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「ノア、その話はまことか?」
大神官はノアからの報告を受けて椅子から立ち上がった。

「はい、レピア様は聖騎士となったアールをとても気にいっています。自分の名前を呼ぶ許可を出すほどに。」
ノアは今日あったことを全て大神官に伝えた。

「名を許可したのか…」
大神官はかなり驚いてしばらく呆然と立っていた。

ノアは「はい。」と頷きながら返事をした。
ずっとレピアのそばにいたノアでも驚いた。
大神官が驚くのも無理はなかった。
いや、誰にもレピアの言動をよめた者などいなかっただろう。

レピア自身も含めて…

レピアの名を呼べる者は神殿内でも多くない。

レピアが本当に信頼した人間にしか名を呼ばせないため、数年かかってやっと許可が下りるのが通例となっていた。

名前を呼べるというのは聖女に選ばれた存在であるという証明にもなっていた。

レピアの名を呼べるかどうかで神殿での立場が変わると言っても過言ではなかった。

「ははっ、あの者を聖騎士に選んで正解だった。」

ノルディ皇子がレピアを妃に望んでいることは神殿側にとっては面白くないものだった。

聖女とはいえ、妃となれば神殿に留まることはできないのだから。
だが、聖騎士ならば聖女は一生神殿に留まることができる。

そして子でも生まれれば、聖女でなくても神殿のプラスの存在となる。

「レピア様が望めばその聖騎士を夫とする事もできる。皇族に嫁ぐよりもずっといい。」

神殿といえど皇族に真っ向から反発するのは分が悪いが、聖女の希望となれば話は別だ。

皇帝であっても聖女の希望をないがしろにはできない。
身分だけでいうなら皇帝よりも上であり、国を守ってもらわなければならない聖女の機嫌を損ねるわけにはいかないのだから。

「ノア、レピア様とその聖騎士の仲を取りもて。」
大神官はニヤリと笑った。

「はい。」
ノアはその嫌な笑いを不愉快に思いながらも飲み込んで返事をした。

大神官の心の内は純粋にレピアを思うものではないのはノアもわかっている。
だが、大神官の後ろ盾を得れば堂々とレピア様の為に動ける事も理解している。

大神官の思惑とレピア様の幸せが同じなら最大限にその権力も利用させてもらう。
それがノアの考えだった。

大神官の部屋を出たノアは急いで自室に戻った。
明日からレピア様と聖騎士アールの仲を深めるために準備をしていく必要がある。

「やっぱり美味しいお茶とお菓子で茶会かしら?」
レピア様が嬉しそうに笑う顔が思い浮かんだ。

レピア様が笑って過ごせるように。
それだけがノアの望みだった。


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