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「おいおい、マジかよ。」
アルトは呟いた。

ムランドというマリア王女の護衛が決勝まで残った。
それだけで第三部隊より強いと証明してしまった。

それだけでもアルトは悔しかったのに…
ムランドに向けたミルアージュの目は本気だった。

真剣にムランドと向き合っていた。

本当なら自分がそんな顔をさせたかった。
真剣に向き合って勝負してもらいたかった。
いや、ミルアージュが手抜きをしていると言っているのではない。
だが…

「面白い試合だな。」
アルトの後ろにクリストファーがひょいっと現れた。

「クリストファー様…」

「こんなに近づかれるまで気づかないなんてどれだけ集中していたのだ?」
ケラケラとクリストファーは笑う。

「申し訳ありません。」
アルトはクリストファーの言葉に反応した。

試合に集中しすぎてクリストファーに後ろを取られるなど軍人としてあり得ない。

「そんなに悔しいか?ミアに本気で構ってもらえなくて。」
クリストファー様のニヤニヤした顔を見ると少し苛立ちを感じた。

「そんな事はない。」
周囲に誰もいないのを見てからアルトは敬語をやめた。

「素直じゃないな。まぁ、いい。じゃあ、ここからが本題だ。ミアがお前を第三隊長に推薦した。受けるか?」

アルトは目を見開いた。
いや、姫からは打診されていた。
だが、そんなものこの国では夢の中の話だ。

平民が隊長になるなど前代未聞だ。
貴族たちの反感を買わないわけがない。
姫を溺愛しているクリストファー様がそんな矢面に立たせるなんて想像もしていなかった。

「クリストファー様は反対しなかったのか?」

「私が?反対しても無駄だろう。ミアの中では決定事項だ。」

そうだとしても立場としては王太子の方が強い。
姫の暴走だって止められるはずだ。

「ミアを止められると思ったら甘いぞ。お前はミアの本当の怖さを知らないからそんな事は言えるんだ。」
俺の考えを見透かすように言う。

姫は厳しさもあるが、決して理不尽な要求はしないし、俺なんかの意見もきちんと聞いてくれる。
クリストファー様のいう怖さがどんなものかピンとは来なかった。

その様子を見たクリストファーはハァと大きなため息をついた。

「わからないならもういい。そのうちわかる。それと羨ましそうに見ているだけはなく、早くその立場にお前が立て。」

なれるものならなっている。
姫に真剣に向かわれる軍人になりたい。
そう思って頑張ってきた。

目の前で繰り広げられる姫とムランドの試合は自分の実力のなさを見せつけられた。

情けない。
姫に隊長に推薦される資格もない。

拳を握る力が強くなる。

「お前に実力がなければミアは推薦などしない。いくらお前と親しくても、そんな理由では選ばない。だからこそ、早くその期待に応えられる者になれよ。」

言われなくてもわかっている。
俺を推薦した時点で姫は敵を多く作ったはずだ。
それがわかっていて俺を推薦してくれたのだから。

「ちなみにお前の言動の責任は全てミアが取る。」

「責任を取る?どういう事だ?」

「そのままの意味だ。お前が何かミスをすれば、その責任はミアにかかるという意味だ。それで推薦を押し通した。」

クリストファー様がどうして俺にこんな話をするのかわかった。

姫に迷惑をかけるなと言いたいのだ。
溺愛する姫が俺のせいで責任を取らされるのは嫌なのだろう。

俺の表情を読み取ったクリストファー様は呆れた顔をした。

「ミアに迷惑をかけるなと私が言いにきたと思っているのならお前はバカだな。私は忠告に来ただけだ。ミアは絶対お前に言わないだろうから。」

「忠告…」

「そうだ。これを好機と捉え、ミアを潰そうとする輩がでるだろう。お前はそんな輩の罠に注意しろと言いに来たんだ。」

「それがわかっていながらどうして俺を推薦した?姫を巻き込んでまで隊長になどなりたくない。」

そういうとギロリとクリストファー様に睨まれた。
「それがこの国のためだとミアは考えている。お前はそれに応えるつもりがないなら辞退しろ。中途半端な気持ちでミアを巻き込む事は私が許さない。」

そういうとクリストファー様は去っていった。

俺が姫に迷惑をかけないという保証がどこにある?今だってクリストファー様に忠告されなければ、そんな事に気づきもしなかった。

嫌なんだ、姫が傷つくのを見るのは…

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