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終電
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あー疲れた。そう思いながら電車のホームの一番前を陣取った。学校の帰りにカラオケに行っていたので、いつもよりちょっと遅くなった。ストレス発散にはなったが明日はきついだろう。
電車が風と共にホームの前を通り、停車した。ドアが開くと私は滑り込むようにそそくさと入る。席は四人分しか空いていなかった。急いでお尻から座る。背もたれに寄りかかり、ため息をついた。それから目を閉じると、夢の中へ。
ふと、目が覚めた。ぼんやりしながら重い頭を上げる。もう、ほとんどの席が空いていた。私の座っている席には、端っこに涎を流しておじさんが寝ている。向かい側の席は三十歳くらいの男が一人、腕を組んで眠っていた。
ふと、向かい側の男の上の方で、違和感を覚えた。見てみると、荷物置きのところで女が寝ている。こちらに背を向け、長い髪をなびかせている。
普通はそんなところに人はいないものだが、酔っているのだろう。そうでなければ荷物置き場に上らないだろう。そう思ったそのとき、赤いものが滴り落ちた。
「えっ?」
思わず、声を漏らした。さっき落ちたのは……血? 怖くなった。起きているのは私だけということが最悪だ。でも、血ではないかもしれない。こんな日常で、テレビみたいなことがあるわけがない。どこかのホラー映画じゃあるまいし。
血らしきものが、また落ちた。寝ている男に降りかかる。ドロドロとしていた。男は動かない。気づいていないのだろうか?
はっとした。もしかして……幽霊? 自分にしか見えていないのかもしれない。それだったら男が気づかないのもテレビで言っていた。何かのきっかけで幽霊が見えるようになると。私はそれにあたったのかもしれない。
ここから逃げよう。
体が動かなかった。どんなに足に力をいれても立ち上がれない。金縛りだ。やばい、どうすることもできない。
女が動いた。ゆっくり寝返りをうつ。
女は気持ちよさそうに眠っている。それも、ケチャップを抱いて。
なんなのだ!!! この女、ケチャップなんて持って!! さっきの恐怖感を返せ! 怒りが込みあがり、そのケチャップ女を起こそうと思った。しかし、体が動かない。冷や汗がでた。また恐怖が体中で渦巻く。なぜ体が動かない?
目だけを動かした。何かいるのだろうか?ここは私と、ケチャップ女と、前にいる腕組み男と……端っこに座っている涎おやじ。その他には誰もいない──まさか、私の上?余計に怖くなった。誰かいるのだろうか? 上は向けない、逃げることもできない。どうする? じわじわと汗が出てきた。恐怖のあまり叫びたくなる。しかし声はでない。誰にも助けを呼ぶことができない状況で、このまま続いてしまうかも。それは嫌だ、怖すぎる。
ケチャップ女が「うっう~ん」と寝言のような動物が鳴いたような声をだした。
金縛りがとけた。怖いもの見たさに上を見てみた。
誰もいない。消えたのだろうか? とりあえず、ケチャップ女のおかげだ。さっきの怒りは忘れよう。
気がつけば、降りなければならない駅に近づいていた。あと二駅停まればこの電車から降りられる。
漏らすような笑い声が、聞こえたような気がした。辺りを見回す。
涎おやじが笑っている。どんな夢を見ているのだろうか。見ていて気持ち悪い。
何かが私の顔の近くまでやって来たのがわかった。一瞬の出来事だった。嫌な予感がする。ただならぬ雰囲気が漂っているのがわかった。
顔がこわばる。恐る恐る頭を前に戻した。
腕組男の顔がすぐ傍にあった。白目をむいている。
両腕を掴まれ、骨が折れそうなほど力を入れてくる。悲鳴を上げるが、声はでなかった。冷や汗がだらっと流れた。
「帰さない」
男は運転席に向かって歩き、どんどん薄くなって消えたかと思うと、電車のブレーキ音が響き渡った──
電車が風と共にホームの前を通り、停車した。ドアが開くと私は滑り込むようにそそくさと入る。席は四人分しか空いていなかった。急いでお尻から座る。背もたれに寄りかかり、ため息をついた。それから目を閉じると、夢の中へ。
ふと、目が覚めた。ぼんやりしながら重い頭を上げる。もう、ほとんどの席が空いていた。私の座っている席には、端っこに涎を流しておじさんが寝ている。向かい側の席は三十歳くらいの男が一人、腕を組んで眠っていた。
ふと、向かい側の男の上の方で、違和感を覚えた。見てみると、荷物置きのところで女が寝ている。こちらに背を向け、長い髪をなびかせている。
普通はそんなところに人はいないものだが、酔っているのだろう。そうでなければ荷物置き場に上らないだろう。そう思ったそのとき、赤いものが滴り落ちた。
「えっ?」
思わず、声を漏らした。さっき落ちたのは……血? 怖くなった。起きているのは私だけということが最悪だ。でも、血ではないかもしれない。こんな日常で、テレビみたいなことがあるわけがない。どこかのホラー映画じゃあるまいし。
血らしきものが、また落ちた。寝ている男に降りかかる。ドロドロとしていた。男は動かない。気づいていないのだろうか?
はっとした。もしかして……幽霊? 自分にしか見えていないのかもしれない。それだったら男が気づかないのもテレビで言っていた。何かのきっかけで幽霊が見えるようになると。私はそれにあたったのかもしれない。
ここから逃げよう。
体が動かなかった。どんなに足に力をいれても立ち上がれない。金縛りだ。やばい、どうすることもできない。
女が動いた。ゆっくり寝返りをうつ。
女は気持ちよさそうに眠っている。それも、ケチャップを抱いて。
なんなのだ!!! この女、ケチャップなんて持って!! さっきの恐怖感を返せ! 怒りが込みあがり、そのケチャップ女を起こそうと思った。しかし、体が動かない。冷や汗がでた。また恐怖が体中で渦巻く。なぜ体が動かない?
目だけを動かした。何かいるのだろうか?ここは私と、ケチャップ女と、前にいる腕組み男と……端っこに座っている涎おやじ。その他には誰もいない──まさか、私の上?余計に怖くなった。誰かいるのだろうか? 上は向けない、逃げることもできない。どうする? じわじわと汗が出てきた。恐怖のあまり叫びたくなる。しかし声はでない。誰にも助けを呼ぶことができない状況で、このまま続いてしまうかも。それは嫌だ、怖すぎる。
ケチャップ女が「うっう~ん」と寝言のような動物が鳴いたような声をだした。
金縛りがとけた。怖いもの見たさに上を見てみた。
誰もいない。消えたのだろうか? とりあえず、ケチャップ女のおかげだ。さっきの怒りは忘れよう。
気がつけば、降りなければならない駅に近づいていた。あと二駅停まればこの電車から降りられる。
漏らすような笑い声が、聞こえたような気がした。辺りを見回す。
涎おやじが笑っている。どんな夢を見ているのだろうか。見ていて気持ち悪い。
何かが私の顔の近くまでやって来たのがわかった。一瞬の出来事だった。嫌な予感がする。ただならぬ雰囲気が漂っているのがわかった。
顔がこわばる。恐る恐る頭を前に戻した。
腕組男の顔がすぐ傍にあった。白目をむいている。
両腕を掴まれ、骨が折れそうなほど力を入れてくる。悲鳴を上げるが、声はでなかった。冷や汗がだらっと流れた。
「帰さない」
男は運転席に向かって歩き、どんどん薄くなって消えたかと思うと、電車のブレーキ音が響き渡った──
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