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「何であんな事言ったのかしら。」
ミルアージュは顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。

ルーマンへの帰りの馬車でもずっとクリストファーと気まずく、ほとんど口をきかなかった。
ルーマンに戻ってからもお互い溜めた仕事を消費するのにほとんど会えなかったのもあり、そのままになっていた。

あんな風に甘えて弱さを見せるなんて…今までした事がなかったし、自分でも驚いている。

よく考えれば、臣下にはそんな弱音を見せられない。
両親もこの世にいないし、利益が絡まない友人もいない。
そう考えるとクリストファーはただ私のそばにいてくれた人だ。

「だから、あんなに素直に言葉が出たのかしら?クリスだから?」
ミルアージュはぼんやりと考えていた。
こんな日が来るなんて思いもしなかった。
自分がこんなに弱い人間だと思い知った。

「ダメダメ、まだしないといけない事があるのに。」

ミルアージュは頭を振ると立ち上がってマリア王女の部屋に向かった。




「マリア王女の体調はどうかしら?」
ミルアージュはベットで座っているマリア王女に声をかけた。
ちょうど足を動かす練習をしているところだった。

ミルアージュがレンラグスに行っている間にマリア王女は目覚めていた。
しかし、長期間眠りについていたマリア王女はやせ細り、足の筋力も衰えて立つ事もできなくなっていた。
国の中がまだゴタゴタしているレンラグスではなく、ルーマンで療養する事となったのだ。

「ミルアージュ様、こんな姿で申し訳ありません。」
マリア王女の可愛らしい声が聞こえる。

助かって良かった…だけど、あの毒は後遺症を残す。
どこまで回復できるのか。毒の後遺症で苦しんだ自分の父親の事を考えていた。
嫌な想像が頭から離れなかった。

あの時から解毒には力を入れていた。
だから、お父様より良くなるはずよ。
何より、すぐに毒の対処をしたもの…お父様の時とは違うわ。

そう自分に言い聞かせながらマリア王女を見た。
ムランドと呼ばれていた護衛がマリア王女を支えていた。
少しマリア王女の頬が赤いのは気のせいではないだろう。


療養だけではない。マリアの護衛としてムランドを残した。
その意図がわからないほどミルアージュも鈍感ではない。

王の交代はマリア王女のためでもあるのかしら?
ブランの兄としての顔を思い出していた。

「急にはできなくて当たり前よ。少しずつ練習していけばいいわ。」

「このご恩感謝してもしきれません。」
マリア王女はベット上で深々と頭を下げた。

マリア王女の隣でムランドも頭を下げる。

「あなた達なかなかお似合いよ。」
ミルアージュは二人の微笑ましい様子をみていた。

「いえ、違います。私達はそのような関係ではありません。」

そんな真っ赤な顔で否定されてもね…ミルアージュはクスリと笑った。

きっと今がこの王女の素なのだろう。
今まで色々なものを我慢してきたと思うとミルアージュは胸が痛んだ。

「ムランドと庭の散歩ができるくらいまでは頑張ってね。この王城の庭はとても綺麗よ。」

「そうなのですね、是非拝見したいですわ。」

「そんなに見たいなら歩ける前に行ってみましょうか?ムランド、マリア王女を抱えられますか?」

ムランドは「はい」と頷いた。

ムランドは表情一つ崩さず、マリア王女を抱えた。
王女を軽々と抱え、それでいて隙がない。

そうなるとミルアージュの悪い癖がムクムクと大きくなる。

「ねぇ、あなた強いわよね。今度私と勝負してみない?」

「私とミルアージュ様がですか?」
ムランドは驚いた顔をした。

強い者と勝負をしたいミルアージュはその欲求には素直だった。

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