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王と王妃の語らい
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「お前は知っていたのか、アレンのことを」
王は王妃に聞いた。
王の私室に王妃を呼び出し、開口一番に聞いた。
王が側妃を迎えてから王の私室に入るのは初めてであり、王も王妃も気まずさがあった。
それでも話し合わなければならないことであり、テーブルに向かい合い座ってお茶を一口飲んでから王妃は口を開いた。
「わたくしはあの子の母親です。知らない訳がないでしょう。」
王妃は何を言っているのかと言いたそうに眉をひそめながら答えた。
「どうして黙っていた。こんな重要なことを!」
王は怒鳴った。
王妃は悲しげにフッと笑って言った。
「アレンのことはわたくしにお任せすると仰りましたので。アレンは、将来の王としての素質はあってもそれに全く興味を示していませんでした。そうしたのは、わたくしたちです。何事にも冷めていたあの子を変えたのはレイシアという存在です。」
そう言われると王は返す言葉がなかった。
そう、ある時を境にアレンが変わったことは王も感じていた。
やっと王族としての自覚が出てきたと思い、喜んでいた。
しかも、やる気を出したアレンの将来の王としての素質は想像以上だった。
自分以上の王となることは間違いない。
アレン以外に次の王は譲ることは考えられない。
「レイシアを守り、妃とするために周りを抑え込めるだけの力をつけることを8歳のアレンに説きました。そして、あの子はそれに従った。ここまでになるというのは想定外でしたが。」
王妃は苦笑いをした。それに対して王は
「レイシアを王太子の妃には迎えられない‥そんなことをわかった上で計画したのか?」
「この国に今、必要なのはなんでしょう?素質はあるのにやる気がない王?明らかに力不足の覚悟のない王?跡継ぎが作れないけれど、立派に国を治める王?王家の血を残すだけならいくらでも方法はあるでしょう?」
王妃は悲しそうに呟いた。
そう、アレンの弟王子たちには国を治めるだけの力量がないことを王も王妃も気づいていた。
あれだけ望んだアレンの後に生まれた王子は側妃により甘やかされ、国を治める器のない王子に育ってしまっていた。
「私は、王妃を追い詰めていたのだな。私が自分の子を跡継ぎにすることを望んでしまったことが問題だったのだな。」
王は悲しそうな顔をした。
「いいえ、貴方は間違っていません。わたくしがいけなかったのです。きちんと貴方と子どもたちの将来について話さなかった。話したくなかった。マリアージュ妃が、あのように王子たちを甘やかすの知っていながら。」
そう、側妃マリアージュは子どもたちに甘い母親だった。
王妃はアレンを産んだ後、次の子を流産をし、子を作れない身体になっていた。
アレンに何かあれば王室は終わる。アレンに何かあった場合の代わりの王子が必要だった。
王は側妃を迎える決断に迫られ、マリアージュを迎えた。
その事がそれまで仲の良かった王と王妃の間に溝を作ってしまうことになる。
それによりマリアージュが王の寵愛を受けていると後宮内で大きな顔をし、王妃の言うことに全く耳を傾けなかった。
それを間に受けた周囲の人々はマリアージュに目をつけられたくないと王子たちを甘やかした。
厳しくしようものならマリアージュの怒りをかい、次の日には暇を出されていたからだ。
勉強も作法も王族としての矜持もなにもかも教育というものをきちんと教えることさえしなかった。
王が王妃に見向きもしない以上、後宮での立場は弱かった。
実家の身分が高くても後宮では王の寵愛が全てだ。
王子の教育がどうしようもなくなっているのに王が気づいた時にはもう時すでに遅かった。
「マリアージュを迎え、お前に合わせる顔がなかった。お前に拒否されるのが怖かった。自分のことばかり考え後宮に目を向けなかった私の落ち度だ。すまなかった。」
王は王妃に頭を下げた。
「もう終わったことです。」
