桜の散る頃に

白石華

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青葉の茂る頃に

山さんの生い立ち

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「お帰り~、茂さん、ホノカ。少しはこの先、どうするか話は出来たかい?」

「茂さん、ホノカ。鍋を配るからお皿出して。」

 頃合いを見計らって藤さんが俺たちを呼びに来て、神様と妖精さんに鍋を振る舞われた。

「今日は猪鍋だぞ~。前の神様みたいに熊鍋にするのは処理が大変だからな。」

「前の神様が作ってくれた熊鍋も美味しかったね。」

 藤さんが俺たちに鍋を配りながら山の神様の話に乗っている。

「そうそう。手伝っていたはずなのに、あの味に近づけなくてね~。」

「仕方ない。神様の年期が違う。」

「調味料もだろうけどね。」

 神様と藤さんの話を聞いていて、俺には疑問が湧いてきた。

「あの……。どうして神様はいなく……お隠れか何かになられたんですか?」

 二人(一柱と一体)に訪ねてみた。

「ああ、丁度良かったから茂さんとホノカにも説明しようか。」

「はい。」

 話はまだ分からないがホノカちゃんも頷く。

「私はね、昔、人間だったんだよ。」

「へっ(え)?」

 山の神様の発言は全くの寝耳に水で。

「親の口減らしで人買いに売られていくところだったんだけど、
 この山を通る時、神様に助けられたんだ。それで、ここに住み着くことになった。」

「私はその頃の山さんと大体、同じ位の年恰好だったから、その頃からの付き合いだね。」

 山の神様と藤さんの見た目の年齢は一回りは違う。人間と妖精の歳の取り方って違うんだな。

「いや~。今でも傑作だったと思うよ。山を越すのに私を引っ張って歩いている人買いの前に現れて、
 『喰っちまうぞー!』って神様が怒鳴ったら、私を置いて一人だけ逃げてったんだ。
 私はその場にへたり込んでいたから逆に助かっちゃった。」

「山さん。神様の話をし出すと長いのは知っているけど脱線しないで。」

「ああ、そうそう。だから私は人間から神になったから、茂さんやホノカが人が神や妖精に
 なれたり、逆に妖精が人になれるやり方を知っているって訳だ。
 他のアヤカシにも聞いて、そういう話もあるってね。」

「私が神社に神木を提供した街には霊威を持った狐と人が交わって子孫を残した家系もあるらしい。」

 藤さんも説明してくれた。

「私はここに住んで、神様の食べ物を頂いていたから神通力が宿ったけど、その代わりなのか、
 前の神様は神通力が衰えちゃってね。代わりに私が神様をやっているって訳だ。」

「……。」

 俄かには信じられない話だが。今の俺は神様も妖精も目の当たりにしている。

「ええと……それで前の神様は神通力が衰えてから、どうなったんですか?」

 ホノカちゃんが神様に訪ねる。

「山と同化して神通力を再び宿そうとしているよ。文字通り、お隠れになったけど、
 消えたわけじゃない。ホノカは心配しなくていい。」

「はい……。」

 確かに、俺とホノカちゃんは山の神様とは逆(山から街へ妖精が下りている)の事をしているから、ホノカちゃんがどうなるのか気になったのだろう。

「人が修行を積むのと同じような暮らしをしたから神通力が宿っちゃったんだろうね。
 まあ、そういう訳だから、茂さんもそういう暮らしをしていれば霊威が宿るって訳さ。」

「逆に妖精が俗世に触れれば人間に近くなるのは狐の妖精から教わった。」

 山の神様だけでなく藤さんも説明してくれた。

「は、はあ……。」

 理解の範疇を超えた話に、どんどん俺の頭がこんがらかってくる。妖精さんから俺に霊威を授かるのは、ホノカちゃんから教わったから知っていたが、人が神や妖精になったり、もしくはその逆。出来ないと思っていたのに、近い存在になれば結婚や子供まで作れる。……だけど。藤さんと山の神様の年恰好を見れば、すぐにはそうなれないのは、元々は同じぐらいの見た目だったのを鑑みれば予想はつく。

(先が見えなくなってきたな。)

 出来るか出来ないか、俺に耐えられるか否か。ゴールはあるのに距離が見えない状態だった。

 ・・・・・・。

「神様と言っても何でも知っているわけじゃないんですね。」

 猪鍋を頂きながら神様と俺はさっき教わった事で雑談をしていた。

「ああ。神だって自分が出来る事しか出来ないし、知っている事しか知らない。
 何でも知っていて不思議な事が出来るのは、それだけのことを経験して、
 力を持っているからだろうな。」

