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しおりを挟むその後のクリスは周囲の邪魔もあり、私に会うこともできなかった。
ひたすら私に会うことだけを願い、自分を高める努力をしていたクリスの苛立ちがひしひしと伝わってくる。
そんな中、アンロック国王が再婚し、第一王子であるレンドランドが生まれたとの知らせがクリスに入る。
その際のクリストファーの喜びは大きかった。
私が女王にならなくてよくなったのだから。
まだ幼さが残るクリストファーの動きは大人も顔負けするくらいに早かった。
婚約の申し入れをルーマン国王に申し入れていた、いや自分の進退をちらつかせ半ば強引に脅していた。
今まで努力で積み上げた王族としての価値をちらつかせて国王に詰め寄るなんて。
この頃からルーマン国王は苦労が絶えなかったのね。
クリストファーが他の兄弟達よりも実力があったばかりに…
ミルアージュはルーマン国王を不憫に思った。
アンロック国王に私との婚約を断られ、怒りのまま赴いたアンロックでクリスが見たもの。
8歳の私は感情というものを無くして人形のように座っていた。
その時のクリスの衝撃は大きかった。
キラキラ輝いていると思っていた私の笑顔がもう戻ってこないとわかった悲しみ、そんな風に私を追い込んだアンロックという国やアンロック国王、そして私のそばにいず何もしてこなかった自分自身への怒り。
クリスの胸の中は抑えることができないほど荒れ、この世の全てを恨んでいた。
そしてアンロック国王である私に父に「ミルアージュをルーマンの王妃にする。ルーマンの私の横で幸せになってもらう。」と宣言した。
そのためにクリスは王太子になった。
ただ私のためだけに。
国のためにしか生きることができない私のために…
クリスには私以外にも目を向けてほしいとずっと思っていた。
私が死んだらクリスがどうなるのかわからなくて怖かったから。
だから、クリスを試すようなこともした。酷いことも言った。
その度にクリスがどんな気持ちでいたのかなんて考えてなかった。
クリスの感情が流れ込んできて自然と涙がこぼれた。
私の周囲の者たちへの怒り、私に試されるたびに切り捨てられるのではと怯え、そして私の望みを叶え幸せにできない自分自身への嫌悪感でいっぱいだった。
8歳の表情をなくした私をクリスはずっと忘れなかった。
クリス自身が意図的に思い返し、自分の戒めにしていたのだ。
そのクリスの苦痛はやがてこの世の全てを壊してしまいたいという思いに変わっていた。
その衝動にひたすら耐えるクリスがいる。
私がそれを望まない、私を不幸にしたくない…それだけの理由だった。
クリスは私が幸せなら自分も幸せだと何度も言っていた。
それは事実だろう。
私の苦痛を感じるたびにクリスはこの世の中を葬り去りたいという衝動にかられていたのだから。
私を思い、理性で押さえ込んでいた。
私のためだけに自分の力を使ってきた。
実際、私に無礼を働いた貴族を許してはいない。
その貴族をこの世から消しさった後の私の反応を恐れて行動に移せていなかっただけ。
しっかりと名前と顔は記憶しており、理由をつけて後から処罰するつもりだった。
何より私がショックだったのは…
私にさえ、クリスは実力を隠していた。
その実力を私が知れば、国のために使わないクリスへの反感を持つことがわかっていたから…
今のルーマンの国力で世界を滅ぼす事はできないだろう。
だが、クリスなら他国を巻き込み、大掛かりな世界戦争を引きおこす事も可能だ。
クリスの頭の中では何度も世界を滅ぼしている。
頭で思い描いたその未来は実現可能だと私にもわかる。
それだけ完璧な計画に太刀打ちできるものはいない。
私の中に流れ込んできたクリスの実力は一国の王レベルで止まるものではなかった。
その力を国や世界のためにも使わない。
ルーマン国でさえ、クリスにとって私が幸せになるための器。
私が王妃と役割を果たすために必要なものに過ぎなかった。
「これが本当にクリスなのね」
自分がクリスのことを何もわかっていなかったことに気づいた。
クリスは私に執着している。
国より私を選ぶだろう。
皆、クリスをそう認識していたし、間違ってはない。
だが、それは私が思っていた以上にいや、誰にも予想できないくらい深いものだった。
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