精霊都市の再開発事業

白石華

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第二章

少年のその後

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「あら、お帰りなさい。」

 本日、三度目の来訪になる霊社に着くと、またお姉さんに出迎えて貰った。

「ええと、すみません、さっき溺れていた男の子の事なんですが……。」
「ええ、今はコチラに戻っています。病院で一通り、検査は受けたんですが。
 記憶喪失みたいで……。言葉は話せたり、日常生活に必要な事は問題なかったりするんですが。
 それ以外……自分の事と、どこから来たのかが全く思い出せないと……。」
「え。それは大丈夫なんですか?」
「帰る場所も分からないそうなので、ひとまず、霊社で預かる事にしました。」
「そうですか。コチラで何か、協力可能な事は……。」
「そうですね、当面の生活の保障といいますか、この子をこのままにしておけないと思うんですね。」
「……ふむ。」

 俺はこの話の流れで思う。年齢を確認して、学園に通わせるか、もしくは俺の所で働いて貰うか。そういう話の事だろうが……。学園でなく、俺にそれを言うって事は。

「分かりました。俺の所で手伝って貰えることが無いか、確認してみます。」
「ありがとうございます……。」

 お姉さんが深々とお辞儀をする。どうやら俺に生活の面倒……働き方とかそういうのかな。を教えて貰いたかったのだろう。後は雑用とお茶くみぐらいだから、やれる事をやって貰って、徐々にみんなに手伝って貰えればいいだろうからな。

「それとなんですけどね、遺跡の調査を一度、やってみたいと思いまして。」
「はい。それでしたら、私も……。」
「ねえ、お姉さん!」

 霊社のお姉さんと話していたら、社の中から少年が現れて、こっちに話しかけてくる。

「随分元気になったんですね。」
「はい。お陰様で。ほら、助けてくれた方ですよ。ご挨拶なさい。」
「はい! さっきは、助けてくれて、ありがとうございました!」

 男の子がぶんと頭を振っている。

「それじゃあお辞儀になりませんよ。ゆっくり……行うのです。」
「はい。」

 お姉さんの言葉でゆっくり振り直す。元気だし、いい子そうだし、話も聞いてくれそうだ。

「あのね、お姉さん。遺跡に行くんだったら、僕も行ってみたい!」
「……留守番をお願いしようと思ったんですが、あなたも行くとなると。」

 このメンツで肉体労働が可能そうなのは。俺とカンナ。ベルさんも一応そうで。あとは……。

「サシガネは行くか?」
「うーん。最初だけよ。無理そうだったら次からは無しで。」
「おう。」

 一人だけ留守番というか待機もちょっと、一人にさせるのが心配だったためサシガネも連れて行くことにした。今度からそうなった時はベルさんにも受付接客もあるし社内待機をお願いしよう。

 ・・・・・・。

「よーし、全員、揃ったか? 先頭は俺とカンナが行くぞ。」
「はーい! あたしと社長だよねー。そりゃあ。」
「私……一番後ろも怖いんだけど。」
「それなら私が後ろに。」

 サシガネが来たはいいが、あまりの場違いさにブルッているとベルさんが声を掛ける。

「それなら僕が後ろに付くよ。」
「それでしたら私も。」

 少年とお姉さんが後ろに付くことになり、ベルさんとサシガネは中段……真ん中に待機することとなった。

「モンスターも出てくるんですか?」
「はい。といっても野生動物の類だと思いますが……。」

 進みながらお姉さんと話していく。

「メインはコチラ。資材となっています。トンカさんにお分けも可能です。」

 梅花さんが遺跡にあった資材を拾って見せる。これ、持ち帰り可能だったのか。ゴロゴロ転がっているから遺跡の調査と再建に必要だったらと思って放置していた。

「おお。遺跡に潜って建築に必要な資材も貰えるんですか。」
「はい。折角町の再建もしてくださるんですし。手伝って頂けるならどうぞお持ち帰りください。
 このくらいしか、お礼は出来ませんが。
 あ、それと入れば何故か、資材の数は復活しているため、枯渇とかはありません。」
「いえ、十分ですよ! ……って、そういえば、少年とお姉さん、お名前、何て言うんでしたっけ。
 これだけ行動するとなると名前も知っておかないと。」
「僕はシーガル! お姉さんは?」
「私は……梅花(ばいか)と申します。」
「よし。シーガルに梅花さんね。それじゃあ行ってみますか!」

 こんな感じで、資材も入るとあって、基本、待てば資材は物資として送られてくるから貯まるんだが、追加で調達したくなった時はここにも寄る事になった。

 ・・・・・・。

「遺跡って言っても開かれたダンジョンみたいな所なんですね。」
「はい。天井は崩れていますが、それは一階のみで、ワープパネルを踏むと、次の階層に行きます。
 その前にトンカさんとカンナさんでここを修理してもらう必要がありますが。」
「は~……。直すと何かあるんです?」
「はい。そこを潜る必要が無くなって資材がトンカさんの所に送れるようにしておきます。」
「へ~。ありがとうございます。」

