染めず四苦八苦していたが鵲はめきめき腕を上達させ県のコンクールの入賞し部員の皆とも馴染んだ。そして。自分が今のようになれたのは桜庭おかげで桜庭に感謝し同時に尊敬と憧れを持ちある日自分の気持ち打ち明けた。しかし、桜庭は教師が生徒に手を出すなんて豪語(ごうご)同断(どうだん)と言い気持ちは当然NO。その時鵲に魔が差し桜庭にレイプされたと嘘の情報を流しそれが学校中に知れ渡り結果桜庭は辞職に追いやられた。これが例の桜庭が女生徒を妊娠させたというデマの発端(ほったん)だった。そして、噂はこれに尾ひれがついただけらしい。
「その後両親が離婚して僕の姓は母親の旧姓の柊に変わったんだ。両親をも僕は騙したんだ。最悪なことしたってのは解ってる。あの時はなんて馬鹿なことをしたんだろって……でも解って欲しかった! 知って欲しかった! 僕の気持ちは本物だって!」と言い「僕はもう生徒じゃないし子供じゃない!」と泣き叫ぶと桜庭は「いや、お前は子供だ!」と言い切り「お前は解っているのか?俺のストーカー行為だけならいざ知らず俺の生徒にまで手を出し挙句に拉致(らち)監禁(かんきん)した。これは、立派な犯罪だ」と。鵲は黙り小さく頷いた。「だから例え未遂とは言え罰を受けろ。これが俺の課題だ」と言い「先生……」と鵲は言い桜庭は「それで罰を終えて出所した後まだ気持ちが変わらないなら考えてやる」やると言い鵲は泣き崩れた。
鵲は警察に出頭し未遂だったことや怪我もなく自首したこともあって為刑期も通常より軽くなった。とはいえ俺達は警察に散々事情聴取され家に帰るころにはクタクタだった。帰り際に「鵲の事悪く思わないでくれアイツはアイツなりに真剣に悩んでこのようなことに出ただけだ。アイツは本当はいい奴なんだ。だから頼むっ!」と桜庭が、珍しくお辞儀をした。「僕はイイよ……竜彦は?」と蒼が俺に聞くと「ちっ! まぁしゃあねぇなぁ……ここまでされたら許すしかねぇだろ……」と俺は溜息を吐き桜庭は「すまない」と言った。俺は桜庭がお礼を言ったことに驚き「桜庭がお礼を言った……」と呟くと桜庭が「お前俺を何だと思っている?」と桜庭がツッコんだ。
6
「――で、あるからして皆さんも将来の進路はくれぐれも慎重に……」
文化祭も終わった十一月。朝っぱらから校長のクソ長い演説が終わり皆がようやく終わったと言い教室に戻る中生徒たちは進路どうする~? 等と言っていた。この学校は金持ち共が集まる名門校の為多くの生徒がコネがある。だから大半の生徒は進学し卒業したら親からのコネ入社が多い。しかし、俺は無理だ。まず、父親が政治家な上に加えて俺は父親に反抗中。そもそも、俺は政治家になる気は毛頭ないしその頭も持ち合わせていない。かと言ってやりたいことも無し(半端なんだよなぁ……俺)と俺はぼんやり思い学校での一日を終えた。
「たっちゃんに向いとる仕事?」都先輩は鳩が、面喰らったような表情をした。「うん、そー」と俺はカウンターに突っ伏したまま相槌を打った。学校が終わった俺はcanaryに向かい都先輩と蒼に相談した。
「ほな、そんなことたっちゃんが決めればエエやないか?」と都先輩が言い蒼が「でも、珍しいね……竜彦が進路のこと話すなんて……」と言って来た。「だってよぉ~」と俺はうだうだ話すと「あんなぁ、若いうちは色々やってみるもんもテやで。それで、見つかるなんてことあるんやから」と都先輩が言い「なんでも……はぁ」と俺は溜息をつき「あぁ、俺の名前は竜なのに迷うなんて……」と言うと都先輩が「名前関係あらへん?」とツッコんだ。「そういえば竜彦って珍しいよね? 普通りゅうっていうと中国の龍の漢字を付けるのに……」蒼の言葉に「だろ? そう思うだろ?」と俺は蒼の手を握り「俺さ、実は名前にコンプレックスがあって竜(ドラゴン)の竜(りゅう)って文字嫌いだったんだ! だって、なんかこの字って尻尾(しっぽ)の生えた亀(かめ)みたいじゃん!」と言うと蒼と都先輩が上を向きやがて吹き出し「確かに」「やな」と言いやがて「竜彦元気出たね?」と蒼が言い「へ?」俺は言葉を漏らし「やっぱり竜彦は元気にしてるのが竜彦らしいよ!」と蒼は言い(俺はめられた?)と思いながらもカバンからファッショ雑誌を取り出した。
「竜彦ってファッション雑誌よく持ち歩いてるよね?」蒼の言葉に「まーな! モテる男はまず流行の最先端(さいせんたん)からってな!」俺は自信満々に言った。
「俺さー、こういうヘアスタイルいいと思うんだー! ちょっとパーマがかった――」と言いページをめくり蒼が「そう言えば竜彦の髪も少しパーマかかってるよね?」と指摘したので「まぁな!」と言いやがて蒼を見て「そう言えば蒼髪伸びすぎてないか?」俺の言葉に「あ……う~ん。そうかも……でも生活に支障ないし??」と蒼が言いかけると「よし、俺がシバっと決めてやるよ!」と言い「都先輩物置と散髪道具借ります!」と言い都先輩が「部屋と道具は使(つこ)うたらなおしといてな~!」と言われた。
俺は早速蒼にカットクロスを被せ散髪の準備を始めた。散髪は順調に行きおよそ十分後――、
「わぁ!」
鏡を見た蒼が感嘆(かんたん)の声を漏らした。前髪は眉毛が見えないくらいに切り揃えて髪の毛も一センチほど切り全体的に薄くした。
「スゴイ……竜彦……」蒼の言葉に「だろ? 俺自分で自分の髪を毎日セットしているし髪をいじるのは好きだしな!」と俺は上機嫌で言い「竜彦って美容師とかに向いてるんじゃ……」と蒼は言いその言葉に「……美容師……成程、それもいいなぁ」と俺はにぃ悪笑いを浮かべた。
それから俺は美容師になるべく美容師の職業に対する本を読み専門学校の資料を集めた。もっとも家では見れなかったのでcanaryで見て蒼と都先輩の意見を比べ親に内緒でこっそり学校見学にも行き漸く行きたい専門学校が決まった頃――、
「これはどういう事だっ! 竜彦っ!」
親にバレた。バレた原因は数ある資料集の一枚を俺がカバンにしまい忘れてそれを俺が学校に行ってる間に掃除に来たお袋に見られて発見されてしまった。
「どうもこうもねぇよ……学校の資料だよ!」俺の態度に親父が「なんで専門学校なんかに行くんだ! 専門学校とは大学に行けない落ちこぼれが行くとこだぞ!」
(それは失礼な。全国の専門学校生に謝れ!)
俺は内心そう思いながらも「ふざけんなっ! 俺は大学には行かねぇんだよ! 俺は俺のやりたいことをするんだ!」と反論した。するとパァン! と平手打ちが飛び「出てけ!」と言い俺もキレ「ああ! 出てってやるよこんな家!」と売り言葉に買い言葉。俺は部屋に行き荷作りをしバッグ一つで家出をした。
「――とは言ったもののどこ行きやいいんだ?」
出て早々俺は途方に暮れた。ネカフェもカラオケもダメ。ホテルなんてもっての他。
(甘かった……)と思い「とりあえず友人宅に泊めてもらおうかな?」とスマホを取り出したが全員バイトやら女と一緒やらとの為アウト。最後の頼みで蒼に電話した。しかし、蒼もアウト。ただ蒼は『何があったか解らないけど相談にのるから』と言い俺は蒼と最初に行った公園で待ち合わせをすることにした。
公園に着くと蒼は着いており「ワリィ……待たせて……」と俺は申し訳なさそうに言うと『竜彦……本当どうしたの?』と俺に聞いて来た。蒼はもっていたハンカチを水道で冷やし俺の腫れてる方の頬に当てた。「少し染みるけど我慢してね?」と言いハンカチが頬に触れた。「痛っ!」俺の言葉に「あ……ご……ごめん」と蒼はしゅんとした。「あー、気にすんなって。蒼は悪くないから!」と俺は無理に笑顔で言った。そして事の経緯(けいい)を話した。
「そっか……お父さんと進路のことで喧嘩しちゃったんだ……」蒼の言葉に俺は頷き「親父はガキなんだよ。怒鳴って手を挙げれば子供が言うこと聞くと思ってるんだよ……」と俺が言うと「僕はどっちもどっちだと思うなぁ」と溜息交じり言った。「あ? なんでだよ?」俺が怒気を孕んだ声で睨んで言うと「ほらそう言うとこ……」と蒼が指摘した。「むぅ……」俺は苦言(くげん)を漏らした。
俺は少し頭を冷やす為に自販機でジュースを買い来てもらった蒼にもジュースを手渡した。そして、俺はジュースを飲み干し「ぷはー、やっぱ弾けたい時は炭酸だわ!」と俺は言い蒼はアイスティーを飲みちびちびと飲みやがて「竜彦はどうしたいの?」と聞いて来た。俺は黙り「どうしたいって……」珍しく口ごもった。俺はどうしたいんだろう? いずれは話さなきゃならなかった事とは言え自分で勝手に決めてそれが原因で親と喧嘩して家飛び出して……。
「俺やっぱガキだわ……」と言い自分の無力さを痛感した。蒼は怪訝な顔をしたので俺は前に桜庭に言われたことを話した。今の自分の暮らしや自分があるのは親がいて親が全部してくれてるから今の俺がある。お金だって親の金で自分で稼いだ金じゃない。いくら粋(いき)がっても自分は無力なただの子供だということを思い知らされる。現実は酷(こく)だ。
「あ~、俺ってカッコワリィ……」と言い残りのジュースを飲んだ。すると蒼が「あのさ……僕思うんだけど竜彦はお父さんにちゃんと話したの?」と聞いて来た。「え?」俺は聞き返した。「ちゃんと美容師になりたいってちゃんと理由とか話したの?」と蒼は聞いて来て俺は黙った。そうだ、俺は何ひとつ話していない。美容師になりたいという理由もきっかけも。それなのに俺はムキになって反論して「俺バカだ……」俺は呟くように言い空き缶をゴミ箱に入れると「サンキュー!蒼! 俺逃げないわ! 立ち向かって親父とお袋を納得させるわ!」俺はそう言い自宅へと戻った。――とはいえ……
「戻りにくい……」
さっきあんなにカッコ良く飛び出したのにあれから三時間で家に戻るなんてダサすぎる。とはいえ俺は蒼と約束したんだ。俺は覚悟を決めて家の扉を開けリビングへと向かった。リビングはお通夜の様に重苦しい空気に包まれており親父とお袋は項垂れていた。
「……ただいま」俺がそう言うと親父が「どの面(ツラ)下げて来た?」と聞きお袋が黙って俺を見た。目元が腫れている。俺は一呼吸おいて「親父……お袋……俺美容師になりたいんだ……」と俺は冷静に言った。「竜彦! 貴方まだ!」お袋は金切り声を上げたが俺は無視して続ける。「俺今迄やりたいことが無くて流されるままだった。だけど、友達の髪をいじってて美容師に向いてるって言われて俺も確かに髪をいじるのは好きだしって気付いて美容師になろうって決めたんだ! この気持ちは本物だ! だから俺に道をくれ! 頼む!」俺はそう言い土下座した。「た……竜彦!」お袋が驚いてソファから立ち上がった。「アナタ……」お袋が親父に言いかけると親父が「言いたいことはそれで全部か……?」と親父が言い俺は「ああ」と俺は言い親父は口を開き「俺がお前ぐらいの年頃の頃俺も父親に反抗ばかりして家出をしてバイクで日本一周の旅に出たことがある……旅の途中で出会った人達はいい奴ばかりだった。だが、その分悪い奴もいた。だけどその都度(つど)人に助けて貰って旅を続けた……」俺は親父の過去の話を聞き驚いた。「そして自分が何故旅をしているのか理由が解った、自分を試したいからだと……そして俺は旅を終え家に戻り政治家を目指した。父親とは違う政治家になるんだと……」俺達は黙って聞き「竜彦……お前が自分を試すというのなら俺はお前を止めない。その代わり誰のせいにもするな! 全部自分で責任を持つ! 出来るか?」親父の言葉に俺は「ああ!」と力強く返事をし、こうして俺は美容師の専門学校への進学が許された。
7
「へぇー、じゃあお父さんとお母さん説得できたんだ!」蒼は安心したように言った。
俺達はcanaryで蒼と昨日のことを一部始終話した。
「蒼のおかげだぜ!」俺の言葉に「え? 僕のおかげ?」と蒼はきょとんとして言い「ああっ! だって蒼からの助言が無かったら俺親に話すなんてこと出来なかったから!」と俺の言葉に蒼は「ううん、それは違うよ。それは全部竜彦の力だよ。僕は助言しかしてないから……」と言った。「謙遜(けんそん)すんなって!」と俺は蒼の背中をバンバン叩いた。「い……痛いって竜彦……」蒼は苦しそうに言い俺は「ワリィワリィ」と言い蒼の背中をさすった。「しっかし驚いわー。たっちゃんの親父さんが昔バイクで日本一周の旅しとったんは……しかもたっちゃんくらいの年頃の頃に……」
都先輩の言葉に俺は改めて親父を思った。(いつも厳しいのも厳格なのも蒼の言う通り俺を思ってのことだったのか……)そう思うと今迄の自分が情けなくなってくる。俺は拳を押さえ「俺もう喧嘩はやめる! 喧嘩人生とはおさらばだ!」俺の言葉に蒼と都先輩はきょとんとし「竜彦?」「たっちゃん?」と呟くように言い「俺は美容師になるんだ! だから喧嘩なんかしてたら手を悪くしちまう。美容師にとって目と手は命だろ?」と俺の言葉に「たっちゃんが珍しく正論言ったわ……こりゃ明日は台風やな……」都先輩の言葉に「都先輩今台風来ません」と俺がツッコむと蒼がクスッと笑って「なんか二人って兄弟みたい」と言い都先輩が「まぁ弟分やしな」「まぁ、先輩だし」と俺達の声は重なりハモった。「やっぱり」と言い蒼はクスクス笑った。その時、店の奥から怒声が聞こえた。見ると女性客が男性客に怒っている。
「だから何だって言うのよ!」「仕事なんだから解れよ!」「貴方はそう! いつも仕事仕事って!」
はは~ん、要するに痴話(ちわ)喧嘩(げんか)か、と俺は睨んだ。都先輩が女性客を宥(なだ)めようとするが女性客はヒートアップしており聞く耳を持たない。「ああいうのをヒステリーって言うんだよな……蒼……って蒼?」隣を見ると蒼が忽然(こつぜん)とおらず俺は周囲を見渡した。その時女性客がボトル瓶を掴み男を殴ろうとした。これ本気でヤバいと思った瞬間……ポロン……とピアノの音が鳴った。見ると蒼がホールのグランドピアノを弾き始めた。とてもきれいな音色だった。心を揺さぶられ染み渡る。例えるなら静かな森の湖畔(こはん)を鳥達が囀(さえず)るような。
そこにいるのはいつもの引っ込み思案で控えめな蒼ではなかった。竜彦は勿論店の客も聞き入った。やがて、蒼の演奏が終わり店内からは割れんばかりの拍手が起こり男性客が謝り男曰くは今遂さっき喧嘩していた女性と早く結婚したくて仕事をしていたと説明し女性客も謝りこうして最悪の事態は免れた。
「蒼! オメー、スゲーじゃん! オタマジャクシ解るのかよ?」俺の言葉に蒼は苦笑いで「オタマジャクシって……」呟き「すいません都さん……勝手にピアノ使って……」とすまなそうに蒼が言うと都先輩は言葉に「ええって! 結果オーライやし!」と軽快に言い「やっぱ音楽は全国共通で人の心を和ませるもんやな!」と言うと「お~い! 都いるか?」と初老の男が入って来た。男は俺を見ると「おっ! キミか? 竜彦君は?」と俺の手をフレンドリーに掴みブンブンと振り「で、こっちの女の子は?」と蒼を見て言い蒼が「僕男です……」とツッコんだ。
「や~、悪いねー! 間違えて! あぁ自己紹介まだだったね? と言い懐(ふところ)から名刺を取り出した。名刺には『月刊世界の音楽家と名曲』と書かれていた。俺は(どういうこと?)と思い助けを求め都先輩を見た。都先輩は察したのか。「叔父さんそんじゃ解らんて……ちゃんと自己紹介せんとー!」と言うと男は「えー?」と言いながらも自己紹介を始めた。
男の名は橘(たちばな)京(きょう)と言い都先輩の叔父でカメラマン。主に音楽家の写真を撮り世界各地を飛び回っている。昔都先輩がグレていた時家に居候させていた人らしい。
「都、光(ひかる)君はどうだい?」と京は都先輩に聞いて来た。すると都先輩は「相変わらず売れんけど本人は幸せそうやで!」と答えた。「光って?」俺の質問に「ウチのカミさんや」と都先輩は平然と答え俺は「都先輩の奥さん!」驚愕(きょうがく)の声を上げた。(設定じゃないんかい!)と俺は衝撃を受け床に四つん這いになった。「どないしたのたっちゃん?」と都先輩の言葉に京が「光君のことを設定上の嫁とか思ってたんだろ……なんか不憫(ふびん)だなぁ」と俺の言葉を代弁してくれた。
都先輩の奥さんは売れない漫画家で今もマンガを描いていらしい(どんなマンガかは知らんが)。理由はマンガを描くのが好きだからしい。
しばらくの後、俺は何とかショックから立ち直り都先輩に謝り京を見た。京は何故か蒼をジロジロ見ている。やがて蒼は「何です……か?」と聞くと京が「いや……キミ誰かに似てるなぁと思って……」その瞬間蒼は血相(けっそう)を変え店から逃げるように飛び出した。「あっ! 蒼っ!」俺も慌てて後を追ったが蒼の姿はもうどこにもおらずその日の夜に蒼からラインが来て『暫く会えない』とメッセージが来た。
それから二週間後。
俺はかなりイラついていた。その理由はあのラインの後から蒼から一向に連絡が来ないからだ。家を訪ねようにも家を知らない。知っているのは電話番号とラインの番号だけ。
「俺って蒼のこと知らなすぎだろぉ~」
俺はcanaryのカウンター席に座り机に突っ伏し溜息を吐いた。すると京が来て「やぁ竜彦君! この前の子は来ていないのかい?」
京の言葉に「来てません……っていうか二週間会ってもいません?」俺の元気のない言葉に京が「じゃあこれでも聞いてみる? 癒されるから!」と言い音楽を進めて来た。
音楽はクラシックで普段の俺なら絶対聞かない奴だ。俺は物は試しで聞いてみた。するとCDから心地よいピアノの音色が聞こえて来た。とても美しい音色だった。音楽のことが解らない俺でも解る。これは観客を魅了(みりょう)するリズムだと。
「スゲェイイ曲っすね……」俺がそう言うと京が「だろ! フランスのピアニストで俺の一押しの一人だ!」と笑顔で言った。その時都先輩が「蒼君パワー補充出来たかや?」と聞いて来た「蒼?」と京は眉をひそめ「あ~! 思い出した!」と大声を上げた。俺はイスから落ちそうになり「なっ! なんだよ! おっさん? びっくりするじゃねぇか……」俺の言葉に京は「あの子誰かに似ていると思ったらあの子だ! あと俺はおっさんじゃない!」と断言した。「んで、あの子って誰やねん? 叔父さん」と都先輩が訪ね「あぁ、そうか二人は知らんわな……」と京は言いバッグから音楽雑誌を取り出しページをパラパラ捲(めく)り「あっ! あった! これだ! これ!」そう言い俺と都先輩に雑誌を見せた。雑誌には一人の青年がピアノを弾く姿とトロフィーを持った姿が写されていた。しかし問題はそこではない問題なのはそこに写っている青年だ。その青年は装(よそお)いこそ違えど蒼だ。しかし、名前は響(ひびき)蒼(そう)一(いち)と書かれている。俺はどういうことか解らず京に尋ねた。すると京は「あぁ、この人は響蒼一っていって凄腕の世界的なピアニストで数々の賞を総ナメにしてきたピアニストで俺の一押しのピアニストの一人で……」と説明してきた。しかし、そんなこと俺の耳には入って来ず俺は雑誌を食い入るように見やがて次のページに進むと衝撃的な見出しが書いてあった。
『響蒼一失踪!』と。
(どういうことだ?)俺はますます頭がこんぐるかり京に聞いた、すると京が言うには彼響蒼一は一年前フランスでの公演を最後に行方不明になったらしい。
「まぁ、世の中には同じ顔をした人が三人はいるっていうから……でも、凄い似ていたなぁ」と京が言っているが俺はそんなことお構いなしにcanaryを飛び出した。
しかし、思い返せば思い返す程納得がいった。学校に行きピアノ裁きに細かな指使い。そして、あのピアノ裁き。全て合点(がてん)が行く。
時間は夕方五時。真夏ならともかく真冬の五時はかなり暗く寒い。しかも、今夜はクリスマス。人混みも多く街はごった返している。 それでも俺は蒼を探した。それこそ街中のいたるところまで。しかし一向に見つからず時間だけが過ぎ俺は息切れし手を膝に付いて蒼の行きそう所を考えた。しかし、俺は全く思い当たらない。
「くそっ! 全然思い当たらない! 何がダチだ! 俺蒼の事全然何も知らないじゃねぇか!」と俺はぼやきダメもとでスマホに電話をかけてみた。しかし、『おかけになっ番号はただいま電源が切れているかマナーモードになっております』と機械音が流れ「クソっ!」と俺が吐き捨てるように言うと「なにがクソなんですか?」と聞き覚えのある声が後ろからした。後ろを振り向くと「梶井……と里川……」がいた。「お前等何やってんの?」俺の問いにオシャレをした梶井が「それはこっちのセリフですよ……いきなりクソって……」
