上 下
29 / 49

29

しおりを挟む
「おかえりなさい。」
部屋の外からノアの声が聞こえてきた。

「聖女様のお戻りか。ちょっと様子を見てから帰るかな…」
そのままテーブルに座ったままレピアが中に入ってくるのをハンバルは待った。

ガチャッ
ドアが開きレピアが入ってきた。

「あらっ、バルさんいたんですね。」
レピアが笑顔でハンバルを見た。

レピアとハンバルは元々面識があった。
最初こそバレないかとハンバルも警戒していたが、偽名と顔を変えており全く疑われない今の状況を楽しんでいた。

「ああ、お邪魔してるよ。」
ハンバルは右手を挙げてレピアに挨拶をした。

「お茶を入れてきますね。」
ノアが部屋を離れレピアとハンバルは二人きりになった。

レピアはハンバルのテーブルに向かい合うように椅子に座る。

「体調はどうだ?ここにも慣れたか?」

「ええ、大丈夫です。バルさんこそどうですか?言ってくれてたらもう少し遅く帰ってきたのに。」
フフッとレピアは笑った。

「気にしなくてもいい。レピアに会えて俺も嬉しいよ。」
ハンバルはノアには気があるフリをしていた。
そうした方が家の周りをウロウロしていてもレピアに怪しまれないから。

ノアが好きだから協力してほしいとレピアに言うとそれからレピアへ協力モードとなっていた。

半分は仕事をやりやすくするため、そしてもう半分は…本気だった。
本気がレピアに伝わっているからこそ、疑われないのだろう。

顔色は少し悪いか…
触れたらもう少し体調がわかるのだが。

今レピアは力を使えなくなっているとはいえ、元々はハンバルよりもレピアの方が格段にレベルが高い。

下手に手を出せば治癒師だとすぐにバレるからな、表面上の診察しかできないのが少し辛い。
まぁ、体調がわかっても治癒師である自分には聖女様の心は救えない…

「バルさん?どうしました?」
レピアがボーとしているハンバルを覗き込んだ。

「ああ、すまない。少し考え事をしてた。この世の中は努力だけではどうしてようもできない事があるなと。」

「ノアお姉さんの事ですか?」

「…まぁそんなところ。それだけではないけどな。」

「私に恋愛のアドバイスはできませんが、バルさんの努力は無駄ではないですよ?」

「どういう意味だ?」

「結果が全てではありません。バルさんは真っ直ぐでとても頑張り屋さんです。それが今のあなたをつくっているのがよくわかります。」

ニコリとレピアは笑う。

「あなたからそう言われるのは光栄だ。」
ハンバルは呟いた。
そんなハンバルの目が少し潤んでいた。

あなたに憧れてあなたのようになりたかった。
いくら頑張ってもどうしようもない事がある。
そう思っていたのに。

聖女様から努力を認められるのがこれほど嬉しいものだなんて。

ここに来てよかった。
聖女様を救いにきたのに自分が救われるなんてな。

ガチャ

「バルさん、レピアお茶とお菓子の用意ができました。」
ノアが部屋に入ってきた。

テーブルにお茶とクッキーが並べられる。

「ありがとう、お姉さん」
レピアのお茶を飲む姿は優雅で綺麗だ。

ハンバルは甘いものが得意ではなかったし、お茶会など堅苦しい場は好きではなかった。
食べられたら何でもいい。
そう思っていた。

それなのに今日のお茶とお菓子は本当に美味しい。
ハンバルはノア手作りのクッキーとレピアからの言葉を一生忘れないと思っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様のために暴君に媚びを売ったら愛されました!

近藤アリス
恋愛
暴君と名高い第二王子ジェレマイアに、愛しのお嬢様が嫁ぐことに! どうにかしてお嬢様から興味を逸らすために、媚びを売ったら愛されて執着されちゃって…? 幼い頃、子爵家に拾われた主人公ビオラがお嬢様のためにジェレマイアに媚びを売り 後継者争い、聖女など色々な問題に巻き込まれていきますが 他人の健康状態と治療法が分かる特殊能力を持って、お嬢様のために頑張るお話です。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています ※完結しました!ありがとうございます!

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。

可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...