バラのおうち

氷魚(ひお)

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第8話 ルディ

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 思い出すのは、陽に透ける美しい髪。
 そして、パッと周りを明るくしてくれる笑顔。
「クリス~!」
 僕を見つけると、ルディは笑顔で手を振って、駆け寄ってくる。
 緑色の瞳は、いつもきらきらと輝いて。
 その美しい容姿と輝きが眩しくて、天使みたいで、綺麗だった。
 オリヴァーとルディはもともと一族の人間で、後から加わった僕は、明らかに二人より劣っている。
 一族の持つ能力もほとんど使えないし、体も弱い。
 一人で放っておかれたら、飢えて死んでしまうくらい、脆弱な存在だ。
 でも、オリヴァーとルディが、いつもそばに居てくれた。
 幼馴染の彼らは、性格は全く違うのに仲良しで、その輪に僕も入れてもらえて、すごく嬉しかったんだ。
 ルディはいつも僕に優しかったけど、オリヴァーは始めの頃から態度は変わらなかった。
 口が悪くて、僕の欠点を容赦なく責めたてて、傷つけられることが多かった。
 弱いのも足手まといなのも、本当のことだから仕方ないけど、オリヴァーに責められるのはつらかった。







 こっそり隠れて泣いていると、いつもルディが探しに来て、慰めてくれた。
「オリヴァーは、僕のことが嫌いなんだ……」
「違うよ、クリス」
 ルディが、ハンカチで涙をぬぐってくれる。
「オリヴァーはね、クリスのことが心配でたまらないんだよ」
「そんなわけないっ」
 ひどい言葉ばかり投げつけてくるのに。
 僕を見ると、いつも顔をしかめるのに。
「本当だよ。オリヴァーは、気にいらない相手とは話もしないんだから」
「……ルディが、僕と仲良くしてくれるから、仕方なく、そうしてるんだろ?」
「違うって。オリヴァーはクリスのこと、大切に思ってる」
 ルディはそう言うけど、そんなの嘘だ。
 だってオリヴァーは、ルディが好きだから。
 ルディに嫌われるようなことをするはずがない。
「ルディがいなかったら、僕なんて、すぐに見捨てられるよ」
「そんなことは絶対ない」
 きっぱりと言い切るルディは、よほどオリヴァーのことを信頼しているのだろう。
 ここでいくら言っても、ルディには分かってもらえない。
 だから、なんとか涙を止めて、無理やり微笑んだ。
「ありがとう、ルディ」
「うん」
 ルディは嬉しそうな顔で、僕に言った。

「心配しないで。何があっても、オレがクリスを守ってあげるよ」

 あの晴れやかな笑顔を、忘れられない。
 どうして、あのとき、ルディは僕にそう言ったんだろう。
 まるで、自分が死ぬのを分かってたみたいに。
 そんなはず、ないのに。
 ルディが死んだのは、不運が重なった結果だ。
 運悪くハンターに見つかって。
 その場から僕を逃がすために、囮になって、戦って、死んでしまった。
 僕を見捨ててしまえば、死なずにすんだのに。

 ルディが死んだ頃のことは、ほとんど覚えていない。

 あまりにもショックで、深い眠りに落ちてしまったから。
 だけど、目が覚めると、オリヴァーが側にいた。
 オリヴァーは、ルディが死んだことについて、いちども僕を責めなかった。
 ルディがいなくなったのに、それからも、僕と一緒に旅を続けている。
 僕はオリヴァーの優しさに甘えている。

 オリヴァーがどれほどルディを愛していたか、僕は知ってるのに。

 オリヴァーにとって、ルディは掛け替えのない存在だった。
 ルディが死んでなお、今も。
 だから、オリヴァーにとっての僕は、ルディの身代わりでしかない。


 ――僕を見てくれないオリヴァーなんて、嫌いだ。


 だから、ノアを見つけた時、絶対に連れて帰ろうと思った。
 ルディと同じ瞳を持つ、小さな子供。
 ノアがいたら、ルディのいない寂しさを埋められると思ったんだ。
 報われない想いは大きくなりすぎて……。
 このままでは、心が壊れてしまいそうだったから。








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