梶井はデートの時だけはこのオシャレにコーディネイトした格好になる。そして、今日はクリスマスで里川の好きなアニメのライブがあって今はその帰りらしい。俺はダメもとで二人に蒼を見なかったかと聞いた。すると、里川が「奏君だったらさっきバスの中で見たけど……なんかすごい思い詰めていたような感じだったかな」と言い俺は「下り? 上り?」と聞くと里川は「上りかな」と言い俺は「上り……蒼の通う学校だ!」と俺は直感で思い俺はバス停に向かった。しかし、最終バスはとうに行ってしまった為俺は聖薗学園高等部へ走って行った。
8
聖薗学園へ着いたのは深夜零時だった。俺は全力で走って来た為かなりへとへとだったがそんなこと知ったこっちゃっない。俺はフェンスをよじ登り校内の敷地に侵入した。校内は静かで誰もいない。流石(さすが)に校舎内には入れないので外を探した。しかし、どこにもおらずここもダメか……と途方に暮れた時ひたひたという足音が聞こえた。俺は足音の方を見ると蒼が外付けの非常階段を昇っていた。俺は速攻で嫌な予感がした。俺は蒼を追いかけて無我夢中で非常階段を昇り屋上に辿り着いた。そこに蒼はおり蒼はフェンスを乗り越えようとしていた。
「蒼っ!」俺の言葉に蒼は反応し蒼は俺の方を振り向いた。蒼の表情はこの世で絶望を知った表情をしていた。
「竜彦……」蒼が小さく声を漏らした。そして蒼は「ごめん……もう、ううん。最初から奏蒼なんて人間どこにもいないんだ……」と辛そうに言った。そして「僕の本名は響蒼一。ピアニストの響蒼一なんだ……」と言った。「じゃあやっぱり……」俺の言葉に蒼は「知ってたんだ」と言った。そして「どうして知っちゃうんだろ? 僕って嘘の才能ないのかな?」と言い「蒼……」俺が一歩踏み出すと「来ないで!」と蒼が叫び「来たらここから飛び降りるから!」と叫んだ。俺は歩を止め立ち止まった。
「どうして知っちゃうの? 漸く友達が出来たと思ったのに!」
「蒼?」
「いつもそうだ! 周りは僕の正体を知ると媚(こ)び売ってへつらう……誰も僕を僕として見てくれない! 皆が見ているのは天才ピアニスト響蒼一だ!」と蒼は叫ぶように言った。「周りは僕を天才ともてはやすけど僕は本当はそんな人間じゃない! ピアノに縛り付けられたただの凡人だ! だから僕の価値はピアノしかなかった……だけど――」蒼はそう言い手を俺の方に向けて差し出した。手はかすかに震えている。「神経の病気で手が思うように動かないんだ。両親が有名な医者に見せたけど無理だった。だからもうプロとしてはやっていけないって……だけど、僕本当はホッとしたんだ。これで漸くピアノから解放されるって……好きでもないピアノやってコンサートに出るのが僕は苦痛だった……それなのにいつも周りの顔色ばかり伺って言いたいこと言えずにいた……だから――」「見損なうなっ!」俺は蒼の言葉を遮り大声で怒鳴った。
「竜彦?」
「俺はそんなことで判断しねぇし決めつけねぇ! 俺の目の前にいるのは口下手で内気だけど人一倍思いやりのある奏蒼だっ!」
俺の言葉に蒼は黙った。そして俺は続ける。
「あの日お前が俺の前で初めてピアノ弾いた日、俺音楽とかよく解らねぇけどスゲェ心が揺さぶられたんだ! こんなに心を揺さぶられた音楽は生まれて初めてだったんだ! 蒼がピアニストだって知らなくても……。皆肩書とかで人を判断するけどそんなものは必要なくて本当に大事なのはその人の良さをどれだけ理解するかなんだと思う!……俺も同じだったから。周りは俺がお坊ちゃん校に通っているからとか親が政治家だからとかへつらって毎日がクソだった。誰も俺を竜彦って見ねぇし……だから喧嘩ばかりしてウサ晴らしてそれで俺は強いんだって勘違いしてた。それで、調子に乗って都先輩に勝負挑んだら逆にボコボコにされてそれで都先輩に諭されたんだ。『お前さん自分がここにいるっていう事を証明したいんやな……』って。要するに俺は誰かに俺の存在していることを他人に認めて欲しかったんだって気付いたんだ。それから『無理に自分を飾る必要はあらへん。ありのままの自分が一番なんや』って諭されて俺何やってたんだろうって思った。自分は肩書なんかに左右されない孤高の一匹狼を気取ってたけどほんとはカッコつけてただけの構ってくんだったんだってことに気付いた。それからの俺は無理してカッコつけるのを止めた。自分は中二病でもいい! 正義のヒーローになるんだって!」俺は蒼に向かって言った。
「それからは俺にも仲間が出来た。俺のことを肩書じゃなくて俺自身を見てくれる仲間が……そしてお前に会えた。ピアニストの響蒼一じゃなくてただの奏蒼に!」俺は蒼に手を差し出し「俺はお前のことが大好きだ……蒼として……」と言うと蒼は瞳からボロボロと涙を流し「僕も……」と言い「竜彦……僕も……」と言い俺達は手を取り合った。その時朝(あさ)陽(ひ)が出て俺達を照らし出した。
9
「お疲れさまでした!」そう言い客が笑顔で「貴方腕いいわね! また指名するわ!」と言い俺は笑顔で「ありがとうございます!」と返事をした。
「じゃあ近藤君上がっていいよー!」店長の言葉とともに俺は「ありがとうございます!」と言い店を出た。
「ふ~、つっかれたぁー」俺はそう言い空を仰ぐ。空は雲一つない青空で清々(すがすが)しい。
あれから五年。俺は高校を無事卒業し美容師の専門学校に入学し美容師になるという夢が叶い美容師になり今の美容室に就職した。そして、今日はある事の為に早退した。そのある事とは――、
「都先ぱーい!」と言い俺はカフェバーcanaryを訪れた。店の中は飾り付けられており普段よりもおしゃれだ。
「おっ! たっちゃん! 来はったか?」都先輩が俺を見て言い料理を運んでいる。「蒼来てますか?」俺の問いに都先輩は笑顔で「安心せい! まだ来てへんから……」と答えた。
俺は安心した。今蒼は海外に住んでいる。あの日の後蒼はピアニストを引退するとマスコミに表明し今は作曲家として世界を飛び回っている。そして、今日は蒼の誕生日と同時に帰国する日だ。
「蒼早く来ないかなー」俺は心待ちにし待っていると店のドアが開き「ごめん! 遅れて!」と蒼が慌てて入って来た。
「蒼!」
「竜彦!」
俺達は抱擁(ほうよう)を交わし誕生会が始まった。
「こんな誕生日祝えて貰って僕嬉しいな!」蒼は頬を少し紅潮させて言った。その言葉に俺は「まぁ新曲祝いでもあるけど……」と俺は言った。そう今回は蒼の誕生日祝いだけでは無く蒼の新曲祝いでもある。
「新曲好評らしいじゃん?」俺の言葉に蒼は「弾いている人が上手いだけだよ……」と少し照れながら言った。
「そういえば新しい曲の名前なんて言ったっけ? 確かフロ……フロ……」
「フロイント」蒼が言い「そうそれ! それって何語でどういう意味?」俺の言葉に蒼は優しく微笑み「ドイツ語で意味は??友達」と答えた。
1
「おいっ! 近藤! お前今度やったら退学だぞ!」
担任が大声で俺を怒鳴りつける。俺の名は近藤竜彦(こんどうたつひこ)十七歳の高校二年生だ。俺の通っている高校は名門私立の一貫校で金持ちばかりが集まる俗に云うお坊ちゃま学校だ。生徒もご立派で良家(りょうけ)の子女ばかりで校風もご立派……だが――、
「テメェ! でかいツラしてんじゃねぇぞ!」俺の怒声と共に俺の拳が相手の顔面に炸裂した。
「誰だ!? 昨日俺のダチをやったのは!? あぁテメェか?」俺のドスの効いた声と表情に相手は腰が抜け怯え逃げ出そうとしたが俺はそれを逃(のが)さず「テメェか?」と聞くと相手は首を精一杯左右に振り「オレじゃありません! オレじゃありません!」と言ってるとア相手チームの不良のリーダーがやって来て俺とタイマンを申し込んできて俺はそれに応じた結果――俺の圧勝だった。が、その後警察がやって来て今に至る。
「全くお前は今月に入って二十件目。お前の親が政治家じゃなかったら即刻退学だが今回も親の顔に免じて――って聞け! 近藤!」担任がうるせーが俺は無視して教室に向かう。俺が教室の入ると先程までうるさかった教室は波打ったように静かになりひそひそと陰声が聞こえる。俺のことをゴミやら親のことやら。俺にとって学校(ここ)は居心地が悪い。ウマが合わない連中ばかりだからだ。だから俺の友達は学校外(がい)の外(そと)の連中だ。連中は世間からは不良やらドロップアウト組やらと言われており親は俺と連中が付き合うことを良く思っていないが俺が誰と付き合おうと勝手だし犯罪に手を染めていないのだから問題ないと思う。そう思っていると黒い髪を七三分けにし分厚い瓶底(びんぞこ)眼鏡(めがね)をした優等生で堅物(かたぶつ)なクラス委員長の梶井(かじい)渉(わたる)が「近藤君! キミはまた教師のお世話になったんだって!」と眼鏡をクイッと上げて聞いて来た。「キミはもう十七歳! 大人なんですよ! もう少し大人としての摂理(せつり)を――」ときゃんきゃん小うるさく言うと「あぁ! うるせぇんだよ!」と俺が睨みを利かせて言うと「ひっ!」と梶井は怯(ひる)み「な……なんだね? その態度は! ぼ……僕は暴力なんかに屈しないぞ!」と怯えながら言った。俺は付き合いきれずに席を立ち教室のドア勢いよく開けて「早退する!」と言い勢いよくドアを閉めた。そして俺はぼやく。「これだからお坊ちゃん校は……」と。
翌日、通学の為バスに乗り座席に座っているとよぼよぼの婆さんが立っており元気そうな若者がゲラゲラ笑いながら座席に座っていた。俺はいたたまれなくなり「婆さん、ここどうぞ!」と言い座席を譲ると婆さんは微笑み「ありがとう」と言い座席に座った。そして、俺は立ち、バスに揺られ(学校まであと少しか……と)思い溜息をつき周囲を見回した。バスの乗客は眠そうなサラリーマンや読書をしている大学生や友達と楽しそうに話している学生やらと様々だ。と、その中で一際(ひときわ)目を引く人物がいた。その人物は俺の座っていた座席の後ろに座っておりセミロングの黒髪に色白で目鼻立ちの整ったスッキリした顔をした少女で水色の服に白いフード付きパーカーに紺色のジーンズを着こなしていた。
(もろタイプー! 結婚したーい!)と俺は思い少女を見た。するとよく見ると少女は何かとても憂鬱な顔をしていた。やがて、バスが停留所に着くと少女は降り俺は学校の最寄(もよ)りの停留所じゃないのに少女が気になり釣られており少女の後を着けた。
少女は人目を気にし怯えた様子でキョロキョロし俺は隠れながら上手く尾行(びこう)した。そして、尾行するうちに(あれ? これ俺ストーカー?)と思いながらも尾行しやがて自転車置き場に着き俺はブロック塀の壁の陰に隠れた。
「き……来たよ……」と少女はハスキーボイスで言った。すると奥から三人組の見るからにガラの悪そうな男が現れ「金は持って来たんだろうな?」と少女に凄んで言い少女は封筒を手渡した。封筒からは札束が入っており「ちっ! これだけかよ。しけてんなぁ」と不良は少女に言った。どう見てもカツアゲだ……これ。
「おいっ! もっと持って来いよ!」不良の一人が少女をドンと押し少女はよろめき地面に尻餅(しりもち)をついた。「で……でも……」少女が言いかけると不良が「でももクソもねぇんだよ! お前は俺達の言うことを聞いてればいいんだよ!」と言いもう一人が「そーそー、そうすれば痛い目見ないで済むんだから」と言い終いには「そうだよ。お前は一生俺達のおもちゃなんだよ」と言いその言葉に俺は男達に対してキレ「じゃあ早く親からでもパクって――」「流星(りゅうせい)キィィッック!」と俺は飛び蹴りを男の一人に一発かました。それをモロに受けた男は勢いよく吹っ飛んだ。他の男と少女が呆気(あっけ)に取られていると「おいっ! テメェらよってたかってなに女の子を苛(いじ)めてんだ?」と俺はドスの効いた声と表情で聞いた。するとそれを聞いた男の一人が「は? 女?」と頭に疑問符を浮かべ言い仲間達にも聞いてる。そしてやがて何かに納得し「オイ兄ちゃん。なんか勘違いしてるかもしれないがそいつは――」と男が言いかけると「問答無用!」と俺の蹴りが男の一人に炸裂した。「女の子を苛めるのは人類の敵だぜ!」と言い不良の一人が「なっ、なんだこいつ? バカつぇえ! 何者だ!?」と俺に聞き俺は「ただの女性と正義の味方さ……」と言い男達は「は?」と言い「ふ……ふざけたことぬかしやがって! やっちまえ!」と言い男達が三人束になってかかったが「おせぇよっ!」と俺は言い男達の攻撃を瞬時(しゅんじ)に避(よ)けて不良のもう片方の一人に腹パンをし不良の一人をのした。残った不良は俺に恐れなしたのか伸びている二人を起こし「くっそぉー、おっ覚えてろー!」と安い捨て台詞(ぜりふ)を吐きこの場を去って行った。
「ったく……女の子を苛めるなんて男の風上(かざかみ)にも置けない奴だぜ。平気か?」そう言い俺は少女に手を伸ばした。少女は「え? あ? う……うん」と戸惑いながら俺の手を取り立ち上がった。「ったく、か弱い女の子苛めるなんてけしからん奴らだ」と俺が忌々(いまいま)しげに言うと少女が「あ……あの……」と口を開いた「ん? なんだ?」と俺は言い少女を見た。見れば見るほどかわいい少女だった。サラサラの髪にスッキリとした鼻筋。柔らかそうな唇。
(マジで可愛すぎる!)と俺は思い「なぁ、お前どこの学校? 年は? 名前は?」と即座にナンパした。少女は呆気に取られた感じでおずおずと「聖(ひじり)薗(その)学園(がくえん)高等部(こうとうぶ)年齢は十八で名前は……奏(かなで)蒼(あおい)……」と遠慮気味(えんりょぎみ)に言い「うんうん蒼ちゃんか! かわいいな!」と俺は一人納得して言うと「蒼ちゃん?」と蒼ちゃんは言い「もしかしてキミ勘違いしてる?」と蒼ちゃんが俺に聞いて来た。「え? 勘違い?」と俺はオウム返しのように聞き蒼ちゃんは「……うん……」と遠慮がちに言い「僕男だよ……」と言った。
「うんうん男……ってえぇ――――――っ!?」
「ほらよ!」と言い俺は自販機で買ったアイスティーを蒼に投げて寄越(よこ)した。「わっ! わわっ!」と蒼は言い何とかキャッチした。
俺達は今丘の上の小高い公園にいる。蒼が男と知った直後俺は脱力し凹(へこ)んだ。理由は至極(しごく)簡単だ。モロタイプの女が実は男でそこら辺の女よりよっぽどかわいいからだ。
「マジ凹む……」と俺が呟くように言うと「ねぇ……」と蒼が声を掛けて来た。「ん? なんだ? もう何言われても驚かねぇぞ……」俺が不機嫌全開で聞くと「名前……」と蒼が遠慮がちに聞いて来た。「え?」俺が聞き返すと蒼は「だから僕……キミの名前……」とごにょごにょと小さく言い俺はイラァッとし「ハッキリ言え!」と怒鳴って言うと「僕っ! キミの名前聞いてないっ!」と大声で叫ぶように言い俺はぽかんとしやがて「お前面白れぇー!」俺は腹から笑いだし「竜彦! 近藤竜彦っていうんだ!」と自己紹介をした。
「改めてお礼を言うよ。近藤君ありがとう!」と言うと俺は「竜彦。竜彦と呼べ」と言い「た……竜彦」蒼は頬を紅潮(こうちょう)し微笑みながら言うと(マジ可愛いぃぃぃ!)と俺は思い(反則だろ! その笑顔ー!)と心の中でツッコんだ。「竜彦? 竜彦?」気付くと蒼が上目遣いで俺を覗き込んでいる。俺はハッとし「あ! いいってことよ! あんなこと日常(にちじょう)茶飯事(さはんじ)だし……」と言うと蒼は「じゃあいつも誰かを助けてるんだ! 本当に正義の味方みたいだね!」と純粋な瞳で言った。
違うただのガキの喧嘩だ。学校でも家でも喧嘩ばかりしている。しかし、目の前の人間は純粋な瞳で俺を正義の味方としてみている。痛い。蒼(コイツ)に嘘をつくのが……。
「いつもあぁなのか?」
俺はいたたまれなくなり話題を変えた。「その何時(いつ)もカツアゲ……されてんのか?」と俺は蒼に尋ねると蒼は顔を曇らせて「うん……最近はしょっちゅう……」と呟くような小さな声で言った。「なんでお前はアイツらにカツアゲされてんだ? 明らかに違う人種(じんしゅ)だから接点はないだろ?」と言うと「うん。出会うまで全く知らなかった……」蒼はすすり泣き始めた。俺は「聞いてみるから話してみろ」と先を促した。
事の発端は三ヶ月前に遡る。購買でパンを買う時あの不良がお金を忘れたらしくその時購買にいた蒼を見つけ金をせびって来た。蒼は最初パン一個くらいのお金ならと仕方ないと思いお金を渡した。次の日も不良はお金を忘れたと言いせびって来た。次の日もその次の日も。終(しま)いにはその不良は事あるごとに蒼に付きまといいつか返すと言い金をせびり続けた。
「それって……」
「それで僕たまらなくなって学校に相談したんだけど相手にされなくて。いつか返すって相手は言ってるんだからって……でも、あの人達返す気ないよ……」
蒼は泣きながら言い「だから僕学校行くのが嫌になって休学してるんだけどあの人達電話で呼び出すんだ。僕もう嫌だよ……どうすればいいのか解らないよ……」そう言い胸の内を訴えた。黙って聞いていた俺は少し考え「言ったのか?」と聞いた。
「え?」
「だから嫌だってあいつらに言ったのか?」
俺の言葉に蒼は下を向き「言えるわけないじゃないか! 言ったらもっと酷いことされちゃうよ……」と切実に言った。それに対して俺は「今がすでに酷いじゃねぇか! お前このままじゃもっとヤバいことされるぞ!」と言い「そういう奴らは黙ってるとますますつけあがるだけだ! なら一発かませ! お前も男ならガツンと言え!」俺の言葉に蒼は「僕なんかに……出来っこないよ……」その言葉に俺はキレ蒼の胸倉を掴み「ならこのまま一生惨めにアイツらのおもちゃでいいのか! 俺だったらごめんだ! あんな奴らのおもちゃになるくらいなら死んだ方がマシだっ!」と怒鳴り散らし最後に「このチキン野郎」そう言うと「ぼ……僕だって……竜彦みたいに……強くなりたい。でもダメなんだ。僕じゃなれないんだ……竜彦じゃないから……」蒼は泣きながら言い「僕は竜彦みたいに強くないっ!」蒼はそう大声で叫び地に膝を着き泣いた。俺は呆気(あっけ)にとられ唖然(あぜん)とし、そして「言えるじゃん!」といたずらっぽく微笑んで言った。
「え?」
「蒼! お前言えるじゃん。そうだよ! それ! その気持ちを相手に精一杯ぶつければいいんだ! そうすれば正義の味方は必ずお前に味方する! 正義の味方は努力する奴を見捨てない! だろ?」
俺の言葉に蒼はポカンとし蒼は黙りやがてクスクス笑い「竜彦って戦隊で言うとレッドみたいだね!」と言いやがて「僕もう帰るね。病院の時間だから……」そう言うと蒼は帰り俺は先輩が経営しているカフェバー、canaryに向かった。
「ふーん。運命のお姫様かと思(おも)た相手が実は王子様やったという話か……」
先輩はそう言い俺にノンアコールのカクテルシンデレラを出した。この人の名は橘(たちばな)都(みやこ)と言ってこのカフェバーcanaryマスター。大阪弁で喋り(十歳まで大阪にいたらしい)金髪サングラスで整った顔に抜群(ばつぐん)のプロポーションで料理もさることながら人当たりがよくトークレベルも高く挙句にピアノも弾け店にあるグランドピアノを優雅(ゆうが)に弾ける為女性のファンが多くの大半は女性客で都先輩目当てに店に来ている人も少なくない。その事は都先輩も気付いている。しかし、一つ盲点(もうてん)が! 都都先輩は結婚している。最(もっと)も奥さんを見たことないが。また昔は暴走族の総長で金色(こんじき)の金(きん)狼(ろう)といわれその界隈(かいわい)では有名だったらしい。まぁ、奥さんの話は設定なのかもしれないけど。まぁそれは置いといて……。
「都せんぱーい! 俺の話聞いてますか? 俺のせいで蒼が死んだらどうしよう? 俺蒼にあんな奴らのおもちゃになるなら死んだ方がマシだー! って言っちゃたんです……」俺はカウンター席に突っ伏し涙を流した。何故俺が都さんのことを先輩と呼ぶのかは昔喧嘩で負け知らずの金狼に勝負を挑んでみたいと思い俺は都先輩に勝負を挑んでボロ負けし諭されそれ以来俺は都先輩に憧れているからだ。
「せやったら電話すればええやろ?」先輩の言葉に俺は「電話番号知らないです……」と答えた。
「メアドは?」
「知らない……」
「ラインは?」
「以下同文……」
「呆れたわぁーたっちゃん。へたれにも程があるわぁ!」
都先輩が呆れ顔で言った。(因(ちな)みにたっちゃんというのは都先輩特有(とくゆう)の俺のあだ名である)
「だって~」
「電話番号もラインも聞く時間充分あった筈やろ! なんで聞かんのや?」
「ついうっかり」俺はそう言うとテヘペロポーズをした。
「可愛く言うても無駄やで……」先輩はツッコんだ。(流石大阪出身!)
