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12.蕪木と小ヶ峯
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逃亡という名の温泉宿泊が始まった。
智宏は二人のお互いを呼び合う名前に違和感を覚えていた。
蕪木は小ヶ峯のことを苗字の呼び捨て、反対に小ヶ峯は蕪木のことをさん付けで呼んでいる。智宏は思いきって、二人に呼び名のことを聞いてみることにした。
「なぁ、二人は恋人なのに同等の呼び方になってないのが不思議なんだけど……」
蕪木は目をぱちくりとすると、ポツリと呟いた。
「確かにそうですねぇ……」
「運転手さんの名前は何?」
春太は嬉々として訪ねた。
「亘です。小ヶ峯亘」
「蕪木さんの下の名前は?」
「陽介です」
「じゃあ、亘と陽介って呼び合えばいいよ!」
春太は天真爛漫の笑顔で言い放った。
そう言われると、蕪木も小ヶ峯もなんとも言えず、気恥ずかしかったが、呼び合ってみることにした。
「亘……」
「陽介……」
いざ呼び合ってみると、顔が熱く、自分たちが照れているのは明白だった。
智宏は真っ赤になっている二人に声を掛ける。
「可愛いとこあんじゃん」
亘は我慢しきれないという気持ちから、陽介をしっかりと抱き締めた。
長年つらい想いをしてきたであろう陽介を思いきり抱き締めることで、苦しさから解放してやるつもりだった。
しかし、陽介は長年の経験から求められれば身体を差し出すという行為を続けていたため、今回もそうだと思い、亘にしなだれかかった。だが、亘も亘で、このしなだれかかった行為が愛からだとは思わなかった。
「陽介が今現在、私を好きだとか愛しているなどの感情を持っているとは……正直思えない。ただ今は少しずつ信じてくれている段階だと思います」
核心を突かれた陽介はオロオロとし、一気に自分の想いを吐き出した。
「確かに……、私が……今しなだれかかったのは条件反射です。求められたら身体を差し出すよう訓練された私の心は、誰かを好きだとかそういう考えが出来なくなっているのかも知れません……。私は過去に一緒にホテルにバイト応募して来た友達のことを愛していました。しかし、その友達は私を裏切り、自分だけ逃げてしまいました。ですので、また誰かを好きになっても裏切られるのではないかという不安があります……」
ここで春太が間に入った。
「僕もバイトに来て、智宏に抱かれるまで、智宏が僕のことを好きで居てくれるって思ってなかったよ。バイト中は、きっとやらされてるから僕を抱いたんだろうとしか思わなかったし、最初は信じられなかった。だけど、優しく僕を抱いてくれた手や目は本気だったし、信じようと思えたよ。だから、これから先一緒に居てみて、ホテルにいた人たちとは違うと感じられる日が来るんじゃないかな。その為にはまず心を開いて受け入れてみるのが大切じゃない?」
智宏は笑いながらこの言葉に返事を返した。
「こんなに甲斐甲斐しくやってるのに、やっと信じてくれたんだな」
春太と皆はクスクスと笑い、和気あいあいになった。
朝食の下膳が済むと、4人共になんとなく安堵が訪れたが、亘は陽介に一緒に部屋に帰ろうと促した。
「そろそろ二人の時間も欲しいでしょうし、私たちは部屋に戻りませんか?」
「それもそうですね。部屋に露天風呂もありましたし、戻りましょうか」
その会話を春太が止める。
「二人とも待って。僕は4人でいた方が安心する」
「智宏君と愛し合う時間が必要ではないのですか?」
亘がそう返すと、春太はもじもじしながら言葉を返した。
「正直に言うと、大人のセックスが見てみたくって……」
春太は真っ赤になって言い終わると、智宏が驚いて言葉を返した。
