159 / 252
159
しおりを挟む
「どういうことでしょうか?私の耳にはそんな話は入ってきておりません。」
外務大臣が一番に反応したが、先ほどのような勢いはないのが誰の目にも明らかだった。
「おかしいな。その辺りは外務大臣である其方の管轄のはずだが。其方を飛び越えて私の耳に入ったのならそれはそれで問題だな。」
レンドランドの言葉はとても静かで冷たいものだった。
外務大臣の他に口を開く者はいず、またシンと静まりかえる。
「…では、どうして我が国がルーマンとの同盟を破棄してレーグルトと同盟を結ぶ事になったのか。それを今ここで説明してみろ。」
「それは何度も皆と協議決めたことではないですか!」
「…そうだな。その協議の中でルーマンへ嫁いだ姉上の脅威が大きかったと認識しているが。」
レンドランドは吐き捨てるように言った。
その意見に賛成していなかった事がありありと伝わってくる。
アンロックは王制を取ってはいるが、レンドランドが全てを決められる訳ではなかった。
議会にもある一定の権力を与え、愚王が現れても国を守れる体制としていたから。
だが、王の決定権が全てではない事は悪くも働く。
今回のように…。
ルーマンもアンロックも王政をとっているが、議会に参加する貴族たちは無視できない。
それがこうやって問題となって表面化をする。
レンドランドは皆を抑える事ができなかった自分の力のなさが悔しかった。
あれほどこの国に尽力してくれた姉上を国から追い出しただけではなく、ルーマンの国ごと圧をかけようなど許せるものではなかった。
外務大臣はミルアージュとクリストファーをチラッと見た。
「そうです。ミルアージュ様が大人しく隣国の王太子妃でおられるはずありません。我が国に干渉してくるのは間違いありません。何でも自分のものにしなければ気が済まないお人なのですから。」
外務大臣は先ほど剣を突きつけられたのが堪えたのか言葉を選んではいるが、ミルアージュの批判をしている事には変わらなかった。
「もう我慢できないな。もう切ってもいいか?」
ミルアージュの横でクリストファーは剣に手をかけようとする。
「ダメよ、クリス。あんなのは気にしていないわ。」
実際、アンロックにいる頃はもっとひどい言われ方をしていた。
わがままなど可愛らしいものだ。
悪女だとか人殺しや残虐な王女などミルアージュの王女という肩書きと共についていた。
「そんなのを受け入れる必要はない。ミアはそんな人間でないのは私が一番知っている。」
クリストファーはミルアージュがそれらの言葉を受け入れるのがどうしても許せなかった。
「外務大臣、言葉を控えろ。私は姉上をこの国の立役者だと言った。その言葉を否定するつもりか?」
「そんなつもりはありませんが…」
「この中で姉上がこの国で何をしていたのか知っている者はいるか?」
レンドランドは謁見の間に集まった皆を見渡し意見を求めた。
大臣達は無言だった。
レンドランド王が何を求めているのかわからず、下手な事を口にはできないと判断したから。
政務官や補佐官達はお互いに顔を見合わせて目で合図を送り合っていた。
そのうちの一人が意を決したように手を上げ口を開く。
「おそれながら発言致します。」
「発言を許す。」
レンドランドの許可が出た後、少しホッとしたように言葉を発した。
「ミルアージュ様はこの国の為にとってなくてはならないお方でした。ルーマンに嫁がれたのはこの国にとって大きな損害です。」
政務官はそう言い切った。
「何を言っている!王女としての役割も果たさず、好き勝手をしていたミルアージュ様だぞ!今この国を治めているレンドランド王より優秀だと言っているような言い方ではないか!」
外務大臣は政務官に怒鳴った。
その政務官はビクッと反応して「そんなつもりは…」とオロオロしていた。
「外務大臣、その方に発言の許可は出していない。先ほどからどれだけ私を蔑ろにすれば気が済むのだ?」
レンドランドの声がさらに低くなった。
「いえ、そういうわけでは…申し訳ありません。」
外務大臣はレンドランドに頭を下げ謝罪した。
「そのまま続けて構わない。私云々は気にしなくていい。なぜ姉上がいなくなったら大きな損害となるのだ?聞かせてもらおう。」
レンドランドはニコッと笑い、椅子から前のめりとなった。
レンドランドを通さず、いきなりの議案提出、議会ではルーマンとの同盟破棄が議決されてしまった。
元々ミルアージュの評判が悪かったとはいえ、議会が満場一致で議決されるなどあり得ない事態だった。
その時からレンドランドはミルアージュの名誉挽回の準備をし、この機会を待っていた。
外務大臣が一番に反応したが、先ほどのような勢いはないのが誰の目にも明らかだった。
「おかしいな。その辺りは外務大臣である其方の管轄のはずだが。其方を飛び越えて私の耳に入ったのならそれはそれで問題だな。」
レンドランドの言葉はとても静かで冷たいものだった。
外務大臣の他に口を開く者はいず、またシンと静まりかえる。
「…では、どうして我が国がルーマンとの同盟を破棄してレーグルトと同盟を結ぶ事になったのか。それを今ここで説明してみろ。」
「それは何度も皆と協議決めたことではないですか!」
