タイトル: 「鏡の迷宮」

第四章：夜の囁き

その夜、霧宿では全員が一室に集まり、矢部重三を中心にこの村の伝承と、鏡の神について話し合いが行われた。だが、城戸茉莉だけは終始黙り込み、何度も時計を気にしている。

「鏡の神が祀られたのは、今から300年以上前のことだ。」矢部重三が静かに話し始めた。
「村を襲った疫病を鎮めるため、村人たちは鏡を神として崇め、その力で病を追い払ったという。それ以来、村の中心には『月隠の鏡』が置かれ、守り神として扱われてきた。」

「月隠の鏡……」と蓮がつぶやく。「それは今どこに？」

「分からん」と重三は短く答えた。
「50年前、大火事で村の中心部が焼失した際、鏡も跡形もなく消えた。それ以来、この村では災いが絶えないと言われている。」

話が進む中、遥は城戸茉莉の様子が気になって仕方がなかった。彼女はやけに落ち着きがなく、視線を合わせようとしない。

「城戸さん、大丈夫ですか？」と遥が声をかけると、彼女はぎこちなく笑った。
「ええ、大丈夫です。ただ、ちょっと疲れて……」

だが、その夜、遥はふと目を覚ます。微かな足音が廊下を歩いている。音の主を確かめるために部屋を出た彼女は、城戸茉莉が一人で宿の裏手に向かって歩いていくのを見つけた。

「茉莉さん？」
声をかけると、茉莉は一瞬立ち止まり、振り返る。その顔は蒼白で、まるで別人のようだった。

「……私を追わないで。」
それだけ言うと、茉莉は再び足早に闇の中へ消えていった。遥は迷ったが、後を追うことにした。

茉莉が向かったのは村外れの古い祠だった。中に入ると、彼女は何かを必死に探しているようだった。その手には小さな鍵が握られていた。

「何をしているの？」と尋ねると、茉莉は驚いて振り向く。
「あなたには関係ない！これは……私の問題なの！」

その時、祠の奥から奇妙な音が聞こえた。「カリ……カリ……」と何かが爪を立てているような音だ。二人は一瞬で凍り付く。遥が懐中電灯で奥を照らすと、そこには巨大な鏡が立てかけられていた。鏡の表面には無数のひびが入り、まるで何かがそこから出てこようとしているかのようだった。

「これは……！」茉莉が叫ぶ。だがその時、鏡の中から何かが伸び、茉莉を掴もうとする。遥はとっさに茉莉の腕を引っ張り、その場から逃げ出した。