「春太、さすがにそれは……俺のやり方じゃ物足りないってこと?」
「違うよ智宏、僕がどうすれば智宏をもっと気持ちよくできるのか、参考にしたいの。だから二人のセックスを見て、教えて欲しくて……」
涙ぐみながら話す春太の眼差しは真剣そのもので、震えた身体から出た言葉は、それが興味本位からではなく本気で教えて欲しいのだと分かるほどだった。
陽介はその言葉に優しく声を掛ける。
「私は見られるのに慣れていますが、亘がどうかは分かりません。しかも私と亘はまだ一度も肌を重ねたことがありません。ですので、今晩肌を重ねてから明日お見せするのでは遅いですか?どうでしょう、亘」
「私は陽介に従います。今日でも明日でも、私は陽介を抱きたくて堪らないですからね。先ほど部屋に戻ろうと提案したのも、実は春太君と智宏君の二人の時間を作るという大義名分を話しましたが、本当は私が陽介を抱きたくて部屋に戻りたかったからです」
亘の独白を聞いた陽介はすぐさま言葉を返した
「欲望に忠実ですね」
陽介の言葉を聞き、亘は顔を赤らめて押し黙った。
「なんだかごめんなさい……」
春太は謝ると、深々と頭を下げた。
「謝る必要はありませんよ。私はむしろ、もっと智宏君に対して気持ちよくなって欲しいという、春太の気持ちが伝わりました。ですが、物事には順序があります。私は今まで誰かに見られながらのセックスばかりをしてきました。ですので、亘とのセックスは誰にも見られずに初夜を迎えたいと今は思っています。これから先、ずっとパートナーとしてやっていくには信頼が不可欠です」
陽介は自分の想いを春太に向かって話している。
しかし、その言葉を横で聞いている亘にも、どの言葉も心に突き刺さっていた。
「分かってくれますか?春太」
陽介が質問すると、春太は涙を浮かべてコクコクと頷いた。
「まだ二人きりの時間も少なかったのに、見たいなんて言ってごめんなさい……」
「分かってくれて嬉しいですよ。さぁ部屋に戻りましょうか、亘……」
亘と陽介は春太と智宏を背に、自分たちの部屋に帰っていった。
智宏は二人のお互いを呼び合う名前に違和感を覚えていた。
蕪木は小ヶ峯のことを苗字の呼び捨て、反対に小ヶ峯は蕪木のことをさん付けで呼んでいる。智宏は思いきって、二人に呼び名のことを聞いてみることにした。
「なぁ、二人は恋人なのに同等の呼び方になってないのが不思議なんだけど……」
蕪木は目をぱちくりとすると、ポツリと呟いた。
「確かにそうですねぇ……」
「運転手さんの名前は何?」
春太は嬉々として訪ねた。
「亘です。小ヶ峯亘」
「蕪木さんの下の名前は?」
「陽介です」
「じゃあ、亘と陽介って呼び合えばいいよ!」
春太は天真爛漫の笑顔で言い放った。
そう言われると、蕪木も小ヶ峯もなんとも言えず、気恥ずかしかったが、呼び合ってみることにした。
「亘……」
「陽介……」
いざ呼び合ってみると、顔が熱く、自分たちが照れているのは明白だった。
智宏は真っ赤になっている二人に声を掛ける。
「可愛いとこあんじゃん」
亘は我慢しきれないという気持ちから、陽介をしっかりと抱き締めた。
長年つらい想いをしてきたであろう陽介を思いきり抱き締めることで、苦しさから解放してやるつもりだった。
しかし、陽介は長年の経験から求められれば身体を差し出すという行為を続けていたため、今回もそうだと思い、亘にしなだれかかった。だが、亘も亘で、このしなだれかかった行為が愛からだとは思わなかった。
「陽介が今現在、私を好きだとか愛しているなどの感情を持っているとは……正直思えない。ただ今は少しずつ信じてくれている段階だと思います」
核心を突かれた陽介はオロオロとし、一気に自分の想いを吐き出した。