 階層をクリアしていくごとに俺たちの時間経過で貯まっていく資材の数が増えるようだ。

「ここの資材は……っと。木材に、石材、ちょっとした金属と……あとはちょいちょいか。
 チマチマした資材集めになりますが、最初だとこんなもんなんですかね。」
「ええ。奥に行くほど、資材は増えていくはずです。」
「ふ~ん。仕事の合間にやろうと思っていましたが、これなら潜ってもいいかもですね!」

 やる気を出した俺は進んでいくと。

「ギャアアアアア!」

 モンスターが現れた! ここにいるのは……トカゲ型のモンスターのようだ! リザードとかコモドオオトカゲとか、そういうのだな。そういうのは全部、リザード扱いだ。

「よーし、今夜はワニ肉でステーキ焼いてやるぜ! 革まで便利に利用してやるぞ!」

 ドゴンッ!

 俺はハンマーをリザードの頭上に叩き落した!

「キュウ……。」

 リザードを倒した!

「へー、社長、つよーい。」
「ああ。お前のハルバードだと倒し方というか脳天カチ割り方がグロいからな。」
「うん。生物倒すために作った訳じゃないけど。あっ。」

 そんなことを言っていたら今度はリビングアーマーが現れた!

「やったね! これなら任せて! 弱点武器でクリティカル狙い!」
「俺も行くぜ! お前がカチ割った後でとどめだ!」
「あいよ!」
「キャアアア! 何であんたらそんなに馴染んで戦ってんのよ!」
「私も何か……石でいいですかしら。」

 俺とカンナがリビングアーマーに向かって行くとサシガネが既に慌てふためいていて、その背後でベルさんが石を拾っていた。

「えい。」

 ドスッ!

 指弾で飛ばした石がリビングアーマーに命中した! リビングアーマーに貫通した!

「グエ?」
「隙あり! 装甲なんてぶち抜けば殴り放題だもんねっ! ホームランッ!」
 
 リビングアーマーにスタンが効いたのか動きが止まると、ベルさんの貫通した場所にカンナのハルバードが命中する!

 ガキンンンッ!

「ギャアアア!」
「おうううりゃっ!」

 ドゴンッ!

 続けざまに俺のハンマーも命中する! リビングアーマーを倒した!

「やったぜー! 金属ゲット!」
「ああ、それ資材になるんだ。俺が持ってくぜ。」

 カンナが動かなくなったリビングアーマーを持って帰ろうとして、俺が持つことになる。

「サバイバル経験が役に立ったようですね。」
「ベルさん、アウトドアが趣味って言ってたけど、そういうのもやれるんだ。」
「はい。ちょっとだけですよ。」

 ベルさんとサシガネが話している。

「ああ。でかい敵が現れたら、ベルさんのスタンで止めて。
 カンナと俺の順でやっていけばコンボになるな。
 モンスター駆除は想定に入れてなかったからよ。
 ハンマー二人って実にバランスの悪い組み合わせだったからちょうどいいぜ。」
「はい。お役に立てるのであれば。」

 ベルさんがいつものように涼しい顔でいると。

「私……ここじゃ何も出来ない。」

 サシガネがバツが悪そうにしている。

「そんときゃ次回から待機してくれれば……って。おお!?」

 後ろから蛇のような生き物があらわれる!

「シュルシュル……シューッ!」
「きゃ……。」
「あぶない!」

 お姉さん……梅花さんにめがけて飛び掛かってきたのを少年がかばおうとして……。

 ガブッ!

 少年は蛇に噛まれてしまった!

「う……っ!」

 かみついたまま蛇が少年の首に巻き付いて、その状態で身体を固めようとする!

「危ない!」

 ドスッ! ドスッ!

 ベルさんの指弾が巻き付いている蛇を数か所、切るように貫通していく!

「ちっ、こういう時は……お前ら、グロいから見てんなよ!」

 俺が蛇を少年から素手で頭を潰すようにして剥がしていった。

「……うう。」

 少年は苦しそうにしていた。

「なんて危険な事を……すみません。今すぐ戻ります。この子に治癒をしないと。」
「はい。」
「皆さんはもう少しだけ、探索されて、修理されてください。」
「はい……。」

 俺たちの一日目の探索はこうして終わった。

 ・・・・・・。

「大丈夫だったかなー。あの男の子。」
「シーガルか。俺も治癒が終わるまでは何も言えんが。毒抜きだったら早いに越したことはないぜ。
 あとは毒があったら血清もだが……病院に行っている暇が無かったら治癒魔法もあるみたいだし。
 向こうで何とかするんだろう。」
「うん……危険な目に、遭わせちゃったね。私たち。」

