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第三章

第51話 カイザーゴンドラ

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 ブラックドラゴンのカイザーを配下にした次の日の朝、俺は強い魔物の襲撃が無かったか配下達に確認した。
 やはりカイザーがいると魔物は近づいてこないらしく、夜の襲撃はなかったようだ。
 そうなるとカイザーを出しておくとレベル上げができない。いざという時以外はしまっておく必要がある。
 しかし上位陣の装備が吹き飛んでしまったので、カイザーなしで魔の森をうろつくのはちょっと不安だ。
 夜の間にブレスで吹き飛んだ配下の装備を探させたが、火の大盾と火の魔法剣の刀身が一つ見つかっただけだった。それ以外は消滅したか遠くへ吹き飛んだかしてしまったのだろう。火の大楯はドワーフが修理できそうだが、火の魔法剣は専門家じゃないと無理らしい。
 結構な数の魔法装備を失ってしまった。まあ仕方ない。
 今回のレベル上げは終了にして装備を整えるために町に戻ろうと思う。

 しかしここまで来るのに5日くらいかかっている。効率が悪いので、できれば移動時間を短縮したい。もちろん手段は決まっている。

 そうドラゴンだ。

 ドラゴンに乗って飛んでいけばすぐに家に着くだろう。歩いて5日の距離なんて飛べば日帰りできる。ということは町から日帰り圏内にドラゴンが飛んでたということだ。よく今まで町が襲われたりしなかったな。たまたま今回初めてこの辺に飛んできただけかな。まあいい。

 さっそくドラゴンに乗れるか試そう。幸い今日は曇っているので空を飛んでも問題ない。

 落ちて死ぬのは嫌なので、まずは配下で試す。一応落ちても死ななそうなステータスの聖騎士に乗ってもらう。仕方がないので初めてブラックドラゴンに乗ったドラゴンナイトの称号は譲ってやろう。しかし服装は農家だ。聖騎士の装備は盾以外消滅したからな。落ちて装備が壊れたら嫌だから盾や予備の武器も無しだ。ドラゴンナイトではなくドラゴン農家だ。

 さっそくカイザーの背中に聖騎士に乗ってもらい飛んでもらった。
 カイザーがジャンプしながらブワッと飛び上がった瞬間、ポーンと聖騎士はあらぬ方向に飛んでいった。うん知ってた。勢いをつけるためにジャンプしながら飛ぶからね。そうなるよね。
 ジャンプせずにそーっと飛ぶよう指示してみた。謎能力で空中静止できるのだからそーっと飛ぶこともできるだろう。
 ゆっくりと浮かび上がり今度は落ちずに飛ぶことができた。試しに空中で旋回して戻ってくるよう指示してみた。ゆっくりと上昇したあとカイザーが旋回すると、聖騎士は遠心力でどこかへ飛んでいった。うんやっぱりね。
 聖騎士が戻ってこないので、配下召喚で呼びだして聞いてみた。凄い風圧で耐えられなかったそうだ。これは何の器具もなしで乗るのは無理だな。

「面白そうなことやってるわね。乗れそうなの?」 ヨゾラさんが声をかけてきた。
「とりあえず普通に乗るのは無理みたいですね。」
「そうなの? 乗ってみたかったんだけど。」 乗りたかったようだ。
「そういえばヨゾラさんは高い所から落ちても大丈夫なんですか?」 ふと疑問に思ったので聞いてみた。
「ええ、前に死なない程度の場所で試したけどダメージも受けないし何も感じなかったわ。ちょっと怖かっただけね。」
 さすがヨゾラさんだな。ヨゾラさんならカイザーに掴んでもらえば飛べそうだな。俺はうっかり握り潰されたり落とされたり着地の時に踏まれたりしそうだから無理だが。
「そういえばドームを空中で張ったらどうなるんですか? ドームは落下しないんですか?」
「ドームは空中静止するわ。普段は地面に埋まっている部分も見えるからドームではなく球体ね。」
 なるほど。それなら落ちそうになったらドームを使ってもらえば落ちなくて済むな。・・・いやまてよ。
「ヨゾラさんが高速移動中にドームを張ったらどうなりますか?」
「・・・やったことないけど、すり抜ける設定にしていなければドームにぶつかるわね。」
 ・・・ドラゴンで高速移動中にドームを張ったら絶対に壊れない壁に突然ぶつかるってことだな。つまり死ぬってことだ。
「あっ!でもドームを張るのに1秒ちょっとくらいかかるからあまり速く移動していると、ドームが張られる前にドームの外に出てしまうからぶつからないわね。」
 なるほど。死ぬほどの速度で動いている時は大丈夫そうだな。後ろから追ってきている奴がいたらぶつかるかもしれないが。
「何か落下防止策はないですかね?」
「うーん。私は落ちても大丈夫だけど私の能力じゃ二人を助けるのは難しいかもね。」 ヨゾラさんは無理なようだ。
「カイザーちゃんは無魔法を使えるんですよね。無魔法は物を持ったりできるので、無魔法で持ってもらったらどうでしょうか。あと風魔法なら高所から落ちても助けられると思います。」 俺達が悩んでいるとユリアさんが教えてくれた。
「おお。なるほど。ありがとうございます。さっそく試してみましょう。」

