集団転移ですよ。

言葉

　宴会を途中で抜けて寝る為に大部屋に戻って来た僕は館林君のあの淋しそうな目がとても気になっていた。お布団にもぐってから考えてみると、館林君の言った「こんなのも伝わってるって良いよ。」という言葉の意味がわかってきた気がして切なくなる。僕達はこっちに来て忙しかったからあまり気にしてなかったけど、これから落ち着くにつれて家に帰れない事を実感していくのだろう。
　館林君は腹踊りなんて芸でも向こうの世界の事を思いだし、感じられる貴重なものの一つとして大切にしているのだろうか。そしてそれは今後自分にも当てはまるようになるのだろうか。
　なんだか家族の事を思うと泣きそうになる。どうしようもないとわかったのに「帰りたい」と言いそうで……でも皆、我慢してる言葉だろうから言っちゃいけない。けど一度そう思うとどんどん帰りたいと思うようになってきてお布団の中で泣いた。



　翌朝の僕は酷い顔だった。目はパンパンで目が開かない、顔全体がむくみ重い感じがする。僕が起きた気配で起き上がったのはベッド二つ奥にいた寝起きの良い佐藤君だ。

「あーあ、ジュン先輩酷い顔。昨日、泣いてたでしょ。」

　あまりその事に突っ込んでほしくなくてプイッと顔を背けると、ハンドタオルを濡らして持ってきてくれた。

「……オレ等も昨日話してたんですよ。宴会の前に風呂で。昨日、先生があんなに酔っ払ったのもそのせいなんだろうけど……。」

　やっぱり落ち着く一時ひとときがあると考えてしまうのだろうか。
　「大人は酒に逃げれてズルいっすよね」と苦笑いする佐藤君は僕よりも年上に見えた。……うん、年下の子がこうなんだから僕も我慢を。と思ったところでその佐藤君から「我慢しないでくださいね」と言われた。

「オレ等みたいに図体がデカイヤツが駄々こねるとうざったいし迷惑だけど、先輩達ならそんなことないからオレ等の変わりに駄々こねといてください。」

　……男前だ。ヤバイ男前すぎる。年下の子に慰められて気を遣われてる。
なんだか色々とショックで僕のホームシックはそこで終わった。……顔、冷やさないと。
そうそう、もしナオがホームシックで泣くときがあったらちょいちょいと言葉を変えて佐藤君の台詞をパクろうと思ってたらこの会話を聞いてたらしく、機会はなかった。

　僕の顔の腫れがひいた頃起き出してきたナオがコソッと僕に耳打ちしてきた。「先生より佐藤君のほうが大人っぽいよね」と。……うん、この一番出入口に近いベッドで二日酔いのために唸ってる姿をみるとなぁ。保護者の皆さんは誰も二日酔いがいないみたいだからこっちの人はお酒に強いのか？ともあれ午前中いっぱいは先生の看病だろう。