「じゃあ、しゃあないけど明日今朝のバスと同じ時間のバスに乗るしかあらへん。運任せになるかもしれんがそれしかないがな……」と言い都先輩は脱力した感じで言い俺は「成程!」と言い「ありがとうございます都先輩!」と言い俺は店を出た。
翌日俺はバスの車内を見回した。ちょっと離れた所から昨日と同じ座席を見る。そこに蒼はいた。今日は聖薗学園高等部の男子の制服の学ランを着ている。
(良かった生きてる)俺は内心ほっとした。実は俺は後悔していた。死んだ方がマシと言い蒼が本当に死を選び自殺するんじゃないかと。やがてバスが停留所に着き蒼が降りると同時に俺も降り蒼を尾行し学校に潜入した。
「――ったく、あのジジイ。漸く俺を解放してくれたぜ……」
実は潜入したと同時に職員に呼び止められ先程まで教師から説教を喰らい蒼の従弟(いとこ)で忘れ物を届けに来たんですよ」と作り笑顔で言うと教師は俺を品定めするように見て俺の学校の制服が隣町のお坊ちゃん校星宮(ほしみや)高校(こうこう)と解ると態度を豹変(ひょうへん)し手もみしながら漸く俺を解放しご丁寧にクラスまで教えてくれた。
「――ったく、あのクソ教師は……」俺はぐちぐち文句を言いながら蒼の教室に向かって歩く。蒼が教室にいればセーフ。いなければ――。いや嫌なことは今は想像しないでおこう。そう自分に言い聞かせ頭を左右にブンブン振る。
漸く蒼のクラスに着きクラスを覗くと蒼の姿がいなかった。竜彦は嫌な予感がしクラスメイトに蒼の所在を聞くとクラスメイトは怪訝な顔をし「蒼?」と首を傾げた。
「もしかして奏?」と言い別の男子生徒が「奏だったら田宮(たみや)達に連れていかれたよ」と言った。恐らく田宮とは昨日の不良達の一人だろう。どこ行ったかと訪ねるとクラスメイトは「知らない」と答え俺は考えて(不良+(プラス)大人しい+カツアゲ……となると校舎裏か屋上だ)と考えつき俺は(通称不良の)自分の勘(かん)を信じとりあえず校舎裏に向かった。間もなく校舎裏に着こうとしたとした瞬間「ふざけてんじゃねぇぞー!」という怒声が聞こえたと同時に誰かが殴られた音がした。竜彦が恐る恐る見ると竜彦が蹲(うずくま)っていた。「テメェなんて言ったんだ? もう一度言ってくれなきゃ解んねぇなぁ? あぁ!」と不良は凄むと蒼はしっかりとした声で不良に「キミ達にはもうお金を渡さない!」と言い不良は蒼の腹部に蹴りを喰らわし「テメェ……オモチャの分際(ぶんざい)で何抜かしてんだぁ? 痛い目見てぇのか?」不良は凄むと蒼は尚もしっかりとした声で言い「キミ達の……オモチャにされるくらいなら今ここで殴られた方が……マシだ!」と言い不良の怒りは頂点に達し「ならお望み通りに!」と言い蒼を殴ろうとした時パシッ! と俺は不良のパンチを止めた。
「竜彦!」蒼は驚き俺はいたずらっぽい笑みで蒼の方を振り向き「正義のヒーロー参上! ってな!」と言い不良共の方に振り向きドスの効いた声と表情で「さて、よくも俺のダチを痛めつけてくれたなぁ。覚悟は出来てんだろうな?」と言い乱闘(らんとう)になった。
「痛っ!」と蒼は言い口元を押さえた。俺は蒼の口元を見ると口元が切れていた。多分俺が来る前に顔面パンチでも喰らったのだろうと俺は思い「男だろ耐えろ!」と言った。
「しっかしまた派手にやらかしおったたなぁ。他校に殴り込みに行って乱闘騒ぎって何十年か前のヤンキーマンガみたいやわ」と都先輩は大笑いで言い俺に絆(ばん)創(そう)膏(こう)を渡した。
あの後、騒ぎを聞き駆け付けた教師に取り押さえられ俺と不良共は取り調べを受け蒼が警察に全てを話し不良達の悪事は白日(はくじつ)の下(もと)に晒(さら)され俺は釈放され蒼をカフェバーcanaryに連れて来た。蒼は最初都先輩を見た時怖がっていたが今ではすっかり打ち解け「やー、カッコエエ話やわぁ!『キミ達のおもちゃにされるくらいなら殴られ方がマシだ!』って男やわぁ!」と都(みやこ)先輩が言い蒼が赤面して「そ、それは言わないで下さい」と言い冗談を言い合っている。
「まぁこれで一件落着やな! たっちゃん!」と言った。「たっちゃん?」蒼は俺に疑問符を浮かべて聞くと「あ~、先輩にだけ許した俺の愛称。近藤竜彦だから! で、たっちゃん!」俺は顔を赤くして言い「っと、これは先輩だけだからな! いくら蒼でも言ったら許さないからな!」そう言い蒼にビシッと人差し指を指して念を押した。
「あだ名で呼び合うっていいですね! 親しさが増して……僕友達いないから……」と蒼が言うと「俺が居るだろ!」と俺を指し「え?」蒼が驚いて聞き返し俺は自分を親指で指さして「オ、レ!」と言い「竜彦……僕と友達になってくれるの?」蒼の言葉に「もう友達だろ?」と言い蒼は嬉しいのかぽろぽろ泣き出し「ありがとう竜彦……」と言った。
「わっ! バカッ! ここは泣くところじゃないだろ? こういう時は笑うんだよ!」と言い蒼は少し微笑み「うん!」と言い頷いた。そして、俺は右手を差し出し「よろしくな、蒼!」と言い蒼が嬉しそうに微笑み左手で優しく握り「よろしく、竜彦!」と言った。
2
「――でよぉ。ウチのクソ親父がうるせぇんだわ。『お前は私の後継げー!』って、よ」
「でも、お父さんは竜彦のことを心配してるんじゃないかな? だから厳しいのかもしれないよ」
「けっ! どこが……」
俺と蒼はカフェバーcanaryで女子会(じょしかい)ならぬ男子会(だんしかい)を開いていた。
あの日、蒼と友達になった日俺は家に帰るとお袋からは小言を言われ親父とは大喧嘩(おおげんか)し部屋に戻りベッドの横になると(家も学校も地獄だ……)と思い眠りについた。翌日バスに乗ると蒼は乗っており俺に手招きし俺達は小声で会話したがやがて俺が話に夢中になって大声で話すと隣にいたサラリーマン風の男性に静かにしろと言わんばかりに睨まれ俺は赤面した。やがてバスは蒼の通う高校の最寄り駅に着き「じゃな! 放課後都先輩のcanaryで!」と言い蒼は笑顔で「OK!」と言い俺はバスの中から蒼を見守り(一応)学校に向かった。俺が学校を歩いて行くと多くの生徒が俺を避ける。俺と関わると碌(ろく)なことにならないから。ましてここは良家の子女が通う名門私立校。そんな中に場違いな不良。こんな奴に関わった自分とって百害(ひゃくがい)あって一利(いちり)なし。要するに自分の肩書が下がるのが嫌なのだ。そして俺は自分をゴミでも見るような目と尾ひれのついた噂話にイライラした。教室に入るとクラスメイト達が波を打ったように静かになり根も葉もない噂話を始める。「例えば俺が暴力団とつるんでるとか薬(ヤク)をやっているとか。バカか。何せ俺は暴力団とつるんでないし薬もやっていない。第一そんなことやってたら今頃留置所(りゅうちじょ)にぶち込まれて学校(ここ)にはいない。そう思いながら席に着くとクラス委員長梶井が「聞きましたよ! キミ昨日他校に殴り込み行ったそうですね!」と眼鏡をクィッと上げ小言を言って来た。
(あ! これは半分本当だわ)と思い俺はめんどくさそうに「え? あぁ……」と適当な相槌(あいづち)を打つ。それに対し梶井が「なんですか? そのやる気のない返答。キミはここの生徒。もっと我が校の生徒と言うことに誇りを持ち人々の模範(もはん)となる行動を心掛けて下さい! でなければ我らの品位(ひんい)が下がります!」ときゃんきゃん小言を言う。それに便乗(びんじょう)して他の生徒もそうだそうだと言い始めた。正に赤信号皆で渡れば怖くない、だ。俺は溜息を吐き「悪い方の見本で悪うござんしたね。むっつりスケベさん」と言い教室は静まり返りクラス中が一斉に梶井を見た。梶井が「む……むっつりスケベ……」と顔を赤面させ硬直した。何故俺がコイツのことをむっつりスケベと言ったのかは理由がある。それはこの間蒼とショッピングモールをブラついていた時書店の中で明らかに怪しく挙動不審(きょどうふしん)な男性を見かけた。春だというのに黒いニット帽に厚手のコート、そしてサングラス。明らかに怪しい人こんにちはな格好だった。
「なんかアイツ怪しくね?」俺の言葉に蒼は「万引きかな?」と言い暫く男のことを観察した。やがて、男は周囲をキョロキョロし始めエロ本を一冊手に取り始め。その時下を向いた為かけていたサングラスが落ちた。その人物は「梶井!」と叫び梶井はビクッとし俺はしまったと思い本棚の陰に隠れた。梶井は終始(しゅうし)キョロキョロし安心したのかエロ本を一冊買って行った。その姿を俺と他校生で面識のない蒼に目撃されている。
「だ……誰がむっつりスケベですか!」梶井はムキなって言い「テメェだよ、このスケベ大魔王!」と言い梶井に小声で「だったら大声で言いふらしてもいいんだぜ? テメェがこの間書店でエロ本買ってたことを……」と言うと梶井は赤面し「くっ! き……今日の所はここで引きましょう。た……ただしこれは敗北ではなく撤退です!」と負け惜しみを言い「これで勝ったと思わないで下さい!」と安い捨て台詞を吐きすごすごと自分の席へ戻って行った。
(バーカ!)俺は内心そう毒づいた。そして、教師が入って来て俺と目が合うとゴミでも見るような目で俺を見て授業を始めた。
学校が終わると俺は都先輩が経営しているcanaryに向かった。そして今現在――、
「――ってわけよ。俺は親父の敷いたレールを走るつもりはないって言ってやったわけよ! それでいつも大喧嘩になるんだ……」と俺は言うと蒼は「竜彦って結構俗に言うファンキーなんだね」とクスクスと花がほころびそうな笑顔で言った。
(か……カワイイ……って違う! コイツは男だ男! しっかりしろー、俺!)と俺は脳内で暴れまくった。
「竜彦?」蒼の言葉に俺は我に返り「あっ! そういや蒼ってスマホ持ってる?」と聞くと蒼は「う……ううん。持ってない!」と気まずそうに言った。
「はぁっ! 持ってないっておまっ……現役(げんえき)高校生(こうこうせい)必須(ひっす)アイテムだぞ!」
俺の剣幕に蒼は驚いたのか「ご……ごめん……」と言った。「謝るとかそうじゃなく……ハァー、しゃーねぇ。今からスマホ買いに行くぞ!」
「で……でも僕お金……」「あぁ!」と俺が睨みを利かせて言うと「何でもありません」と蒼は黙り俺は黙った蒼を引っ張って馴染みの携帯ショップに向かった。
「おっ! 久しぶりー、竜彦―!」と赤髪の髪にパーマがかかった陽気そうな男性店員が俺と蒼に話かけて来た。
「おう! 飯田(いいだ)!」
蒼はびくびくしながら俺の背中に隠れ「た……竜彦。この人は?」と聞くと俺は「コイツは飯田。俺の(不良)チームの仲間。怖そうな外見だが根はやさしく友達思いのいい奴だ」と説明すると蒼が警戒を解き「竜彦の仲間! じゃあ正義の味方なんだ!」と笑顔になり飯田が「は? 正義の何?」と聞き返すと「うん! 正義の味方!」と言い「うわー! いっぱいある!」とスマホを手に取った。それを見ていた飯田が「竜彦? あのねぇちゃんになんて自己紹介したんだ?」と聞き俺は顔を赤らめ「……正義と女の味方……」と言うと飯田は吹き出し「ないない! そんなこと今時の小学生でも言わねぇわ」と言い俺を赤面させた。「――にしてもかわいいな!あのねぇちゃん……どこの高校の子?」と聞いてきたので「隣町の高校」と言い「後アイツ男だから……」と言うと飯田は驚き「えっ! 男っ!」と絶句した。「あっ! 竜彦! これにする!」と言い蒼は水色のスマホを持ってきて俺は手に取り「じゃあこれにするわ」と俺は飯田に言うと飯田は「毎度―」と笑顔で返答しスマホを少し割引して売った。
「お前新機種じゃなくて良かったのか? もっといいのあったのに……」と言い俺は蒼を見た。蒼に買ったスマホはいわゆる在庫(ざいこ)処分品(しょぶんひん)のスマホだ。
「これがいいんだ……なんか色合いがきれいだし!」と笑顔で言い俺は(女子かよ)と心の中でツッコんだ。
「じゃあスマホ貸せ」と言い蒼からひょいっとスマホを取り上げると連絡先を打ち込み始め「終わったぜ!」と言い蒼は頭に疑問符を浮かべていると「お前のスマホに俺の電話番号とライン番号登録しといたから!」と言い「え? でも……」と蒼が口ごもっていると俺は「もう蒼(お前)とはダチだしな! ダチ同士が連絡して何が悪い!」と言い蒼はポカンとしやがて笑顔で「ありがとう竜彦!」と笑顔になり今日はこれで解散した。
家に着くとお袋が仁王立ちし「竜彦……ちょっと……」と言い俺をリビングに通した。すると親父が険しい顔をしており「今日学校から連絡があった。お前の成績が著(いちじる)しく落ちていると」と恐ろしいほど静かな声で言った。「……」俺は無言になった。「全くお前は、遅刻早退はするわ。喧嘩はするわ。不良共とつるむわ。我が近藤家の恥さらしだ。もっとちゃんと――」と親父が溜息を吐きながら言い掛けていると俺は「俺は俺のやりたいようにやる!」と言い「竜彦!」とお袋が金切り声を上げたが俺は聞こえないふりして二階の自室にこもりベッドにヨコになった。
(学校も家も地獄だ……)と思いラインを見た。ラインにはメッセージが入っており開くと蒼からで『早速ライン使ってみたよ!』という文字と同時にクマのキャラクターのスタンプが押されていた。俺は嬉しくなり笑みをこぼした。
以来俺と蒼はどこ行くのも何するのも一緒になった。服屋に行って洋服を観たり流行(はや)りのものを観たり。ある日ゲーセンに行こうとすると蒼が「僕ゲームセンター行ったことない……」と言い俺は面食らった。(今時高校生でゲーセンいかないなんてどんな生活してんだ?)と俺は思い蒼にゲーセンを案内し格ゲーやろうと言うが当然ゲーセンに行ったことがない蒼はやったことがないと言い俺は蒼に格ゲーをレクチャーした。すると蒼は難なく覚え俺を倒し次の挑戦者が来たがそれも難なく倒し気付くと二十人抜きを達成しギャラリーが増え終いにはチャンプが現れチャンプとも勝負したがチャンプも難なく倒し店の新王者に認定された。
「しっかし蒼お前強いな……初めてで二十人抜きって……」俺の言葉に「そうなの?」と蒼は聞き「そうだよ!」と俺は言い「まぁ、あの指裁き見てたら当然だわな……」と言い俺は蒼の指裁きを思い出した。物凄い速さでボタンを連打し次々と技を繰り出して相手を倒す様はまさしく王者そのものだった。
「蒼なんかやってたのか?」と言うと蒼は「なにかって?」と聞き「いや、ボタン裁きスゲーなって思って……もしかして。指を使う習い事とかしてのかなって……」そう言うと蒼は少し顔を曇らせ「……何もしてないよ……」とつまんなそうに言った。「あ? うん? そっか……」と俺はそんな蒼に対して疑問を覚えながらも喉が渇いたので「喫茶店に行こうぜ! 俺イイ喫茶店知ってっから!」と言い喫茶店に向かおうとした時「竜彦!」と声を掛けられた。振り向くと同時に声を掛けてきた相手が俺に抱き着いて来た。「会いたかったぁ! もう一ヶ月近くも会ってくれないんだもの! ラインも既読にならないし……」と相手は泣きながら言った。相手はピンク色の髪をツインテールにし毛先にウエーブをかけ私服でその私服は肌の露出が多く下はミニスカートと流行(はや)りの服に身を包み。耳には小さなリング状のピアスを付けたいかにもオシャレに敏感の今風の少女だ。
「な……奈央……」俺は奈央をひっぺ?がし「今更なんだ?」とめんどくさそうに俺は言うと奈央は「酷いわっ! それが一ヶ月ぶりに会った恋人に言うセリフ!」と奈央は嘘泣きをし「俺とお前はもう終わってるんだ! 頼むからもう俺には関わるな! 行くぞ蒼!」と言い俺はこの場を後にしようとしたが奈央が俺の腕を掴んで「どこ行くのっ?」と言い離してくれなかった。
中島奈央(なかじまなお)。隣街の女子高に通う俺の元カノ。といってもコイツはまだ俺の彼女気分でいるらしい。
「でもどうしたの? 最近ライン送っても既読にならないし電話しても着信拒否になるし……」奈央が涙ながらに言うと俺は「そうか。じゃあ別れよう」と言いうと奈央が怒り「ちょっとそれが第一声。私がこんなに切実に訴えているのにっ!」と怒った。俺達は今街の喫茶店にいる。あの後俺は奈央に捕まりこの今いる喫茶店に連れ込まれた。
「私はこんなに竜彦のことが好きなのよ! どうして!」と奈央はヒステリックに喚き散らすが俺は尚も平静に「俺とお前はとっくに終わっている。だからこの際ちゃんと言っておく。俺はお前のことがもう好きじゃない……それだけだ」と言い奈央が更にキレ「この娘(こ)なの……?」と言い蒼を見た。「この娘が私から竜彦を奪ったの?」と誰に問うわけでもなく聞いて来た。
「は?」
俺はポカンとして蒼を見た。蒼の方もポカンとし「あの……僕男なんだけど……」と蒼がおずおずと言うと奈央が「え?」と言い蒼をまじまじと見た。そして、奈央が蒼の胸を服の上から触った。
「おわぁっ!」
「本当だ……ない」
「ねぇ……キミ僕が男じゃなかったらどうなってると思う?」と珍しく蒼が怒気(どき)を孕(はら)んだ声で奈央に聞いた。「お……落ち着けって……って無理もないか……おいっ、奈央っ!」俺が珍しく蒼を宥(なだ)めてると奈央は困惑して「う~ん」と唸り考え込んでいた。そして「もしかして竜彦が新たな道に目覚めた?」とよく解らんことを言って来た。
「は?」俺は間抜けな声を出した。「新たな道ってなんだよ?」と言うと奈央は「要するに男の娘(こ)好きになったとか……」奈央の言葉に瞬間俺はぼっと顔が赤くなり「ち……ちが……っか俺はノーマルだ!」とムキになって言い「だよねぇ! 竜彦とこの子ってどう見ても釣り合わないじゃん。人種が違うっていうかぁ」と奈央はまたまじまじと蒼を見て言った。「――っていうか地味~」と言い俺の低いが沸点(ふってん)が頂点に達し俺は飲みかけのアイスコーヒーを奈央の頭上から勢いよくぶっかけた。
「え?」
奈央と蒼は一瞬何が起きたか解らずポカンとし、やがて奈央が泣きだし「二度とそのツラ見せんな!」と俺は奈央にハッキリ言い放ち蒼の腕を掴んで店を出た。
「た……竜彦?」蒼が戸惑いながら聞くと「ワリィ、気を悪くさせて……」と俺は言い蒼の腕を掴みズカズカ歩いた。やがて俺達は公園に着き自販機でジュースを買い一息ついた。
「ん~、やっぱコーラはサイコーだ!」と俺は言い蒼はレモンティーを飲み「いいの?」と聞いて来た。「ん? 何が?」と俺が言うと「さっきの元カノ……」と言った。俺は黙り「いいんだよ。どうせアイツもブランド目当てだから……」
「ブランド……?」
「俺の通ってる高校星宮校って言って俗に云う金持ち高校なんだ」俺の言葉に「うん……」蒼が相槌を打ち「――で、女ってブランドに弱いじゃん。んで、俺は金持ち校に通ってる。オシャレで金持ち校に通う俺はブランドに弱い女にとっては格好の自分のステータスを上げる材料だ」と言い「これまで何人か女と付き合ったけど皆俺のステータス目当てだった……」と俺は蒼に告白した。「だからアイツも……奈央もどうせ俺のブランド目当てだ……」そう言い俺は残りのコーラを飲んだ。
「……」蒼は無言になり「僕と同じだ……」と呟いた。
後日、俺は喫茶店で他校の仲間達とテスト勉強していた。
「あ~、数学マジ解んねぇ……」と仲間の一人が言い「っていうか数学なんて割り算まで出来れば生きていけるんじゃねぇ?」俺の言葉にもう一人の仲間が「竜彦それ算数」と言い「あ~、中間だりぃ……」と仲間の一人が言い「息抜きにゲーセンでも行くか?」と俺が言うと仲間が「さんせーい!」と言った。その時一組の客人が入って来た。それは蒼と奈央だった。
「おい! あの子可愛くね!」仲間の一人が蒼を見て「でも男じゃん」ともう一人がツッコミ「男でも俺はOK!」と言った。
俺達がそう話してるいる内に蒼と奈央は座席に着き蒼はレモンティー、奈央はハニートーストを注文した。
「よく私の通ってる高校解ったわね?」奈央の言葉に「この辺で私服の高校って乃木坂(のぎざか)女子校しかないから……」と蒼はそう返答し程なく二人が注文したものが届いた。
「――それでさー、竜彦にコーヒーぶっかけられて私超不機嫌なんだぁ!」奈央はそう言いながらハニートーストを次々と平らげていく。「私のどこが悪かったのか解らない! それで急に竜彦から別れようって言われてハァ? ってなったわけよ……解るぅ?」奈央の言葉に「あ……あはは」蒼は苦笑いでなんとかその場を和(なご)ませようとした。
