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氷魚(ひお)

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7/8 夕暮れと遊園地

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 友達と二人で遊びに来た遊園地は、信じられないくらい楽しかった。
 彼女にとって、彼は最近できばかりの、新しい友達。
 バイト先が同じで、同い年。
 好きな音楽が似ていて、どんな話題でも盛り上がれる。
 男の友達は初めてだけど、女友達といるよりも楽しかった。
 昼前に到着した遊園地は、夢の国。
 いろんな乗り物に乗って、パレードを見て、食べ歩きして、お土産を買って。
 そんなことをしているうちに、あっという間に夕暮れになる。
「門限って、何時だっけ?」
 彼が尋ねてきて、彼女は答える。
「21時」
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「まだ時間あるよ?」
 ここから彼女の家まで、一時間あれば余裕だ。
 彼は笑って、彼女をうながす。
「途中でメシ食って帰ろ?」
「うん! おごってくれるんでしょ?」
「当たり前だろ」
「マックはダメだよ?」
「分かってるって」
 茶化す彼女に、彼は笑う。
 いつもニコニコしてる彼といると、安心して甘えられる。
 混雑する園内に、彼はさりげなく手をつないでくれる。
 離れないようにと歩く彼に、彼女も笑顔になる。
 もうしばらく彼と一緒にいられるのが嬉しい。
 こうやって彼と過ごせる時間は、あとどれくらいだろう。
 彼に恋人ができるまで?
 彼女が、バイトを辞めるまで?
 分からないけど、今を大事にしたい。
「ねえ」
「なに?」
 呼びかけると、彼が振り返る。
「また、一緒に来ようね?」
「いいよ」
 彼が笑って頷いた。
「友達じゃなくなっても?」
「え?」
「好きな人ができても、私と一緒に来てくれるの?」
 彼女のセリフに彼は戸惑い、困った顔になる。
 けれど、しっかり頷いて、彼女を見た。
「うん」
「それならいい!」
 彼女は明るく返事をした。
 また彼と一緒に遊べるなら、それで良かった。
 だけど彼はめずらしく、口ごもる。
 そうして、頭をかきながら、恥ずかし気につぶやいた。
「……もう、好きな人と来てるんだけど」
「えっ?」
 彼女は目を丸くした。
 そして直後に、彼に思いっきり抱きついた。







(終)




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