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しおりを挟む「夫婦喧嘩はそこまでだ。」
ニコニコと笑いながら国王がパンパンと手を叩いて近づいてきた。
「クリストファー、遠征に出た妃をもう少し労われ。」
「ミルアージュ妃もこの未熟なクリストファーでは大変だと思うが、ここは私に免じて折れてはくれないか?キュラミールも悪気はなかったはずだ。そうだな?」
ニコニコと微笑みを崩さない国王だが、有無を言わない圧をキュラミールに向ける。
「…はい。」
キュラミールもそう頷くしかなかった。
「濡れたまま突っ立っている訳にもいかないだろう。着替えるといい。」
国王はにこやかにキュラミールを言う。
「はい。」
そう返事をしたキュラミールに国王は近づき、何かを囁いた。
それにキュラミールはありえないという表情をし反応するが、国王はポンとキュラミールの肩を叩き退場させた。
ミルアージュもクリストファーも国王に何も言うことができず、その様子を見守っていた。
キュラミールを退場させると国王はにこやかに皆の方を見た。
「ではパーティーを仕切り直そう。第三部隊の為のパーティーだ。畏まらず楽しんでくれ。君たちを私は誇りに思う。」
そういうと国王は乾杯をした。
「クリストファー行くぞ。私達がここにいては皆くつろげないからな。」
ミルアージュの前で固まっているクリストファーを連れて国王もその場を離れた。
アルトも第三部隊の隊員、そしてその家族達も皆、その様子を呆気にとられてみているしかなかった。
だが、ミルアージュが貴族ではなく自分達の味方をしてくれた事が嬉しくて仕方なかった。
その場に残ったミルアージュは亡くなった者の親族達全てにその者への敬意を、負傷して後遺症を残した者へは感謝を伝えて回った。
今回死傷者は少なかったが、隊員一人一人の情報をしっかりと把握していたミルアージュに誰しも驚いた。
ミルアージュも全てを把握しておく事は困難だ。
王都に戻り忙しい中、死傷者の上司や同僚達に聞いて回っていたのはこれをする為だったのだとアルトは気づいた。
ミルアージュの体調を気にして自分が調べると言ったが、ミルアージュは決して譲らなかったのは自分自身で知りたかったのだと胸が熱くなった。
こんなに自分達を気にかけてくれる王族がいる。
そんな国を守る事を誇りに思えた。
しかし、それだけではなかった。
亡くなった者の家族には慰謝料、後遺症を残し、離脱が必要な者への仕事の斡旋や今後の生活保障のためのお金が支払われると発表された。
兵が自分の仕事を全うし亡くなったり、後遺症を残したとしても当たり前のことだ。
危険を承知でその仕事を行なっているのだから。
だが、その後は悲惨な生活が待っているのも間違いなかった。
貴族ならその領地で生きていけるが、平民はそうではない。
「アルト隊長、死傷者への慰謝料など聞いたこともありません。」
副隊長がアルトに耳打ちする。
「アンロックでは国としての政策だそうだ。」
「へぇ、すごいですね。この国の貴族達なら国庫から出すなんて反発されたでしょうに。国を守って死ぬのは当たり前だとか言って。何予算から出たんです?」
平民の命は貴族に比べると軽いものだ。
その者たちの為に自分たちが納めたお金を使われるのに反発しない訳がなかった。
「‥姫のところからだ。宝石などを売ったと聞いている。元々こういう時のために買っておいたものだそうだ。」
副隊長は顔をしかめた。
ミルアージュの噂を知っていたからだ。
年の王太子妃予算は決まっており、使わなければ国庫への返還という形になっている。
ドレスは価値がさがるが、良い宝石は価値こそ上がれど落ちる事はない。
ミルアージュは定期的に宝石を買い備えていたのだ。
ミルアージュの宝石好きは有名で、無駄に予算を使っているとの批判も出ていた。
アルト自身は、予算内なのだから何に好きに使おうと構わないのではと思っていた。
何よりミルアージュ個人として欲しがるものがあることが嬉しかった。
それがあの無理し続けるミルアージュの癒しになればと思っていたのだ。
確かに宝石を身につけている事はほとんどなかったと今回気づいた。
傷がつけば価値が下がるため、しまい込んでいたのだろう。
アルト自身、女性の装飾に興味がなく考えた事がなかった。
「宝石を買うこと自体が民のためであるなんて‥姫個人の楽しみや幸せはどこにあるのだろうな。」
アルトのため息交じりの声に副隊長も頷いた。
一通りの挨拶が終わると隊員たちがミルアージュに近づき、和やかな会となった。
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