「笑い事じゃないわよ! 全く失礼しちゃう!」と言い最後のハニートーストの一切れを平らげ「――で本題何?」と奈央は蒼に聞き「わざわざ私の高校まで来たってことは私に用があったってことでしょ?」と聞くと蒼は「うん……」と小さく返事して「奈央さんはどこが好きなの?」と聞き「は?」奈央は困惑し蒼は「奈央さんは竜彦のどこが好きなのかなぁっって……」と再度聞いた。すると奈央は顔を赤らめ「やっぱぁ、カッコいいし、おしゃれだしイケてるし守ってくれるし~」と言い「じゃあ竜彦がお金持ち校に通ってるっていうステータス目当てじゃないんだ?」と蒼が聞くと奈央は「はぁっ! あったりまえよ! 私はお金持ち高校に通ってる竜彦じゃなくて竜彦自身が好きなの!」と言い「私……中学までは俗に云う芋ガールでよくイジメられてたんだ……」と奈央が言い「学校行ってもキモいとか暗いとかってすごい苦痛で……んで、ある日他校の人達からカツアゲに遭ってお金を出そうとした瞬間竜彦が助けてくれて『俺は女性と正義の味方だって!』笑っちゃった。だって中学生にもなって正義の味方って……でも、凄いカッコ良かった。自分に正直で周りに流されない竜彦が……それから私は竜彦に振り向いてもらいたくてすっごいイメチェンしたんだ。眼鏡止めてコンタクトにしてファッション誌を見てファッションを勉強したりお化粧もしたり、んで、漸く竜彦に再会して告白して付き合って恋人になったの……だけど、竜彦は心ここにあらずでいつもつまんなそうだった。それで別れようって言われて……なんとなくやっぱりな……って思っちゃった。だけど、アンタといる時の竜彦は楽しそうだった。アンタ達気付いて無いけど私竜彦とアンタがいるとこ何回も目撃してるのよ」と言い「それで、なんとなく気付いた。竜彦に必要なのは私じゃないって……でも諦めらきれなくて……」と奈央は言い「悪あがきってこういう事よね……竜彦のことよろしく……って言うわけだから竜彦出てきたら~?」と言い俺はソロ~って出て蒼は驚き「た……竜彦?」と鳩が豆鉄砲喰らった表情をし仲間達は状況が掴めず困惑し「え? 何これ? どういうこと?」と言い奈央は「じゃあねっ!」と涙を流し店を出て行った。
「俺……奈央(アイツ)の事信頼してなかったんだな……」とぼやいた。仲間が俺に気を使い俺と蒼の二人きりにしてくれた。蒼は残りのレモンティーを飲み「奈央さん(あの人)は本当に竜彦の事が好きだったんだね……」と言った。俺は机に突っ伏して「俺ってカッコワリィ……」と言い蒼は「完璧な人間なんていないよ。それに人間殆(ほとん)ど肩書で判断するし……」と言い俺の頭を撫でた。「なんで頭撫でんだよぉ?」と俺が蒼に聞くと「元気の出るおまじない」と優しく微笑みながら言った。
3
テスト……それは学生にとっては世紀末より恐ろしいものである。きっと多くの学生がこの世からテストなんかなくなってしまえと絶対思うだろう。そして俺も――……
「近藤―。お前また赤点だぞー。追試だからな……」とテストを配る教師がいつものようにげんなり顔で言う。俺はテストを見る。
『数学十三点』
「こりゃマズいわ……」と言いテストをクシャッと握りしめる。次に「梶井―」と梶井の名が呼ばれた。クラス委員長梶井は学年トップの秀才だ。いつも九十点代が当たり前だ。それで出来の悪い(特に俺を)見下している。
(まぁ今回もコイツは九十点代だろう)と思ったが教師が「お前どうした? 体調悪いのかー?」と梶井に対して意味深なことを言った。
放課後になり俺は蒼にラインを送った。
『俺バカ過ぎて補習だわ』というメッセージを送ると蒼から『どんまい……』というクマのスタンプが返信され俺は微笑ましい気持ちになり補習組の教室へ向かった。
補習は退屈だ。っていうか地獄だ。何が悲しくて学校の授業が終わったのに勉強しなきゃならんのだ。俺はそう思いながらで横目で周囲を見た。みんな一生懸命だ。
(御苦労なこって……)と思いまた横目で周囲を見るとこの場に似つかわしくない奴が一人いた。それは梶井だった。俺は目の錯覚かと思い目をこすった。しかしそれは紛れも無く梶井だった。
(なんで?)と思い俺は補習そっちのけで梶井に集中した。
補習は無事に終わり追試を迎え俺は追試を無事クリアし久しぶりに蒼と会う事が出来ると思うと心が弾みはやる気持ちでcanaryへ向かった。
Canaryのドアを開け店内に入るとそこには蒼と制服姿の黒色の長い髪をした少女が話していた。制服から察するに蒼と同じ学校の生徒だろう。
(もしかして恋人か?)と思い俺は内心ヒヤヒヤした。ただ一応冷静に振舞い「よぉ、蒼久しぶりー!」というと「あっ! 竜彦。イイところに!」と蒼が言い彼女の紹介と説明をした。
「ストーカー?」俺の言葉に女は「ハイ……」と気まずそうに答えた。
彼女の名は里川(さとかわ)美香(みか)。蒼と同じクラスの聖薗学園高等部の生徒だ。ルックスよし勉強よしスポーツ万能でテニス部に所属している俗に云う学校のマドンナ的な優等生と蒼に紹介された。そんな彼女は今ストーカーに悩まされている。
「最初は気のせいだって思ったんです。予備校から帰る時いつも後を付けられていて……」
事の発端は一月前の夜。予備校から帰る時後ろから足音がしその時はさして気に留めなかったらしい。しかし、それがいつも頻繁(ひんぱん)に続きこれはもう意図的(いとてき)につけられていると思い彼女が早足で歩くと相手もそれに合わせ早足で付いて来て遂には彼女は予備校に行くのが怖くなった。そしてそれを心配してくれた蒼に相談しただけの様だ。俺は内心ホッとし(なんで俺ホッとしてんだ?)と思った。まぁ、話は戻るが「じゃあ予備校やめりゃあいいんじゃね?」俺の言葉に里川は「親にやめたいって言ったけど聞き入れてくれなくて……」と言い「じゃあ警察に相談は? ストーカー規制法があるんだし……」蒼の質問に「相談したけどなんかあまり真剣に取り合ってくれなくて……」と言い俺はハ~と溜息を吐き「八方(はっぽう)塞(ふさ)がりか……」そう言うと里川は頭を抱えて悩み込み蒼がおろおろうろたえているとそれを見かねていた都先輩が「それやったら囮(おとり)捜査(そうさ)をやったらええんちゃう?」と提案してきた。
そして夜道。
「竜彦付いて来てるよ……」
黒色の長い髪のウィッグと今日の里川と同じ女物の服を着た蒼がびくびくしながらスマホで俺に伝える。
「よし! そのまま人気(ひとけ)のないところに誘い込め!」と俺はそう言い蒼を誘導した。
蒼は「こんなの上手くいくのかなぁ?」と自信無さげにぼやいた。
「囮捜査?」
俺と蒼と里川は同時に声を揃えて聞いた。
「そや! よく刑事ドラマとかであるやん!一般(いっぱん)市民(しみん)に扮(ふん)して正体は実は警察でした~、なんて!」
都先輩の提案に「どういうこと?」と俺は聞き返し都先輩は「つまりや要するに里川ちゃんには予備校の授業に出てもらい帰る時お手洗いとかで入れ替わって変装(へんそう)した奴が里川ちゃんのふりをして帰るっちゅうことや……」都先輩の提案に「成程! それ名案!」俺と蒼は同時(どうじ)に相槌(あいづち)を打ち「でも、誰がその囮役やるの?」と蒼が聞いて来て「そりゃあやっぱり……」俺と都先輩は蒼を見た。
「え~、僕! 無理無理無理! 無理だって!」蒼は必死で抗議するが「平気や後ろ姿やからバレんて!」そう都先輩は力説し「そうだそれに暗いから細部(さいぶ)までは解らねぇし!」俺も力説した。
「竜彦……自分がやりたくないからって……」蒼の言葉に都先輩が「蒼君……冷静に考えてみぃ。たっちゃんの女装姿……」と恐ろしいことを言い蒼と都先輩は考えるしぐさをしてやがて二人して大笑いした。で――……、
「竜彦……ホントにこれ平気?」蒼の言葉に俺は「任せとけって!」
今に至る。
蒼が歩くと相手は歩き立ち止まると相手も立ち止まる。俺はストーカーの後ろから観察し蒼に指示を出しやがて蒼は行き止まりに差し掛かりストーカー野郎が蒼に声を掛けようとした瞬間「残念だったなストーカー野郎!そいつはニセモンだ!」と俺が言うと蒼は振り向き「ぼ……僕でした……」と蒼がウィッグを外して正体をばらした。ストーカー野郎は明らかに動揺してこの場から逃げようとするが「甘い!」と言い俺はストーカー野郎の足を引っかけてストーカー野郎を転ばせて取り押さえた。
「さーて、素顔(スッピン)を見せて貰おうか?」と言いストーカーが目深(まぶか)にかぶっていたパーカーのフードを取るとそいつは「か……梶井!」クラス委員長の梶井だった。
「じゃあ、なにかお前がストーカーの犯人か?」俺達は梶井をcanaryに連行して詰問(きつもん)した。しかし、梶井は「ス……ストーカぁ? 違う! 断じて僕はストーカーではない! 夜道は暗いから見守っているだけだ!」と言い切り「あぁ……それよりもこうしている間に彼女に危機が迫ったら……」と言ってると蒼が「安心して下さい。彼女今家に着いたようですから……」と言った。それを聞き梶井は安心し「そうか良かった……」と呟くと「良かねぇんだよ」俺は梶井を睨んで言い「アイツはテメェの自称見守り行為のストーカーに悩んでたんだよ……」と言うと梶井は「なっ!」と驚き蒼は「ねぇ、どうしてこんなことしてるの?」と聞き梶井が「それは――」と語り始めた。
それはふた月前くらいのことらしい。模試があり梶井が解答を間違えて消しゴムで消そうとしたら消しゴムを切らしていることに気付きオタオタしていると隣の席から消しゴムを貸してくれた人物がいた。それが里川だった。
「それ以来僕は寝ても覚めても彼女のことが頭から離れなくなりそして気付いたんです! これは、そう。恋だと!」梶井は目を輝かせて言い「だから僕は夜道は危ないからボディーガードをしていたんです……」
「なんともはた迷惑なボディーガードだな……」俺の言葉に梶井は泣き喚(わめ)いた。
「でも、里川さん迷惑してるしもうやめよう……」と蒼が諭すと「じゃあ僕はどうやって彼女と接すればいいんですか?」と聞いた。
「キミ達みたいな人間には解らない筈だ。いつも見ていたいとか話したいとかと思っている気持ちが……」
すると今まで黙っていた都先輩が「お前さんなぁ。それは恋やなくて押し付けの愛情や……」と言い「好きな女が困っているのに、そんなことをするのがホンマの愛情なんかいな?」と言い梶井を諭した。梶井は黙り「……そっ、それは……」言葉に詰まり「相手のことも考えろ」俺の言葉に梶井は「……帰ります……」そうしょげて言い元気なくとぼとぼと店を出て行った。
「……都先輩凄いっすね……」俺の言葉に都先輩は「伊達(だて)に二十九年男やってるわけじゃあらへんからな……」と言うと蒼が「えっ? 都さん二十九歳なの? もっと若いかと思ってました!」と蒼がマジで驚いていた。
――そして数日後、俺に厄介(やっかい)ごとが舞い込んでくる。
事の発端は学校の授業が終わり放課後。自分の席でだら~としてると梶井が「近藤君! 話があります!」と言って来た。「なんだよストーカー野郎……」と俺はめんどくさそうに言い梶井は「本来ならキミなんかに頼りたくありませんが――」と言ったので「じゃあ頼るな」と俺が言い帰ろうとすると梶井が「あぁ、ちょっと待って下さい! 今の冗談です! 置いてかないで!」と泣きながら俺の腰に必死にしがみついて来たので「離せっ! 俺は暇だけど暇じゃないんだ!」と言い梶井をひっぺ剥がそうとすると「暇なら話を聞いて下さい!」と泣きながら言い「だー、解ったから離せっ! うっとおしいっ!」と言い梶井を落ち着かせた。そして梶井は俺に話始める。その内容は――、
「――ほんでカッコよくなりたいて?」都先輩はしかめっ面をして梶井を見た。俺達は今canaryにいる勿論蒼も一緒だ。
「――ってもなぁ……」俺は頭を悩ませる。今更ながら言うが梶井は学問に対して優秀でもオシャレ度はからっきしだ。そんなコイツがいきなりカッコよくなりたいと言って来たのだ。周囲が知ったら天地がひっくり返る。
「恋の力は偉大だわ……」俺がそう言うと蒼が「ラブイズビュ―ティフル」と言った。
「せやけどなぁ、一番は見た目やろ……」と言い「まずその七三分けに分厚い瓶底眼鏡! それからきっちり第一ボタンを絞めたワイシャツのボタン! 地味過ぎるわ」と都先輩は梶井を指さして言い「いくら制服をきっちり着るにも限度があるやろ!」と言い蒼が「僕もワイシャツの第一ボタンは開けている……」と呟いた。「まぁまずは眼鏡を取ってみろ!」と俺は言い梶井からひったくるように眼鏡を取った。するとクリッとした緑色の丸い瞳に俗に云う可愛い系のイケメンの素顔が現れた。
俺達は黙りやがて「えっ? マンガ?」と俺は言い「眼鏡取ったらイケメンって……」と都先輩が言い「眼鏡キャラあるあるだね」と蒼が言った。「ち……ちょっと返して下さい! 眼鏡ないと何も視えないから!」梶井はそういうと俺から眼鏡をひったくるように眼鏡を取り掛け直した。
「梶井……お前コンタクトにしろよ……」俺はそうツッコんだ。
「じゃあ、梶井君改造計画始動やで!」都先輩がそう言い俺達は梶井改造計画を聞いた。
都先輩が指摘したのはまずは服。服がダサすぎる事。もっとセンスのある服を選ぶこと。
その二。もう少しオシャレに気を使う事。学校ではきっちりしてても学校外はどんな服装してても自由だからだ。
その三。ヘアスタイルを変える事。梶井は七三ヘアをしている。ハッキリ言ってダサすぎる。もう少し髪型を変えるべき。
その四。眼鏡を外しコンタクトにすること。仮に眼鏡キャラを突き通すならもっとオシャレなメガネにすること。
以上その四点。
――と言うわけで俺達はまず服を選ぶ為ショッピングモールの服屋に来ている。――が「まずは服選びもコンセプトだよな……」と俺が言うと蒼が「コンセプト?」と聞き返した。「そっ! とりあえず梶井お前は里川にどう見られたいの?」と俺は梶井に聞くと梶井は「とりあえず真面目で誠実な……」「ちげぇよ」俺は梶井の言葉を遮り「それは人間性だ」とツッコみ「俺が言いたいのはどういうイメージを与えたいかだ。例えばシンプルで大人っぽいイメージを与えたいとかスポーツ大好きなイメージを与えたいとか……色々あるだろ!」と言うと蒼と梶井が「成程!」と言った。「イヤ。なんで蒼まで頷くんだ?」と俺はツッコんだ。そして(なんか俺今日ツッコミ多くねぇ?)と自分にまでツッコんだ。梶井は悩み考え「蒼君だっけ? 里川さんはどんな男性が好み?」と聞くと蒼は少し困り「僕もそんなに親しくないから……この間の相談は成り行きだし……」と言い俺達は悩み「とりあえず色々見て廻ろうぜ! とりあえず梶井お前の思うカッコいい服ってどんなの?」俺の言葉に「う~ん」と唸り「やっぱりあれかな?」と梶井は言い俺達をある店前に連れって行った。そこは……スーツ服売り場。店先にはカッコよくかっちり系のスーツが飾られている
「おい……お前はこれを着てどこに面接に行く気だ?」俺の言葉に梶井は「えっ? でも僕が思うカッコいい系統これですよ……」と梶井が言いかけると「違うよ。こっち系だよ!」と蒼が隣の店を指した。その店先のショーウインドウにはカッコよく奇抜なデザインの衣装が並んでいる。そう衣装が。つまり――「これコスプレだろ?」
そうコスプレ屋である。要するに蒼と梶井にはファッションセンスが無い事が解った。
「オメェらマジで探す気あ・ん・の・か?」俺は怒気を孕んだ声で二人に聞き「あー、もういい! 服は俺が選ぶ! お前等はこの紙に書いてあるもの買って来い! あと梶井お前の服のサイズ教えろ」俺はプリプリ怒りながらそう言い梶井から服のサイズを聞き出し集合場所を決め男の服を売っている手頃な店を探しショッピングモールを歩き「――ったく、なんで俺がこんなこと……俺はアイツらの保護者か?」とぐちぐち文句を言いながら店を探した。その時「あっ! 近藤君!」と後ろから声を掛けられた。俺は振り向くと「里川……」だった。里川は友達と来ており友達は俺を見てビビっていたが里川が俺のことを説明すると俺に対する警戒を解いたのか多少態度が軟化(なんか)した。
「あれからストーカーもいなくなって漸く平穏が戻ったんです!」と里川が声を弾ませて言った。それを聞き俺は梶井に対して(不憫(ふびん)だな……)と思った。「あとそれから今日これから部活の練習で――」と里川が言葉を続けようとすると「あ! ワリィ、ちょっと質問があるんだけど。里川はどんな格好をした男性が好み?」と聞くと里川は首をこてんと傾(かし)げて「え? う~ん。一応大人っぽくてシックな感じの服装をしてる人がいいかなぁ……」と答え「でも何でそんなこと聞くんですか?」と里川が不思議そうに聞いたので「あぁちょい今イメチェンしたい奴がいるんだけどどこを目指せばいいか解らくて困ってるんだ」と説明をしその場をごまかし「参考になったわ! ありがとうな!」と言い俺はその場を後にした。
(大人っぽくてシックか。それならモノトーンかグレー系だな)と俺は思い男性服売り場を何件か廻り梶井に似合いそうな大人っぽいシックな服をいくつか見繕(みつくろ)った。
集合場所に着くと蒼と梶井はすでにおり蒼は俺の姿を見つけると「あ! 竜彦!」と嬉しそうに顔をほころばせ梶井が「全く遅いですよ! 自分で決めといて!」と小言を言った。「誰のためにこんなことやってんだよ?」と俺は怒気を孕んだ声で言い梶井が黙った。
Canaryに着いた俺達は早速梶井のイメチェンを始める為住宅スペースの物置でセッティングした。もっともセッティングするのは俺なので蒼には店で待ってもらった。まずは七三ヘアを解くために髪をとかし買ったばかりのモノトーンの服を着せ蒼達に頼んだ香水をかけ最後にコンタクトレンズをはめさせて「かんせーい!」と言い「じゃあ早速お披露目(ひろめ)会だ!」と言い「えっ? でも……」梶井は恥ずかしがったが俺はそんな梶井をよそに店に連れて行った。
「出来たぜー!」と言い俺は店のドアを開け皆に報告し店の外にいる梶井を引っ張り出して皆に見せた。そこにはグレーのワイシャツに薄茶色のサマーコートを着脚(あし)を細く見せる為に黒いテーパードパンツを着こなし黒い髪七三ヘア―ではなくサラサラのストレートヘアーになりコンタクトレンズで緑色のクリッとした大きな瞳が際立ち微(かす)かに香るシトラス系の香水が爽やか感を演出している。
衣装に着せられている感じもなく正に大人っぽくシックな感じだ。
俺と梶井以外の皆は一斉に口を開いての第一声が「誰?」だった。
「ほー、エライ化けたなぁ」都先輩の言葉に蒼が「最初誰だか解らなかった……」と続き梶井が照れながら「そ……そうかな?」と口ごもりながら言い「どうだ? 俺の腕は?」と俺が言うと蒼が「竜彦って本当凄いんじゃあ……」と呟くように言った。「まぁ、素材がええんやけど……」都先輩の言葉に「えー、なんですかそれ?」俺は抗議した。そして、蒼がクスクス笑い「なんかこういうのってイイね」と言った。「まぁな! まっ、勝負はこれからだけどな!」と俺は言い梶井の肩を持ち「じゃあ行くか?」と言い梶井は「え? どこに?」と聞いて来たので俺は「戦場(せんじょう)だ!」と比喩(ひゆ)表現(ひょうげん)で答えた。
聖薗学園高等部のテニスコート。そこでは里川とチームメイトが練習していた。ラリーは激しくやがて里川のボールが相手のコートに入って相手が撃ち損じ里川が勝った。
「テニスってすげーな……」俺の言葉に蒼は「僕は無理……」と言い「カッコいい」と梶井が木の陰に隠れて言い完全に恋する乙女(男だけど)の目だ。やがて休憩タイムになりテニス部員達が休憩に入り例に漏れず里川も休憩に入り「よし蒼今だ!」と言い「う~、僕が行くのぉ?」と蒼は困った表情をし「だってよ、いきなり他校の奴が行ったら警戒するしテニスコートに入れないじゃん! だったら同じ学校の奴の紹介の方が安心度は高いじゃん!」と俺は言い「そんなものなのかなぁ?」と蒼は考えながら言い「とりあえず行け! 今はお前は蒼ではない恋のメッセンジャー蒼だ!」と言い蒼があまり乗り気ではなくテニスコートに入って里川に接触し里川を呼び出すことに成功しそれと同時に丁度蒼と里川テニスコートから出てきて里川が「私に会わせたい人って誰?」と蒼に聞き蒼が「あ……うん。その前にちょっとイイかな?」と里川に尋ね「里川さんってその……今……彼氏とか欲しい?」と聞くと里川は「え? う~ん。彼氏よりもまずはその人の人柄で判断するから一概(いちがい)には……」と言い淀(よど)み「じゃあ一応彼氏(かれし)募集中(ぼしゅうちゅう)系(けい)なんだ?」と蒼は聞くと「ん? まぁ一応……」俺は心の中で(よっしゃあ!)とガッツポーズをし「よし、梶井お前にもチャンスはある! 行け!」俺の言葉に梶井は「え? ぶっつけ本番?」と梶井は困惑(こんわく)し「当たり前だろ。何の為に戦場(ここ)に来たと思ってるんだ?」俺の言葉に梶井が顔を赤らめて「で……でも……まだ心の準備が……」と言ったので俺は「あー、情けねぇなぁ! いいか? 男は度胸だ! ど・きょ・う! 今がチャンスなんだよ!」と俺は力説したが梶井が「でも……」と煮え切らない態度だったので俺はキレて「いいから早く行けぃっ! 特攻(とっこう)!」と言い梶井を押した。そして「ぅわっ!」とは俺が押したせいか梶井は盛大(せいだい)にこけて登場した。