 色々試した結果、無魔法を使えば落とさず飛ぶことはできたが、無魔法は一つしか持てないので一人しか運べなかった。そこで馬車を無魔法で持ってもらい、馬車に乗ることにした。しかし馬車に乗るだけではやはり風圧で吹き飛んでしまうので、人妻エルフさんに風魔法で風圧を抑えてもらい、ようやく配下が空を飛んで無事戻ってくることができた。
 配下に聞くと、これでも気を付けないと危険なので命綱をつけた方が良いらしい。
 閉め切ることができる寝室馬車を使うことも考えたが、外が見えないと逆に怖いし、進路の指示もできないので、幌を外した普通の荷馬車を使うことにした。

「まずは試しに落ちても大丈夫な私が乗ってみるわ。」 ヨゾラさんがノリノリで言った。どうやら乗りたいようだ。
「ありがとうございます。でも落ちてはぐれたらマズいので命綱をつけてください。」
「そうね。分かったわ。」
「ヨゾラ、気をつけてね。」 ユリアさんは心配そうだ。
「大丈夫よ。」

 ヨゾラさんと人妻エルフさんが馬車に乗り、カイザーと共に空に浮かんだ。馬車は背中に乗せると逆に持ちづらいらしく、カイザーの顎の下に浮いている。前が良く見えそうな位置だ。
 ヨゾラさんが乗った馬車とカイザーは空を旋回したあと戻ってきた。
「ジェットコースターみたいで楽しかったわ。眺めも良かったし。」 ヨゾラさんは良い笑顔だ。楽しかったようだ。
「じゃあ俺達も乗っても大丈夫そうですね。」
「そうね。気持ち良いわよ。」
「じぇっとこーす?」 ユリアさんは当たり前だがジェットコースターが分かっていない。
 しかしジェットコースターは慣れていない人にはかなり怖いと思うが、ユリアさんは大丈夫だろうか。まあドラゴンと戦うよりは怖くないか。
「じゃあ家に帰りましょうか。」

 俺は人妻エルフさん以外をすべて収納して、馬車に乗り込んだ。
 命綱をしっかり馬車と腰に結んで手頃な場所につかまる。
「準備はいいですか?」
「いいわよ。」
「はい。」

 カイザーと馬車はゆっくりと浮かび上がり、視界が少しずつ高くなっていく。
 そして木の高さを越えると見えたのはどこまでも続く深い森だった。さらに上昇すると南には海が見え、北側には遥か遠くに小さく山脈が見えた。

