潮の町の神様

白石華

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潮の町の神様

渉とカモメとナツミ

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「こんにちはー。」
「はーい、こんにちは!」

 俺が定食屋に入ると、おかみさんがいつものように元気に出迎えてくれた。

「ええとカモメ、どうでした?」
「カモメちゃん? 入ったばかりだけど最初からやってくれているから大丈夫よ!
 一番、大変なのはお客さんが来てからだからねー。
 でも調理はお店の味だから! ちょっとすぐには任せられないわー。」

 定食屋と言ってもここは観光地だし、おかみさんの前の代から店はある。そう簡単には引き継ぎはさせられないのだろう。

「衣は仕込みで付けてあるしソースで付けるだけだから揚げ物ぐらいだったらいいと思うけど。
 ちょっとカモメちゃんに働かせすぎかしらって。
 それに最初は仕込みだけって話だったでしょ? 話が変わっちゃうとね。
 簡単な仕事でいいって言って入れたら結局何でもさせちゃうのは印象がね。」

 おかみさんの言うのはその通りだが。実際それで揉めることだってあるのだろう。しかしカモメの場合はここの定食屋が俺とカモメで切り盛り可能で、最終的には俺一人でこの定食屋を手伝えるようにすることだから、そうそう悪い話ではない。

「とりあえず様子見でいいんじゃないですか?」
「そう? ありがとう! ナツミもいい子入れてくれてよかったわ。
 家事も一通りしていたらしくて、呑み込みも早いの。」
「そうなんですか。よかったです。」
「あとは、渉君ね、張り切っていきましょう!」
「わっと、はいっ。」

 背中をポンと叩かれて、おかみさんに景気づけられた。本当に、あとは俺だけなんだな。

「あ、こんにちは。渉さん。」
「お、こんにちは。カモメ。」

 俺と入れ違いでカモメがやってきたようだ。

「やりました。渉さん。私、ここでこの位の仕事ならお手伝いも大丈夫そうです。」
「へー。大変なことってなかったの?」
「お野菜をたくさん運んで、切るだけですからね。
 後は皿に盛ってお盆に載せた、小鉢と漬物のストックを作っておいて。
 注文が来たら主菜を載せるばかりにしておくんです。」
「だから作ったと同時にあんなにボンボン出たのか。」

 俺も昨日はウエイターの方をしていたから調理場まで目が行かなかったが、そういう風にするから早く回るんだ。

「渉さんも、大丈夫になるといいですね。」
「うん、そうだね……。」

 カモメは俺の目標を知っている。俺を励ましてくれるのは素直に嬉しかった。

「あらあら。二人ってそんなに仲が良かったの?」
「へ? な、仲って。俺たちは親戚ですよ?」
「そうよねー。男女で仲がいいのを見ているとニコニコしちゃうだけだから気にしないで!」
「だ、男女って勘弁してくださいよ!」

 おかみさんには嬉しそうにからかわれているだけだと思うが。ここで乗っておかないとノリの悪い奴と思われないように。なんだよー、やめろよーとか、そういうノリは崩さないようにしておかないと。しかし親戚と説明しても茶化す人っているんだな。カモメとの関係は微妙だから油断しないようにしないと。

「男女ってお母さん。そんな訳ないでしょ。」
「あらナツミ。あんたも愛想よくしなさいっていつも言ってるでしょ。」

 そんなことを話していたらナツミちゃんが現れた。

「いくら何でも親戚にまで茶化すのは悪乗りしすぎ。
 雇っている手前もあるんだから向こうだって逆らえないんだし困らせないで。」
「んもー。本気になんて思ってないわよ。ごめんね、渉君、カモメちゃん。」
「ははは、はい。」
「大丈夫です。私と渉さんが付き合うことはあり得ませんから。」
「へ?」

 カモメの言い方に面食らうナツミちゃん。

「か、カモメ! 人前で完全否定とかしないで!」
「ええと、すみません。てっきりそういう説明をするものだと。」
「まあ。血縁関係がそんなに……気になるなら? それでいいんじゃない?」

 ナツミちゃんは親戚と思っているからそういうことになるのだが。まさか神様の遣いだからという理由とは思わないだろう。

「はい。私は、渉さんが困っていたのが……放っておけなかっただけですから。」

 カモメの言い方は普段通り慈愛に満ちていたが。それは周りへの説明にはなっていないだろう。

「……確かにそうだけどさ。」

 と思っていたらナツミちゃんが同意していた。俺の境遇はナツミちゃんも知っていたのだった。

「そうよね。家事が大丈夫なら、ちょっとずつ、他の人の役に立って行ければね。」

 おかみさんも同意していた。どうやら俺の境遇は説得力として十分すぎるようだった。困っている人の所へ親戚が手伝いに行く、それに働いていなかったからいくばくかのお金も入るというのは、そんなに珍しい話でも不思議な話でもないようだ。と同時に、俺がカモメと仲良くなっても大丈夫そうだなと安心もした。

 ・・・・・・。

「うう……二日目もヘビーだった……。」

 俺は二日目の勤務も終え。へたっていたところにまたキンキンに冷えた店のウーロン茶を頂いていた。

「お疲れ様。明日は休みだから少しは羽が伸ばせるんじゃない!?」

 おかみさんは二日目でもピンピンしていた。この元気、そう簡単に出せるものではない。もはや超人の領域である。

「それなんだけどさ。渉の歓迎会、まだでしょ?」
「え、そういうのしてくれるの?」
「うん。お母さんとお父さんだとまた気を回しちゃうと思って。私らでしましょ。」
「へー。ありがとう。いくのは俺とカモメでいいの?」
「うん。何なら渉の家でもいいけど。」
「え? いいけど。」
「それで、明日は海に行きましょ? 近くにバーベキューするところもあるし。」
「え? 俺んちは何するの?」
「今夜にでもお店のご飯、ちょっとだけ包んで持ってくるわ。
 作れって言わないから大丈夫。」
「あ、ああー、うん、ありがとう。」
「私も、あんたとは帰ってきたばかりでも、ゆっくり話していないと思っていたからさ。
 カモメとだってこれから働くようになるんだし。ちゃんとしておかないと。」
「う、うん。ナツミちゃんがそうしてくれるんだったら嬉しいよ。
 俺……雇ってもらう側だからそういうの、言いだしづらいし。
 それに俺もナツミちゃんとは話しておきたいって。」
「え、そうなの?」
「う、うん。変かな?」
「別に、そうは思わないけど。」

 幼馴染で隣の子である。親睦を深めるのに特に理由はないと判断したみたいだ。こうして二日目の勤務は終わって。
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