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「ミルアージュ様…これからどうされるつもりですか?」

アビーナルは聞きたいような聞きたくないようなそんな複雑な思いを持ちつつミルアージュに聞いた。

「そうね、2週間ではなく2ヶ月後に来てもらいましょう。」

「2ヶ月?この状態が2ヶ月ずっとですか?」

アビーナルの顔色が変わった。

「レーグルトはまだ動きそうにないし、この街の再建をもう少ししてもいいでしょう?」

ニコニコと笑いながらミルアージュが言う。

「ですが、この街の評判は王都にまで届いています。領主が動き出すのも時間の問題です。」

領での運営がうまくいっていれば領主は味をしめて税を上げる事が目に見える。
そうなる前に王城からの使者や軍部が到着し無理な取り立てをしないようにしておきたいとアビーナルは思っていた。

「クリスと連絡が取れるのでしょう?第三部隊はここにくる前に寄り道をして来るように伝えてちょうだい。」

アビーナルはミルアージュの笑顔がだんだん怖いものに見えてきた。

「それを私に伝言しろと…殺されます。」
クリストファーの威圧感は日に日に増していた。そのうち誰かを殺すのではないかと思わせるほどに。
そんな中、アビーナルからの手紙が届けば…火を見るよりも結果は明らかだ。

「大丈夫、私からの伝言だといえばあなたが責められることはないわ。」

「ミルアージュが直筆で書いてください。代筆など無理です。」

命がかかっているのだからアビーナルも譲るわけにはいかなかった。

「もうしょうがないわね。」
ミルアージュが折れたが、ミルアージュの手紙の内容を見てアビーナルは後悔した。

『第三部隊は領地外待機。クリスが来るのは絶対に許さない。』

ミルアージュの手紙は軍で使う報告の内容と同じ書き方だった。

「…ミルアージュ様、これは数ヶ月会えなかった愛する夫に向けての手紙でしょうか?」

恐る恐るアビーナルは聞いた。

「そうよ?ちゃんと大事に届けてね。」

ミルアージュから預かった以上見なかった事もアビーナルが書き直す事もできない。

クリストファーの疲れ切った顔が真っ青になるのが容易に想像できる。

「ミルアージュ様はクリストファー様に嫌われるという概念がないのですね。」

愛する妃が失踪して数ヶ月ぶりにもらった手紙がこれだったら普通は怒るだろう。
アビーナルだって愛しの妻からこんな手紙をもらいたくない。

「…クリスがこの程度の扱いで私の事を嫌いになるのなら、もうとっくの昔に嫌われているわよ。」

ミルアージュは冷静沈着だと思っていたアビーナルの表情がコロコロと変わる様子をおもしろくみていた。

「これ以上の扱いをしていたのですか?」

ミルアージュは少し考えてから答える。

「そうね、何年も完全無視をしていたし、クリスの意向など聞いたこともないわ。アンロックでは要注意人物だったから私との面会すらできない時も多かったし、できても必ず付き添いがいたわね。」

アビーナルは自国の王太子であるクリストファーを不憫に思った。

ミルアージュは優秀だが、クリストファーに冷たい。
それは前からわかっていたが、無視をされても思い続けられるクリストファーの忍耐を素直にすごいと思った。

「クリスがかわいそうだと思う?」

アビーナルは遠慮気味に頷いた。

「私もそう思うわ。」

ミルアージュはアビーナルから視線をずらし、何かを隠したいように後ろ向きになった。



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