王妃は王の謝罪について何も言わなかった。
気持ちのすれ違いが、もう元には戻れないところまで来ていた。
王は王妃に聞いた。
王の私室に王妃を呼び出し、開口一番に聞いた。
王が側妃を迎えてから王の私室に入るのは初めてであり、王も王妃も気まずさがあった。
それでも話し合わなければならないことであり、テーブルに向かい合い座ってお茶を一口飲んでから王妃は口を開いた。
「わたくしはあの子の母親です。知らない訳がないでしょう。」
王妃は何を言っているのかと言いたそうに眉をひそめながら答えた。
「どうして黙っていた。こんな重要なことを!」
王は怒鳴った。
王妃は悲しげにフッと笑って言った。
「アレンのことはわたくしにお任せすると仰りましたので。アレンは、将来の王としての素質はあってもそれに全く興味を示していませんでした。そうしたのは、わたくしたちです。何事にも冷めていたあの子を変えたのはレイシアという存在です。」
そう言われると王は返す言葉がなかった。
そう、ある時を境にアレンが変わったことは王も感じていた。
やっと王族としての自覚が出てきたと思い、喜んでいた。
しかも、やる気を出したアレンの将来の王としての素質は想像以上だった。
自分以上の王となることは間違いない。
アレン以外に次の王は譲ることは考えられない。
「レイシアを守り、妃とするために周りを抑え込めるだけの力をつけることを8歳のアレンに説きました。そして、あの子はそれに従った。ここまでになるというのは想定外でしたが。」
王妃は苦笑いをした。それに対して王は
「レイシアを王太子の妃には迎えられない‥そんなことをわかった上で計画したのか?」
「この国に今、必要なのはなんでしょう?素質はあるのにやる気がない王?明らかに力不足の覚悟のない王?跡継ぎが作れないけれど、立派に国を治める王?王家の血を残すだけならいくらでも方法はあるでしょう?」
王妃は悲しそうに呟いた。
そう、アレンの弟王子たちには国を治めるだけの力量がないことを王も王妃も気づいていた。
あれだけ望んだアレンの後に生まれた王子は側妃により甘やかされ、国を治める器のない王子に育ってしまっていた。
「私は、王妃を追い詰めていたのだな。私が自分の子を跡継ぎにすることを望んでしまったことが問題だったのだな。」
王は悲しそうな顔をした。
「いいえ、貴方は間違っていません。わたくしがいけなかったのです。きちんと貴方と子どもたちの将来について話さなかった。話したくなかった。マリアージュ妃が、あのように王子たちを甘やかすの知っていながら。」
そう、側妃マリアージュは子どもたちに甘い母親だった。
王妃はアレンを産んだ後、次の子を流産をし、子を作れない身体になっていた。
アレンに何かあれば王室は終わる。アレンに何かあった場合の代わりの王子が必要だった。
王は側妃を迎える決断に迫られ、マリアージュを迎えた。
その事がそれまで仲の良かった王と王妃の間に溝を作ってしまうことになる。
それによりマリアージュが王の寵愛を受けていると後宮内で大きな顔をし、王妃の言うことに全く耳を傾けなかった。
それを間に受けた周囲の人々はマリアージュに目をつけられたくないと王子たちを甘やかした。
厳しくしようものならマリアージュの怒りをかい、次の日には暇を出されていたからだ。
勉強も作法も王族としての矜持もなにもかも教育というものをきちんと教えることさえしなかった。
王が王妃に見向きもしない以上、後宮での立場は弱かった。
実家の身分が高くても後宮では王の寵愛が全てだ。
王子の教育がどうしようもなくなっているのに王が気づいた時にはもう時すでに遅かった。
「マリアージュを迎え、お前に合わせる顔がなかった。お前に拒否されるのが怖かった。自分のことばかり考え後宮に目を向けなかった私の落ち度だ。すまなかった。」
王は王妃に頭を下げた。
「もう終わったことです。」
王妃は王の謝罪について何も言わなかった。
気持ちのすれ違いが、もう元には戻れないところまで来ていた。
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