わがまま妃はもう止まらない

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会食は和やかに進んだと言いたいが、クリストファーはもうミルアージュしか見えていず、本来の目的とは違った方向に向いていた。

正式な式典でもないのにミルアージュがこんなに着飾って会いにきてくれるなんて、初めての事だったのだ。

「ミアは何を着ても綺麗だが、こうやって私の為に準備してくれた事が本当に嬉しい。」
クリストファーは人目も気にせずミルアージュを褒め続けた。

その様子を呆気にとられながらマリアは見つめていた。

「仲がとてもよろしいのですね…」
マリアは顔が引きつりながら微笑んでいる。

「あぁ、もちろんだ。ミアを私の妃にするまでに私がどれほど頑張った事か。」
クリストファーは上機嫌だ。

やっとミルアージュを手に入れたのに国王も貴族たちも皆でクリストファーからミルアージュを引き離そうとする。
ミルアージュとゆっくり過ごす事もできないクリストファーは完全にミルアージュ欠乏症になっていた。

クリストファーもマリアを妃にしようとする動きがあるのを知っている。
そんな話が進めば、ミルアージュは国のためだといい、身を引くのはわかっている。

国王とミルアージュの企みは許せる。ミルアージュと会う時間が減るのは嫌だが、半年だと思えば我慢もできた。
だが、ミルアージュが自分の元を去るのだけは許せない。

クリストファーはマリアへの牽制の意味もあり、会食ではミルアージュとの仲を見せつけるつもりだった。

それなのに、ミルアージュが会食のためだけに着飾って来てくれた。マリアを意識しているのは間違いない。

嫉妬？

自分の為にマリアを牽制するようなミルアージュの装いと自分の為に美しくなったミルアージュに気持ちが舞い上がるのは許してもらいたい。

ミアがそのつもりならもう我慢はしないとクリストファーは思った。

敵をあぶり出すために国王と王太子を手玉にとる悪女と言われてしまった。
ミルアージュの噂にクリストファーはかなり腹を立てていたが、ここでかばえば更に悪化するのも目に見えていた。

だが…もうコソコソなどしない。
ミルアージュを見つめるクリストファーの瞳には熱がこもっていた。

「クリス、会食にならないわ。」
ミルアージュからチクチクと小言が入るがクリストファーの耳には入らない。
マリアなど存在すら忘れているのではないかという態度だった。

早々に会食から切り上げクリストファーとミルアージュは部屋に戻った。
いや、無理やりクリストファーに連れていかれたのだ。
ミルアージュの腰を抱いたままクリストファーは離れようとしなかった。

「ミア、この後の予定は？」

クリストファーの質問に顔をしかめながら答える。

「この後は国王に報告に行くわよ。で、第三部隊の訓練に行ってから、報告書の確認ね。」
ミルアージュは後のスケジュールについて説明する。

「国王への報告と訓練は変われないな。わかった、報告書の確認は私がしておくから回してくれ。今日はともに過ごそう。」
クリストファーはニコニコと微笑んで口づけをした。

「あなたはあなたの仕事があるでしょう！」
ミルアージュはクリストファーの態度に我慢できなかった。
人前でのクリストファーの言動を思い出し恥ずかしすぎて精神的に限界を超えていた。

「今日の分の仕事は終えている。それに本来、政務官は国王の仕事を代わりにするわけではない。国王がしないなら私の仕事だ。」
補助官は業務がうまく回るようにサポートする役目、政務官は国王の政務が適切に行われるように書類の整理や資料集め、相談役といったところだ。
国王と宰相などが揉めた時なども調整役として動いたりもする。

ミルアージュは困ったように苦笑いをする。
「知っていたの？」

「あぁ、決裁の処理が早くなり、提案内容を見ても明らかに変わったからな。私も思いつかないような発想だった。」

「ごめんなさい。」

「いや、構わない。父上はそれも狙いだったのだろうから。貴族の動きを見たいだけではなく、アンロックのように豊かな大国にしたがっていたからミアを政務官に迎えたのだろう。だが、無理はしないでくれ。」

クリストファーは真剣な顔になった。

「マリア王女を妃に迎えようとする動きが早すぎる。何か裏がある。そして、その為に邪魔なのはミアだ。」

マリアが惚れているだけなら先ほどのイチャつきを見ただけで引くだろう。クリストファーはミルアージュのみを見つめ、マリアを視界にすら入れなかったのだから。

この国の貴族が裏で動いているならあぶり出す。
だが、マリアが国からの命令でそうしているのなら、手ぶらで国には戻れない。そこに貴族達が絡んでいる場合、国を揺るがす事態になりうる…

ミルアージュに危害を加えても排除しようとする奴らがいるかもしれない。