 カンナがしんみりしている。今は事務所に戻って、みんなで梅花さんの連絡を待っていたところだった。

「……まあ、今のご時世、処置が早い分にはそうそう困るもんでもないし……。」

 トゥルルル……。

 と、話していたら事務所用の電話が鳴る。

「はい! まあ、梅花さん。……はい。はい……まあ、そんなことが。」

 何か梅花さんと話しているようだが……カンナの聞き耳の立て方とソワソワした様子があからさまである。

「分かりました。後はそちらでお願いします。」

 ガチャリと電話を切るとベルさんが俺たちに向いて。

「毒の処理と手当は終わったそうです。後は本人の回復次第ですが。
 これもとても速いらしくて。明日にはまた、こちらに来られるそうです。」
「えっ。それじゃあもう治ったも同然なの!?」

 カンナが驚いたように確認する。

「はい。とても速くて驚いたそうですよ。治癒魔法も相性がいいらしくて。」
「へー。魔法に相性とかあんのね。」

 それまで沈んだ表情で何もしゃべらなかったサシガネも口を開く。

「はい。明日には元気になるだろうと。」
「やったー! よかったよ~!」

 カンナが力が抜けたようにデスクに突っ伏している。

「ああ、これでひとまず、安心だし、今日は景気づけにパーッと行くか!」
「何すんのよ。」
「最初に遺跡の探索が終わったらオフで遊んでいいって言ったろ。
 海でも山でも好きなところに行け! ちゃんと帰って来いよ!」
「やったー! 社長!」
「ぬうおおお!?」

 カンナに飛びつくように抱き着かれる!

「あたし、社長の所で働けてよかったよ~!」
「お、おい、くっつくなって! お前はその……ああっ……あっ。」

 俺の抵抗がカンナの弾力ある、かつ柔らかい肢体に意識を奪われていくと。

「あ、ごめん。ボディタッチやっちゃった。」
「あ、うん、いいの……。ちょっと戸惑っただけ。」

 気づいたように離れたカンナが俺を労わる。

「それじゃあ。各自解散でいいんでしょうか。私も海に行きたいと。」

 ベルさんが俺に尋ねる。

「おう。ワニとか取ってきたし、みんなでバーベキューでもいいぜ。」
「はい。それも良さそうですね。私、アウトドア用の調味料も持っていて。」

 みんなでワイワイ、喋っていたが。

「……。」

 サシガネだけが沈んだ表情で俺たちを見ていた。

 ・・・・・・。

「ねえ、トンカ。」
「おお、なんだ?」

 一度、海で遊ぶ前に集合時間を決めて、一度、社宅に戻ることにした俺たちだったが。サシガネに話し掛けられる。

「私……ここにいてもいいのかな。」
「何だよ急に。いていいから連れてきたんだろ。」
「うん……今日、何にもやれなくて、トンカに連れられただけだったからさ。」
「ああ。元々のお前の仕事じゃなかっただろ。連れ回したのは俺のせいだ。だからお前が気にすんな。」
「気にするよ。みんながしている事……私だけ、出来ないんだよ。
 しかも私、トンカに仕事回して貰えたのだって、縁故採用なのますます浮き彫りになってんじゃん。」
「うーん。」

 適材適所ってのがあるんだから本当に気にすんななんだし、連れ回したのも本当に俺のせいなんだが、サシガネはどうも、そういう訳にはいかないようだった。
 こういうのって、自分だけみんながしている事に参加できないと申し訳ないっていうのは……これからもみんなとやっていこうとしたら、持ってていい気持ちなんだが引きずるもんでもない。
 しかし社長の俺としてはこれは普通に規定外労働だからそれもサシガネには伝えないとである。

「そういうのも兼ねて、気晴らしにみんなでパーッとやろうとしているんだ。サシガネも来いよ。
 ダンジョン探索スキルなんて全然、話になかったから、こうなっちまったんだ。
 ここで増えた仕事は俺がフォローするんだ。具体的には言えんがお前なら想像つくだろ?」
「うん……トンカ。」
「おう。お前も、ちゃんと参加するんだぜ? あと、お前ならいい所見せられるよ。
 ダンジョンで得た資材もがっぽり、入ったからな。」
「うん!」

 サシガネもやる気が戻ってきたようだった。一日の終わりは引きずらない形で終わらせたいから、話してくれたこと自体も良かったんだけどな。

「私も、ダンジョン行くし、ベルさんにもサバイバルスキル、教えて貰う!」
「そっちか! あーでも、そうなのか?」
「そうでしょ。私もダンジョンと言うか遺跡、今度からも行くからね!」
「おう。やる気になってくれたならいいわ。」

 という訳で、サシガネもやる気になったところでみんなでバーベキューになったのだった。

「ねえ、トンカ。」
「何だ?」
「んっ。」
「ぬううっ!?」

 サシガネに呼ばれたと思ったらギュッと抱きしめられてキスまでされた。

「あはははは! やっぱりアンタ、女の子に囲まれるタイプだよ!
 もう既に、カンナさんも仲良くなってんじゃん!」
「お、おい! 一度ならず二度までも……いったい何!?」

 またサシガネにヒットアンドアウェイされてしまった。
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