わがまま妃はもう止まらない

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「クリストファー様…新婚旅行に行っていたんですよね？」

アビーナルは恐る恐る聞いた。

ルーマン王城に戻ったクリストファーとミルアージュは新婚旅行の帰りとは思えない雰囲気だった。

まだ親しい人の葬式帰りといった方がピッタリ合うくらい暗い空気が2人の間に流れていた。

そして、クリストファーはすぐに自分の執務室に籠った。
まずは国王への報告と挨拶だとは思うが、それどころではない雰囲気のクリストファーにアビーナルは小言の一つも言えなかった。

「あぁ、最初は楽しかった。」
不貞腐れた顔をしたクリストファーは詳しく説明する気はない様だ。

ミルアージュ様を喜ばす為にいつも情報収集をしていたのをアビーナルも知っていた。
その中で今回の旅行先を選び抜いたはずだ。
それがうまくいかなかったのか？
ミルアージュ様は観光にも食べ物にも興味を示さなさそうだ。

アビーナルは同情の目をクリストファーに向けた。

「…殺されたいのか？」
アビーナルの視線に気づいたクリストファーから殺気が漏れている。

「申し訳ありません。」
アビーナルは頭を下げる。

「で、何があったのですか？」
クリストファーの殺気をかわし、何事もなかった様にアビーナルは質問をした。

「はぁぁぁ。」
クリストファーは机に項垂れ、黙ったまま時間が過ぎた。

痺れを切らしたアビーナルは別の机で書類を見始めていた。
こんな茶番にいつまでも付き合えるほど暇ではないのだ。

「お前、冷たくないか？こういう時は慰めるべきだろう。」

「そうすれば仕事をしてくれますか？ただでさえ、旅行に行っていて仕事は溜まっているのですよ。」
アビーナルは書類に目を通しながら顔をクリストファーに向ける事もしなかった。

「お前は相変わらずだな。」

「あなたの代理業務をさっさと終わらせてミルアージュ様のところに戻らないといけないのですよ。私はミルアージュ様の補佐官ですので。」

「元は私の補佐官だっただろう。」
クリストファーの拗ねた声が聞こえてくるが、アビーナルは流した。
やる気がないクリストファーと遊んでいる場合ではないからだ。

クリストファー様と違ってミルアージュ様は溜まった政務を無理してもこなすだろう。
早く戻って手助けせねば。
アビーナルは少し焦っていた。

「はい、元はですね。いずれ、正式にあなたの補佐官に任命されれば戻って来ますよ。それまではミルアージュ様の補佐官です。」

「…お前が私の元に戻る事はない。」
アビーナルの聞き流せない言葉がクリストファーの口から漏れた。

「は？私は外されるのですか？」
いつか王となるクリストファーの補佐をするとばかり思っていた。
ミルアージュの補佐で経験を学ばせたのもその意図があるからだとアビーナルは認識していた。

「王の補佐から外すつもりはない。」

「ですが、クリストファー様の元に戻らないと仰ったではないですか。意味がわかりません‥」
いつもは冷静沈着なアビーナルもクリストファーの意図が分からず、混乱していた。

そこでアビーナルは一つの結論に辿り着いた。

「…まさか…王にならないつもりなのですか？」
クリストファーが王位への執着がない事はアビーナルも知っていた。

だが、今のルーマンでクリストファー以外王となりうる存在はない。

アビーナルの焦った顔を見てクリストファーはニヤリと笑った。
それが真実だという様に。

この国を捨てるつもりなのか？
出て行くならミルアージュ様も連れて行くだろう。
それだけは阻止しなければ、ルーマンは終わる。

「すぐにアルトとルンバードを呼べ。まとめて話す。」

「承知しました…」

クリストファーのいつになく真剣な表情にアビーナルは早足で部屋を出てアルトとルンバードの元に遣いを出した。