「…そうだな。その協議の中でルーマンへ嫁いだ姉上の脅威が大きかったと認識しているが。」
レンドランドは吐き捨てるように言った。
その意見に賛成していなかった事がありありと伝わってくる。
アンロックは王制を取ってはいるが、レンドランドが全てを決められる訳ではなかった。
議会にもある一定の権力を与え、愚王が現れても国を守れる体制としていたから。
だが、王の決定権が全てではない事は悪くも働く。
今回のように…。
ルーマンもアンロックも王政をとっているが、議会に参加する貴族たちは無視できない。
それがこうやって問題となって表面化をする。
レンドランドは皆を抑える事ができなかった自分の力のなさが悔しかった。
あれほどこの国に尽力してくれた姉上を国から追い出しただけではなく、ルーマンの国ごと圧をかけようなど許せるものではなかった。
外務大臣はミルアージュとクリストファーをチラッと見た。
「そうです。ミルアージュ様が大人しく隣国の王太子妃でおられるはずありません。我が国に干渉してくるのは間違いありません。何でも自分のものにしなければ気が済まないお人なのですから。」
外務大臣は先ほど剣を突きつけられたのが堪えたのか言葉を選んではいるが、ミルアージュの批判をしている事には変わらなかった。
「もう我慢できないな。もう切ってもいいか?」
ミルアージュの横でクリストファーは剣に手をかけようとする。
「ダメよ、クリス。あんなのは気にしていないわ。」
実際、アンロックにいる頃はもっとひどい言われ方をしていた。
わがままなど可愛らしいものだ。
悪女だとか人殺しや残虐な王女などミルアージュの王女という肩書きと共についていた。
「そんなのを受け入れる必要はない。ミアはそんな人間でないのは私が一番知っている。」
クリストファーはミルアージュがそれらの言葉を受け入れるのがどうしても許せなかった。
「外務大臣、言葉を控えろ。私は姉上をこの国の立役者だと言った。その言葉を否定するつもりか?」
「そんなつもりはありませんが…」
「この中で姉上がこの国で何をしていたのか知っている者はいるか?」
レンドランドは謁見の間に集まった皆を見渡し意見を求めた。
大臣達は無言だった。
レンドランド王が何を求めているのかわからず、下手な事を口にはできないと判断したから。
政務官や補佐官達はお互いに顔を見合わせて目で合図を送り合っていた。
そのうちの一人が意を決したように手を上げ口を開く。
「おそれながら発言致します。」
「発言を許す。」
レンドランドの許可が出た後、少しホッとしたように言葉を発した。
「ミルアージュ様はこの国の為にとってなくてはならないお方でした。ルーマンに嫁がれたのはこの国にとって大きな損害です。」
政務官はそう言い切った。
「何を言っている!王女としての役割も果たさず、好き勝手をしていたミルアージュ様だぞ!今この国を治めているレンドランド王より優秀だと言っているような言い方ではないか!」
外務大臣は政務官に怒鳴った。
その政務官はビクッと反応して「そんなつもりは…」とオロオロしていた。
「外務大臣、その方に発言の許可は出していない。先ほどからどれだけ私を蔑ろにすれば気が済むのだ?」
レンドランドの声がさらに低くなった。
「いえ、そういうわけでは…申し訳ありません。」
外務大臣はレンドランドに頭を下げ謝罪した。
「そのまま続けて構わない。私云々は気にしなくていい。なぜ姉上がいなくなったら大きな損害となるのだ?聞かせてもらおう。」
レンドランドはニコッと笑い、椅子から前のめりとなった。
レンドランドを通さず、いきなりの議案提出、議会ではルーマンとの同盟破棄が議決されてしまった。
元々ミルアージュの評判が悪かったとはいえ、議会が満場一致で議決されるなどあり得ない事態だった。
その時からレンドランドはミルアージュの名誉挽回の準備をし、この機会を待っていた。
1
お気に入りに追加
233
あなたにおすすめの小説
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
真実の愛に婚約破棄を叫ぶ王太子より更に凄い事を言い出した真実の愛の相手
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式が終わると突然王太子が婚約破棄を叫んだ。
反論する婚約者の侯爵令嬢。
そんな侯爵令嬢から王太子を守ろうと、自分が悪いと言い出す王太子の真実の愛のお相手の男爵令嬢は、さらにとんでもない事を口にする。
そこへ………
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。
◇なろうにも上げてます。
落ちこぼれ公爵令息の真実
三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。
設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。
投稿している他の作品との関連はありません。
カクヨムにも公開しています。
嘘はあなたから教わりました
菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる