231 / 252
231
しおりを挟む
ミルアージュはルンバートの言葉に納得はしていなかった。
だが、それ以上追求しても意味がないとわかるとため息をついた。
「師匠、もうこれ以上は何も言いません。ですが、約束してください。無理は絶対にしないと‥」
「わかっています。ありがとうございます。」
ルンバートはニコリと微笑んだ。
ルンバートもミルアージュとの話を早く切り上げたかった。
ミルアージュに嘘をついているのが心苦しいからだ。
だからこそ、ミルアージュが諦めてくれた事にホッとした。
そんなミルアージュとルンバートの間に沈黙が続く。
「そろそろ、お部屋に戻られた方が良いのではないですか?お待ちの方がいるでしょう?」
先に沈黙を破ったのはルンバートだった。
「そうね、クリスが待ちくたびれてるわね。」
ミルアージュは拗ねているクリストファーを頭に浮かべ、苦笑いをした。
「その前に師匠に聞きたい事があります。」
「何でしょう?」
「ランケットの毒に侵された事がある女性は妊娠できるのかしら?私の友人がこの間結婚したんだけど、心配していました。」
ミルアージュはルンバートに聞いた。
「ランケットですか?その方は耐性はありましたか?」
ルンバートの表情が変わった。
ランケットの様な高価な毒を使われるとした高貴な貴族または王族くらいだ。
「耐性はないわ。意識がしばらく戻らないくらい重症化していたの。服毒後、すぐに対処したけど、命を繋ぎ止めたのが奇跡だわ。」
ミルアージュの言葉にルンバートは同意した。
「そうでしょうね。意識がなくなるくらい飲まれたのだとしたら、そのまま亡くなる場合が多いです。姫様が初期対応されたのですか?さすがです。」
ルンバートはミルアージュから服薬当時の話を聞きたかったが、ミルアージュの表情が真剣そのものだったため、質問の返答をした。
「助かる事例があまりありませんし、妊娠可能な若い女性となると更に少なくなります。ランケット服毒の後、妊娠したとの報告は今のところありません。臓器がボロボロになるので妊娠できない可能性が大きいとは思いますが、実際のところはわかりません。」
「そうね‥」
ミルアージュにもわかっていた。
ランケットについて徹底的に調べたのだから。
だが、ミルアージュが知らない別の答えが欲しかった。
ランケットを飲んでも妊娠できるのだと言う事実を‥
ミルアージュの表情が少しだけ硬くなったのにルンバートも気づいたが、次の言葉を続ける事はなかった。
今のルンバートにはミルアージュの望む返答ができないのがわかるからだ。
「では私は領主様の様子を見に行きます。おやすみなさい。」
ルンバートはミルアージュに頭を下げ部屋から退室した。
「‥えぇ。おやすみなさい。」
ミルアージュもルンバートに答えるが、心ここにあらずでボーとしていた。
先にルンバートが退室をしたが、ミルアージュはなかなかその場を動く事ができなかった。
「妊娠ができない可能性が高い‥」
知っていた事とはいえ、ルンバートから言われた言葉にミルアージュを思っていたよりも傷ついていた。
ミルアージュもルンバートと同じ答えを出していた。
だから、ルンバートが悪いわけではない。
だが、どうしても受け入れたくないという気持ちがあるのだ。
ミルアージュがクリストファーの元に戻ったのはルンバートと別れてだいぶたった頃だった。
部屋に戻り、クリストファーを見たミルアージュから出た一声。
「怒ってるわね。遅くなってごめんなさい。」
「怒ってなどいない。」
そうクリストファーは言うが、誰が見てもわかる。
クリストファーは拗ねている。
扉の前で腕を組み、仁王立ちで待ち構えていた。
だが、ミルアージュの眼が充血し少し腫れているのに気づいた瞬間クリストファーの怒りはおさまった。
「大丈夫か?泣いたのか?ルンバートと話をしに行っただけなのに‥ルンバートに何を言われたんだ?」
クリストファーはオロオロしながらミルアージュにハンカチを差し出す。
「師匠からは何も言われていないわ。ただ、受け入れられないだけ‥」
「何をだ?ルンバートは王城に行くと決めたのだろう?その決定が受け入れられないのか?それならルンバートともう一度、話をしてこよう。」
ミルアージュは横に首を振った。
「師匠は王城に行ってくれるわ‥受け入れられないのは別件。」
「別件?私には言えない事か?」
クリストファーはミルアージュを真っ直ぐに見つめる。
「気持ちの整理がついたら言うからそれまで待ってくれない?」
ミルアージュはクリストファーから目を逸らした。
そう言われるとクリストファーはそれ以上何も言えなかった。
