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第1章

ヴォルティスの宝物(神様達の視点)

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「ヴォルティス様、お呼びですか?最近は体調も良くないと聞いていましたが、お元気そうでなによりです。」

黄緑色の髪と羽を持つ手のひらサイズの女神メビールがヴォルティスに挨拶をした。
ヴォルティスに呼ばれたのは久しぶりであり、メビールは浮かれて飛び回っている。

「あぁ、メビール、久しぶりだな。体の方は大丈夫だ。お前に頼みがあって来てもらったのだ。」
ニコニコとヴォルティスは言う。

「頼みですか?」

ヴォルティスの様子にメビールは戸惑っていた。
いつもの怖いまでの威厳はなく、優しい雰囲気で微笑んでいる。
最後に会ってから50年しか経ってないのに、何があったらこんなに変わるの?

メビールは飛び回るのをやめ、マークバルダの肩にちょこんと座ってヴォルティスをジーと見つめる。

「細かな事は気にするな。」
マークバルダが隣でボソッと言う。

いやいや、これは細かな事ではないから!
神気は同じだからヴォルティス様で間違いないんだけど、全く雰囲気も表情も違う‥

「何があったらこうなるの?」
メビールはマークバルダの耳元で聞くが、知らん顔された。

そんなメビールの戸惑いを知ってか知らずかヴォルティスは呼び出した理由を話す。

「メビールにこれを永久保存してもらいたくて呼んだのだ。」

ヴォルティス様の胸元から一枚の封筒が出てきた。
手紙?

そんなに大切なものなの?

メビールは物の時を操る神だ。
ある時は物を時をすすめ、植物などの成長促進させる。

ある時は物の時を止める。
そう、永久保存は神々がどうしても壊わしたくない物を言葉の通り、永久に保存するものだ。
物の時を止め劣化を防ぐのだ。
例えば、ヴォルティスの裁きの杖、マークバルダの守りの盾など神々の神器は大体、永久保存されている。

だが、手紙の依頼は初めてだった。

ヴォルティス様が永久保存をせねばならないほどの重要な手紙って何? 
メビールは内容が気になったが、マークバルダの様子を見ても質問できる雰囲気はない。
ヴォルティス様の命令は絶対だ、何も聞かずに永久保存しとこう。

ヴォルティスがメビールの届く範囲まで近づいてくる。
手紙に手をかざし、永久保存とした。
もう朽ちる事も色あせる事もない。

「ありがとう」
間近でヴォルティスが笑う。
それもとびっきりの笑顔で。

それを直視してしまったメビール。
「ヴォルティス様が笑った‥」
初めてみたヴォルティスの満面の笑み。
あまりの神気と美しさにあてられ、メビールは意識を手放し、マークバルダの肩から落ちた。

「おい、気持ちはわかるが、しっかりしろ。」
ヴォルティスの神気に慣れているマークバルダですら最近の神気にはあてられていた。
聖女候補と会った後は特にひどかった。
全く神気を抑える気もなく、幸せモードに入り込んでいる。

反射神経の良いマークバルダはメビールをキャッチして人差し指で顔をペシペシと叩きながら部屋を出た。
ダダ漏れしているヴォルティスの神気から引き離すために。

そんな周りの様子もヴォルティスにとって、どうでも良いこと。
ただただ、永久保存をしてもらった手紙を見つめている。

ヴォルティスは手紙を大切そうに開ける。
もう何度も見すぎて紙は少し傷んでいた。
もっと早くメビールを呼ぶべきだったと後悔しているが、時を戻す事はできない。

『神様、いつも一緒にいてくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いします。あなたの子より』
この手紙をもらった時、言葉を覚えてよかったとヴォルティスは心から思った。

私のかわいい子からの手紙‥
人から想われる、それがこんなにも嬉しいものだとは思わなかった。

ヴォルティスは一日中悩んで返事を書いた。
『私のかわいい子へ。私もだ。あなたの神より』

そう書いて渡すと私のかわいい子はとても喜んだ。
その様子を思い出してクスリと笑う。

あぁ、早く私のかわいい子が成人を迎えてほしい。
早く結ばれたい。

ヴォルティスの執着は強くなっていく。
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