わがまま妃はもう止まらない

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領主の部屋には元主治医、クリストファー、ミルアージュが入った。
ミルアージュは何かを意図しているらしく臣下達を連れてくるのを拒否した。

領主に元主治医を会わせて何を確かめたいのかクリストファーには理解ができていなかった。

だが、元主治医に会ってミルアージュは何か確信を得たように迷いがない目で元主治医を見つめていた。

部屋の中にいた執事やメイドが元主治医をみて驚くが、元主治医の目には領主しか入っていない。

領主の寝所に入るなり、元主治医は領主が寝ているベッドに向かい走り出した。
元主治医は素早く領主の呼吸や脈の確認をする。

クリストファーは元主治医を止めようとしたが、そんなクリストファーをミルアージュが止めた。

「ミア、領主を人質にとったらどうする？いや、診察をするフリをして証拠隠滅に領主を殺すかもしれんぞ。」

「大丈夫、彼は医者だから。」

ミルアージュは元主治医の診察をジッと見つめている。

「いやいや、その根拠のない理由はなんだ？医者だからと言って人を殺めないとは限らないだろう。実際に奴は領主を殺そうとして犯人または共犯者だ。」

一通りの診察が終わるとボロボロと涙をこぼしながら領主の手を握っている。

「彼は優秀な医者だわ。そして、彼は黒幕でも共犯者でもない。」

「は？ミアはわかったのか？領主の命を狙った犯人が。」

「えぇ、大体は。」
ミルアージュは苦笑いをした。

クリスは賢く鋭い感覚を持っている。
だが、人の感情を慮るのが苦手だ。
領主と元主治医の思いを理解するのは難しいかもしれない。

「話してくれますか？領主との間に何があったのか。」

「私から言うことは何もありません。」
元主治医はミルアージュの問いに返答を避けた。

「お前に拒否する権利はないだろう。王太子命令だ、知っている事は全て話せ。」

「何も言う事はありません。」
元主治医はクリストファーの圧にも屈せず、同じ返答をする。

「そうですね、あなたはこの件に絡んでいない。でも知っていた。そして主にその計画に反対したのですよね。」

「主？それは領主ではなく、息子の方に仕えていたのか？」

元主治医は領主の手を握ったまま、ミルアージュを見上げた。

「領主に毒を盛ったのは長男じゃない。領主自身‥ですね。」

ミルアージュの言葉に元主治医も執事も目を見開いた。

「違います！そんな事がある訳がない！領主がどうして自分から毒を飲まないといけないのですか！」
執事がミルアージュに向かって言った。

「そうです、領主には自殺する動機がありません。この領は豊かにされ、誰よりもこの領を大切にしていた。」
元主治医も執事を擁護した。

「この領が大切だからこそ、どうしても許せなかったのでしょう？あの長男が跡を継ぐのが‥」
ミルアージュの言葉に執事も元主治医も言葉を失った。

「ルービオに跡を継がせる為、長男が領主の暗殺を企てた様に自作自演した。これが真相ですよね？」

ミルアージュの言った言葉に元主治医も反応した。

「違います。領主様はそんな事していない。私がやったんです。私が毒物で領主様を殺そうとしたのです。」
元主治医がミルアージュの前に立ち、真っ直ぐにミルアージュを見つめた。

ミルアージュは悲しそうに微笑んだ。

「嘘が下手ですね‥あなた程の優秀なら医者なら領主を病死を装い死なせるのは簡単だったでしょう？じゃあ、どうして領主は今、生きているのか。」

「領主の自演の手伝いをしただけで殺すつもりがなかったのか。」
クリストファーが元主治医の代わりに答えた。

「違う。彼がこの計画に加担していたなら領主をここまで危険になる事はなかった。領主に相談はされたけど、断ったのでしょう？違いますか？」
ミルアージュは質問をしている。
だが、元主治医からの返答を待っているわけではない。

ミルアージュの中でもう結論は出ていた。
ただ本人の口から話が聞きたくて元主治医を追い込んだのだ。