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「アルト、何だこの雰囲気は。」

マカラックが戻ってきて開口一番そう言った。

「えーと、慰労会からこんな感じで…」

アルトの表情には疲労がありありと浮かんでいた。

アルトとマカラックの前に無言で座っているクリストファーとミルアージュがいた。

マカラックが戻るとの知らせを受け、クリストファーはミルアージュの部屋を訪ねていたのだ。
だが…なかなかマカラックは現れず…

王太子が来室しているのに何も出さないと訳にはいかず、お茶のセッティングがされたが、お互いにお茶に手もつけず無言で向かい合っていた。

戦場とは違う緊張感にアルトは疲れ切っていた。マカラックが来るまでの時間がどれほど長いものとなったのか…

これほど誰かの存在を求めたことはないマカラックを待ちに待っていた。

「まぁ、いい。座ってもいいか?」
マカラックはクリストファー、ミルアージュの許可を取らずに椅子に座った。

断られることは想定にないようだ。

「私にもお茶を頼む。」
メイドまで呼び、お茶を頼んだ。

クリストファー、ミルアージュの無言の圧にも屈しないマカラックの精神面の強さをアルトは心の底から尊敬した。

すぐさま、お茶がマカラックの前に出される。
一口国につけるとマカラックはフゥと息をついた。

「美味しいお茶だな。ミルアージュ殿達のお茶がもう冷めてるぞ。いいのか?」

マカラックはクリストファーとミルアージュの手につけていないお茶を見て話しかけた。

「今は大丈夫です。」
クリストファーは無言のまま。
ミルアージュは口を開きたくはなかったが、名前を出されマカラックを無視する訳にはいかず答えた。

「ミルアージュ殿、少し手を出してくれるか?」
いきなりマカラックは突拍子もないことを言いだした。その言葉を聞いたアルトは目を見開いた。こんな機嫌の悪いクリストファー様の前でそれをいうのかと声を大にして言いたかった。

この雰囲気などマカラックにすれば、どうでも良いことのようだ。

その言葉にクリストファーは反応しマカラックを睨むが、マカラックは無視をしてミルアージュを見つめている。

あぁぁ、最悪な雰囲気…
あまりの空気の悪さにアルトは泣きそうになっていた。

ミルアージュも少し戸惑ったが、素直に右手を差し出した。

その手にマカラックは自分の両手で包む。
その瞬間、無言のクリストファーから殺気が出た。

マカラックは知らん顔だ。
千年以上生きているマカラックから見たらクリストファーもミルアージュも子供みたいなものだ。
恐れる存在ではなかった。

ミルアージュの右手が少し熱くなり、マカラックが包んだところから光が広がり、手首に光るブレスレットがついた。

「これは?」
ミルアージュはそのブレスレットを見つめながらマカラックに聞く。

「それは幸福の力の副作用を減らすものだ。ミルアージュ殿がいつか幸せを望むまでつけていなさい。幸福を拒否しなければ、そのブレスレットは消滅する。」

マカラックの言葉にミルアージュは頷いた。

「少し体調は良くなったか?」

「はい。」
ミルアージュは頷いた。

その様子にクリストファー、アルトはハッとした。
ミルアージュの体調が悪かったと今まで気付いていなかった。

「ミア、すまない。こんな事している場合ではなかったのに。」
クリストファーがオロオロとしてミルアージュを部屋まで連れて行こうとした。

「もう大丈夫よ。このブレスレットでだいぶ楽になったわ。」

一切表情を変えないミルアージュが答える。

「幸福の力は一度授けるともうはずせない。あの力は内部から発するものだから力が強い教団の者しか気付かないが、このブレスレットは違う。外側から内側を抑え込んでいるため、力のある者が見ればすぐにバレてしまう。気をつけてなさい。」
マカラックは申し訳なさそうにミルアージュに言った。

「マカラック様、こんなものは必要ないです。もし私が教団に見つかりマカラック様の存在が公になることの方が問題です。」
ミルアージュはブレスレットを外そうとした。

「ミルアージュ殿がそういうのはわかっていた。だが、そのブレスレットはあなたが幸せになるまでもう外せない。私の事なら心配しなくてもいい。あなたに幸福を強制した私が悪いのだから。」

バレればもうあの領地で皆と静かには暮らせないだろう。
マカラックはバレたとしても自業自得だと思っている。

このまま幸福の副作用が続けばミルアージュの体がもたないことをマカラックは知っている。

「私に申し訳ないと思うなら幸福を拒否しないで欲しいな。」
そういうマカラックにミルアージュは何も言えなかった。
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