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終電2
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私は酒を飲み続けていた。
理不尽に上司に怒られ、飲まずにはいられなかったのだ。
終電の時間が迫り、渋々帰ることにした。
まだ、飲み足りない。そう思いながら、歩いた。
外は息が白くなるほど冷えていた。
酔いが醒めるほどの寒さだったけど、足はふらつき、歩きにくい。
でも、しょうがなく歩き続けた。
歩かなきゃ、誰も家に連れて行ってくれる人なんていない。彼氏なし、実家暮らしの私には。
やっとの思いで改札口に行ったけど、駅員がいなかった。
田舎だし、駅員がいないと切符も買えない。
だけど、切符も買わずに、駅のホームまでゆらゆら揺れながら階段を上った。もう、疲れてきた。
それでも帰らないと、あの厳しいお母さんに怒られちゃう。
私がホームに着くと、タイミングよく電車が来た。
人が降りて来るかと思ってドアの端に避けたけど、誰も降りなかった。
中に入ると、誰もいない。
終電とはいえ、普段、乗る人は結構いるのに。でも、誰もいなくてラッキーだった。横になって寝そべられる。
すぐに寝そべると、私はすぐに眠ってしまった。
──目が覚めた。
「起きたみたいね。誰だかわかる?」
頭上から、女性の声が聞こえた。
起き上がってみると……
恵子だった。
当時、中学生の頃は仲が良く、いつも遊んでいたが、高校が別々になってからは会っていない。
「恵子! 久しぶり。何年ぶり?」
恵子は私の言葉に、少し考えた。
「んー、十一年ぶりね」
見違えるわね、と言い、二人で笑った。
久しぶりの再会に、話が弾んだ。
恵子は最近結婚しており、仕事をしながら頑張っているという。
私はまだ彼氏も出来ていないというのに、羨ましいかぎりだ。
「あ、もう次で降りるわ」
話がひと段落して、気づいた。
降りる駅を通り過ぎるところだった。
「今からでもワタシん家に来ない?」
恵子は、立ち上がった私の腕を握った。
「遅いし、新婚夫婦の邪魔しちゃ悪いわ。今度でいい?」
「でも、今日寄ってほしいのよ」
私の腕を強く握った恵子は、般若のような恐い顔をしていた。何が何でも私を連れて行きたい、という意思が伝わってくる。
真剣な顔つきで、私を見つめる恵子。
明日も仕事だし、恵子の家でゆっくり眠れるわけがない。
それに、今の恵子の顔、さっきより青白いし、私の腕を握る手が、腕に指の跡が付きそうなほど握りしめてくる。
──何かおかしい。
私は嫌な予感がして、ドアが開いたと同時に手を振り払って、電車を降りた。
電車が出発して、恵子は窓から私を見ている。
恨めしそうに、睨んでいた。
そんな恵子の顔に、顔を背けられず、私は見つめた。
恵子は、見えなくなるまで睨んでいた。
あまりの異様さに、酔いが覚め、足早に家へ向かった。
私が何か悪い事をしたのだろうか?