「へ~。何か俺、親近感を持ってしまうんですが、どうして神様や妖精さんは、
 人間とは違うんですか?」

「人間とは生まれ方も住む所も違うからだろう。そこは私もよく分からないが、
 元々、今の日本も天津神の孫が降臨して日本人の祖先になり、
 その家系が今でも存命していらっしゃる。日本人が神の家系だから、
 日本人には修業を積めば霊威を授かる素質があるんじゃないか?
 他の国がどうかは流石に知らない。」

「う、う~ん。」

 どう答えればいいのだろうか。とりあえず猪鍋を頂く。

「神様。山魚のときも思いましたが、料理上手ですね。」

「ありがとう。神様に教わったからな。」

 神様がニカッと口を開いて笑う。

「どうして、神様と人間って違う発展をしたんでしょうね。」

「持っている力が違うから発展の仕方も変わったんだろう。日本の神様は神聖な存在ではあるが、
 俗っぽいことだってしている。」

「う~ん。」

 また答えにくい話題になったからお茶を濁してしまった。

「茂さん、茂さんから貰ったお酒、頂くよ。」

「あ、どうぞどうぞ。」

 ・・・・・・。

「そろそろ頃合いかな。」

 鍋も頂き、話すことが尽きた辺りで神様が俺たちに声を掛ける。

「茂さん、今日はどうする。こちらに泊まっていくかい?」

「あー、えっと。」

 今日の俺の頭の容量は余裕がなくなっていた。

「帰ります。一人になりたくて。」

「そうか。まだ日が暮れていないけど、夏でも山の夜道は危険だからね。ホノカ。」

「はいっ。茂樹さんを街まで無事、送り届けます。」

 ホノカちゃんが座っていた体勢から立ち上がり、俺のところまで来る。

「それじゃあ俺、失礼します。」

「茂さん、ホノカ。グッドラック。」

「じゃあねー。」

 軽い挨拶で手を振る神様と横文字を離す日本の妖精さんに見送られた後の帰り道。

「はあ……これから俺、どうなるのかな。」

 山道を歩きながら俺はため息を吐いていた。

「不安ですか?茂樹さん。」

「不安と言えば不安だけど、先が見えないからなんだよね。だからどうしようもない。
 こういう時って気持ちが悪い方向へ行きがちだから一人になりたいと思ったんだけど。」

「私、姿を消して風になっていましょうか。風になって茂樹さんをお守りします。」

「大丈夫だよ。」

 俺はホノカちゃんの申し出を丁重に断った。ナーバスになっている今、ホノカちゃんの霊威による力を見たらパニックになるかもしれないからな。

「一人で悩んだいたって仕方ないし一度、誰かに相談した方がいいのかもな。
 神様か藤さんに頼んで狐の妖精と人間との間に出来た子孫の家系に教えて貰うとか。」

「でも、伝承があっただけで今でも狐と付き合いがあるか分かりませんよ?」

「うーん、でもさ。ホノカちゃんも俺の住む町以外にも街に行って、
 人の暮らしは見ておいた方がいいかもしれないよ。こういう人や所もあるんだって。」

「そうですね……。」

 ホノカちゃんが気が重そうに頷く。気にしているんだな。人だって住む所が変われば、地域や人の文化に馴染むのに苦労するって言うしな。

「よし、次の休みにその狐の伝承があるっていう場所に行ってみるか。
 それまでに聞きたい事を決めておこう。今はそれで充分。その後にどうするかまた決めよう。」

 ゴールまでどのくらい届けたかは分からないが、俺にはひとまずの目星がついて気が軽くなっていく。

「いや~。急に気分がよくなってきたぞっと。」

「よかったですね、茂樹さんっ。」

 俺とホノカちゃんでお互い自分の抱えていた問題が少しだけ前進しそうになったからか、宴会の後のテンションも手伝って話が明るくなる。

「こう、フワ~っと飛んで帰りたい気分だよ。」

「はいっ。それじゃあ。」

「へ?」

 ホノカちゃんの身体がすうっと消え。

「あ、あああ”ーっ!?」

 風になったホノカちゃんに乗って、俺は家まで送り届けられることになった。

「大丈夫です。霊威で保護して、茂樹さんにお怪我はさせません。」

「いや、そういう問題じゃなくて!」

 季節は青葉が茂る頃、俺はホノカちゃんが果たして本当に人間に馴染めるのか、心配になっていた。
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