(やっちまった……)俺はそう思い梶井が「うきぅ。覚えてろ……」と目に涙を浮かべて俺を見て言った。そして「あの? 大丈夫ですか?」と里川が梶井に手を差し伸べて来た。梶井は里川の手を握り立ち「あ……ああああああの……ありがとうごさいます!」盛大に噛(か)みながら言った。そして本題……。
「あの……いきなりで失礼します! 実は僕前から貴女のことが好きで……よろしければお友達からでいいんで付き合って下さい!」とハッキリ言い木の陰から見ていた俺は(小学生かよ……)と頭を抱えた。そしてそれと同時に(終わったな……)と思い退散(たいさん)しようした時「まぁお友達からならいいけど……」と里川は言い俺は(え? マジ?)と思った。
「よかったやんけ! お友達からでも一応付きおうて……」都先輩の言葉に梶井は顔を真っ赤にし下を向き「え……えぇ、まぁ……」と照れながら言った。
俺達は今canaryにいる。
「マジ俺ヒヤヒヤしたわ。まさか、お友達からって……小学生じゃないんだから……」俺の言葉に梶井が「じゃあ他になんて言えばいいんですか?」と梶井が聞き俺は、んーと考え「例えば一目見た時からキミのことが頭から離れないので付き合って下さいとか?」俺の言葉に「竜彦……それは引くよ……」と蒼にツッコまれた。
「まぁ、何はともあれ結果オーライだ! 早速何か注文しようぜ! ここは梶井の奢(おご)りだ!」と俺が言うと「なんで僕の奢りなんですか?」と梶井がツッコんだ。
俺達は(梶井の奢りで)食事をした後都先輩が「そう言えばライン番号聞いたんやろ?」と都先輩が梶井に聞くと梶井が「え? あ、はい……」と答え「う~ん、おうてすぐメアドもライン番号聞かなかったどこぞの誰かとは大違いや……」と都先輩は俺を見てトゲのあることを言った。
「じゃあ、はい!」と俺は色々な風景の写っている雑誌を梶井の目の前に置いた。
「え? なにこれ?」梶井の言葉に「見て分かんねぇのか? この近辺のデートスポットだよ」と俺は言い梶井はボッと顔を赤くし「で……ででデートォ? そんなのまだ早過ぎるよ! だってまだ僕達まだ付き合い始めたばっか……第一友達だし……」と言いあたふたしたが「お前なぁ……いいか、俺からいわせりゃお前は恋愛に幼稚(ようち)過ぎる。お花畑を歩くより最近の女は遊園地とか過激な方が好きなんだよ!」俺の言葉に「それはたっちゃんの趣味やないの?」と都先輩がツッコんだ。「過激……」梶井はデートスポットの写真を見て「考えてみるよ」と言いいくつか雑誌をもって店を出て家に帰った。俺と蒼は道中途中まで一緒に帰り「全く人の恋愛をプロデュースするのは大変だわ……な! 蒼!」俺は蒼を見た。蒼は黙っており何かを考えこんでいるようだった。「蒼? 蒼? おーい、蒼……」俺は蒼の目の前で手をひらひらさせ「わっ?」蒼は我に返ったのか驚いた。「ど……どうしたの竜彦?」蒼の言葉に俺は「どうしたはこっちのセリフだよ? どうしたんだよ? 浮かない顔をして……」と聞くと蒼が「う……うん。本当にこれでいいのかなって思って……」蒼の言葉に俺は頭に疑問符を浮かべた。
「え? いいんじゃね。好きな子とまだ友達だけど上手くいって恋人になれば万々(ばんばん)歳(ざい)じゃないか?」俺の言葉に蒼が「う……う~ん、そうだけど……」と蒼が浮かない顔をして考えこみ「そ……そうだね! 僕の考えすぎだよね! なんかごめん! 僕なんでも悪い方に考える癖があって!」と言いぎこちない笑みを浮かべた。
一週間後梶井から相談を持ち掛けられた。学校ではあれなのでcanaryに行き相談内容を聞いた。内容はデートスポットが多すぎて決められないという内容だった。
「――と言うわけでどうしましょうか?」梶井の言葉に「そんなこと自分で決めろや……」俺は呆れながら返答した。すると梶井は泣きながら「だって、僕十七年間勉強(べんきょう)漬(づ)けの毎日で女子と一緒に出掛けたことがないんだよ! それがいきなりデートってハードル高すぎだよ……」と嘆きテーブルに突っ伏した。
「そんな難しく考える事じゃないんじゃね? デートって気負(きお)いするから緊張するんだ! もっとリラックスしろって!」俺の言葉に梶井は「そもそも僕にデートは無理だ! 手を繋いだことさえない!」と更に嘆いた。
(小学生かよ……)俺はそう心の中でツッコみ都先輩に至っては「今時珍しいピュアボーイやなぁ……」と口でツッコんだ。
すると今まで黙っていた蒼が「あ……あのさ……その……変に飾る必要はないんじゃないかな……ありのままの自分で行けばいいと思うんだ。例えば自分の好きな物とか。何か好きな物ないの?」と聞き梶井が「好きな物……う~ん」と考え「一応あるけど映画……」と答え「じゃあそれだ!」と俺はそう言い「デート定番の映画デート! これだぜ!」俺の言葉に皆は賛同して梶井は今人気の映画を探した。そして「これにしよう!」と梶井は言い早速チケットを予約し里川にラインを送りすぐに『イイよ!』と返信が来たので梶井が喜び小躍りした。俺が「なんて題名の映画?」と聞くと「風と共に去りぬ」と答え蒼が「名作ですよね」と言った。
そして、俺達は梶井にデートのレクチャーをした。まずは一つは映画のダメ出しをしない。相手が不快に思ってしまうから。その二、ここぞというばかりにいきがってはいけない。その三、過干渉にならない。以上三つをレクチャーし梶井の初デートの日がやって来た。
そして、当日――。
梶井はイケてる男性バージョン(要するに俺が前にレクチャーした服の一つ)になり梶井の初デートを見守ることにした。しかし、実際は俺達も映画が見たかった為見守るという大義(たいぎ)名分(めいぶん)を掲げて映画館に向かった。梶井はレクチャー通り自分は車道側を歩きエスコートし映画館に辿り着きオンラインで購入したチケットを提示して俺達は現地でチケットを購入し座席に座った。そして、上映が始まった。
風と共に去りぬはアメリカ発祥の小説で文学に疎(うと)い俺でも大まかな話は知っているくらい世界的にも有名な話で内容はアメリカの南北時代から始まる美しい女性スカーレットの一大巨編だ。
俺はポップコーン片手に映画に見入り話が佳境に入り横目でちらっと隣の蒼を見ると蒼の瞳(め)が潤みやがて上映が終わると蒼がボロ泣きし俺が「蒼―、出るぞー」と蒼に話しかけると蒼は泣きながら頷き俺達は映画館を出た。そして俺達はバレないように梶井の後を付けた。喫茶店に入り俺はアイスコーヒー。蒼はアイスレモンティーを注文し梶井の話に聞き耳を立てていた。が蒼はまだ泣いており俺だけが話を聞くことになった。梶井はレクチャー通りに映画のダメ出しをせず二人は花が咲き誇る様にイイ雰囲気で俺はこれなら心配ないなと思い俺達は注文した飲み物を飲み店を出た。
翌日学校で俺は梶井に「デートどうだった?」と聞くと梶井は満面の笑顔で「好感触!」と言い俺は安堵した。この時は……。事件は放課後に起こった。
下校時間になり梶井が財布がないと言い出しカバンを探したが見つからず梶井が「もしかしてあの喫茶店に置いて来た?」と言った。あのとは昨日映画の帰り寄った喫茶店だ。
「ヤバい!」と言い梶井が学校を出た時ばったり里川と会った。俺達は動揺した。何故なら今の梶井は昨日のオシャレな梶井じゃなくて七三分けで地味で瓶底眼鏡をかけた梶井だからだ。俺達は一瞬で固まり里川は「あの……お財布私のバッグに入ってたから……届けに来たん……だけど……」里川は明らかに動揺している。俺は終わったと思い梶井が里川に「ごめん……」と言いその場から逃げるように立ち去り俺達はcanaryに向かった。
「――んで、正体バレて凹んどるわけか……」都先輩は溜息をついて言い蒼が「やっぱり……」と言い「嘘はいつかバレるものだよね……」と言うと俺は「確かに……」と言った。俺達は里川に嘘をついた。オシャレしていかにもリア充よろしくな梶井を作りその結果バレたのだ。
「やっぱり僕に恋愛なんて無理だったんだ……」と梶井が泣きながら言うと「僕今まで何もなかったんだ。親からいつも勉強勉強って言われいつも期待通りのいい子を演じてきた。毎日がつまらなくてだけど彼女にあった時衝撃が走ったんだ。それでこれが恋って気付いて今まで何もなかった僕の人生に幸せな気持ちを運んで来たんだ……だから僕見てくれだけで……でもやっぱり無駄だったんだ」と言い涙を流し始めた。するとドアのベルがチリンとなり誰か入って来た。俺がドアの方を振り向くと「里川」だった。
「見つけた!」
「なんでここが?」俺の問いに「蒼君がラインで教えてくれたから……」と言い俺は蒼を見た。梶井は泣きやみ涙を拭き「ごめん……」と言うと里川が「なんで謝るの?」と聞いた。梶井は「嘘ついてて……」と言い「本当の僕はこんなんだ。地味でダサくて何もないんだ……だけど、里川さんの前ではいいカッコしたくて嘘ついて偽りだらけの自分を演じてた……それを謝っているんだ」と言うと里川が「私だって嘘をついているよ……」と言った。
「私学校では優等生で学校のマドンナって言われてるけどそれは嘘の私なの……」と言い自分の学生カバンをひっくり返した。すると中からはマンガ雑誌にマンガの単行本にコスプレ特集といかにもアキバ系オタクの本が出て来た。「本当の私はアニメやマンガが大好きなオタクなの。でも……中学時代それを馬鹿にされて友達が出来なくてだから高校行ったら隠そうって思っていわゆる理想の自分を演じてたの……だから謝るのは私の方……ごめんなさい……」と言った。「梶井……」と俺は梶井に促(うなが)し梶井が「今度教えて……イイマンガ!」と言った。「僕マンガとかあんまり読んだことなくて解らなくて……!」と言い「梶井君……」里川はそう呟き「仲直りだよ」と蒼が笑顔で言い一組のカップルが誕生し俺達は安堵し俺と蒼は顔を見合わせ微笑んだ。
4
今日俺は上機嫌だった。事の発端は昨夜――。
『じゃあチェリーは社会人なんだ……』
俺はネットゲームのアバターを使って同じパーティチェリーという女キャラとチャットをしていた。
チェリーは長い金色の髪にその長い髪を水色のリボンでポニテ―ルにしベビーピンク色のエプロンドレスに身を包んだかわいらしい容姿の女キャラで職業はアルケミストだ。(因みに俺は剣士)
『ええ。学校の先生なんですけど最近の生徒はなかなか扱いが難しくて……』チェリーは難しそうに言った。
『あぁ。でもやっぱ生徒って大人のいう事を聞かないもんですよね! 反抗するっていうか』俺は自分のアバターのキャラ湊(みなと)にそう書き込んだ。その時『ごめん! 待った?』とセリフと共に一人の青年がやって来た。
『あ? 来た来た! こっちこっち!』と俺は言い青年を呼び込んだ。青年の名は響(ひびき)と言い蒼のアバターで職業はスナイパーだ。蒼のアバター響は焦げ茶色の羽織りマントに白色のチュニックを着こなし青色の髪をしている。
『ごめん……ちょっと接続に時間がかかって……』響が申し分けなさそうに言うと『いいってことよ! 俺等だってちょっと前にログインしたばっかだしよ!』と俺は言いチェリーは『ええ! そうですよ! 気にしないで下さい!』と励ました。
俺は一週間前に蒼をこのネットゲームに誘った。事の発端はcanaryで俺が都先輩にこのネットゲームの期間限定のイベントの話をしていると蒼が興味を示し俺が話すと蒼が「やってみたいな……」と言い俺は接続方法やアクセスの仕方を教えた。ただ蒼はネットゲームをやったことが無く最初のうちは真っ直ぐに歩くことさえ出来ず中級者の俺がレクチャーし、蒼は歩くことが出来た。(しかもすぐに……)そして俺は古くからのネット仲間のチェリーと蒼演じる響を会わせ俺達はパーティー銀翼(ぎんよく)に響を入れた。
『そう言えば湊さんと響さんってリアルでも友人なんですよね?』チェリーの質問に『ん? そうだけど』俺の言葉に『湊が教えてくれたんだ』と響が言うと『なんか私だけ仲間外れたみたいです!」チェリーがむくれたので『そうだ、じゃあオフ会やってみないか?』と俺は提案した。『オフ会?』響が聞き返したので俺は「要するにリアルで会うってことだよ!」と言いチェリーが『それいいですね! 私も皆さんに会ってみたいです!』とチェリーは言い俺達はオフ会の場所と日程を決めその日はログアウトした。
「あ~マジ楽しみ! チェリ! どんな子なんだろ?」と俺が独り言のように呟いていると数学教師の桜庭(さくらば)司(つかさ)が教室に入って来た。桜庭司はまだ教師になって六年の新米教師で年齢は二十代でいつもポーカーフェイスのイケメン教師だ。それ故女生徒から人気がある。が、桜庭は女生徒のアプローチを無視しいつも通りのポーカーフェイスだが色々噂も飛び交っている。前の学校で女子生徒と親密になってその生徒を妊娠させた挙句中絶させてこの学校に転任してきたともっぱらの噂だ。もっとも信憑性(しんぴょうせい)がないが。そして「竜彦―、近藤竜彦」と俺を呼び俺の小テストの答案を返した。小テストの答案は五十点満点で七点。こりゃひどいわ……。俺はそう思い席に着いた。桜庭が全てのテスト答案を生徒に返し終え授業を始めたが俺はそんなこと聞かず適当に授業をやり過ごし漸く退屈な授業が終わり昼食の時間になり俺は一目散に朝購買で勝った卵サンドに齧(かじ)りついた。その時教室から出る桜庭を見るとクラスメイトの女子が桜庭に色目を使い「先生~、ここが解んなかったんですけど~」と言うと桜庭は「この教科書の七十三ページを見るとイイ」と会話を終わらせ俺は(女子共報われないな)と俺は思い紙パックの牛乳を飲み干した、そして(あぁいうのを堅物(かたぶつ)って言うんだよな……多分ゲームとかやったことない人種だな)と思った。その時桜庭が「近藤後で職員室に来い。話がある」といいつも通りの調子で言い出て行った。(誰が行くかよ。バーカ!)俺はそう思い舌を出した。
「ふ~ん、じゃあ竜彦はその人のこと苦手なんだ?」蒼の言葉に「だってよー」と俺は言い「俺はああいうスカしたタイプが一番嫌いなんだよ!」俺の言葉に都先輩が「まぁ、たっちゃんには嫌いなタイプだわなぁ……」と言い「でも、自分の気に入った先生なんていないよ」と蒼は言った。「う……まぁ、そりゃそうだけど」と俺は口ごもった。
「っていうか、なんで店(ウチ)をオフ会の場所にするんや?」都先輩の言葉に「だってここ俺と蒼が知ってるし何と驚いたことにチェリーもこの近辺に住んでるっていうから……」と俺は言うと「せやけどええんか? オフ会なんて……リアルとネットはちゃうからリアルの姿見たらイメージとちゃうって会わない方がよかったってこと多いで……」都先輩の言葉に「う……そりゃまぁ……」俺は言葉を濁し「ねぇ、竜彦? チェリーさんに聞いてみたら……苦手な教師がいるんだけどどうしたらいいか……あの人学校の先生って言ってたし」と蒼が提案した。「う~ん」俺が悩んでいると「やめといたほうがエエで、嘘かもしれへんし……」都先輩が制止させた。「え? 嘘?」蒼が聞き返すと俺は「ネットの世界はいくらでも言いようがあるんだ。当然嘘も言う。現に三年位前にネットで知り合って仲良くなった女性キャラが相手のプレイヤーに会いに行ったらプレイヤーが男と知って殺人事件を起こした例もあるんだ」と俺は言い「オフ会って怖いものなんじゃ……」と蒼が言うと「平気だって。俺喧嘩には強いから……」と俺は腕まくりして言った。「はぁ、そう問題じゃないんやけどなぁ」と都先輩は溜息をつきながら言い「エエか? ネットとリアルは別モンや。よう覚えとき!」と都先輩は念を押すように言い「解りました」と俺は生返事をした。「――で、オフ会とやらはいつなんや?」都先輩の言葉に「明日の十三時です」と蒼が言うと「偉い急やな」と都先輩が言い「チェリーの仕事の関係で空いている時間がそこしかなかったんですよ! 丁度一学期修了式だからって」と俺が言い「あ~、マジどんな子だろ?」と俺はテンションを高めに言い楽しみで胸が高鳴った。すると都先輩が「蒼君これネトゲに陥りやすい奴で女キャラ使ってるとリアルも女と思いやすいから要注意や」と言い蒼は「成程」と頷き話し込んでいた。そして、この日は解散した。
そして翌日――。
俺と蒼は予定より早くcanaryで合流した。俺の今日の服装は歯車がプリントされた黄色パーカーにジーンズ。一方の蒼は白いティーシャツに先端がたれ耳みたいなウサギの様な割れた黒いフード付きのパーカーを着て下は白いズボンを履いていた「俺蒼の私服姿見たの二度目だわ。こういうカッコも出来んだな」と俺は蒼を見た。思えば蒼と遊ぶ時蒼はいつも学校の制服の学ランなので私服を見るのは二度目だが新鮮味があった。「竜彦も相変わらず服のセンスいいよね!」と蒼は言い「褒めても何も出ないぜ!」俺は照れながら蒼の肩を叩いた。
「――で、チェリーさんはどんなカッコで来るんだろ?」蒼の言葉に「あ、そっか、昨日蒼ログインしてなかったもんな……」と俺が言い昨日のチェリーの言葉を思い出し「確か黒系と白の服で来るってたな……ゴスロリかな?」と俺は推測して店の中で待つことにした。今は七月。夏本番だ。この暑い中外で待つのはハッキリ言って酷だ。その点店の中はクーラーが効いてて涼しい。「地上の楽園だー」と俺が呟くと店の扉に着けられたベルがカラン! と鳴り「すまない遅くなった!」と聞き覚えのある男性の声がした。俺は声の方を見ると「げっ! 桜庭!」がいた。「近藤! なんでお前がここに?」桜庭は驚いたので俺は「オフ会だよ! お・ふ・か・い! そういうお前こそなんでいるんだよ!」と俺が怒りながら聞くと「奇遇(きぐう)だな……俺もオフ会だ……」と答え俺は「え?」と言い「俺もオフ会だ。ネトゲのパーティと……」俺は固まり蒼が「ねぇ……竜彦チェリーさんって……」と恐る恐る俺に聞き「あぁ……」と思い俺は桜庭を見た。今の桜庭は黒のブイネックのシャツを着ておりその上に黒のサマーコート。そして、白いズボン。黒系と白い服だ。そして桜庭。桜=(イコール)チェリー。俺は違ってくれと思いながら「もしかしてチェリー?」と聞くと桜庭は驚き「もしかして湊……?」と聞き返した。
「驚いたな……」桜庭の言葉に俺は(こっちがだよ)と心の中でツッコんだ。
いや、だってまさかあの少女趣味全開で可愛いキャラがヤローで俺の嫌いな奴。更にはこんな不愛想キャラなんて思わないだろ。
「と……とりあえず何か注文とろうか? 僕アイスティー」と蒼が言うと俺は「オムライス……」と仏頂面で言いチェリーこと桜庭は「俺はシンデレラ」を注文した。程なくして注文した料理が出てきたがかなり気まずい空気が流れた。
すると蒼が「そう言えば桜庭さんって学校の先生なんでよね? 担当している教科は何ですか?」と桜庭はぶっきらぼうに「数学だ」と言い「そ……そうですか……」と蒼は縮こまって俯いた。「それより何か言いたいことがあるんじゃないのか?」と桜庭は聞いた。
「え?」と蒼は声を漏らす。「何か言いたいことがるならハッキリ言った方がいい……?」
「そ……それは……」蒼は顔を赤らめて更に縮こまった。