「うわぁ。」 ユリアさんが感動の声をあげた。
「良い眺めですね。」 俺は素直な感想を言った。
「そうでしょう。」 ヨゾラさんも満足気だ。

「じゃあ出発しましょう。カイザー海沿いを西に向かってくれ。」 カイザーに指示を出す。多分家は上から見ても分からないから亀を倒した海岸を目印にだいたいの位置を把握しよう。
「ぐわう。」 カイザーが返事をして西に向かって旋回を始めた。
 凄いスピードだ。確かにこれはジェットコースターだな。
「うおお!」 俺は思わず声を上げた。
「キャー!!」 ユリアさんも叫んでいる。
「あははは!」 ヨゾラさんは笑っている。楽しそうだ。俺は楽しいと怖いの中間くらいだ。馬車と命綱が不安すぎる。
 旋回が終わり直線になると、安定した飛行に入った。風の音はゴウゴウと煩いが、直線飛行は思ったより揺れないので、意外と快適だった。
「た・・・でしょ・・」 ヨゾラさんが何か言っているが、風の音でよく聞こえない。
 これでは喋ることができないな。・・・そうだ!
「ヨゾラさん。ユリアさん。説法のスキルを使ってみましたけど聞こえますか?」 俺は説法スキルを使ってみた。説法スキルは戦闘中でも声が聞こえやすいと聞いたからだ。ただし敵にもよく聞こえてしまうが。
「なるほど。聞こえるわ。」 ヨゾラさんの声が聞こえた。ヨゾラさんも説法を使ったようだ。
「はい。聞こえます。」 ユリアさんも同じく聞こえた。
「旋回は結構怖かったですが、直線は眺めも良くて気持ち良いですね。」 俺は二人に声をかけた。
「そう? 旋回の方が楽しくて気持ちよかったじゃない。」 ヨゾラさんはジェットコースターが好きなタイプのようだ。
「高くて凄い速度で怖かったですよ!」 ユリアさんはやはり怖かったようだ。
「大丈夫!慣れれば楽しくなるわよ!」 それは人によると思います。
「そうでしょうか。私は今も高くて怖いです。お二人は平気そうですけど、空を飛んだことがあるんですか?」
「そうね。似たような乗り物に乗ったことがあるわ。」
「そうですね。」 飛行機とかジェットコースターのことだな。
「・・・異世界は凄いんですね。」 ユリアさんが驚いている。
 ユリアさんから見れば日本が異世界だしな。
「いえいえカイザーの方が凄いですよ。日本にドラゴンはいませんからね。ドラゴンを使ったこの移動方法は素晴らしいです。カイザーゴンドラと名付けましょう。」
 とりあえずノリで名前をつけた。
「あはは!良いわね!」 ヨゾラさんも気に入ったようだ。
「ふふふ。カイザーゴンドラですか。」 ユリアさんも余裕ができてきたようだ。
 しばらく飛んでいると見覚えのある海岸が見えてきた。やはり飛ぶと早いな。
「カイザー!町から見えないように低く飛んでくれ。」
 町から見えると騒ぎになるからな。
 しかし家の近くの森の中に着地できそうな場所は無いな。無理に着地したら木にぶつかって馬車が壊れそうだ。仕方ない。海岸に着地しよう。
「あの海岸に着地してくれ。」 指をさしてカイザーに指示する。
 グインと旋回してカイザーが海岸に向かう。
「キャー!」 またユリアさんの悲鳴が聞こえた。
「あははは!」 ヨゾラさんの笑い声もだ。
 ブワっと羽を広げながらカイザーが海岸に着地し、馬車が大きく揺れて、振り落とされそうになった。
「うわ!」「キャー!!」「あはは!」
 やはり柵やシートベルトなどを用意した方が良いな。うっかり気を抜いていたら落ちそうだ。

 カイザーゴンドラから降りたあと、見られると面倒なので、いつもの護衛を出してカイザーを収納した。

「こ、怖かったです。」 ユリアさんは涙目だ。
「ユリア大丈夫?」 ヨゾラさんは地上に降りて正気に戻ったのかユリアさんを心配している。
「やっぱり、ちゃんとした座席やシートベルトはあった方が良さそうですね。気を抜いていたら落ちそうですし。」
「そうね。居眠りもできないしね。」 ヨゾラさんはすっかり車や飛行機感覚のようだ。
「カイザー用の離着陸場所も家の近くに作りますね。」
 海岸は少し離れているし、目立つからな。

 家に帰ってさっそく俺は、カイザーゴンドラに座席やシートベルト、落下防止柵を付けるよう大工に指示した。ワゴン車をオープンカーにしたようなイメージの馬車だ。
 馬車じゃないとオークにつけて収納できないので、完全なゴンドラではないが、使いながら少しずつ改良して安全快適な物にしていこう。
 家の近くにカイザー用の離発着場所も作るように指示した。一定範囲の木を切ってヘリポートを作る感じだ。


 カイザーが配下になったことで、俺達は最強クラスの戦闘力と高速移動手段を得たことになる。
 俺達はどこにでも行けるし、どこでも暮らせるだろう。そして色々なことができるはずだ。まあ今の家は気に入っているし、ヨーラムさん達とも別れたくはないので、どこにも行かないが、気持ちの余裕が全然違う。


 俺は余裕の笑みを浮かべながら、この力で何をしてやろうかゆっくり考えることにした。

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