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マカラックはルーマン王城内でクリストファーを探し、すぐに見つける事ができた。
目立つ風貌に王太子としての威厳、アレンベールまで聞こえてくる噂通りの人物だったからだ。

マカラックは完全に気配と存在を消し去っていたし、王城内をウロウロとしても誰にも気付かれなかった。
今までこの状態になっているマカラックに気づいた者など誰一人いなかった。
だから、クリストファーに見つかるなんて思いもせず、近くに張り付いてて一人になるのを待っていた。

ここで騒がれてしまえば、クリストファーをミルアージュの元に連れて行くのが遅れてしまう。
クリストファー殿がすぐに信じてくれれば良いのだが…
マカラックも少し不安に感じていた。

いきなり見知らぬ男が目の前に現れて付いてきてくれと言って怪しまれない方がおかしい。

何と切り出そうかと思い悩んでいるといきなりチャンスがやってきた。

執務室でクリストファーは補佐官に用事を伝え、部屋から出したのだ。

クリストファーが一人になったチャンス…そう考えたが、それは間違いだった。
クリストファーの信じられない言葉を聞き、マカラックは固まってしまった。

「しばらく補佐官は戻らない。何用だ?」

クリストファーは誰もいない部屋で独り言を言った。

いや、マカラックははっきりと自分に向かって話しかけたのだとわかった。

なぜ、わかった?
マカラックは表情にこそ出さなかったが、内心は混乱していた。
今、自分は明らかに不審者であり、クリストファーに嫌悪感をもたれれば、連れて行く事が難しくなる…

クリストファーに促されるようにマカラックは姿を現す。

「よくわかったな。」
マカラックは素直に感心した。
自分の力がまさか見破られるなんて思いもしていなかったから。

クリストファーはあきれた様子で初めて会ったマカラックを見た。

「そんなにわかりやすく感情を揺らしていればすぐわかる。殺気はないから暗殺ではなさそうだが、何の用だ?」

ミルアージュですら殺気のないマカラックの存在に気づく事はなかった。自分から姿を現して初めて認識したのに。

姿も見えない状況で存在に一発で見抜くなんて、動物的な勘においてクリストファーは誰よりも優れているのだとマカラックは思った。

この男…暗殺者でなければ不敬などもどうでも良いのだろう。

マカラックの態度や言葉遣いを気にする様子もない。
マカラックはクリストファーに礼をとる。

「アレンベールのマカラックと呼ばれる者だ。アレンベールの再建に尽力頂いた事に感謝する。」

クリストファーは少し驚いた顔をしたが、すぐに表情を元に戻した。

「マカラック様ですか。何かそれを証明するものはありますか?その不思議な能力は聖力でしょうか?」

クリストファーは相手が本物かもわからないまま、最上の礼をとった。
証明と言いながらあまり疑っている様子もない。このような事ができるのは聖力だからと納得している様子さえある。

肝がすわっている。こんな得体の知れない男が侵入しても恐れる様子もなく、柔軟な対応だった。

「これを見てほしい。」

マカラックは国王の救出の映像を見せた。
クリストファーはその映像を身を乗り出して確認した。

「ルーマン国王を救出して頂きありがとうございます。」

そう丁寧にクリストファーは感謝の意を伝えているが、クリストファーが見つめるのは国王ではなくミルアージュだとマカラックもすぐにわかった。

「国王よりミルアージュ殿の無事に興味があるようだな。」

マカラックは苦笑いをした。
ここまでわかりやすいクリストファーを清々しいとすら感じた。

「もちろんです。我が妃ミルアージュは何より大切な存在なのですから。」

最高の笑顔をマカラックに向ける。
その後もクリストファーは映像から目を離さない。

久々に動くミルアージュを見てミルアージュ欠乏症になっていたクリストファーが舞い上がるのは仕方がない事だ。

マカラックが何者でもミルアージュの映像を持ってくれた存在であり、好感度は上がっていた。

「ならば私と一緒にきてくれないか?ミルアージュ殿の危機なんだ。」

ミルアージュの名を出す方がクリストファーには効果的だとマカラックは思ったが、危機という言葉を使うべきではなかったとすぐに後悔する事となる。

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