わがまま妃はもう止まらない

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「それでどうなった？」
書類を持つ手を震わせながらクリストファーから殺気が漏れている。

こんな報告自分だってしたくない。
ミルアージュの現状をクリストファーへ報告するのは命がけとなるのがわかっているから。

案の定、ギリギリと苦虫を噛み殺したような顔をしたクリストファーに神経をすり減らしながら報告する目にあっている。

ダミアンの報告の時ですらクリストファーの顔色が変わったのにアザイルとのカフェでの報告で完全に目がすわっていた。

ミルアージュの居場所が判明してから護衛と言う名の監視がついている。
ミルアージュを見つけられないといっては睨まれ、見つけてからは報告一つ一つで神経をすり減らしていた。

特別手当を出して欲しい。
こんな業務から早く離れたいと思うのは許してもらいたい。
誰も代わってはくれないが…

「そのダミアンという男もアザイルという商人もミアが魅力的なのはわかるが、王太子妃に手を出そうなど許される事ではない。」

クリストファーはダミアンとアザイルに報復しそうな勢いだった。

いやいや、アザイルはともかくダミアンはミルアージュの身分自体を知らないだろう。
街で会った人物が王太子妃だなんて普通思いもしない。

ミルアージュの影の護衛は目をつけられた二人を気の毒に思うしかなかった。


護衛が退室してクリストファーは一人になり、アザイルを思い出していた。

ミルアージュの為に何度かアクセサリーを買い求めたことがある。
ルーマン最大の商店主だけあってかなり賢い人物だと記憶している。
言葉遣いや空気の読み方、そして相手が何を欲しているのかを正確に読み取る。

そんな人物がミルアージュの頼みで店を放りだし、こんな国の端の街まで来るなんて…

「口説いたのは本気か。王太子妃と知っていて…欲しいのはどちらだ？商人としてのミア？それとも…」

口に出すのも嫌だった。
ミアもミアだ。
私の妃なのに…商店に迷惑かけられないって何だ？私のそばを離れることなど絶対にない。

「そう、私がこの国の役にたてるなら戻るし、邪魔になるなら消えるしかない。まだ結果は出てない。」

報告書にあるミアの言葉。
アビーナルの手紙にも書かれていた。

ミアは私から離れることは望んでいない。
だが、今は私の様子見をしている。
ミアは何よりこのルーマンの行く先が心配している。
ミアがいなくても私は大丈夫だと見せられたらミアも安心するだろう。

わかっている。ミアがそばにいてくれるかどうかは私次第なんだと。

私が国を優先できる人間ならばこんなにミアも迷うことはなかった。

「それができればこんなことになってない。」
ミア会いたさに結局街の外れにまで飛んできた。

『クリスが来るのは絶対に許さない。』

アビーナルの手紙とともにあったミアからの手紙を見て近づけなくなったが、見守り続ける。

王城では王が多少苦しんでいるだろうが、必要な書類はここに来ているし、仕事放棄などしていない。
何より今重要なのはレーグルトとの境界にあるこの街の様子だ。

そう心の中でミルアージュに言い訳をしていた。

ミアに会いたい。
抱きしめたい。
だが、今動けば全てが台無しになる。

今の私の姿を見たらミアもアンロックも落第点を出すだろう。
それも承知しているからこそ、今の自分の行動を正当化しなければならない。

「ミアを騙すようで心苦しいがミアを手に入れる為だ。」
そう自分に言い聞かせるようにクリストファーはブツブツと言い訳をした。

これから街で起こる事件をミアはまだ知らない。
これがうまくいけば、全てはうまくいく。

ミアを抱きしめたい衝動を抑える為、ワイン一本を一気にあおった。