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52話 本気の戦い
しおりを挟む「その瞬間に健の前の選手が倒れたのは今でも鮮明に覚えてるさ。あれを見た時は僕も驚いたよ。」
「お前もあの大会に出ていたのか?相田 相斗なんてやつはいなかったはずだ。」
「あの時の僕の苗字は相坂だったよ。その後、親が離婚して母方の苗字になったんだ。」
「なるほどな.....繋がった。俺はお前の蹴りを一度受けた時に初めてくらったとは思わなかった。」
「え、でも、僕らは当時試合してないでしょ?実際はくらってないよね?」
相斗は健が何を言っているのか分からなかった。
「俺は一度見た蹴りのフォームから本当の蹴りをイメージする。だから、お前のも受けるイメージはしたことがあった。」
「何それ。なんか、気持ち悪いなぁ。」
「うるせぇ。」
健は即座にそう言った。
「だが、なんで今になってそれを言ったんだ?」
「僕はあの大会が終わって、少しして交通事故にあって、利き足が壊れたんだ。現役復帰は見込めないと医者には言われ、もう一生動けないかもしれないとまで言われたよ。」
相斗は少し息をのみ続けた。
「それでも、僕はあの時の君の輝きとその次の年の君の勇姿を見て、「また、俺もあの舞台にたちたい」って思ってリハビリをしたよ。そして、歩けるようになり現役よりかなり劣るがキックボクシングも出来るようになった矢先に僕はあの場所へと連れていかれ、君と出会ったんだ。」
笑顔を見せながら相斗はいった。
「君と出会えていなかったら、僕はもう歩けなかったかもしれない。もうキックボクシングは出来なかったかもしれない。だから、感謝をしたい。」
「別に俺はなんもしていない。」
「それでもだよ.....。それで、一つお願いがあるんだ。」
「なんだ?」
「僕と本気で戦ってくれ!」
「何を言ってるんだ?」
ふざけたことを言うなと言わんばかりに軽く健は相斗をいなした。
「知っているよ。健が僕に本気を出したことがないことなんて。君のことをどれだけ見てきたと思ってんのさ。」
「仮にそうだとして、なんで俺はお前と戦わなきゃいけないんだよ。」
「あの時からの憧れ、あの日からのヒーローを越えなきゃ、僕はこれから君の隣に立つ資格はないと思っているからだよ!」
「ふざけたことを言うな。」
相斗は健に足蹴にされ、少し悲しい顔をした。
「俺の蹴りはお前の蹴りの技術を少なからずは取り込んで出来ている。あの大会でのお前の蹴りは俺が見た中で一番強かった。その部分を何度もビデオで巻き戻して見た。そして、その技術の一部を俺の蹴りに反映させた。
俺は一度だってお前より抜きん出てるなんて思ったことはないぞ。」
健が続けて言った。
「やってやる.....。あの時の相坂 相斗 と知ったのなら、俺の本気を出して敬意を込めて相手させてもらおう。」
「本当!?」
相斗は戦ってくれることはもちろん、自分に関心を向けていてくれたことにすごく喜びを表した。
「あぁ。だが、場所はどうするんだ。俺らが戦ったらとんでもないことになると思うんだが。」
「あらぁ、それなら私に任せてちょうだい。」
「クイーンさん?」
クイーンの声が二人の脳内へと語りかける。
「私が絶対に壊れない場所を設けてあげるわ。」
「盗み聞きをしていたのか?」
「ごめんなさいね。この王都なら私の耳に全て入ってくるのよ。悪気はなかったことだけは言わせて欲しいわ。」
「まあ、別に聞かれてまずい話はしていないからいいが、聞いた話の口外だけはしないでくれ。」
「当たり前よ。そんなことはしないわ。約束する。」
「それで、どうするんだ場所は。」
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