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「領主が料理以外で口にするものはあるかしら?苦味があるから飲み物とかではないと思うんだけど。」
ミルアージュはメイドと執事に聞く。

後に証拠を残しにくい毒だが、投与がなかなか難しいものだ。
だから一般的には注射する。
この毒を疑えば、まずは注射痕を探すのが鉄則だった。

だが、領主には注射痕は全くなかった。

「‥調子が悪くなるまでは健康に良いと言われるお茶を飲んでいました。かなり苦かったようで渋い顔をされていました。」
執事が答える。

「そのお茶の毒味は?」

「しておりません。量が決まっているとのことで‥それに領主の信頼している主治医が直接入れた薬草茶でしたので疑うのは失礼に当たります。」

執事の言葉にメイドも頷く。

「‥その主治医は今どこにいるの?」
ミルアージュの顔つきが変わったのを執事もメイドも気づいた。

「先生が領主様を害されたと考えておられるのですか?そんなはずはありません!彼の方は領主様の幼き頃からのご友人で領主様も1番信頼を置いていたお方です。」

「‥どこにいるのかを聞いているのよ。」
ミルアージュは執事をジッと見つめた。

「領主様の病態を悪化させた罪により城を出されました‥」

「どこにいるのかわからないの?」

メイドと執事は視線を合わせお互い頷くと決意を固めた表情でミルアージュの質問に答えた。
「いえ、まだこの領地内にはおられます。実は‥」
口籠る執事に変わってメイドが口を開く。

「領主様の病態が悪化された時、アドルフ様が追放を決めましたが、そばにいると言って聞きませんでした。その為、アドルフ様から強制労働の罰を受けております。」

「なぜ?強制労働なんか‥」

毒はその薬草茶に入っていたのなら、主治医はアドルフの味方ということになる。

私がアドルフなら追放を理由に逃亡させるだろう。
それか証拠隠滅に存在を消す。

主治医が領地内で強制労働。
そこで不満に思った主治医が真実を語る恐れもある‥

そもそもなぜ、主治医は離れるのを嫌がったのだろう。
毒を盛るのは成功していたし、後は時間の問題だから主治医がそばにいると必要などなかったのに。

「とりあえず、その元主治医をここに連れてこい。話はそれからだ。」
クリストファーの命令にバタバタと動き出した。

「ミア、何か嫌な予感がする。単純な領主暗殺ではないかもしれない。」
クリストファーはミルアージュの耳元でポソリと囁いた。

「ええ、あのアドルフという領主代理をみる限りそれほど頭が回るタイプでは無さそうだし。黒幕は別にいるみたいね。」
ミルアージュもクリストファーの耳元で言う。

「ちょっと様子みてくるわ。」
そういうとミルアージュは領主の元に向かった。

ミルアージュが離れたのを見てクリストファーは小さくため息をついた。
嫌な予感‥
領主代理を捕まえるだけでは終わらない。
それはこの事件が長引くのを意味していた。

ルーマン国王からもらっている新婚旅行の日程全てをこの件で使い切りたくない。

「結局こういう運命なんだ‥」
クリストファーはボソッとつぶやく。

ミルアージュと2人の時間を楽しむ。
それだけの事がどうして、こんなに難しいのかとクリストファーはため息をついた。
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