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03 学校は無意味なもの 後編
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放課後、ホームルームも終わり、教室内にいた生徒たちもまばらになった頃。
恢は何をするでもなく、ただ机に突っ伏してうたた寝していた。家に帰ってもすることがないからである。自分でいうと悲しくなるためあまり言いたくはないが、友人は数えるほどしかいない。
恢はボッチだった。
正確には、話しかけてくる奴はそれなりにいるのだが、そいつらとはあまり話したくない。
だって面倒だもの。
脳裏に一番面倒な奴を思い浮かべて溜息を吐く。最近溜息ばかりだな、と思ったその時だった。
「左城宮君、左城宮君・・・」
いつの間にかフラグが建っていたらしい。目線を上げると、つい今したが思い浮かべていた顔がそこにあった。
今一番捕まりたくない奴に捕まった、とげんなりしつつ、恢は口を開いた。
「何だよ、天谷」
天谷良時、御霊と同じ生徒会所属で、学生でありながら既に軍部所属が決まっている優等生だった。
だが、天谷は結構面倒な信条を持っており、御霊とは違った意味でしつこい奴である。
こいつの話はいつも同じ。どうせ今日もそうに決まっている。
「何だよ、じゃないよ。聞いたよ、また会長の勧誘を蹴ったんだって?」
「だからどうしたって?別にお前には関係ないだろ」
やや責めるような口調で話しかけてくる天谷に、恢が不機嫌です、という顔をして言った。
すると天谷は驚いたように目を丸くし、恢に詰め寄ってくる。
「関係ない?そんなわけない!左城宮君は【覚醒者】としての自覚が足りないよ!転移系統の【異能】がどれだけ必要とされているかわからないのかい!?君が十字社に入るだけで・・・」
また始まった。
恢が天谷を毛嫌いする最大の理由。それがこれだった。この男、御霊と違って軍部に心酔している。ことあるごとに周囲の【覚醒者】を軍部ないしは十字社に引き込もうとしてくるのだ。ある時は【異能】を発現したばかりの子供にも声をかけていたらしい。
もはや迷惑行為の域を通り越して、災害である。
当然だが、ここまで酷くはなくとも軍部や十字社に心酔し、褒め称える人は一定数いる。
【覚醒者】の存在が公表されて以来、世界中で発生している【異能】によるテロや凶悪犯罪を解決し、災害時には救助活動を行ってきたという実績があるからだ。
そしてこれも当然だが、天谷はその中でもコアな部類。他の人たちがあくまでファンの域を出ないのに対し、天谷の考えは軍部至上主義のそれだ。
軍部の活動を絶対正義と盲信する狂信者。それが恢の天谷に対する評価である。
「君だって能力は人を救うために使いたいだろう?だったら」
「俺だってテロリストは嫌いさ」
長々と語り続ける天谷を遮り、恢は目を向けた。その昏い眼に、再び口を開きかけた天谷が動きを止める。
「ただ、お前とは違う考え方を持つ奴もいるって知ったほうがいい」
天谷を見据える瞳には、何も映っていない。黒だけがそこに存在していた。
天谷は知っている。その瞳が後天的なものであることを。どうしてそうなったのか、過去に何があったのかは知らないが、その焼け焦げて煤けた瞳が生来のものでないことだけは知っていた。
「・・・俺は、あんな奴らと同じようにはなりたくない。お前らと違って俺には十字社も軍部もテロリストも同じなんだよ」
「っ!?待ってくれ―――」
いい加減聞き飽きた話に苛立ちを覚え、ピシャリと言い放つ。そしてそのまま天谷を無視して『扉』を開き、恢は去って行った。
恢は何をするでもなく、ただ机に突っ伏してうたた寝していた。家に帰ってもすることがないからである。自分でいうと悲しくなるためあまり言いたくはないが、友人は数えるほどしかいない。
恢はボッチだった。
正確には、話しかけてくる奴はそれなりにいるのだが、そいつらとはあまり話したくない。
だって面倒だもの。
脳裏に一番面倒な奴を思い浮かべて溜息を吐く。最近溜息ばかりだな、と思ったその時だった。
「左城宮君、左城宮君・・・」
いつの間にかフラグが建っていたらしい。目線を上げると、つい今したが思い浮かべていた顔がそこにあった。
今一番捕まりたくない奴に捕まった、とげんなりしつつ、恢は口を開いた。
「何だよ、天谷」
天谷良時、御霊と同じ生徒会所属で、学生でありながら既に軍部所属が決まっている優等生だった。
だが、天谷は結構面倒な信条を持っており、御霊とは違った意味でしつこい奴である。
こいつの話はいつも同じ。どうせ今日もそうに決まっている。
「何だよ、じゃないよ。聞いたよ、また会長の勧誘を蹴ったんだって?」
「だからどうしたって?別にお前には関係ないだろ」
やや責めるような口調で話しかけてくる天谷に、恢が不機嫌です、という顔をして言った。
すると天谷は驚いたように目を丸くし、恢に詰め寄ってくる。
「関係ない?そんなわけない!左城宮君は【覚醒者】としての自覚が足りないよ!転移系統の【異能】がどれだけ必要とされているかわからないのかい!?君が十字社に入るだけで・・・」
また始まった。
恢が天谷を毛嫌いする最大の理由。それがこれだった。この男、御霊と違って軍部に心酔している。ことあるごとに周囲の【覚醒者】を軍部ないしは十字社に引き込もうとしてくるのだ。ある時は【異能】を発現したばかりの子供にも声をかけていたらしい。
もはや迷惑行為の域を通り越して、災害である。
当然だが、ここまで酷くはなくとも軍部や十字社に心酔し、褒め称える人は一定数いる。
【覚醒者】の存在が公表されて以来、世界中で発生している【異能】によるテロや凶悪犯罪を解決し、災害時には救助活動を行ってきたという実績があるからだ。
そしてこれも当然だが、天谷はその中でもコアな部類。他の人たちがあくまでファンの域を出ないのに対し、天谷の考えは軍部至上主義のそれだ。
軍部の活動を絶対正義と盲信する狂信者。それが恢の天谷に対する評価である。
「君だって能力は人を救うために使いたいだろう?だったら」
「俺だってテロリストは嫌いさ」
長々と語り続ける天谷を遮り、恢は目を向けた。その昏い眼に、再び口を開きかけた天谷が動きを止める。
「ただ、お前とは違う考え方を持つ奴もいるって知ったほうがいい」
天谷を見据える瞳には、何も映っていない。黒だけがそこに存在していた。
天谷は知っている。その瞳が後天的なものであることを。どうしてそうなったのか、過去に何があったのかは知らないが、その焼け焦げて煤けた瞳が生来のものでないことだけは知っていた。
「・・・俺は、あんな奴らと同じようにはなりたくない。お前らと違って俺には十字社も軍部もテロリストも同じなんだよ」
「っ!?待ってくれ―――」
いい加減聞き飽きた話に苛立ちを覚え、ピシャリと言い放つ。そしてそのまま天谷を無視して『扉』を開き、恢は去って行った。
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