上 下
33 / 36

王妃の懺悔

しおりを挟む
王様は眉をしかめながらも言葉を発しなかった。
王様自身考えることがあるのだろう。
そんな王様への配慮などなく話がすすんだ。

「全てはわたくしが愚かだったのよ。」
王妃様はため息をついて話し出した。

アレンはとても優秀な子だった。
この子なら王として十分にやっていける。
王妃はそう思っていた。
しかし、5歳を過ぎたくらいより違和感を感じるようになった。

全く笑わない。
嬉しい、悔しい、悲しいという感情が全く見えない。
というよりないのかもしれない‥
王族として感情を出さないよう教育される。
しかし、アレンはそういった感情がそもそもないように感じる。

決定的になったのはある領地での暴動が起こった時だ。

不作が続き、領民が飢えていた。
国に助けを求めていたが‥
死者だけが増えていく。
特別扱いだと他の領主たちの批判を受け、国も大っぴらに動くことができなくなり、対応が遅れている中で起こった事だった。

「どうして助ける必要性があるのですか?不作が続いたのは不幸ですが、国に助けを求める前に領主がその事を想定して貯蓄などするべきでしたよね?そんな領に生まれたのです、死ぬのも仕方ないでしょう?」

アレンは領民を救うのではなく、弾圧するべきだと言った。
言っていることは間違いないかもしれない。
領主も悪い人間ではなかったが、先を読むことができていなかった。
誰もアレンのように先々まで考えられるわけではない。
できていなかった事を今更いっても遅い。
実際に今飢えていく領民がいる。
死んでいる領民がいる。
にも関わらず、死ぬのは当然だという。

目の前にいるのは可愛い我が子。
でも王としては大きな欠陥がある。
国民を思いやる心がない。

国を、国民を守るための王家。
この子には何があっても守るという思いはない。
必要があれば簡単に切り捨てる。

「私はなんとかアレンの考えを変えようとしたけどダメだった。アレンを王太子から外すことを視野に入れたの。」

えっ、外す?
王妃様がアレンを?

「そこで、まだ小さなマリアージュ妃の子に王太子教育を始めようと思ったの。子に縋っていたマリアージュ妃は、王子をわたくしにとられると思い、抵抗したわ。それが最悪の結果を招いた。」
王妃様の後悔、悲しみのオーラがさらに強くなる。

「王妃として女としての醜い感情に支配されて母としての愛情をアレンに向けなかった。王子教育はわたくしの役目‥子育てもまともにできない上、マリアージュ妃の子に手をだし、その結果、取り返しのつかない事態に陥らせた。処刑されてもおかしくない罪よ。」

そこまで一気に話をした王妃様は一口紅茶を飲んだ。

「どうして相談しなかった?」
王様が重い口を開いた。

王妃様が辛そうに笑った。

「あなたに頼りたくなかったのです。わたくしはアレンしか産めなかった。国を存続させるため、王として子をつくることの大切さは理解していましたが、わたくしのプライドが許さなかった。あなたを愛していたからこそ余計に辛かった。アレンを立派な後継者にし、あなたがした事は無駄な事だと証明し、後悔させたかった。あの子にもマリアージュ妃にもひどい事をしたわ。」

王妃様の目から涙が流れた。
王様が王妃様に近づき涙を手で拭おうとしたが、王妃様が体を後ろにそらし態度でその行為に拒否を示す。
王様は傷ついた顔をした後に手を引っ込めた。

「わたくしにはあなたの妻である資格もアレンの母である資格もありません。そして王妃としての資格も‥」

私の方を見つめ王妃様は言った。

「わたくしはあなたに王妃教育をしたわ。アレンが王太子から外れることができない以上、横にたつのはあなたしかいないから。あなたは、国民たちを守り、人の心に寄り添って支えていける人よ。アレンは国民たちの心に寄り添うことは難しい。あなたがアレンを導いてあげて。王としてのアレンを助けてあげて。」

少し間を開けて王妃様は続けた。

「何より、アレンが唯一感情を向けるあなたにアレンのそばにいてほしい。最後のはアレンの母としてのお願いです。」

一息おき、私を見つめ優しそうな笑顔をみせた。
「そして、あなたにも幸せになってもらいたいの。あなたが今まで何に囚われて生きてきたのかは知っているわ。これからは、アレンをうまく利用しなさい。彼はあなたの望みを叶える事に関しては優秀よ。」
フフフッと王妃様は、乾いた笑いを浮かべた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

【完結】どうやっても婚約破棄ができない

みやちゃん
恋愛
優秀な第二王子アルフードの横にいるのはこんな落ちこぼれの自分じゃない。 公爵令嬢アメリアはアルフードとの婚約をどうしても破棄したい。 過去に戻って第二王子との関わりを絶ったはずだったのに… どんなに過去を変えても、アルフードは常にアメリアの婚約者となっている。 なぜ? どうしたら婚約破棄ができるのか?

とある小さな村のチートな鍛冶屋さん

夜船 紡
ファンタジー
とある田舎の村。 住人は十数人程度で、小さな事件もすぐに村中に伝わるような場所。 そんな所に彼女はいた。 13歳ぐらいの小さな少女。 そんな彼女が住むのは小さなぼろ家。 鍛えるのは、町の人の使う鍋や包丁。 みんなの役に立てて嬉しいと、彼女はにこにこ笑ってる。 彼女は伝説級の腕のいい鍛冶師。 ********** 本作品が書籍化し、1章に当たる部分がレンタル化しました。応援してくださっている皆様のおかげです! 改稿前のストーリーを9月20日に全て下げさせていただきました。 改善後の新しいメリアの物語をどうかお楽しみください。 2巻が発売されることが決定致しました!! それに伴い、2章を下げさせていただきました。 お楽しみいただいていた方々には申し訳ありません。 3巻の発売が決定いたしました。 今回は全て書き下ろしになります。今書いている部分は一部の場面を書き換えて継続して更新させていただこうと思っております。 コミカライズされました! デイ先生による素敵なメリアの世界をどうか、お楽しみください。

【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!

綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」  長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。  魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※2023/06/04  完結 ※2022/05/13  第10回ネット小説大賞、一次選考通過 ※2021/12/25  小説家になろう ハイファンタジー日間 56位 ※2021/12/24  エブリスタ トレンド1位 ※2021/12/24  アルファポリス HOT 71位 ※2021/12/24  連載開始

外れスキル「トレース」が、修行をしたら壊れ性能になった~あれもこれもコピーで成り上がる~

うみ
ファンタジー
 港で荷物の上げ下ろしをしてささやかに暮らしていたウィレムは、大商会のぼんくら息子に絡まれていた少女を救ったことで仕事を干され、街から出るしか道が無くなる。  魔の森で一人サバイバル生活をしながら、レベルとスキル熟練度を上げたウィレムだったが、外れスキル「トレース」がとんでもないスキルに変貌したのだった。  どんな動作でも記憶し、実行できるように進化したトレーススキルは、他のスキルの必殺技でさえ記憶し実行することができてしまうのだ。  三年の月日が経ち、修行を終えたウィレムのレベルは熟練冒険者を凌ぐほどになっていた。  街に戻り冒険者として名声を稼ぎながら、彼は仕事を首にされてから決意していたことを実行に移す。    それは、自分を追い出した奴らを見返し、街一番まで成り上がる――ということだった。    ※なろうにも投稿してます。 ※間違えた話を投稿してしまいました! 現在修正中です。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

処理中です...