終電2

桶乃ハシ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

終電2

しおりを挟む
私は酒を飲み続けていた。

 理不尽に上司に怒られ、飲まずにはいられなかったのだ。

 終電の時間が迫り、渋々帰ることにした。
 まだ、飲み足りない。そう思いながら、歩いた。

 外は息が白くなるほど冷えていた。
 酔いが醒めるほどの寒さだったけど、足はふらつき、歩きにくい。
 でも、しょうがなく歩き続けた。
 歩かなきゃ、誰も家に連れて行ってくれる人なんていない。彼氏なし、実家暮らしの私には。

 やっとの思いで改札口に行ったけど、駅員がいなかった。
田舎だし、駅員がいないと切符も買えない。

 だけど、切符も買わずに、駅のホームまでゆらゆら揺れながら階段を上った。もう、疲れてきた。
 それでも帰らないと、あの厳しいお母さんに怒られちゃう。

 私がホームに着くと、タイミングよく電車が来た。

 人が降りて来るかと思ってドアの端に避けたけど、誰も降りなかった。

 中に入ると、誰もいない。

 終電とはいえ、普段、乗る人は結構いるのに。でも、誰もいなくてラッキーだった。横になって寝そべられる。

 すぐに寝そべると、私はすぐに眠ってしまった。

──目が覚めた。

「起きたみたいね。誰だかわかる?」

 頭上から、女性の声が聞こえた。
 起き上がってみると……

 恵子だった。

 当時、中学生の頃は仲が良く、いつも遊んでいたが、高校が別々になってからは会っていない。

「恵子! 久しぶり。何年ぶり?」

 恵子は私の言葉に、少し考えた。

「んー、十一年ぶりね」

 見違えるわね、と言い、二人で笑った。
 久しぶりの再会に、話が弾んだ。
 恵子は最近結婚しており、仕事をしながら頑張っているという。

 私はまだ彼氏も出来ていないというのに、羨ましいかぎりだ。

「あ、もう次で降りるわ」

 話がひと段落して、気づいた。
 降りる駅を通り過ぎるところだった。

「今からでもワタシん家に来ない?」 

 恵子は、立ち上がった私の腕を握った。 

「遅いし、新婚夫婦の邪魔しちゃ悪いわ。今度でいい?」

「でも、今日寄ってほしいのよ」

 私の腕を強く握った恵子は、般若のような恐い顔をしていた。何が何でも私を連れて行きたい、という意思が伝わってくる。

 真剣な顔つきで、私を見つめる恵子。
 明日も仕事だし、恵子の家でゆっくり眠れるわけがない。
 それに、今の恵子の顔、さっきより青白いし、私の腕を握る手が、腕に指の跡が付きそうなほど握りしめてくる。

──何かおかしい。

 私は嫌な予感がして、ドアが開いたと同時に手を振り払って、電車を降りた。

 電車が出発して、恵子は窓から私を見ている。

 恨めしそうに、睨んでいた。

 そんな恵子の顔に、顔を背けられず、私は見つめた。

 恵子は、見えなくなるまで睨んでいた。

 あまりの異様さに、酔いが覚め、足早に家へ向かった。

 私が何か悪い事をしたのだろうか?
 誘いを断っただけなのに。
 何か相談したい事でもあったのだろうか。
 でも……

 そんな感じの顔じゃなかった。

 家に入ると、お母さんが青ざめた顔で、言った。

「あんた、どうやって帰って来たの?!」

「終電で帰ってきたわ」

「嘘。ニュースで終電が事故にあったって言ってたんだよ」

 私の胸に、嫌な靄が漂った。

「言い訳は後で聞いてあげるわ。それより、さっき電話があったんだけど、中学のときに仲良くしてくれた恵子ちゃん、その電車事故で亡くなられたのよ……」

 それを聴いた瞬間、恵子が私を睨んでいた映像が、脳裏に浮かんだ。

 寒気が起こった。

 自分の腕時計を見る。

 午前一時を指していた。

 家から最寄りの駅までの歩く時間、最寄りの駅から飲み屋近くの駅、そこから飲みに行った店までの歩く時間を、逆算して考えた。

 どう考えても、私は終電に間に合っていなかった。

 それなのに、私は……

 間に合わなかったはずの終電に乗った。

 終電に乗ったはずの恵子と会った。

 結婚したばかりで、幸せの絶頂だった恵子。

 あの、恵子の恨めしい顔をしていた理由は、生への執着だったのかもしれない。
                     
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

とあるバイト

玉響なつめ
ホラー
『俺』がそのバイトを始めたのは、学校の先輩の紹介だった。 それは特定の人に定期的に連絡を取り、そしてその人の要望に応えて『お守り』を届けるバイト。 何度目かのバイトで届けに行った先のアパートで『俺』はおかしなことを目の当たりにするのだった。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

短な恐怖(怖い話 短編集)

邪神 白猫
ホラー
怪談・怖い話・不思議な話のオムニバス。 ゾクッと怖い話から、ちょっぴり切ない話まで。 なかには意味怖的なお話も。 ※完結としますが、追加次第更新中※ YouTubeにて、怪談・怖い話の朗読公開中📕 https://youtube.com/@yuachanRio

宵闇に赤く花火は咲く

護武 倫太郎
ホラー
私、コトネは花火が好きな普通の中学生。夜空に満開の花が咲き誇るあの光景が大好き。でも、どうして私はこんな目に遭わなくちゃ行けないんだろう。上杉くんと一緒に夏祭りに行っただけなのに。 夏祭りを境に崩れだした日常。そして、真っ赤な花火が宵闇に咲く。

[完結済]短めである意味怖い話〜ノロケ〜

テキトーセイバー
ホラー
短めである意味怖い話を集めてみました。 オムニバス形式で送りいたします。 ※全て作者によるフィクションです。 タイトル変更しました。

ミノタウロスの娘

まるさんかくしかく
ホラー
ショートショートです。

神社のお札を焼いてはいけない理由。

白濁壺
ホラー
子供達が神社でいたずらでお札を焼いていた。それをとがめる主人公の昔話。 ※実話をもとに作られているので呪われてしまったと思ったらお祓いに行ってください。

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

カエシテ

あかん子をセッ法
ホラー
 pixivのホラーなんたらに寄稿しようとして、した奴(結果は当然虚無)  普通に全年齢向けのガチホラーです、ご感想下さい。

処理中です...