更に桜庭は「それとここで言うが近藤……何故、昨日職員室に来なかった? 話があると言っただろ。いくら高校が付属校でもこのままじゃお前留年するか退学のどちらかだ……」と溜息交じりいつも通りのスカした顔で言い「お前は一体何をしたいんだ?」と聞いて来た。俺はブチギレ「うるせーな!」俺は桜庭に怒鳴った。「テメーさっきから何様のつもりだよ? 担任でもないくせに……」俺は桜庭に掴みがかり「テメーだって色々問題行動起こしてるじゃねぇか?」俺の言葉に桜庭はすまして「俺がなんだ? 今はお前の話をしている」と言ったので俺がキレて「じゃあ大声で言ってやるよ! お前前の学校で女子生徒を妊娠させておまけに中絶させてウチの学校に逃げて来たんだってもっぱらの噂だぜ!」と俺は爆弾を投下し蒼と都先輩、それとこの場にいた客全員が俺と桜庭の二人を見た。桜庭は「それがどうした? そんなのただの噂だろ」とすました顔で言い更に「それはバカな生徒が勝手に風潮(ふうちょう)しただけだし仮に俺がその生徒と関係を持っていたらなんだ? お前には関係ないだろ」と言った。その一言に俺はキレ俺は「最悪だ……」と俺は言い「こんなことならオフ会なんてするんじゃなかった……」と言うと桜庭も「生憎(あいにく)だな。それはこっちもだ……」と冷静に言い桜庭は出されたシンデレラを飲みお代だけ払ってさっさと出て行った。あとには気まずい雰囲気が残り俺は無言でオムライスを食べ蒼は気の毒そうな顔をした。
家に帰ると親父が仁王立ちしており「竜彦。ちょっとこっち来い……」と言いリビングに連れて来られた。テーブルには俺が丸めて自室のゴミ箱に捨てたテストの答案用紙が置かれており「この点数はなんだ?」と親父はテストの答案用紙を俺に見せた。そこには見事に十二やら十七と十点代ばかりの点数が並んでいた。俺は黙り「お前はこの家の跡取りだぞ。それなのにこのテストの点数はなんだ!」親父が怒りながら俺に聞くと「親父には関係ねぇだろ!」と言い「誰が生んでやったと思っているんだ!」と親父が怒鳴ると「生んでくれなんて頼んだ覚えねぇよ!」と俺は返答し更に「俺は政治家にはならねぇよ!」と言いリビングを出て二階の自室に向かった。俺はベッドに倒れ込み「疲れた……」とぼんやり呟きそして(現実はクソだ……何事もゲームのようにいかない……)と思いながら眠りに堕ちた。
ピロン! とスマホの音で俺は目を覚ました。俺はスマホを見ると不良仲間の一人から合コンの誘いが来た。俺はムシャクシャしていたので『行く』と返答した。その時別の一人から『じゃあ後一人、人数合わせに連れてきて』というオーダーが来たので仲間に連絡した。
「じゃあ奏君って聖薗学園なんだ……」と不良仲間の男性は蒼に聞き「う……うん」と蒼は戸惑い気(げ)に返答し俺は不良仲間の一人に小突かれ「なぁ……なんで女よりかわいい男連れてきてんだよ?」と言われた。そう、俺は咄嗟(とっさ)の合コンだったので片っ端から不良仲間に電話したが皆生憎夏休みのせいか補習やら旅行やらと空いておらず仕方なく恐らく合コンに不慣れな蒼に電話した。そして結果――、
「ねぇ、奏君俺とライン交換……」「イイやオレだ!」ともう一人が遮り喧嘩になりその隙にオレだオレだと言い合いになった。
男共は女子そっちのけで女子よりかわいい蒼に夢中。女子達は不機嫌そうにジュースを啜(すす)ったり運ばれてきたフライドポテトを摘まんだりしている。最早これは合コンではなく学校の給食状態だ。
(まさか蒼が合コン荒らしになるとは……)
俺はジュースを啜り蒼が泣きそうな顔で「竜彦~、なんか怖い……」と言い俺にしがみついて来た。
(泣きそうな顔も正直可愛い……)と俺は不覚にもそう思いながらも女子達が怒り心頭で「帰る!」と言い今日の合コンは終わった。
「まぁ、そうなるわなぁ! 顔面(がんめん)偏差値(へんさち)高い蒼君連れてったら……」都先輩は笑いながら言い食器を拭いた。
俺と蒼は今canaryにいる。
「まぁ、そりゃそうですけど……」と俺が溜息交じりに言うと蒼が「な……なんかごめん……」とすまなそうに言うと「あー、いいよいいよ! 悪いの俺だから……」とカウンターに突っ伏しながら返答した。その時、ピロン! とスマホが鳴った。着信を見ると俺のクソ親父からだった。俺は即座にスマホを切った。「出なくていいの?」蒼の言葉「いいんだよ。どうせ小言だろうから……」と言い俺は溜息をついた。家は息苦しい。いつもピリピリしているから。いつからだろう? こんなに親に反抗的になったのは。俺はぼんやりと思うと「そういや蒼んとこは?」と蒼に尋ねた。蒼は「え?」と聞き返すと「蒼んとこの親はどんな奴?」俺の問いに蒼は少し考えて「僕に本気で自分の将来を託していた人かな?」と答えた。「えぇー、なんかそれってプレッシャーじゃねぇ?」と俺が言うと「でもそれしか僕にはないから……」と答えた。「ちゅうか、蒼君なんかやっとるんか?」と都先輩が聞くと「ん……う……うん。一応……」と蒼はその場を少し濁しながら言い「そういえば竜彦の所は?」蒼の問いに「クソ親父とクソババァ……」と答えた。「え……?」蒼が困惑し都先輩が「あー、たっちゃん父親政治家なんよ……んで、親が一人息子のたっちゃんに後継がせたいんやけど――」都先輩が蒼に耳打ちした。「そうなんだ……結構意外だね……」蒼の言葉に「あ~、よくそう言われる……」と返答し「親なんてクソ喰らえだ……」俺がそう呟くと「竜彦……親のことをそういうのは良くないよ……」と蒼が制止した。「だってよぉ……」俺が反論しようとすると「で……でも……」蒼が何か言いたそうだった。「なんだよ? 何かはっきり言えよ!」俺は怒気を孕んだ声で蒼に聞くと蒼は下を向き「言いたいことがあるならハッキリ言えよ! 大体お前は前からそうだ! 言いたいことを言わないで周りから助けを求めてばかりいて! そういう所ムカつくんだよ!」俺は怒りの限り蒼を罵倒(ばとう)すると蒼は目に一杯の涙をため「僕だって自分でも解ってるよ! 解ってるけど治せないんだ!」そう言うと蒼は店を出て行ってしまった。「あらら、出て行ってしもうたわ……」都先輩がそう言うと「俺も失礼します……」と言い店を出た。
俺がアスファルトの歩道を俯きながらとぼとぼ歩いているとぽつりぽつりと雨が降ってきてやがて土砂降りになった。
「最悪だ……」俺はそう呟き未(いま)だ俯いたまま歩いた。すると「危ないっ!」という声と共に俺の服の襟首を掴みグイッと引っ張っられた。そのすぐ後車が通り過ぎた。信号を見ると赤だった。「オイっ! お前自殺でもする気か?」と引き寄せた人物が言った。俺は命の恩人にお礼を言う為顔を上げると「げっ! 桜庭!」がいた。
「よし! これでヨシっと!」桜庭はそう言い俺の腕に包帯を巻いた。「かすり傷だから大したことはないが一応後で病院に行っておくとイイ。破傷風になったらあとあと面倒だからな」と言い救急箱に包帯をしまった。
俺は、今桜庭の家で手当てを受けている。引っ張られた時腕を少し掠(かす)ったので桜庭に強制的に連れて来られた。
「これくらいどうってことねぇのに……」と俺がぼやくと桜庭が「怪我を甘く見るな!」と言いタンスから何かを取り出し俺にポイポイと渡した。「? なんだ?」と俺が聞くと桜庭が「俺の服だ……」と言い「お前今びしょ濡れだろ。とりあえず服乾かすから服(これ)に着替えろ」と言い俺は着替えた。
「もっとちっせー服ねぇの?」
俺は桜庭の服を着て文句を言った。と、いうのも桜庭の服は大き過ぎてハッキリ言ってぶかぶかで最早(もはや)彼シャツ状態だった。「これが一番小さいサイズだ」と桜庭は反論し「文句があるなら裸にバスタオルを一枚だけ羽織るか?」と意地悪そうに聞いて来たので「喜んでこの服を着させていただきます」と俺は言った。そして俺は正座し桜庭は「飲み物を淹(い)れてくる」と言いキッチンに引っ込んだ。
(お……落ち着かねぇ。年上の野郎の部屋。しかも教師)
俺は緊張しながらも改めて桜庭の部屋を見た。ワンルームでベッドにタンスにテレビ。勉強机に本棚には難しそうな本がきれいに整理整頓され並んでいる。
(コイツ本当に教師なんだな……)と俺は改めて実感した。その時ふと一枚の写真立てが目に入った。俺は近づいてみるとそこに写っていたのは桜庭と白髪で学生服を着た自分と同い年くらいの少年が写っていた。二人共笑顔でとても楽しそうだ。
(誰だ? コイツ?)俺がそう思ってると「その写真が気になるのか?」という声が後ろから聞こえ後ろを振り向くとマグカップを二つ持った桜庭が立っていた。「え……あ~……その……」俺は気まずくなり上手く返答出来ない。すると桜庭がテーブルにコトッとマグカップを置き「お前はケガ人だからホットミルクだ。早く飲め。冷めるぞ……」と言い自分のぶんのコーヒを飲み始めた。相変わらずの桜庭の命令口調に俺はちょっとムカッとしてミルクに口をつけた。ホットミルクは暖かく冷えた体を温めてくれ心が穏やかな気分にさせた。
「言っておくが俺の噂は根も葉もない噂だ」と桜庭は口を開いた。
「え?」
「俺が前の学校で生徒を妊娠させたっていうのは……」
「……」俺は黙った。
「俺はこう見えても教師生活に命を懸けているんだ」と言い「――で、本題だがお前は何していたんだ? 車の前に飛び出して……」
桜庭の質問に俺は黙りやがて「まぁ大方親と喧嘩でもしたんだろ?」桜庭の直球の言葉に俺は言葉を失くした。そう、当たりだ。俺は「だって親がうるせぇんだよ。将来の事真剣に考えろとか。しっかりしろとか! 俺だってガキじゃねぇんだ」と言い昨日のことを話した。すると桜庭が「それはどう考えてもお前が悪いだろ」と桜庭が一喝して言った。「だけど親がいなくなれば俺は自由だし……」と俺が言うと桜庭が「なら一つ言うがお前の学費はどこから出ている? 家は? 食事は? 全部親の金だろ」と言い俺は言葉に詰まった。「確かに親が死ねば自由だ。だが、同時に社会に放り出されて責任が付く、何事にも。今のお前……まして成績最低のお前にその覚悟があるのか? 否、ないな」
「そんなこと解って――」「いや解ってないな!」桜庭は俺の言葉を遮って言った。「今のお前があるのは親がいて守ってくれている人がいるからだ。つまり、お前は親が居なければ何も出来ないただのガキだ! 自分一人で大きくなったと勘違いするな!」と言い「一つ言っておく親孝行したい時に親はいない」と言いコーヒを飲んだ。俺は黙りこくった。確かに桜庭にいう事は全て的(まと)を得ている。確かに俺の学費も食費も家も親がいて成り立っている。親が居なければ今の俺は確かにいない。それなのに蒼に当たり散らして喧嘩した。
「最低だ、俺……」と呟いた。「どうした?」桜庭の問いに「俺今日蒼と喧嘩したんです。親のことで……それで当たり散らして……」すると桜庭が「蒼? あぁ、あの子か。親(した)しい人と喧嘩したなら早く謝るのが一番の近道だ。いつか謝ろうと思ってもそのいつかは訪れなくなり謝りたくても謝れず後で『あぁ、あの時』と思った時にはすでに時遅しだ……」と桜庭は言い写真立ての写真を見た。俺は残りのホットミルクを啜った。ホットミルクは冷めており冷たくなっていた。その時乾燥機がピーッ! と音を鳴らした。「服が渇いたようだな。取ってくる」桜庭はそう言うと乾燥機から俺の服を取り出し俺に手渡した。俺は自分の服に着替えてcanaryに走って向かった。
Canaryに着いた頃は息切れをしながらも「み……都先輩……」と俺は遠慮気味に店のドアを開けた。
「おっ! たっちゃん復活したかいな?」都先輩が軽快な笑顔で俺を迎えた。俺は口ごもりながらもやがて「ごめん……」と言うと都先輩が「何がや?」と聞き返したので俺は「その……昼間……」と口ごもりながら言うと都先輩は「謝るのはワイやのうて蒼君やろ……しっかり今の気持ちを伝えや!」と言い俺は「はい」と頷くと俺のスマホにメッセージが入った蒼からだ。俺は早速謝ろうとするとビデオ通話になり『よぉ、近藤元気かぁ?』と人相の悪い男が出た。「てっ、テメェは!」この男は前蒼をパシっていた男、田宮だ。
『よぉ、この前はよくもやってくれたなぁ? だからちょっと俺達に付き合えよ?』
「はぁ? なんで俺がお前らに付き合わなきゃなんねぇんだよ?」
俺がイラついた声をあげると後から下卑(げび)た笑みを浮かべた男の仲間が現れ『来た方がいいぜ?』と言い指で合図すると蒼が画面に映しだされた。
「あっ、蒼っ!」
『た……竜彦ぉ……』
『一時間後薗(その)川(がわ)町の三丁目の廃工場に一人で来な。来ないと……』と男は蒼にナイフを突きつけた。
『ひっ!』その途端映像はキレた。
「あっ! おい蒼! 蒼!」
俺はいてもたってもいられず急いで指定された廃工場に向かった。その時俺の頭の中は蒼のことでいっぱいだった。
(蒼に何かあったらどうしよう? まだ何もされてないよな?)俺はそう思いながら廃工場へ向かった。
廃工場前は不気味な程静かだった。俺は地面に生えている草むらを踏みしめて慎重に一歩一歩進んだ。そして廃工場の入り口に入り「来てやったぞ!」と大声で叫ぶと「ようこそ」と蒼をパシっていた男田宮が不気味な笑顔でパチパチと拍手をし「いやぁ、友情って美しいねぇ」と嘲(あざけ)る様に言い「おいっ! 蒼は無事だろうな?」すると田宮は「あぁ無事だよ、ホラ」と言うと手下が縄で縛られた蒼が連れて来た。
「竜彦―!」
「蒼っ!」
「――っと動かねぇ方がいいぞ。動いたらコイツのこのきれいな顔に傷がつくからな」田宮はそう言うとナイフの切っ先を蒼の顔に近づけた。
「おいっ! テメェなんで俺達にこんなことするんだよ! なんか恨みでもあんのか!」俺の言葉に田宮は「くく……ははは……はははははは!」と狂ったように笑いやがて「あるに決まってるだろ!」と怒り心頭で言った。
「あの事件の後学校を退学になって両親も家庭内不和を起こしてお袋は家を出て親父は俺に暴力を振るうようになって家庭が滅茶苦茶になったんだよ!」
「んなの自業自得だろっ! 蒼から金巻き上げといて何自分だけが被害者面(づら)してんだよ!」俺の言葉に「うるせぇっ! 俺んちの家庭が滅茶苦茶になったのは全部オメェらのせいなんだよ!」と理不尽(りふじん)に怒りながら言った。そして「おい、お前等!」そう言うと周囲にいた仲間達に合図を送った。すると仲間達は転がっていた鉄パイプやら木の棒やらを持ち出し「一言言っておくぜ。テメェが少しでも抵抗したら……どうなるか解ってるよなぁ? 自称正義のヒーロー君」と言い仲間に合図をし仲間の一人が俺を殴った。
「がっ!」
俺は鉄パイプで腹を殴られ苦悶(くもん)の声をあげた。
「竜彦! 竜彦!」
蒼は俺に対して声を掛けるが田宮が蒼の頬をパンッ! と殴り「黙ってろよ!」と言った。「テメッ! 蒼には手を出さねぇ約束だろ!」俺の言葉に田宮は「あぁ、手は出さねぇよ。大人しくしてればな。今のは騒いだペナルティだ」と下卑た笑みで言った。「もういいよ。やめて……お金出すから――」と蒼が言いかけると「よくねぇっ!」と俺が声をあげて蒼の言葉を遮った。「こんな奴に屈するなっ、蒼! 俺は大丈夫だから!」と言うと「ほ~、さすが正義のヒーロー君はいう事がご立派……だなぁっ!」
田宮の手下の不良が俺の顔面を殴った。
「ぐっ!」俺は床に崩れ落ちる。そして、田宮の不良の一人が俺の前髪を乱暴に掴み俺の顔を無理やり上げ田宮が俺を覗き込み「ははっ! いい眺めだぜ。俺に立てつくからこうなるんだよ」と言うと言い俺の間にズイッ!と靴を出し「俺の靴を舐めたら蒼だけでも開放してやるぜ」と言って来た。「その代わりお前が靴を舐めた姿は動画に納めさせて拡散(かくさん)してやるぜ。タイトルはそ~だなぁ『悪に屈服した自称正義のヒーロー』とかな」とニヤニヤして言い「ど~する~、大切の自分の親友と自分のプライドどっちが大事かなぁ?」と田宮は言い「竜彦! 耳を貸さないで! 僕のことはどうでもいいから逃げて!」蒼が涙ながらに訴えると「うるせぇ!」不良仲間が蒼に腹パンをした。「うっ!」「蒼っ!」俺が悲痛な声を上げると「さぁどうする? 友人をこれ以上酷い目に会わせたくなかったら――」俺は決意を決め「……解った。その代わり約束な……蒼は開放しろよな……」俺はそう言い田宮が「ぎゃはは! 聞いたか? ヒーローが俺達に屈服した! よし、じゃあお前等! 動画撮れよ」と仲間に命じて俺が田宮の靴を舐めようとした時ドゥルン! ドゥルン! とけたたましいバイク音が入口の方から鳴り響いた。「なっ! なんだ?」俺達がバイク音のする入口の方を見ると「よぉ、ガキ共。ちょいイタズラが過ぎたよぉやのぉ?」と都先輩がバイクに乗って現れた。見ると後ろの方には大勢の仲間が集い仲間の一人が「総長(そうちょう)……こいつ等ですか? 総長の弟分を苛めるのは?」と聞くと「そうやしいな!」と都先輩は言い都先輩達は臨戦(りんせん)態勢(たいせい)を取り「ワイの弟分と友人傷つけるたぁ、エエ度胸や! 覚悟出来てんのやろうなぁ?」と言い「やるでっ!」と言い乱闘が始まりそのどさくさに紛れて都先輩の仲間が蒼を縛っていた縄をほどき蒼が泣きながら「竜彦っ!」と泣きながら駆け寄ってきた。「蒼……無事か……?」俺の問いに蒼はコクコクと頷き「僕は平気だよ! それよりも竜彦の怪我の方が酷いよ!」と言い「はは……かもな……」と俺は言い俺は乱闘場所に向かった。残るは田宮だけで田宮は「お……おい……待てよ……待ってくれよ。これはガキの喧嘩で……」と怯えながら言うと「ガキでもやってええこととわるぅことがあるんや!」と都先輩が拳をボキボキならしながら言うと田宮が「ひ……卑怯だぞ! 大人がガキの喧嘩に入るなんて!」と涙ながらに言うと「ほぅ、ほんなら自分はどうなんや? 人質使(つこう)て無抵抗なたっちゃんボコボコ殴っとる自分は?」と言うと「ぐっ!」と言い「まぁ、ウチはとどめを刺さんへんで。とどめは??」と言い俺を親指で指して「たっちゃん次第や」と言った。
「よぉ……さっきはよくもやってくれたな……」俺は拳をポキポキ鳴らしながら近づき田宮は「ひっ!」と声を上げ「覚悟出来てんだろうな?」と俺は怒り心頭で言い「ちょっ、ちょっとまっ――」「問答無用!」と俺は田宮の言葉を遮り正拳突きをかます……筈だったが寸止めした。「本来ならテメェを殴っているところだがそれは蒼が嫌がるからやめてやる……だが!」と俺は言葉を一旦遮りそして、ドスの効いた声で「もし、今度同じようなことしたら次はこの程度じゃすまさねぇぞ!」と吐き捨てるように言った。田宮は震えながら「はい……」と言いお漏らしをしていたので保険として俺達はその画像を撮りその場を後にした。
「痛っ!」
俺の手当てに蒼は小さく声を上げた。「男だろこのぐらい耐えろ」と俺は蒼に言い聞かせた。蒼は黙りやがて「でも橘さん凄い強いですね……」と言った。すると都先輩は「あぁ、あのくらいなんてこことないわ。金(きん)狼(ろう)の名は伊達やない!」と都先輩は腕組みして言い「金狼?」蒼がオウム返しに聞くと都先輩の昔の暴走族の仲間の男が「そうだ……結構いろんな伝説を持ってるんだぜ! 通称は金色の金狼って名で未だに暴走族界隈では有名なんだぜ!」と笑顔で言い「なのに急に現役(げんえき)引退(いんたい)して料理の道に入っちまうし……もったいねぇ……」と男は凹み「そう言えばなんで都先輩カフェバーのマスターやっているんですか?」俺の問いに都は少し照れ「カミさんに料理が上手いって褒められたからだよ」と言い事の経緯(けいい)を話し始めた。
都先輩の親は都先輩をピアニストにしたかったらしく小さい頃からピアノの英才教育をさせていた。しかし、なかなか思うような結果は出せずまた親からのプレッシャーに押し潰されそれが重荷になり中学生の時にグレてしまった。喧嘩はするは未成年なのにタバコを吸うは酒は飲むは今の竜彦よりも酷く手の付けられない不良で十八歳の頃家を追い出された。そして、町を彷徨(さまよ)っているうちに今のカミさんに発見されたらしい。
