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第3話 優しいクリス
しおりを挟むどうしてあのとき、オレを拾ってくれたのか。
まだ青年だったはずのオリヴァーとクリスが、どうして二人きりで暮らしていて、オレを育ててくれたのか。
その答えを知ったのは、ずっと後になってからだ。
+ + +
二人に拾われてから、オレは田舎の森の中で暮らすことになった。
金髪に青い目のオリヴァーは、整った顔立ちをしていたから、怒ると迫力があって怖い。
黒髪にグレイの目をしたクリスは、優しい風貌で、微笑む姿をみるだけで安心した。
オレは明るいブラウンに緑の目で、もちろん二人と少しも似ていない。
だけど、クリスはいつも、オレの目をきれいだと言ってくれた。
二人と出会った頃はまだ3つで、両親が恋しくてよく泣いたらしいけど、ぜんぜん覚えてない。
だって、クリスは優しくて、オレの遊び相手になってくれる。
オリヴァーは怒ると怖いけど、オレが泣いてるとすぐに抱っこしてあやしてくれる。
寂しいと思ったことはなかった。
オレはよくクリスと一緒にいたけど、クリスは不器用で、オリヴァーが言っていたように何もできなかった。
森で野兎を捕まえるための罠もうまく作れないし、弓を使うのも下手だった。
庭にはバラがいっぱい植えてあって、オリヴァーとクリスが世話をしているのをお手伝いしたけど、クリスはよく肥料をひっくり返したりして、いつもオリヴァーに怒られていた。
家の中のことも、そうだった。
片付けをしようとすれば、逆に散らかすし、皿やカップを割るのも日常茶飯事だ。
だからなのか、料理をするのも、オリヴァーの担当だった。
クリスは、食事をするオレのとなりで、いつも優しく見守ってくれる。
「ノア。また野菜残してるよ」
「だって~、にがいんだもん」
「がまんして食べないと、大きくなれないよ」
「おっきくなんなくても、いいもん!」
クリスにそう言い返すけど、今度は怖い返事が返ってくる。
「好き嫌いする子は、あとでオリヴァーに怒られるよ?」
「や、ヤダ!」
オリヴァーは怒るとホントに怖い。
叩いたりはしなかったけど、睨まれると、息もできなくなるくらい胸が重たくなる。
「ずるい!」
「どうして?」
「クリスもオリヴァーも、コレたべないのに、ノアばっかりいう!」
フォークを持ったまま抗議すると、クリスが笑って頭をなでてくる。
「これはノアのために、特別に作った料理なんだよ。だから食べないと」
「なんでクリスはたべないの?」
「僕が食べるものは、決まってるから」
「スープ?」
「そうだよ。大きくなると、あれだけで十分になるんだよ」
ニコニコと笑顔でそう言うから、オレはその話を信じた。
オリヴァーが作る、バラの香りがするスープ。
庭のバラを使った特別なスープだって言っていた。
それだけしか口にしない二人を、変だとは思わなかった。
オレの世界には、二人しかいなかったから。
「ノア。それをぜんぶ食べ終わったら、森に遊びに行こうか?」
「うん!」
クリスは一日中だって、ノアの遊びに付き合ってくれる。
森の中の散策も、近くの小川での水遊びも。
庭でバラのお手入れをしたり、木でおもちゃを作ったり。
雨の降る日は、家の中で絵本を読んで、文字を覚える遊びをして、歌を歌って過ごした。
クリスは、本当に優しかった。
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