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倒れているアイーダの前で(ルイード視点)

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ルイードが駆けつけた時、周囲は血まみれだった。
アイーダにつけていた若い護衛の側でアイーダは倒れており、少し離れたところに知らない男も倒れていた。
アイーダも護衛も二人とも意識はない。

あぁぁぁ!!!
何でアイーダから目を離したんだ!俺は何て愚かなことを!
アイーダを見失ったと護衛達からすぐに報告が入った。
慌てて探し回ったが‥遅かった‥

「アイーダ!アイーダ!」
近づいて抱きしめた。
グッタリしていて意識はないが、息はしている。
心臓は動いている。死んでいない事にホッとした。
「早く侍医を呼べ!他にも賊がいるかもしれない。徹底的に調べろ!」
俺の声に騎士達は動き出す。
これだけ血が出ていれば命に関わる程の怪我をしている筈だ。
早く処置をしなければ!!
アイーダの顔の血を手で拭った。顔も手もドレスも血まみれだった。

あぁぁどうしてこんな事に‥
「ルイード様、ルイード様!」
呼びかけに反応が遅れる。
「‥あぁ、早く見てくれ。」
侍医達をみてアイーダを渡す。侍医達はアイーダの全身の状態をみている。
座り込んだまま呆然とその様子を眺めていた。

侍医達はアイーダを動かしても良いと判断し別の部屋に連れて行くようだ。護衛の男も無事らしい。
あの血は?あんなに出ていたのに‥ここで何が起こったんだ?

アイーダに付いていた血が俺の手にも付いている。
俺の手が震えている。
アイーダを失う恐怖が頭から離れない。
手についている血を見ながら‥
アイーダの危機に何もできなかった自分を呪った。
俺が下手に隠し事なんかしようとしたから‥あの時アイーダの手を離したから。
あんなに傷ついた顔をして俺を睨んだアイーダを一人にした。
大切にしたかったのに。結局は傷つけた。こんな最悪な結果をもたらした。

王太子がルイードの肩を叩いた。
「ルイード、血まみれだ。着替えてこい。聖女様が目を覚した時、その格好で会うのか?」
王太子は、メイドを呼ぶ。

「兄上‥俺は‥俺は‥」

「大体の事は聞いている。話は後だ。着替えてこい。」

メイドに連れられて着替えたが、その間ずっとボーとしていた。
まだ、あの時の感覚から抜け出せない。
もう手は綺麗に拭かれている。だが、アイーダを触った時の血のぬめった感触は残っている。
自分がアイーダを危機に晒した‥
意識がなく俺に全体重を預けるアイーダ。
その重みに恐怖を感じた。
アイーダを失ってしまう‥この恐怖をもう感じたくない。手の震えは取れない‥

着替えてから呼ばれた王太子の執務室には先ほどの若い護衛とその上司である騎士団長もいた。
事情聴取をするつもりだ。
まだ頭がぼんやりしている。

「申し訳ありません、私が付いていながらこのような事態に‥」
若い護衛アルーは青ざめながら謝る。
ルイードもこの護衛の事は知っていた。
若いが、軍の中でも優秀だった。
だからこそ、聖女の護衛として騎士団の方に引き抜かれていた。

「何があったのか教えてほしい。」
状況を知りたいという気持ちはあるが、同時に知りたくないとも思ってしまう。

あの時の感じた恐怖‥その再現を今からするのだ‥
逃げ出してしまいたいとすら思う。
俺は何て弱い人間なんだろう‥
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