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コトミとルイードの決別(ルイード視点)
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「聖女様、ルイード様。こちらで一時間ほどお待ちください。次の出席の頃にお迎えに参ります。」
神官が頭を下げ出て行く。
待ちに待ったコトミとの再会。
コトミの嫌そうな顔が見えた。
一時間二人っきり‥
それを嫌だとはっきり態度に出ている。
その様子に胸が痛む。
兄上が段取りしてくれた時間だ。
コトミと話せるチャンスなどもう回ってこない。
しっかりしろ!
「‥‥」
俺を視界に入れたくないのか、俺を背に座っている。
「コトミ、話がある。」
俺から話しかける。
「その名前は呼ばないでと言ってあったはずよ。」
コトミは振り返らない。
コトミの瞳に俺を映してはくれない。
屈託がない笑顔が好きだった。
人間の醜さなど知らない澄んだ心が好きだった。
いつも憎まれ口を叩きあうが、それもコトミとなら嬉しかった。
コトミとそんな風にできるのは自分だけだと優越感にも浸れた。
コトミの全てを愛している。
そんなコトミからの拒否。
冷たい視線。
伝えたい事はきちんと考えて来ていたが、声にならない。
フラフラとコトミに近づき、背を向けるコトミに膝を折って頭を下げる。
「俺を嫌わないでくれ‥お願いだ。」
王族として人の上に立つように求められてきた。
それを当たり前だと思ってやってきた。
それがどうだ、コトミの足元で縋るしか引き止める手段がないなんて。
情けない。
だが、俺には他にどうすることもできない‥
「そんなに聖女様に嫌われるのが嫌なの?」
コトミが横目に俺を見て、鼻で笑った。
「聖女などどうでもいい。コトミに嫌われたくない。コトミの事を愛している。お願いだ‥俺を拒否しないでくれ。俺はお前を失ったら生きていけない。」
頼むから俺を拒否しないでくれ。
それ以外ならなんでも受け入れる。
「‥‥言いたいことはそれだけ?名前を呼ばないでと言わなかった?私の存在は簡単に命令を無視できるほど軽いのものなの?」
コトミは俺の方を見た。
冷たい視線のまま。
コトミは俺を受け入れる事を拒否した。
今まで築き上げて来たものは全て俺のバカな言動のせいで消えてしまった。
もう時間は戻せない。
どんなに言葉を紡いでもコトミには伝わらない。
コトミにこれ以上嫌われたくはない。
これ以上、この冷たい視線に耐えられない。
俺を拒否する事がコトミが望みならそれを叶えよう。
自分の心を殺しても。
できるはずだ、そうやって今までこの王城で生きてきた。
コトミの側で素の自分でいる事ができたのは奇跡だったんだ。
自分の気持ちをありのままに伝えず、誤魔化した俺への罰。
コトミの苦しみを理解せず、傷つけた代償‥
俺の心は決まった。
立ち上がり、頭を下げ、臣下の礼を取る。
「申し訳ありませんでした。今後は一切そのような事は致しません。聖女様のご命令に従います。この行事が終われば、婚約解消をすすめましょう。」
背を向けている聖女様の表情は見えない。
俺にとってもその方が良かった。
今、ホッとした彼女の顔を見たら立ち直れないから。
「‥‥」
「私が側にいるのは苦痛でしょう。隣の部屋におります。この行事が終わるまでは婚約者のままです。もうしばらくご辛抱ください。」
とだけいい、その場を離れた。
この行事が終われば兄上に伝えなければならない。
婚約解消は俺の方からはできない。
全ては聖女様の一存で決まる。
俺に会いたくないだろう。
俺ももう拒否するあの目を見る勇気はない‥
俺と会わず、その手続きを進めるには‥
兄上に代わりに行ってもらうしかない。
俺の代理サインができる人間などこの国に少ないのだから。
「聖女様のお望みのままに。」
隣の部屋に向かい一礼をする。
もし聖女様がここを出て行きたいというのなら、できる限りその協力をしよう。
そのことで、もし兄上の敵になろうと国を裏切ろうとも俺はもう聖女様を傷つける事はしない。
影から一生守る。
「あなたを私の全てをかけて一生守っていく。だから私の側にずっといてほしい。」
前に伝えた聖女様への誓い。
その時は流されたが、俺の中で一生消える事のない誓い。
「私の側にずっといて欲しいなんて図々しい事がよく言えたものだ。」
自分の言葉に笑いがこみ上げる。
その時の俺はこんな風に拒否されるなんて考えた事もなかった。
一番幸せだった時‥
もう一度、もう一度だけ戻れないだろうか。
笑いあえ、何でも話し合えたあの頃に‥
涙が流れる。
神官が頭を下げ出て行く。
待ちに待ったコトミとの再会。
コトミの嫌そうな顔が見えた。
一時間二人っきり‥
それを嫌だとはっきり態度に出ている。
その様子に胸が痛む。
兄上が段取りしてくれた時間だ。
コトミと話せるチャンスなどもう回ってこない。
しっかりしろ!
