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王の私室から退室したアルトとアビーナルはフゥと息をついた。
特にアルトは緊張の糸が切れていた。

「なぁ、さっきの話はどういう事だ?王太子の部屋での一件って?」

アビーナルはその質問に答えずアルトに、質問返しをした。

「私も聞きたかったのですが、どうして昇進を断ったのですか?なぜ素直にチャンスをものにしないのですか?」

「は?姫に迷惑かけてまでものにしろっていうのか?」
アビーナルの言葉にアルトは驚いた。

「…そうでもしないと平民のあなたにはこんなチャンスは二度とないと思いますよ?」

アンロックの軍部大将は平民だからミルアージュ様の偏見はないだろうが、ルーマンの者達は違う。
貴族が上に立つのが当たり前だと思っている。

「そんな事はわかっている。だが、姫は自分を自分の命を軽く考えてる。平気で命をかける。王にあそこまで言わせるだけの能力を持つのに…」

「まぁ、そうでしょうね。」
無罪であっても自分の処刑を言い出したのをアビーナルは思い出していた。

アルトはアレンベールでミルアージュが何をしたのか、軍部大将から聞いたアンロックでの話をした。

「アレンベールへの遠征だって、いやアンロックでもずっと人の為だけに生きてきたんだ…俺に期待してくれるのは嬉しいが、そんな姫を俺が潰す原因になんかなりたくないだ。」

見返りもなくあれほど民に尽くせる人に会った事がない。
そんなミルアージュに国を導いてもらいたいと期待してしまう。
アビーナルも邪魔はしたくないというアルトの気持ちはよくわかるが…

「そうだとしてもあなたに拒否権はないと思いますよ?ミルアージュ様の中で決定事項のようなので。」

この国の軍部トップまで見据えていると教えると余計に悩むでしょうかね…
アルトは隊長昇進でこんなに考えるのだから。

「あなたはミルアージュ様を支えたいのでしょう?その為に身分と権力は絶対に必要になります。チャンスを捨てている場合ではありません。」

「…そうだな。だが、俺は学校とか行ったことがないから教養がない。剣の腕が少し立つくらいだ…」

「あなたの自信のなさがそこから来るのでしたら私が教えましょう。確かに交渉や戦略を練るには学ぶ事は大切です。」

何から教えていくのが良いのかアビーナルが考え込んだ。

「いや、隊長レベルでは交渉や戦略を立てる事はないぞ。貴族への対応方法とかマナーとかで良いんだが。」
アルトは慌てて首を横に振った。

「そうかもしれませんが、知っておけば上層部が何を考えているのかわかるはずです。命令されたままに動くのとのと知った上で従うのは全く違うものですよ。」

「確かにそうだ。お前いい奴だな。」
アルトは素直に感心した。

素直というか単純というか、これからのことを考えたら危険ですね…クリストファー様の心配も最もだ。

「それが私の仕事ですから。」
アビーナルは素っ気なく答えた。

ミルアージュの補佐官であるアビーナルの業務の中に人材育成も含まれる。
使える人材を育て適材適所に人材を配置し、主人の業務を調整していく。

元々の教養がない分、手間がかかりそうですが、仕方ない‥
時間もなさそうですし、ミルアージュ様が期待する人材にする為にかなり無理もしてもらいましょうかね。

それからしばらくしてアルトは地獄のスケジュール表をアビーナルからもらうことになる。
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