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9話

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「その子供はなに?」
 檻に閉じ込められ咳をする子供を見て私は受付に尋ねる。

「ああ、それでしたら廃棄処分が決まってる獣人です」
 あれが獣人、噂には聞いてたけど本当に尻尾があるのね。でも廃棄処分って……。

 その理由を聞くと、その獣人の子供は何を思ったのかダンジョンの魔物を食べてしまい瘴気に身体を侵されているのだとか。
 魔物の体は瘴気で犯されており肉を食べることはできない。食べれば自分も瘴気に犯されるからだ。

 もってあと二日で、明日にでも業者に引き取って貰うと言うのだ。

 ちなみに業者とは逃げ出した獣人や使えなくなった獣人を殺す者達だそうで、人形ヒトガタを殺す恐怖を無くさせるために廃棄処分を引き受けてる暗殺ギルドを業者と呼んでいるのだとリリーは言う。

「獣人って卑しいですよね」受付の女性は苦しんでいる子供の前でそう言い放った。
 
「ひどい……」

「ああ、あなたバルトブルグ王国から来たんですか。あちらは獣人の被害がないから、お気楽ですよね」
 受付の女性が先程までとは打って変わって私にトゲのある言葉を投げ掛ける。

 アルツハイゼン王国は獣人のアルゴブレイ王国に隣接しており常に小競り合いが絶えない地域で、アルツハイゼン出身の受付の女性も両親を獣人に殺されたのだと獣人達を睨み付ける。

「でも、病気の子供を檻に閉じ込めるなんて」

「獣人は人じゃなくて物です!」
 そう言うと受付の女性は机を強く叩き興奮する。嫌なことを思い出させてしまったのだろう。
 私も両親や兄を殺されて人を憎む気持ちはわかる。

 恨むなと言う気もない。

 だけど檻に閉じ込められている子供を見ていると私の心が締め付けられるのだ。
 まるで私のようだと、明日をも知れぬ身だった私なのだ
と……。

「わかりました。なら、その子供の権利を買いますので売ってください」

「え? 数日で死ぬこれ・・ をですか?」
 私の申し出がよほど突飛だったのか受付の女性は苦笑いを浮かべる。

「せめてベッドの上で死なせてあげたいの」

「……お優しいことで。それでは代金は金貨二枚になります」
 ここからはビジネスだと割りきり受付の女性は獣人の値段を提示する。

「ちょっと、明日には死ぬような命でしょ?」
 リリーが受け付けに抗議をする。もちろん値下げ交渉のつもりだが、女性はガンとして譲らない。

「正直に言って、あなた方に売るよりも私はこれ・・が苦しんでいるのを見てる方が溜飲が下がるんですよ」とまでも言う。

 引き下がらないリリーに「正規の料金ですので不服ならお帰りください」と女性はあくまでも強気だ。

 子供の残り少ない命の時間を値段交渉など無意味な時間で潰したくない。
 私は値段交渉するリリーを押しのけて受付に金貨二枚を置き獣人の子供の権利を買い取った。
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