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「どういうことでしょうか?私の耳にはそんな話は入ってきておりません。」
外務大臣が一番に反応したが、先ほどのような勢いはないのが誰の目にも明らかだった。

「おかしいな。その辺りは外務大臣である其方の管轄のはずだが。其方を飛び越えて私の耳に入ったのならそれはそれで問題だな。」
レンドランドの言葉はとても静かで冷たいものだった。

外務大臣の他に口を開く者はいず、またシンと静まりかえる。

「…では、どうして我が国がルーマンとの同盟を破棄してレーグルトと同盟を結ぶ事になったのか。それを今ここで説明してみろ。」

「それは何度も皆と協議決めたことではないですか!」

「…そうだな。その協議の中でルーマンへ嫁いだ姉上の脅威が大きかったと認識しているが。」
レンドランドは吐き捨てるように言った。
その意見に賛成していなかった事がありありと伝わってくる。

アンロックは王制を取ってはいるが、レンドランドが全てを決められる訳ではなかった。
議会にもある一定の権力を与え、愚王が現れても国を守れる体制としていたから。

だが、王の決定権が全てではない事は悪くも働く。
今回のように…。

ルーマンもアンロックも王政をとっているが、議会に参加する貴族たちは無視できない。
それがこうやって問題となって表面化をする。

レンドランドは皆を抑える事ができなかった自分の力のなさが悔しかった。
あれほどこの国に尽力してくれた姉上を国から追い出しただけではなく、ルーマンの国ごと圧をかけようなど許せるものではなかった。

外務大臣はミルアージュとクリストファーをチラッと見た。

「そうです。ミルアージュ様が大人しく隣国の王太子妃でおられるはずありません。我が国に干渉してくるのは間違いありません。何でも自分のものにしなければ気が済まないお人なのですから。」

外務大臣は先ほど剣を突きつけられたのが堪えたのか言葉を選んではいるが、ミルアージュの批判をしている事には変わらなかった。

「もう我慢できないな。もう切ってもいいか?」
ミルアージュの横でクリストファーは剣に手をかけようとする。

「ダメよ、クリス。あんなのは気にしていないわ。」
実際、アンロックにいる頃はもっとひどい言われ方をしていた。

わがままなど可愛らしいものだ。
悪女だとか人殺しや残虐な王女などミルアージュの王女という肩書きと共についていた。

「そんなのを受け入れる必要はない。ミアはそんな人間でないのは私が一番知っている。」
クリストファーはミルアージュがそれらの言葉を受け入れるのがどうしても許せなかった。

「外務大臣、言葉を控えろ。私は姉上をこの国の立役者だと言った。その言葉を否定するつもりか?」

「そんなつもりはありませんが…」

「この中で姉上がこの国で何をしていたのか知っている者はいるか?」
レンドランドは謁見の間に集まった皆を見渡し意見を求めた。

大臣達は無言だった。
レンドランド王が何を求めているのかわからず、下手な事を口にはできないと判断したから。

政務官や補佐官達はお互いに顔を見合わせて目で合図を送り合っていた。

そのうちの一人が意を決したように手を上げ口を開く。

「おそれながら発言致します。」

「発言を許す。」
レンドランドの許可が出た後、少しホッとしたように言葉を発した。

「ミルアージュ様はこの国の為にとってなくてはならないお方でした。ルーマンに嫁がれたのはこの国にとって大きな損害です。」
政務官はそう言い切った。

「何を言っている!王女としての役割も果たさず、好き勝手をしていたミルアージュ様だぞ!今この国を治めているレンドランド王より優秀だと言っているような言い方ではないか!」

外務大臣は政務官に怒鳴った。
その政務官はビクッと反応して「そんなつもりは…」とオロオロしていた。

「外務大臣、その方に発言の許可は出していない。先ほどからどれだけ私を蔑ろにすれば気が済むのだ?」

レンドランドの声がさらに低くなった。

「いえ、そういうわけでは…申し訳ありません。」
外務大臣はレンドランドに頭を下げ謝罪した。

「そのまま続けて構わない。私云々は気にしなくていい。なぜ姉上がいなくなったら大きな損害となるのだ?聞かせてもらおう。」
レンドランドはニコッと笑い、椅子から前のめりとなった。

レンドランドを通さず、いきなりの議案提出、議会ではルーマンとの同盟破棄が議決されてしまった。

元々ミルアージュの評判が悪かったとはいえ、議会が満場一致で議決されるなどあり得ない事態だった。
その時からレンドランドはミルアージュの名誉挽回の準備をし、この機会を待っていた。
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