わがまま妃はもう止まらない

197

ミルアージュの微笑みが強がりに見えたのだろうか。
ルービオの顔がさらに青くなった。

「私は…」
ルービオは何かを言いたそうに口を開くが、言葉にならなかった。
強く握りしめた拳がプルプルと震えている。

「もういい。お前は結局、何も選べないのだから。」
クリストファーはルービオに冷たい視線を向けてから小屋を出た。

「ルービオ、本当に大丈夫だから。」
ルービオにそう言い残し、クリストファーの後をミルアージュは追う。

クリストファーの苛立ちを表しているかのように歩くのが早く、ミルアージュはクリストファーに駆け寄った。

「ねぇ、クリスどうしたの？あなたらしくない。まだ成人もしていない子ども相手に。」

「ああ、そうだな。成人もしていない子どもだ。だが…そんなのは言い訳だろう。実際、問題が起きていてルービオは選択を迫られた。ルービオが選ばなければならない。その彼女が私たちに協力するかどうかさえ決められない。」

クリストファーは真っ直ぐに前を向いて歩きミルアージュと目を合わせなかった。

「そうだけど…今回は私たちがいるから大丈夫よ。ルービオは今まで頑張ってきてたわ。」
ミルアージュがそう答えると急にクリストファーは歩くのをやめ、ミルアージュの方に振り向いた。

「ああ！わかっている。ミアがルービオの重荷を背負おうとしている事は。…旅行にここを選んだの私のミスだ。だが、抱え込まないと最初に私と約束したはずだ。どうしてミアがルービオが選ぶべき問題まで抱え込むんだ？」

「だって、これは王国に関わる事だから…」
クリストファーの圧にミルアージュは戸惑った。

「そうだ、だが、本来なら我々はここにはいなかった。彼らで解決するしかなかったはずだ。」

「…私たちがいるからこそ、大事になる前に未然に防げるわ。」
ミルアージュの返答にクリストファーはフゥと息を吐いた。
自分を落ち着けようとしているのがわかる。
それほどまでにクリストファーは怒っているのだ。

「そうだな、だがら止めはしなかった。反対したところで無意味だから。だが、次も私たちがいるとは限らない。どんなに不利な状況でもルービオは決断しなければならない。今、彼女の重荷を減らすことに何の意味がある？自立を促し、できないところを助けるべきではなかったか？」

「クリス…その通りね。だけど、ルービオはまだ成人していない女の子よ。あの子が背負うには重すぎると思う。」

自分の様に罪に苛まれて生きていくのは辛いから…
クリストファーの悲しそうな顔を見てミルアージュはその言葉を言うことはできなかった。

「ミア、何でも自分が背負えばいいものじゃない。ミアが今までどんなに傷つきながらも王族の役割をこなしてきた事を知っている。他者にその思いをさせたくないことも…だが、レンドランドを甘やかした結果どうなった？また、あんな風にミアが傷つくのはもう嫌なんだ。」
クリストファーが心配そうにミルアージュを見つめる。

クリストファーが何に怒っているのかミルアージュにもわかった。
ミルアージュの心配をしてくれているのだ。

「ごめんなさい…私、余計な事をしたのね…」
ミルアージュはレンドランドの自殺未遂を思い出して表情が曇った。

クリストファーは首を横に振って両手でミルアージュを抱きしめた。

「違う！ミアに甘えた挙句、何もしないくせに勝手に傷ついてミアを追い詰める奴らが悪いだろう？なぜ何でも自分のせいにする？いい加減にその考え方はやめてくれ。私はミアに自分を大切にして欲しいんだ。」

こんな風にミルアージュを責めるのは自分の八つ当たりだとクリストファーも気づいている。
レンドランドの話も出すべきではなかった。

そんなことはわかっている。
わかっていたのに…

それでも我慢ができず、ミルアージュを八つ当たりをした自分に対し腹を立てていた。

「ミア、すまない。少し一人にしてくれないか？夕飯は一緒に取ろう、その時に城への侵入について話をするとしよう。」

クリストファーはミルアージュの返答も聞かずに歩き出した。
これ以上話せば余計にミルアージュを傷つけてしまう発言をしそうで怖かったからだ。

「クリス…」
ミルアージュはクリストファーが見えなくなってもしばらくその場から動く事ができなかった。