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アルトは目の前に現れたクリストファーに驚きを隠せなかった。

マカラックがクリストファーを呼びに行くと言って消えたのは昨日の夜中だ。

そしてクリストファーを連れてきたのが次の日の夜…この早さをみるとクリストファーはマカラックの話をすぐに信じて聖力を使う練習をしたのだ。

しかもミルアージュですら数日かかって習得していたのに1日かからず使えてしまうとは…

クリストファーの横のマカラックがグッタリとしているのも気になった。

「まずは国王のところに案内しましょうか?まだ休まれていないはずです。」

「父は大丈夫なのだろう?まずはミアのところに行く。」

予想通りの返答だったが、拉致されていた父王の見舞いより優先させるなど王と王太子の不仲を連想させてしまう。
ただでさえ、対立していると噂されていたのに。

だが、クリストファーの圧にアルトは負け、クリストファーの来訪を隠す方向に切り替えた。

「…承知しました。内密に動きます。」
そういうとアルトは頭を下げて自らが案内役としてミルアージュのテントに向かった。

ミルアージュのテントの前には護衛として二人の隊員が立っていた。

クリストファーの姿を捉えると驚き、なぜいるのかとありありと表情に出ていた。

「私はここにはいない。いいな。」
クリストファーの威圧感でそう脅されると隊員達も頷くしかなかった。

中にいるミルアージュに声をかけたが、返答がない。

「寝ているのか?」
クリストファーはアルトに聞いた。

「いつもならまだ起きている時間ですが…ここ最近は眠れていなかったようですので早めに休んだのかもしれません。」

ゆっくり眠れているならそのまま寝かせてあげてほしい。
アルトは遠回しにクリストファーにそう言った。

「わかっている。無理させるつもりはない。少しだけ様子を見てくるよ。」
クリストファーは気配を消しテント内に入る。

アルトは入るわけにはいかないので外で待機していた。

隣にはマカラックもいるが、疲労感が半端なかった。

「大丈夫ですか?」
アルトはあまりにぐったりしているマカラックに声をかけた。

「ああ、クリストファー殿の殺気のような威圧感に当てられただけだ。噂以上だ。」

クリストファーと話した後、ミルアージュの危機という言葉にクリストファーはブチ切れた。
政務も周囲の人間を圧で脅し、無理やり終わらせ、聖力もすぐに使いこなせるまでになった。

馴染みのない聖力を使いこなすには時間がいる。体への負担も大きい。
だから普通は数時間ぶっ通し練習するなんて不可能だ。
それなのに精神力だけで習得したクリストファーにマカラックは恐ろしさすら感じていた。

「マカラック様!来てください!」
テントの中からクリストファーの焦った声が聞こえる。

マカラックとアルトは慌ててミルアージュのテントに入った。

そこには冷や汗をながり、眉間にしわを寄せ、苦悶表情のミルアージュが倒れていた。

「声をかけても反応しない!ミアを連れてすぐにルーマン王城に戻れませんか?」

マカラックはミルアージュに駆け寄り手を握る。

「これは…」

マカラックの表情がこわばる。

「ミルアージュ殿に意識がない限り、聖力は使えない。それにこれは王城に戻ってもどうにもできない…」

「どうしてですか?」

クリストファーはマカラックに噛みつきそうな勢いだ。
愛しのミルアージュの意識なく苦しんでいる。
クリストファーは動揺しオロオロとどうして良いかわからないようだった。

「これは副作用だ…ミルアージュ殿が幸福を無意識に拒否したんだよ。」

マカラックはミルアージュの手を両手で握るとミルアージュはスヤスヤと吐息を立てて寝始めた。

その様子を見たクリストファーはホッとした顔になり、ミルアージュを抱きしめた。

「マカラック様、ありがとうございました。」

「いや、構わない。私の幸福のせいだから…それより思ったより深刻だな。無意識に幸福を拒むのだから。」

クリストファーはミルアージュをギュッと抱きしめる力を強めた。

「どうして拒む…私はミアに幸せに生きて欲しいだけなのに…」
そう言って涙を流すクリストファーとミルアージュをおき、マカラックとアルトはテントを出た。

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