だが、それ以上追求しても意味がないとわかるとため息をついた。
「師匠、もうこれ以上は何も言いません。ですが、約束してください。無理は絶対にしないと‥」
「わかっています。ありがとうございます。」
ルンバートはニコリと微笑んだ。
ルンバートもミルアージュとの話を早く切り上げたかった。
ミルアージュに嘘をついているのが心苦しいからだ。
だからこそ、ミルアージュが諦めてくれた事にホッとした。
そんなミルアージュとルンバートの間に沈黙が続く。
「そろそろ、お部屋に戻られた方が良いのではないですか?お待ちの方がいるでしょう?」
先に沈黙を破ったのはルンバートだった。
「そうね、クリスが待ちくたびれてるわね。」
ミルアージュは拗ねているクリストファーを頭に浮かべ、苦笑いをした。
「その前に師匠に聞きたい事があります。」
「何でしょう?」
「ランケットの毒に侵された事がある女性は妊娠できるのかしら?私の友人がこの間結婚したんだけど、心配していました。」
ミルアージュはルンバートに聞いた。
「ランケットですか?その方は耐性はありましたか?」
ルンバートの表情が変わった。
ランケットの様な高価な毒を使われるとした高貴な貴族または王族くらいだ。
「耐性はないわ。意識がしばらく戻らないくらい重症化していたの。服毒後、すぐに対処したけど、命を繋ぎ止めたのが奇跡だわ。」
ミルアージュの言葉にルンバートは同意した。
「そうでしょうね。意識がなくなるくらい飲まれたのだとしたら、そのまま亡くなる場合が多いです。姫様が初期対応されたのですか?さすがです。」
ルンバートはミルアージュから服薬当時の話を聞きたかったが、ミルアージュの表情が真剣そのものだったため、質問の返答をした。
「助かる事例があまりありませんし、妊娠可能な若い女性となると更に少なくなります。ランケット服毒の後、妊娠したとの報告は今のところありません。臓器がボロボロになるので妊娠できない可能性が大きいとは思いますが、実際のところはわかりません。」
「そうね‥」
ミルアージュにもわかっていた。
ランケットについて徹底的に調べたのだから。
だが、ミルアージュが知らない別の答えが欲しかった。
ランケットを飲んでも妊娠できるのだと言う事実を‥
ミルアージュの表情が少しだけ硬くなったのにルンバートも気づいたが、次の言葉を続ける事はなかった。
今のルンバートにはミルアージュの望む返答ができないのがわかるからだ。
「では私は領主様の様子を見に行きます。おやすみなさい。」
ルンバートはミルアージュに頭を下げ部屋から退室した。
「‥えぇ。おやすみなさい。」
ミルアージュもルンバートに答えるが、心ここにあらずでボーとしていた。
先にルンバートが退室をしたが、ミルアージュはなかなかその場を動く事ができなかった。
「妊娠ができない可能性が高い‥」
知っていた事とはいえ、ルンバートから言われた言葉にミルアージュを思っていたよりも傷ついていた。
ミルアージュもルンバートと同じ答えを出していた。
だから、ルンバートが悪いわけではない。
だが、どうしても受け入れたくないという気持ちがあるのだ。
ミルアージュがクリストファーの元に戻ったのはルンバートと別れてだいぶたった頃だった。
部屋に戻り、クリストファーを見たミルアージュから出た一声。
「怒ってるわね。遅くなってごめんなさい。」
「怒ってなどいない。」
そうクリストファーは言うが、誰が見てもわかる。
クリストファーは拗ねている。
扉の前で腕を組み、仁王立ちで待ち構えていた。
だが、ミルアージュの眼が充血し少し腫れているのに気づいた瞬間クリストファーの怒りはおさまった。
「大丈夫か?泣いたのか?ルンバートと話をしに行っただけなのに‥ルンバートに何を言われたんだ?」
クリストファーはオロオロしながらミルアージュにハンカチを差し出す。
「師匠からは何も言われていないわ。ただ、受け入れられないだけ‥」
「何をだ?ルンバートは王城に行くと決めたのだろう?その決定が受け入れられないのか?それならルンバートともう一度、話をしてこよう。」
ミルアージュは横に首を振った。
「師匠は王城に行ってくれるわ‥受け入れられないのは別件。」
「別件?私には言えない事か?」
クリストファーはミルアージュを真っ直ぐに見つめる。
「気持ちの整理がついたら言うからそれまで待ってくれない?」
ミルアージュはクリストファーから目を逸らした。
そう言われるとクリストファーはそれ以上何も言えなかった。
0
お気に入りに追加
233
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる