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毒の特定ができ、解毒剤もより合うものに切り替えた。

「毒の方はもう大丈夫。後は領主の体力に頼るしかないわ。」
ミルアージュはふぅと息を吐く。

できる事は全てした。
領主の体の機能はどこまで落ちていたのか、現時点では判断できない。

「私は少し離れるからここをお願いね。」
ミルアージュは執事とメイドを見た。

「承知しました。」
数時間、空気と化していた執事は頭を下げた。

メイドを見て
「あなたは私をルンバート師匠のところに案内して。居場所はわかる?」

「今、主治医様の部屋はありませんので領主様といつもいた場所におられると思います。いつもこの領の未来について楽しそうに話していました。」
メイドは懐かしむように思い返していた。

「だから、この領は素敵なのね。」
その表情を見たミルアージュはフッと笑う。
領主が医者と領について話すことなどあまりない。

だが、この領主は領民の健康を願い、実践したのだ。
予防医療は領民の健康維持をするため、ひいてはこの領の将来を考えれば、大切なものだ。

だが、お金がかかる上、目に見えない。
目先の利益を考える者には絶対に理解できないもの。
それに力を入れる領主がこのルーマンにいるなんて。

私が知らないだけで、他にも優秀な人たちがいるのではないか。

「もったいなさすぎる。」
ミルアージュはメイドの後をついていきながら、ポソリと呟いた。

「…」
クリストファーはミルアージュの独り言がしっかりと聞こえていたが、反応しなかった。

思い詰めた表情をしたまま、ミルアージュの後ろを歩いており、ミルアージュもクリストファーの様子まで気にかけることができていなかった。

メイドがミルアージュ達を連れてきたのは最上階にある領を一望できる広いバルコニーだった。

「ここでお茶を飲みながら領地をどうしたらよくなるのかを議論し合っていました。」

メイドも執事も領主と主治医がどれほど真剣に取り組んでいたのかを知っていた。
だからこそ、微塵も主治医を疑う事がなかったのだろう。

ガチャリとバルコニーの扉を開くとルンバートが領を眺めていた。

「‥領主は命の危機からは脱しています。ですが、どのくらい後遺症が残るのかはわかりません。」
ミルアージュがルンバートの横に立ち、豊かな領を見た。

「‥姫様、ありがとうございます。私は主治医失格です。」

ルンバートはミルアージュと目を合わせず、領を見ながら言った。

「あれの見極めは通常の医師なら難しいものです‥それを誤診と言い切ってしまいました。すみません。」
ミルアージュはルンバートに謝った。

「謝らないでください。姫様が誤診という言葉を使ったのは、私なら対応できたと思っているのでしょう?」

「‥‥」

「姫様がきてくださって良かった。」

「昔に師匠が私を救ってくれたのを返しただけです。あなたは言ってくれました。医者だから何でもできるわけじゃない。家族をみれないのも当たり前だと、だから自分たちがいるのだと。その言葉にどれほど救われたか‥」

「‥アンロック王は姫様のお父上です。ですが、私は主治医で領主様を診なければならない者です。私情に囚われて確認を疎かにした。‥医者を辞めようと思っています。」

そういうとルンバートはミルアージュの方を見て頭を下げた。

「本当にありがとうございました。」

ルンバートの吹っ切れたような表情を見るとミルアージュは何も言えなくなった。

ルンバートがどんな思いで医者を辞めると言ったのかがわかるからだ。

救いたい者を救えない。
そこに自分の過ちがある。

医者は誰かの命を左右する。
その事に恐怖や不安を持つ。
助けられない命に苦しむ事もある。

だからこそ、医者でいるためには自分で自分を奮い立たせるしかないのだ。

アンロックを去ったルンバートを止められなかったように今もルンバートを引き止めるだけの言葉を言う事ができなかった。
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