「‥‥」
俺を視界に入れたくないのか、俺を背に座っている。
「コトミ、話がある。」
俺から話しかける。
「その名前は呼ばないでと言ってあったはずよ。」
コトミは振り返らない。
コトミの瞳に俺を映してはくれない。
屈託がない笑顔が好きだった。
人間の醜さなど知らない澄んだ心が好きだった。
いつも憎まれ口を叩きあうが、それもコトミとなら嬉しかった。
コトミとそんな風にできるのは自分だけだと優越感にも浸れた。
コトミの全てを愛している。
そんなコトミからの拒否。
冷たい視線。
伝えたい事はきちんと考えて来ていたが、声にならない。
フラフラとコトミに近づき、背を向けるコトミに膝を折って頭を下げる。
「俺を嫌わないでくれ‥お願いだ。」
王族として人の上に立つように求められてきた。
それを当たり前だと思ってやってきた。
それがどうだ、コトミの足元で縋るしか引き止める手段がないなんて。
情けない。
だが、俺には他にどうすることもできない‥
「そんなに聖女様に嫌われるのが嫌なの?」
コトミが横目に俺を見て、鼻で笑った。
「聖女などどうでもいい。コトミに嫌われたくない。コトミの事を愛している。お願いだ‥俺を拒否しないでくれ。俺はお前を失ったら生きていけない。」
頼むから俺を拒否しないでくれ。
それ以外ならなんでも受け入れる。
「‥‥言いたいことはそれだけ?名前を呼ばないでと言わなかった?私の存在は簡単に命令を無視できるほど軽いのものなの?」
コトミは俺の方を見た。
冷たい視線のまま。
コトミは俺を受け入れる事を拒否した。
今まで築き上げて来たものは全て俺のバカな言動のせいで消えてしまった。
もう時間は戻せない。
どんなに言葉を紡いでもコトミには伝わらない。
コトミにこれ以上嫌われたくはない。
これ以上、この冷たい視線に耐えられない。
俺を拒否する事がコトミが望みならそれを叶えよう。
自分の心を殺しても。
できるはずだ、そうやって今までこの王城で生きてきた。
コトミの側で素の自分でいる事ができたのは奇跡だったんだ。
自分の気持ちをありのままに伝えず、誤魔化した俺への罰。
コトミの苦しみを理解せず、傷つけた代償‥
俺の心は決まった。
立ち上がり、頭を下げ、臣下の礼を取る。
「申し訳ありませんでした。今後は一切そのような事は致しません。聖女様のご命令に従います。この行事が終われば、婚約解消をすすめましょう。」
背を向けている聖女様の表情は見えない。
俺にとってもその方が良かった。
今、ホッとした彼女の顔を見たら立ち直れないから。
「‥‥」
「私が側にいるのは苦痛でしょう。隣の部屋におります。この行事が終わるまでは婚約者のままです。もうしばらくご辛抱ください。」
とだけいい、その場を離れた。
この行事が終われば兄上に伝えなければならない。
婚約解消は俺の方からはできない。
全ては聖女様の一存で決まる。
俺に会いたくないだろう。
俺ももう拒否するあの目を見る勇気はない‥
俺と会わず、その手続きを進めるには‥
兄上に代わりに行ってもらうしかない。
俺の代理サインができる人間などこの国に少ないのだから。
「聖女様のお望みのままに。」
隣の部屋に向かい一礼をする。
もし聖女様がここを出て行きたいというのなら、できる限りその協力をしよう。
そのことで、もし兄上の敵になろうと国を裏切ろうとも俺はもう聖女様を傷つける事はしない。
影から一生守る。
「あなたを私の全てをかけて一生守っていく。だから私の側にずっといてほしい。」
前に伝えた聖女様への誓い。
その時は流されたが、俺の中で一生消える事のない誓い。
「私の側にずっといて欲しいなんて図々しい事がよく言えたものだ。」
自分の言葉に笑いがこみ上げる。
その時の俺はこんな風に拒否されるなんて考えた事もなかった。
一番幸せだった時‥
もう一度、もう一度だけ戻れないだろうか。
笑いあえ、何でも話し合えたあの頃に‥
涙が流れる。
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