誘いを断っただけなのに。
何か相談したい事でもあったのだろうか。
でも……
そんな感じの顔じゃなかった。
家に入ると、お母さんが青ざめた顔で、言った。
「あんた、どうやって帰って来たの?!」
「終電で帰ってきたわ」
「嘘。ニュースで終電が事故にあったって言ってたんだよ」
私の胸に、嫌な靄が漂った。
「言い訳は後で聞いてあげるわ。それより、さっき電話があったんだけど、中学のときに仲良くしてくれた恵子ちゃん、その電車事故で亡くなられたのよ……」
それを聴いた瞬間、恵子が私を睨んでいた映像が、脳裏に浮かんだ。
寒気が起こった。
自分の腕時計を見る。
午前一時を指していた。
家から最寄りの駅までの歩く時間、最寄りの駅から飲み屋近くの駅、そこから飲みに行った店までの歩く時間を、逆算して考えた。
どう考えても、私は終電に間に合っていなかった。
それなのに、私は……
間に合わなかったはずの終電に乗った。
終電に乗ったはずの恵子と会った。
結婚したばかりで、幸せの絶頂だった恵子。
あの、恵子の恨めしい顔をしていた理由は、生への執着だったのかもしれない。
理不尽に上司に怒られ、飲まずにはいられなかったのだ。
終電の時間が迫り、渋々帰ることにした。
まだ、飲み足りない。そう思いながら、歩いた。
外は息が白くなるほど冷えていた。
酔いが醒めるほどの寒さだったけど、足はふらつき、歩きにくい。
でも、しょうがなく歩き続けた。
歩かなきゃ、誰も家に連れて行ってくれる人なんていない。彼氏なし、実家暮らしの私には。
やっとの思いで改札口に行ったけど、駅員がいなかった。
田舎だし、駅員がいないと切符も買えない。
だけど、切符も買わずに、駅のホームまでゆらゆら揺れながら階段を上った。もう、疲れてきた。
それでも帰らないと、あの厳しいお母さんに怒られちゃう。
私がホームに着くと、タイミングよく電車が来た。
人が降りて来るかと思ってドアの端に避けたけど、誰も降りなかった。
中に入ると、誰もいない。
終電とはいえ、普段、乗る人は結構いるのに。でも、誰もいなくてラッキーだった。横になって寝そべられる。
すぐに寝そべると、私はすぐに眠ってしまった。
──目が覚めた。
「起きたみたいね。誰だかわかる?」
頭上から、女性の声が聞こえた。
起き上がってみると……
恵子だった。
当時、中学生の頃は仲が良く、いつも遊んでいたが、高校が別々になってからは会っていない。
「恵子! 久しぶり。何年ぶり?」
恵子は私の言葉に、少し考えた。
「んー、十一年ぶりね」
見違えるわね、と言い、二人で笑った。
久しぶりの再会に、話が弾んだ。
恵子は最近結婚しており、仕事をしながら頑張っているという。
私はまだ彼氏も出来ていないというのに、羨ましいかぎりだ。
「あ、もう次で降りるわ」
話がひと段落して、気づいた。
降りる駅を通り過ぎるところだった。
「今からでもワタシん家に来ない?」
恵子は、立ち上がった私の腕を握った。
「遅いし、新婚夫婦の邪魔しちゃ悪いわ。今度でいい?」
「でも、今日寄ってほしいのよ」
私の腕を強く握った恵子は、般若のような恐い顔をしていた。何が何でも私を連れて行きたい、という意思が伝わってくる。
真剣な顔つきで、私を見つめる恵子。
明日も仕事だし、恵子の家でゆっくり眠れるわけがない。
それに、今の恵子の顔、さっきより青白いし、私の腕を握る手が、腕に指の跡が付きそうなほど握りしめてくる。
──何かおかしい。
私は嫌な予感がして、ドアが開いたと同時に手を振り払って、電車を降りた。
電車が出発して、恵子は窓から私を見ている。
恨めしそうに、睨んでいた。
そんな恵子の顔に、顔を背けられず、私は見つめた。
恵子は、見えなくなるまで睨んでいた。
あまりの異様さに、酔いが覚め、足早に家へ向かった。
私が何か悪い事をしたのだろうか?
誘いを断っただけなのに。
何か相談したい事でもあったのだろうか。
でも……
そんな感じの顔じゃなかった。
家に入ると、お母さんが青ざめた顔で、言った。
「あんた、どうやって帰って来たの?!」
「終電で帰ってきたわ」
「嘘。ニュースで終電が事故にあったって言ってたんだよ」
私の胸に、嫌な靄が漂った。
「言い訳は後で聞いてあげるわ。それより、さっき電話があったんだけど、中学のときに仲良くしてくれた恵子ちゃん、その電車事故で亡くなられたのよ……」
それを聴いた瞬間、恵子が私を睨んでいた映像が、脳裏に浮かんだ。
寒気が起こった。
自分の腕時計を見る。
午前一時を指していた。
家から最寄りの駅までの歩く時間、最寄りの駅から飲み屋近くの駅、そこから飲みに行った店までの歩く時間を、逆算して考えた。
どう考えても、私は終電に間に合っていなかった。
それなのに、私は……
間に合わなかったはずの終電に乗った。
終電に乗ったはずの恵子と会った。
結婚したばかりで、幸せの絶頂だった恵子。
あの、恵子の恨めしい顔をしていた理由は、生への執着だったのかもしれない。
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