「最初『なんや、コイツ?』って思うたわ。どう見てもまともやないワイを家に上げて看病して……しかも料理はくそマズだし??で、ワイがキレて『料理というならこれくらい作れやっ!』ってオムライス作ったらカミさんが美味しいって言ってくれて……それが嬉しくて……それからワイはちょくちょくカミさんの所に行って仕事の手伝いや料理作ったりしてたんや……その頃からワイは料理が楽しくなって理解者の叔父に頼んで叔父の家に下宿させえもろうてレストランで働いて料理人の資格を取ってこの店をオープンさせてカミさんにプロポーズしたんや!」都先輩が顔を赤らめて昔の仲間らしき男が「すごい照れて噛み噛みだったんだぜ! その時の総長の姿見せたいぜ!」と言うと都は「今は総長やのうてただのカフェバーのマスターや!」と言いやがてお開きになり店には俺と蒼と都先輩の三人だけになりやがて蒼が「ありがとう」と言った。俺は頭に疑問符を浮かべ「何が?」と俺が聞くと「僕を助けてくれて……」と呟くように言い「やっぱり竜彦は正義のヒーローだね」と言うと俺は「ちげぇよ……俺は正義のヒーローなんかじゃない」と呟くように言い「喧嘩ばっかして人に迷惑かけて今回の事の発端だって原因は俺だし……」俺がそう言い掛けると「そんなことない! 竜彦はヒーローだよ! 現に僕を助けてくれた! だから誰が何と言おうとヒーローだよ!」と力説(りきせつ)した。すると俺は涙を流した。「た……竜彦?」と蒼は驚くと「ワリィ、俺ホントは泣き虫なんだ……」と言い蒼が俺を優しく抱きしめ「平気だよ……人間誰だって泣きたい時はあるから……」と言い俺はわんわん泣いた。それを見ていた都先輩は「男の友情やなぁ」と呟いた。
5
「あ~、だりぃ」
俺は教室で机に突っ伏していた。
夏休み明けの学校は怠(だる)いし多くの生徒が休みボケをしている。勿論俺もその一人。やがて黒髪の若い男が入って来た。その男は鼻筋が通った色白で俗に云うイケメンの部類で女子達の目がハートになった。
「このクラスの担任小暮(こぐれ)先生は怪我の為今日から臨時で一ヶ月間このクラスの担任になる柊(ひいらぎ)修(しゅう)です。今日から一ヶ月間だけですがキミ達のお世話になります! よろしくお願いします!」と謙虚に挨拶し軽く一礼した。俺は心の底で変な奴と思った。
「じゃあ柊先生って彼女いないんですか?」女子生徒の質問に柊は笑顔で「うん、いないよ」と答えた。休み時間柊は早速女子からの質問攻めにあっていた。確かにあの女子受けするルックスなら解らなくもない。しかし柊は「でも好きな人はいるんだ」と言い女子達が「えー!」と言い「やっぱり同じ大学の人ですか?」一人の女子の質問に「違うよ。僕より年上!」と笑顔で答えると「おぉ~、正に大人同士のお付き合い憧れるっ!」と女子生徒が言い柊の周りは盛り上がっていた。俺は柊をよく観察した。何故観察しているのかというと俺は柊を始めて会った来がしないからだ。というよりも、絶対どこかで会っているに近い。でもそれがどこでだか思い出せないのだ。やがてチャイムが鳴り生徒達は席に着きやがて次の授業が始まった。
放課後、俺はcanaryに行く為教室を出ようとすると「ちょっと、近藤!」と女子のクラス委員長に呼び止められた。「アンタ日直でしょ! 日誌届けなさいよ!」と俺に日誌を押し付けた。「はぁ? テメェも日直だろ? そんなもん自分で届けろよ」俺の言葉に「私は生徒会で忙しいの!」と言った。確かに彼女は生徒会に所属している。俺に日誌を押し付け自分はさっさと生徒会に行ってしまった。
「――ったく、あのブス……」俺はぐちぐち文句を言いながら日誌を書いた。「えーと……」と俺が日誌の今日あったことをどう書くか悩んでいると「臨時教員が来ました、とかどう?」とヨコから言われ「そうそうそれな……って、うわぁっ!」俺は驚いて後ずさった。すぐ傍に「やほ!」と言って笑顔を向けている柊がいた。「ひ……柊? なんでここに?」俺の質問に「そんなに驚くことなくない? 見学だよ。け・ん・が・く!」と陽気に言い「あ~、見学ねぇ」と俺は脱力したように言い「とりあえず日誌書くんで邪魔しないで下さい」と言い「なんか近藤君って僕に塩対応じゃない?」と言った。俺は「そうですか?」と答えた。確かに俺は塩対応だがそれはこの柊という言う男が怖いのだ。何を考えているか解らないしこの笑顔も作りものっぽい。ハッキリ言って気持ち悪い。その一言の尽きる。俺がそう思っていると「ねぇ、近藤君……桜庭先生ってどう?」と突然尋ねて来た。「はぁ、なんでいきなり桜庭が出てくるんだ?」俺の質問に「答えてくれないかな?」と背筋が凍るような笑顔で言い俺は一瞬怯え「か……堅物(かたぶつ)だけどいい奴だぞ」と俺は言い「いい奴ってどんな風に?」と聞いて来たので「え……と、例えば家に上げて怪我の手当てをしてくれたりとか……」すると柊は「家に上がった?」と呟くように言い「ふ~ん……そっかぁ」と言い「ありがと! 桜庭先生っていい先生してるんだね!」といつも通りの陽気な調子に戻り「じゃあ、職員会議があるから! じゃね!」と言い教室を出て行った。
「――でよぉ。なんか気味悪いんだよ! そいつ!」
俺はcanaryで蒼と都先輩に柊の話をした。「そら、くせ者やっちゃな」と都先輩が言い「っていうかその柊先生って桜庭先生となんか関係あるのかなぁ?」と蒼が言った。俺は知らんと答えた。「でもどっかで見たことあるんだよなぁ~、あの顔! でも思い出せねぇ~!」俺はイスに座りながら伸びをした。「それってデジャブじゃないか?」という声が後ろからし見ると桜庭がいた。
「おっ! 桜庭はん、いらっしゃい」と都先輩が言い「フロリダを一つ」と桜庭が注文すると「はいな!」と都先輩がフロリダを作り始めた。(因みにフロリダとはノンアルコールのカクテルのことだ)。その間に桜庭がデジャブのことを話し始めた「デジャブとは――」「一度も見たことがない物を見たことがあると思ったりすること」俺の言葉に「ご名答」とパチパチ拍手をし「馬鹿にするな!」と俺は言った。
程なくして桜庭の前にフロリダが出され桜庭は一口飲み「やはり美味(うま)いな」と言い都先輩が「おおきにー!」と笑顔で言い「なんで二人共こんな親しげなん?」俺の問いに「あぁ、二人には言うてへんか? あの例のオフ会の後桜庭はんが謝って来てなぁ――」陽気に話す都先輩に対して桜庭が慌てて「いっ、言うな!」いつものポーカーフェイスからは想像もつかないくらい慌てふためき「なになに~?」と俺は悪(わる)乗(の)りし蒼は「可愛いところあるんですね」とクスクス笑いながら言い桜庭は「べっ、別に俺は……」と顔を赤らめてそっぽを向いた。(おっ! ツンデレか? 意外とかーわいぃ)と俺が思っていると「そう言えば近藤。お前今週の小テスト七点だっぞ! もっと勉強しろ!」と言って来た。
(前言(ぜんげん)撤回(てっかい)! やっぱかわいくねぇ……)
こうして俺達はcanaryで思い思いの時間を過ごした。
翌日学校に行くと下駄箱に何か入っていた。下駄箱に入っていたものは封筒で封を開けるとそこには『サクラバニチカヅクナ』という新聞の切り抜きの脅迫文といつ撮ったのか解らない写真が出て来た。写真に写っていた俺達は恐らくcanaryから出て帰る時だろう。しかも写真の俺と蒼の顔にマジックでバツ印が書かれていた。(しかもご丁寧に油性だ)。
「なんだ……これ?」
俺は身の毛もよだつ恐怖に襲われた。教室に行くと黒板にでかでかと『近藤竜彦は尻軽男』と書かれていた。俺は急いでそれを消し急いで桜庭の所へ向かった。すると廊下で桜庭と鉢合わせ桜庭も慌てた様子だった。そして俺を見た第一声が「近藤無事か?」だった。
俺達は屋上へ行き脅迫状と写真のことを話した。すると「俺の所にも脅迫状と写真が来た」と言い脅迫状と写真を見せて。桜庭に届いた脅迫状には『アナタハワタクシダケノモノ』とチラシの切り張りで俺のところにきた文面は違えどほぼ内容はストーカーよろしくの文面で写真は全く同じで俺と蒼の顔の所には同じくバツ印が書かれていた。俺は蒼が心配になり蒼にラインでメッセージを入れた。するとすぐに返信が着て『今先生に呼び出しを受けた』と返信が来た。
「これイタズラなんて可愛いレベルじゃねぇぞ」俺の言葉に「しかし、俺にこんなメッセージを送る奴は……」桜庭が言いかけていると屋上のドアがバン! と開き「あ! 桜庭先生!……と近藤君……? どうしたの?」と柊が現れ俺達を見て疑問符を浮かべた。俺は事のあらましを一応説明して「ん~、それは随分悪質なストーカーだね……」と顎(あご)に指を添え考えながら言い「なら、警察に連絡とかストーカー規制法とかはどうでしょうか?」と提案すると桜庭が「警察は事件があってからしか動かない。それならストーカー規制法を使うならもう少し様子を見た方がイイ」と言い「とりあえず一応周りの人にも怪しい人がいないか注意を呼び掛けてみるよ」と柊が言い「あ! そう言えば桜庭先生。職員会議が始まるそうです。内容は多分……」と言い俺達に宛てられた脅迫状を見た。「だろうな……」と桜庭は言い屋上を出て行った。俺は写真を見て写真を怒りで握り潰した。
放課後になりcanaryに行く途中柊が写真部の奴らに何かをお願いされていた。内容は顧問の小暮が怪我の為一ヶ月休むからその間代理で顧問になって欲しいというものであった。何故柊に頼むのかと言うと柊が大学の頃写真サークルに入って写真を撮るのが得意でズブな素人より頼りになるからというものだった。結局押し切られる形で柊は臨時顧問になってしまい俺は心の中で合掌しcanaryに向かった。
「しっかし、また偉いもん送ってきおったわ……」都先輩は写真を見て溜息をついた。店にはすでに蒼が来ており都先輩に送られてきた写真を見せていた。「こら本格的なストーカーやな」と言い「たっちゃんと蒼君も要注意した方がええで……このテのタイプはなにするかわからんから……」と言い俺達にオレンジジュースを出した。「え? それってどういう?」蒼の質問に「梶井君の時とは違(ちご)うて顔を潰してるやろ・それは一般的ヤバい系統なんや」と都先輩は言った。「ちゅうかこれ、スマホやなくてカメラで撮ったやつやな……」都先輩は写真を見て溜息をつきながら言った。「え? 解るんですか?」俺の言葉に「解るわぁ、ワイの叔父写真家やし」と言った。「あぁ例の理解者の叔父ですね?」と蒼が聞き「そうや!」と都先輩は相槌を打ち「前に叔父に聞いたんや。スマホはノイズが走って手振れ起こすからキレイの撮れへんって……でもこの写真は手振れもノイズも走ってへんやん。せやからカメラっちゅうことになるんや」と答えた。「そうなると「犯人はカメラに精通(せいつう)した人?」俺の言葉に「それは解らんけどその可能性は大やな。ちゅうてもデジカメもあるから一概にそうとも言い切れんけど……」と都先輩は言った。その時客が入って来たので俺達は退散した。
それから数日が過ぎた。その間何事もなく写真の件も忘れ平穏に過ごした。そして柊の任期も終わりクラスのH・R(ホームルーム)で柊が別れの挨拶をし帰りのH・R(ホームルーム)が終わり俺はcanaryに行く為蒼にラインを入れると「近藤! ちょっとお前! 職員室に来い!」と教師から呼び出しを喰らい俺はめんどくさかったが逃げきれないので蒼に『ちょっと遅れて行くわ』とラインにメッセージを入れ職員室に向かった。教師の話はテストの成績の話で俺は適当に聞き流し教師もさじなげて「もうイイ、今日はもう帰れ」と言ったので俺はお言葉に甘えて帰り支度を整えて昇降口に向かう途中急に誰かから口をハンカチか何かで口を塞がれた。何か薬品が仕込まれていたのか俺の意識が遠のいた。
ザァァァァァ。
俺は雨音で目を覚ました。目を覚ますとそこはマンションの一室で壁には一面写真が貼られていた。
(どこだここ?)と俺は思い手足を動かそうとすると手足が動かず自分が結束バンドで拘束されているのが解った。
「なんだよこれ?」
俺は茫然と呟き近場にあった周囲の写真を見た。そこには桜庭が写っていた。
「なんで桜庭が?」俺の声に「僕の初恋の人だから」と声がした。俺が声の方を向くとそこには柊がいた。
「柊……おいっ、これどういうつもりだよっ! 放せよっ!」俺の要求に「うん、いいよ、僕の要求を呑んでくれたら」と柊は言い「要求?」と俺は聞き返した。「そ!」と柊は言い「じゃあ単刀直入(たんとうちょくにゅう)に言うけどキミ達邪魔だからどっかに転校するなりなんなりして桜庭先生の前から消えてくれない?」柊の言葉に「は?」と俺は言葉を漏らした。なんでこいつにこんなこと言われなきゃならんのだ? 俺の低い沸点が沸き上がり怒りがこみあげて来た。
「なんでテメェにそんなこと言われなきゃならねぇんだよ?」俺の言葉に柊は不敵に微笑み「僕ね、桜庭先生の教え子なんだ。高校の頃学校で桜庭先生のお世話になって好きなったんだ」と言い俺はますますワケが分からず混乱した。そして、柊は続ける。「だけど先生は僕の気持ちを受け取ってくれなかった。教師と生徒でしかも男同士だからという理由で……」と言い「なのに君は先生の部屋に入ってあまつさえ先生に手当された? 羨(うらや)ましいっ! 僕は先生の部屋に入ったことないのにっ!」と喚き散らした。
(何言ってんだコイツ?)と俺は思い唖然として聞いていた。
「だから消えてくれない?」と言い包丁を持ちだしてきた。「ちょっと待てっ! 俺だって好きであんな学校行ってるわけじゃねぇんだよ! っーか、滅茶苦茶だろ! 片想い(?)している相手に振り向いてもらえないからってその邪魔者を殺す思想! ヤンデレかよ?」俺の抗議に柊が耳を貸さず包丁を振り上げた。
(もうダメだ!)と思い俺は目を瞑った――瞬間、バンッ! 勢いよく玄関のドアが開いた。それと同時に「竜彦!」と蒼が入って来た。「どうしてここが?」と柊が聞くと桜庭が現れ「GPS機能を使わせてもらった」と言い「やっぱりお前だったか? 鵲(かささぎ)……」と言った。「先生……俺のこと覚えて……」と柊は言うと「当たり前だ。自分の元生徒で教え子を忘れるわけがないだろ……」と言い「最初は解らなかったよ。苗字が違うし白髪だった髪の色も違うし……」桜庭の言葉に柊は包丁を落とし泣き崩れ蹲った。(ん? 白髪……)そしてと聞き漸く思い出した。「あーっ、お前桜庭の部屋にあった写真の奴!」
そう、柊こと鵲(らしい)は前に桜庭の部屋にあった写真立てに収まっている写真の男だった。
俺は結束バンドを解かれて柊改め鵲の話を聞いた。鵲は昔から髪の色せいで周囲からバカにされ人に馴染めず孤立していた。高校でも同じく孤立しぼっちだった。そんな鵲が高二の時に当時教師になりたてで写真部の顧問の桜庭が鵲に部員が少ないからという理由で鵲を写真部に誘った。最初の頃は中々写真に馴染めず四苦八苦していたが鵲はめきめき腕を上達させ県のコンクールの入賞し部員の皆とも馴染んだ。そして。自分が今のようになれたのは桜庭おかげで桜庭に感謝し同時に尊敬と憧れを持ちある日自分の気持ち打ち明けた。しかし、桜庭は教師が生徒に手を出すなんて豪語(ごうご)同断(どうだん)と言い気持ちは当然NO。その時鵲に魔が差し桜庭にレイプされたと嘘の情報を流しそれが学校中に知れ渡り結果桜庭は辞職に追いやられた。これが例の桜庭が女生徒を妊娠させたというデマの発端(ほったん)だった。そして、噂はこれに尾ひれがついただけらしい。
「その後両親が離婚して僕の姓は母親の旧姓の柊に変わったんだ。両親をも僕は騙したんだ。最悪なことしたってのは解ってる。あの時はなんて馬鹿なことをしたんだろって……でも解って欲しかった! 知って欲しかった! 僕の気持ちは本物だって!」と言い「僕はもう生徒じゃないし子供じゃない!」と泣き叫ぶと桜庭は「いや、お前は子供だ!」と言い切り「お前は解っているのか?俺のストーカー行為だけならいざ知らず俺の生徒にまで手を出し挙句に拉致(らち)監禁(かんきん)した。これは、立派な犯罪だ」と。鵲は黙り小さく頷いた。「だから例え未遂とは言え罰を受けろ。これが俺の課題だ」と言い「先生……」と鵲は言い桜庭は「それで罰を終えて出所した後まだ気持ちが変わらないなら考えてやる」やると言い鵲は泣き崩れた。
鵲は警察に出頭し未遂だったことや怪我もなく自首したこともあって為刑期も通常より軽くなった。とはいえ俺達は警察に散々事情聴取され家に帰るころにはクタクタだった。帰り際に「鵲の事悪く思わないでくれアイツはアイツなりに真剣に悩んでこのようなことに出ただけだ。アイツは本当はいい奴なんだ。だから頼むっ!」と桜庭が、珍しくお辞儀をした。「僕はイイよ……竜彦は?」と蒼が俺に聞くと「ちっ! まぁしゃあねぇなぁ……ここまでされたら許すしかねぇだろ……」と俺は溜息を吐き桜庭は「すまない」と言った。俺は桜庭がお礼を言ったことに驚き「桜庭がお礼を言った……」と呟くと桜庭が「お前俺を何だと思っている?」と桜庭がツッコんだ。
6
「――で、あるからして皆さんも将来の進路はくれぐれも慎重に……」
文化祭も終わった十一月。朝っぱらから校長のクソ長い演説が終わり皆がようやく終わったと言い教室に戻る中生徒たちは進路どうする~? 等と言っていた。この学校は金持ち共が集まる名門校の為多くの生徒がコネがある。だから大半の生徒は進学し卒業したら親からのコネ入社が多い。しかし、俺は無理だ。まず、父親が政治家な上に加えて俺は父親に反抗中。そもそも、俺は政治家になる気は毛頭ないしその頭も持ち合わせていない。かと言ってやりたいことも無し(半端なんだよなぁ……俺)と俺はぼんやり思い学校での一日を終えた。
「たっちゃんに向いとる仕事?」都先輩は鳩が、面喰らったような表情をした。「うん、そー」と俺はカウンターに突っ伏したまま相槌を打った。学校が終わった俺はcanaryに向かい都先輩と蒼に相談した。
「ほな、そんなことたっちゃんが決めればエエやないか?」と都先輩が言い蒼が「でも、珍しいね……竜彦が進路のこと話すなんて……」と言って来た。「だってよぉ~」と俺はうだうだ話すと「あんなぁ、若いうちは色々やってみるもんもテやで。それで、見つかるなんてことあるんやから」と都先輩が言い「なんでも……はぁ」と俺は溜息をつき「あぁ、俺の名前は竜なのに迷うなんて……」と言うと都先輩が「名前関係あらへん?」とツッコんだ。「そういえば竜彦って珍しいよね? 普通りゅうっていうと中国の龍の漢字を付けるのに……」蒼の言葉に「だろ? そう思うだろ?」と俺は蒼の手を握り「俺さ、実は名前にコンプレックスがあって竜(ドラゴン)の竜(りゅう)って文字嫌いだったんだ! だって、なんかこの字って尻尾(しっぽ)の生えた亀(かめ)みたいじゃん!」と言うと蒼と都先輩が上を向きやがて吹き出し「確かに」「やな」と言いやがて「竜彦元気出たね?」と蒼が言い「へ?」俺は言葉を漏らし「やっぱり竜彦は元気にしてるのが竜彦らしいよ!」と蒼は言い(俺はめられた?)と思いながらもカバンからファッショ雑誌を取り出した。
「竜彦ってファッション雑誌よく持ち歩いてるよね?」蒼の言葉に「まーな! モテる男はまず流行の最先端(さいせんたん)からってな!」俺は自信満々に言った。
「俺さー、こういうヘアスタイルいいと思うんだー! ちょっとパーマがかった――」と言いページをめくり蒼が「そう言えば竜彦の髪も少しパーマかかってるよね?」と指摘したので「まぁな!」と言いやがて蒼を見て「そう言えば蒼髪伸びすぎてないか?」俺の言葉に「あ……う~ん。そうかも……でも生活に支障ないし??」と蒼が言いかけると「よし、俺がシバっと決めてやるよ!」と言い「都先輩物置と散髪道具借ります!」と言い都先輩が「部屋と道具は使(つこ)うたらなおしといてな~!」と言われた。
俺は早速蒼にカットクロスを被せ散髪の準備を始めた。散髪は順調に行きおよそ十分後――、
「わぁ!」
鏡を見た蒼が感嘆(かんたん)の声を漏らした。前髪は眉毛が見えないくらいに切り揃えて髪の毛も一センチほど切り全体的に薄くした。
「スゴイ……竜彦……」蒼の言葉に「だろ? 俺自分で自分の髪を毎日セットしているし髪をいじるのは好きだしな!」と俺は上機嫌で言い「竜彦って美容師とかに向いてるんじゃ……」と蒼は言いその言葉に「……美容師……成程、それもいいなぁ」と俺はにぃ悪笑いを浮かべた。
それから俺は美容師になるべく美容師の職業に対する本を読み専門学校の資料を集めた。もっとも家では見れなかったのでcanaryで見て蒼と都先輩の意見を比べ親に内緒でこっそり学校見学にも行き漸く行きたい専門学校が決まった頃――、
「これはどういう事だっ! 竜彦っ!」
親にバレた。バレた原因は数ある資料集の一枚を俺がカバンにしまい忘れてそれを俺が学校に行ってる間に掃除に来たお袋に見られて発見されてしまった。
「どうもこうもねぇよ……学校の資料だよ!」俺の態度に親父が「なんで専門学校なんかに行くんだ! 専門学校とは大学に行けない落ちこぼれが行くとこだぞ!」
(それは失礼な。全国の専門学校生に謝れ!)
俺は内心そう思いながらも「ふざけんなっ! 俺は大学には行かねぇんだよ! 俺は俺のやりたいことをするんだ!」と反論した。するとパァン! と平手打ちが飛び「出てけ!」と言い俺もキレ「ああ! 出てってやるよこんな家!」と売り言葉に買い言葉。俺は部屋に行き荷作りをしバッグ一つで家出をした。
「――とは言ったもののどこ行きやいいんだ?」
出て早々俺は途方に暮れた。ネカフェもカラオケもダメ。ホテルなんてもっての他。
(甘かった……)と思い「とりあえず友人宅に泊めてもらおうかな?」とスマホを取り出したが全員バイトやら女と一緒やらとの為アウト。最後の頼みで蒼に電話した。しかし、蒼もアウト。ただ蒼は『何があったか解らないけど相談にのるから』と言い俺は蒼と最初に行った公園で待ち合わせをすることにした。
公園に着くと蒼は着いており「ワリィ……待たせて……」と俺は申し訳なさそうに言うと『竜彦……本当どうしたの?』と俺に聞いて来た。蒼はもっていたハンカチを水道で冷やし俺の腫れてる方の頬に当てた。「少し染みるけど我慢してね?」と言いハンカチが頬に触れた。「痛っ!」俺の言葉に「あ……ご……ごめん」と蒼はしゅんとした。「あー、気にすんなって。蒼は悪くないから!」と俺は無理に笑顔で言った。そして事の経緯(けいい)を話した。
「そっか……お父さんと進路のことで喧嘩しちゃったんだ……」蒼の言葉に俺は頷き「親父はガキなんだよ。怒鳴って手を挙げれば子供が言うこと聞くと思ってるんだよ……」と俺が言うと「僕はどっちもどっちだと思うなぁ」と溜息交じり言った。「あ? なんでだよ?」俺が怒気を孕んだ声で睨んで言うと「ほらそう言うとこ……」と蒼が指摘した。「むぅ……」俺は苦言(くげん)を漏らした。
俺は少し頭を冷やす為に自販機でジュースを買い来てもらった蒼にもジュースを手渡した。そして、俺はジュースを飲み干し「ぷはー、やっぱ弾けたい時は炭酸だわ!」と俺は言い蒼はアイスティーを飲みちびちびと飲みやがて「竜彦はどうしたいの?」と聞いて来た。俺は黙り「どうしたいって……」珍しく口ごもった。俺はどうしたいんだろう? いずれは話さなきゃならなかった事とは言え自分で勝手に決めてそれが原因で親と喧嘩して家飛び出して……。
「俺やっぱガキだわ……」と言い自分の無力さを痛感した。蒼は怪訝な顔をしたので俺は前に桜庭に言われたことを話した。今の自分の暮らしや自分があるのは親がいて親が全部してくれてるから今の俺がある。お金だって親の金で自分で稼いだ金じゃない。いくら粋(いき)がっても自分は無力なただの子供だということを思い知らされる。現実は酷(こく)だ。
「あ~、俺ってカッコワリィ……」と言い残りのジュースを飲んだ。すると蒼が「あのさ……僕思うんだけど竜彦はお父さんにちゃんと話したの?」と聞いて来た。「え?」俺は聞き返した。「ちゃんと美容師になりたいってちゃんと理由とか話したの?」と蒼は聞いて来て俺は黙った。そうだ、俺は何ひとつ話していない。美容師になりたいという理由もきっかけも。それなのに俺はムキになって反論して「俺バカだ……」俺は呟くように言い空き缶をゴミ箱に入れると「サンキュー!蒼! 俺逃げないわ! 立ち向かって親父とお袋を納得させるわ!」俺はそう言い自宅へと戻った。――とはいえ……
「戻りにくい……」
さっきあんなにカッコ良く飛び出したのにあれから三時間で家に戻るなんてダサすぎる。とはいえ俺は蒼と約束したんだ。俺は覚悟を決めて家の扉を開けリビングへと向かった。リビングはお通夜の様に重苦しい空気に包まれており親父とお袋は項垂れていた。
「……ただいま」俺がそう言うと親父が「どの面(ツラ)下げて来た?」と聞きお袋が黙って俺を見た。目元が腫れている。俺は一呼吸おいて「親父……お袋……俺美容師になりたいんだ……」と俺は冷静に言った。「竜彦! 貴方まだ!」お袋は金切り声を上げたが俺は無視して続ける。「俺今迄やりたいことが無くて流されるままだった。だけど、友達の髪をいじってて美容師に向いてるって言われて俺も確かに髪をいじるのは好きだしって気付いて美容師になろうって決めたんだ! この気持ちは本物だ! だから俺に道をくれ! 頼む!」俺はそう言い土下座した。「た……竜彦!」お袋が驚いてソファから立ち上がった。「アナタ……」お袋が親父に言いかけると親父が「言いたいことはそれで全部か……?」と親父が言い俺は「ああ」と俺は言い親父は口を開き「俺がお前ぐらいの年頃の頃俺も父親に反抗ばかりして家出をしてバイクで日本一周の旅に出たことがある……旅の途中で出会った人達はいい奴ばかりだった。だが、その分悪い奴もいた。だけどその都度(つど)人に助けて貰って旅を続けた……」俺は親父の過去の話を聞き驚いた。「そして自分が何故旅をしているのか理由が解った、自分を試したいからだと……そして俺は旅を終え家に戻り政治家を目指した。父親とは違う政治家になるんだと……」俺達は黙って聞き「竜彦……お前が自分を試すというのなら俺はお前を止めない。その代わり誰のせいにもするな! 全部自分で責任を持つ! 出来るか?」親父の言葉に俺は「ああ!」と力強く返事をし、こうして俺は美容師の専門学校への進学が許された。
7
「へぇー、じゃあお父さんとお母さん説得できたんだ!」蒼は安心したように言った。
俺達はcanaryで蒼と昨日のことを一部始終話した。
「蒼のおかげだぜ!」俺の言葉に「え? 僕のおかげ?」と蒼はきょとんとして言い「ああっ! だって蒼からの助言が無かったら俺親に話すなんてこと出来なかったから!」と俺の言葉に蒼は「ううん、それは違うよ。それは全部竜彦の力だよ。僕は助言しかしてないから……」と言った。「謙遜(けんそん)すんなって!」と俺は蒼の背中をバンバン叩いた。「い……痛いって竜彦……」蒼は苦しそうに言い俺は「ワリィワリィ」と言い蒼の背中をさすった。「しっかし驚いわー。たっちゃんの親父さんが昔バイクで日本一周の旅しとったんは……しかもたっちゃんくらいの年頃の頃に……」
都先輩の言葉に俺は改めて親父を思った。(いつも厳しいのも厳格なのも蒼の言う通り俺を思ってのことだったのか……)そう思うと今迄の自分が情けなくなってくる。俺は拳を押さえ「俺もう喧嘩はやめる! 喧嘩人生とはおさらばだ!」俺の言葉に蒼と都先輩はきょとんとし「竜彦?」「たっちゃん?」と呟くように言い「俺は美容師になるんだ! だから喧嘩なんかしてたら手を悪くしちまう。美容師にとって目と手は命だろ?」と俺の言葉に「たっちゃんが珍しく正論言ったわ……こりゃ明日は台風やな……」都先輩の言葉に「都先輩今台風来ません」と俺がツッコむと蒼がクスッと笑って「なんか二人って兄弟みたい」と言い都先輩が「まぁ弟分やしな」「まぁ、先輩だし」と俺達の声は重なりハモった。「やっぱり」と言い蒼はクスクス笑った。その時、店の奥から怒声が聞こえた。見ると女性客が男性客に怒っている。
「だから何だって言うのよ!」「仕事なんだから解れよ!」「貴方はそう! いつも仕事仕事って!」
はは~ん、要するに痴話(ちわ)喧嘩(げんか)か、と俺は睨んだ。都先輩が女性客を宥(なだ)めようとするが女性客はヒートアップしており聞く耳を持たない。「ああいうのをヒステリーって言うんだよな……蒼……って蒼?」隣を見ると蒼が忽然(こつぜん)とおらず俺は周囲を見渡した。その時女性客がボトル瓶を掴み男を殴ろうとした。これ本気でヤバいと思った瞬間……ポロン……とピアノの音が鳴った。見ると蒼がホールのグランドピアノを弾き始めた。とてもきれいな音色だった。心を揺さぶられ染み渡る。例えるなら静かな森の湖畔(こはん)を鳥達が囀(さえず)るような。
そこにいるのはいつもの引っ込み思案で控えめな蒼ではなかった。竜彦は勿論店の客も聞き入った。やがて、蒼の演奏が終わり店内からは割れんばかりの拍手が起こり男性客が謝り男曰くは今遂さっき喧嘩していた女性と早く結婚したくて仕事をしていたと説明し女性客も謝りこうして最悪の事態は免れた。
「蒼! オメー、スゲーじゃん! オタマジャクシ解るのかよ?」俺の言葉に蒼は苦笑いで「オタマジャクシって……」呟き「すいません都さん……勝手にピアノ使って……」とすまなそうに蒼が言うと都先輩は言葉に「ええって! 結果オーライやし!」と軽快に言い「やっぱ音楽は全国共通で人の心を和ませるもんやな!」と言うと「お~い! 都いるか?」と初老の男が入って来た。男は俺を見ると「おっ! キミか? 竜彦君は?」と俺の手をフレンドリーに掴みブンブンと振り「で、こっちの女の子は?」と蒼を見て言い蒼が「僕男です……」とツッコんだ。
「や~、悪いねー! 間違えて! あぁ自己紹介まだだったね? と言い懐(ふところ)から名刺を取り出した。名刺には『月刊世界の音楽家と名曲』と書かれていた。俺は(どういうこと?)と思い助けを求め都先輩を見た。都先輩は察したのか。「叔父さんそんじゃ解らんて……ちゃんと自己紹介せんとー!」と言うと男は「えー?」と言いながらも自己紹介を始めた。
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都先輩の奥さんは売れない漫画家で今もマンガを描いていらしい(どんなマンガかは知らんが)。理由はマンガを描くのが好きだからしい。
しばらくの後、俺は何とかショックから立ち直り都先輩に謝り京を見た。京は何故か蒼をジロジロ見ている。やがて蒼は「何です……か?」と聞くと京が「いや……キミ誰かに似てるなぁと思って……」その瞬間蒼は血相(けっそう)を変え店から逃げるように飛び出した。「あっ! 蒼っ!」俺も慌てて後を追ったが蒼の姿はもうどこにもおらずその日の夜に蒼からラインが来て『暫く会えない』とメッセージが来た。
それから二週間後。
俺はかなりイラついていた。その理由はあのラインの後から蒼から一向に連絡が来ないからだ。家を訪ねようにも家を知らない。知っているのは電話番号とラインの番号だけ。
「俺って蒼のこと知らなすぎだろぉ~」
俺はcanaryのカウンター席に座り机に突っ伏し溜息を吐いた。すると京が来て「やぁ竜彦君! この前の子は来ていないのかい?」
京の言葉に「来てません……っていうか二週間会ってもいません?」俺の元気のない言葉に京が「じゃあこれでも聞いてみる? 癒されるから!」と言い音楽を進めて来た。
音楽はクラシックで普段の俺なら絶対聞かない奴だ。俺は物は試しで聞いてみた。するとCDから心地よいピアノの音色が聞こえて来た。とても美しい音色だった。音楽のことが解らない俺でも解る。これは観客を魅了(みりょう)するリズムだと。
「スゲェイイ曲っすね……」俺がそう言うと京が「だろ! フランスのピアニストで俺の一押しの一人だ!」と笑顔で言った。その時都先輩が「蒼君パワー補充出来たかや?」と聞いて来た「蒼?」と京は眉をひそめ「あ~! 思い出した!」と大声を上げた。俺はイスから落ちそうになり「なっ! なんだよ! おっさん? びっくりするじゃねぇか……」俺の言葉に京は「あの子誰かに似ていると思ったらあの子だ! あと俺はおっさんじゃない!」と断言した。「んで、あの子って誰やねん? 叔父さん」と都先輩が訪ね「あぁ、そうか二人は知らんわな……」と京は言いバッグから音楽雑誌を取り出しページをパラパラ捲(めく)り「あっ! あった! これだ! これ!」そう言い俺と都先輩に雑誌を見せた。雑誌には一人の青年がピアノを弾く姿とトロフィーを持った姿が写されていた。しかし問題はそこではない問題なのはそこに写っている青年だ。その青年は装(よそお)いこそ違えど蒼だ。しかし、名前は響(ひびき)蒼(そう)一(いち)と書かれている。俺はどういうことか解らず京に尋ねた。すると京は「あぁ、この人は響蒼一っていって凄腕の世界的なピアニストで数々の賞を総ナメにしてきたピアニストで俺の一押しのピアニストの一人で……」と説明してきた。しかし、そんなこと俺の耳には入って来ず俺は雑誌を食い入るように見やがて次のページに進むと衝撃的な見出しが書いてあった。
『響蒼一失踪!』と。
(どういうことだ?)俺はますます頭がこんぐるかり京に聞いた、すると京が言うには彼響蒼一は一年前フランスでの公演を最後に行方不明になったらしい。
「まぁ、世の中には同じ顔をした人が三人はいるっていうから……でも、凄い似ていたなぁ」と京が言っているが俺はそんなことお構いなしにcanaryを飛び出した。
しかし、思い返せば思い返す程納得がいった。学校に行きピアノ裁きに細かな指使い。そして、あのピアノ裁き。全て合点(がてん)が行く。
時間は夕方五時。真夏ならともかく真冬の五時はかなり暗く寒い。しかも、今夜はクリスマス。人混みも多く街はごった返している。 それでも俺は蒼を探した。それこそ街中のいたるところまで。しかし一向に見つからず時間だけが過ぎ俺は息切れし手を膝に付いて蒼の行きそう所を考えた。しかし、俺は全く思い当たらない。
「くそっ! 全然思い当たらない! 何がダチだ! 俺蒼の事全然何も知らないじゃねぇか!」と俺はぼやきダメもとでスマホに電話をかけてみた。しかし、『おかけになっ番号はただいま電源が切れているかマナーモードになっております』と機械音が流れ「クソっ!」と俺が吐き捨てるように言うと「なにがクソなんですか?」と聞き覚えのある声が後ろからした。後ろを振り向くと「梶井……と里川……」がいた。「お前等何やってんの?」俺の問いにオシャレをした梶井が「それはこっちのセリフですよ……いきなりクソって……」
梶井はデートの時だけはこのオシャレにコーディネイトした格好になる。そして、今日はクリスマスで里川の好きなアニメのライブがあって今はその帰りらしい。俺はダメもとで二人に蒼を見なかったかと聞いた。すると、里川が「奏君だったらさっきバスの中で見たけど……なんかすごい思い詰めていたような感じだったかな」と言い俺は「下り? 上り?」と聞くと里川は「上りかな」と言い俺は「上り……蒼の通う学校だ!」と俺は直感で思い俺はバス停に向かった。しかし、最終バスはとうに行ってしまった為俺は聖薗学園高等部へ走って行った。
8
聖薗学園へ着いたのは深夜零時だった。俺は全力で走って来た為かなりへとへとだったがそんなこと知ったこっちゃっない。俺はフェンスをよじ登り校内の敷地に侵入した。校内は静かで誰もいない。流石(さすが)に校舎内には入れないので外を探した。しかし、どこにもおらずここもダメか……と途方に暮れた時ひたひたという足音が聞こえた。俺は足音の方を見ると蒼が外付けの非常階段を昇っていた。俺は速攻で嫌な予感がした。俺は蒼を追いかけて無我夢中で非常階段を昇り屋上に辿り着いた。そこに蒼はおり蒼はフェンスを乗り越えようとしていた。
「蒼っ!」俺の言葉に蒼は反応し蒼は俺の方を振り向いた。蒼の表情はこの世で絶望を知った表情をしていた。
「竜彦……」蒼が小さく声を漏らした。そして蒼は「ごめん……もう、ううん。最初から奏蒼なんて人間どこにもいないんだ……」と辛そうに言った。そして「僕の本名は響蒼一。ピアニストの響蒼一なんだ……」と言った。「じゃあやっぱり……」俺の言葉に蒼は「知ってたんだ」と言った。そして「どうして知っちゃうんだろ? 僕って嘘の才能ないのかな?」と言い「蒼……」俺が一歩踏み出すと「来ないで!」と蒼が叫び「来たらここから飛び降りるから!」と叫んだ。俺は歩を止め立ち止まった。
「どうして知っちゃうの? 漸く友達が出来たと思ったのに!」
「蒼?」
「いつもそうだ! 周りは僕の正体を知ると媚(こ)び売ってへつらう……誰も僕を僕として見てくれない! 皆が見ているのは天才ピアニスト響蒼一だ!」と蒼は叫ぶように言った。「周りは僕を天才ともてはやすけど僕は本当はそんな人間じゃない! ピアノに縛り付けられたただの凡人だ! だから僕の価値はピアノしかなかった……だけど――」蒼はそう言い手を俺の方に向けて差し出した。手はかすかに震えている。「神経の病気で手が思うように動かないんだ。両親が有名な医者に見せたけど無理だった。だからもうプロとしてはやっていけないって……だけど、僕本当はホッとしたんだ。これで漸くピアノから解放されるって……好きでもないピアノやってコンサートに出るのが僕は苦痛だった……それなのにいつも周りの顔色ばかり伺って言いたいこと言えずにいた……だから――」「見損なうなっ!」俺は蒼の言葉を遮り大声で怒鳴った。
「竜彦?」
「俺はそんなことで判断しねぇし決めつけねぇ! 俺の目の前にいるのは口下手で内気だけど人一倍思いやりのある奏蒼だっ!」
俺の言葉に蒼は黙った。そして俺は続ける。
「あの日お前が俺の前で初めてピアノ弾いた日、俺音楽とかよく解らねぇけどスゲェ心が揺さぶられたんだ! こんなに心を揺さぶられた音楽は生まれて初めてだったんだ! 蒼がピアニストだって知らなくても……。皆肩書とかで人を判断するけどそんなものは必要なくて本当に大事なのはその人の良さをどれだけ理解するかなんだと思う!……俺も同じだったから。周りは俺がお坊ちゃん校に通っているからとか親が政治家だからとかへつらって毎日がクソだった。誰も俺を竜彦って見ねぇし……だから喧嘩ばかりしてウサ晴らしてそれで俺は強いんだって勘違いしてた。それで、調子に乗って都先輩に勝負挑んだら逆にボコボコにされてそれで都先輩に諭されたんだ。『お前さん自分がここにいるっていう事を証明したいんやな……』って。要するに俺は誰かに俺の存在していることを他人に認めて欲しかったんだって気付いたんだ。それから『無理に自分を飾る必要はあらへん。ありのままの自分が一番なんや』って諭されて俺何やってたんだろうって思った。自分は肩書なんかに左右されない孤高の一匹狼を気取ってたけどほんとはカッコつけてただけの構ってくんだったんだってことに気付いた。それからの俺は無理してカッコつけるのを止めた。自分は中二病でもいい! 正義のヒーローになるんだって!」俺は蒼に向かって言った。
「それからは俺にも仲間が出来た。俺のことを肩書じゃなくて俺自身を見てくれる仲間が……そしてお前に会えた。ピアニストの響蒼一じゃなくてただの奏蒼に!」俺は蒼に手を差し出し「俺はお前のことが大好きだ……蒼として……」と言うと蒼は瞳からボロボロと涙を流し「僕も……」と言い「竜彦……僕も……」と言い俺達は手を取り合った。その時朝(あさ)陽(ひ)が出て俺達を照らし出した。
9
「お疲れさまでした!」そう言い客が笑顔で「貴方腕いいわね! また指名するわ!」と言い俺は笑顔で「ありがとうございます!」と返事をした。
「じゃあ近藤君上がっていいよー!」店長の言葉とともに俺は「ありがとうございます!」と言い店を出た。
「ふ~、つっかれたぁー」俺はそう言い空を仰ぐ。空は雲一つない青空で清々(すがすが)しい。
あれから五年。俺は高校を無事卒業し美容師の専門学校に入学し美容師になるという夢が叶い美容師になり今の美容室に就職した。そして、今日はある事の為に早退した。そのある事とは――、
「都先ぱーい!」と言い俺はカフェバーcanaryを訪れた。店の中は飾り付けられており普段よりもおしゃれだ。
「おっ! たっちゃん! 来はったか?」都先輩が俺を見て言い料理を運んでいる。「蒼来てますか?」俺の問いに都先輩は笑顔で「安心せい! まだ来てへんから……」と答えた。
俺は安心した。今蒼は海外に住んでいる。あの日の後蒼はピアニストを引退するとマスコミに表明し今は作曲家として世界を飛び回っている。そして、今日は蒼の誕生日と同時に帰国する日だ。
「蒼早く来ないかなー」俺は心待ちにし待っていると店のドアが開き「ごめん! 遅れて!」と蒼が慌てて入って来た。
「蒼!」
「竜彦!」
俺達は抱擁(ほうよう)を交わし誕生会が始まった。
「こんな誕生日祝えて貰って僕嬉しいな!」蒼は頬を少し紅潮させて言った。その言葉に俺は「まぁ新曲祝いでもあるけど……」と俺は言った。そう今回は蒼の誕生日祝いだけでは無く蒼の新曲祝いでもある。
「新曲好評らしいじゃん?」俺の言葉に蒼は「弾いている人が上手いだけだよ……」と少し照れながら言った。
「そういえば新しい曲の名前なんて言ったっけ? 確かフロ……フロ……」
「フロイント」蒼が言い「そうそれ! それって何語でどういう意味?」俺の言葉に蒼は優しく微笑み「ドイツ語で意味は??友達」と答えた。
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