「確かに……、私が……今しなだれかかったのは条件反射です。求められたら身体を差し出すよう訓練された私の心は、誰かを好きだとかそういう考えが出来なくなっているのかも知れません……。私は過去に一緒にホテルにバイト応募して来た友達のことを愛していました。しかし、その友達は私を裏切り、自分だけ逃げてしまいました。ですので、また誰かを好きになっても裏切られるのではないかという不安があります……」
ここで春太が間に入った。
「僕もバイトに来て、智宏に抱かれるまで、智宏が僕のことを好きで居てくれるって思ってなかったよ。バイト中は、きっとやらされてるから僕を抱いたんだろうとしか思わなかったし、最初は信じられなかった。だけど、優しく僕を抱いてくれた手や目は本気だったし、信じようと思えたよ。だから、これから先一緒に居てみて、ホテルにいた人たちとは違うと感じられる日が来るんじゃないかな。その為にはまず心を開いて受け入れてみるのが大切じゃない?」
智宏は笑いながらこの言葉に返事を返した。
「こんなに甲斐甲斐しくやってるのに、やっと信じてくれたんだな」
春太と皆はクスクスと笑い、和気あいあいになった。
朝食の下膳が済むと、4人共になんとなく安堵が訪れたが、亘は陽介に一緒に部屋に帰ろうと促した。
「そろそろ二人の時間も欲しいでしょうし、私たちは部屋に戻りませんか?」
「それもそうですね。部屋に露天風呂もありましたし、戻りましょうか」
その会話を春太が止める。
「二人とも待って。僕は4人でいた方が安心する」
「智宏君と愛し合う時間が必要ではないのですか?」
亘がそう返すと、春太はもじもじしながら言葉を返した。
「正直に言うと、大人のセックスが見てみたくって……」
春太は真っ赤になって言い終わると、智宏が驚いて言葉を返した。
「春太、さすがにそれは……俺のやり方じゃ物足りないってこと?」
「違うよ智宏、僕がどうすれば智宏をもっと気持ちよくできるのか、参考にしたいの。だから二人のセックスを見て、教えて欲しくて……」
涙ぐみながら話す春太の眼差しは真剣そのもので、震えた身体から出た言葉は、それが興味本位からではなく本気で教えて欲しいのだと分かるほどだった。
陽介はその言葉に優しく声を掛ける。
「私は見られるのに慣れていますが、亘がどうかは分かりません。しかも私と亘はまだ一度も肌を重ねたことがありません。ですので、今晩肌を重ねてから明日お見せするのでは遅いですか?どうでしょう、亘」
「私は陽介に従います。今日でも明日でも、私は陽介を抱きたくて堪らないですからね。先ほど部屋に戻ろうと提案したのも、実は春太君と智宏君の二人の時間を作るという大義名分を話しましたが、本当は私が陽介を抱きたくて部屋に戻りたかったからです」
亘の独白を聞いた陽介はすぐさま言葉を返した
「欲望に忠実ですね」
陽介の言葉を聞き、亘は顔を赤らめて押し黙った。
「なんだかごめんなさい……」
春太は謝ると、深々と頭を下げた。
「謝る必要はありませんよ。私はむしろ、もっと智宏君に対して気持ちよくなって欲しいという、春太の気持ちが伝わりました。ですが、物事には順序があります。私は今まで誰かに見られながらのセックスばかりをしてきました。ですので、亘とのセックスは誰にも見られずに初夜を迎えたいと今は思っています。これから先、ずっとパートナーとしてやっていくには信頼が不可欠です」
陽介は自分の想いを春太に向かって話している。
しかし、その言葉を横で聞いている亘にも、どの言葉も心に突き刺さっていた。
「分かってくれますか?春太」
陽介が質問すると、春太は涙を浮かべてコクコクと頷いた。
「まだ二人きりの時間も少なかったのに、見たいなんて言ってごめんなさい……」
「分かってくれて嬉しいですよ。さぁ部屋に戻りましょうか、亘……」
亘と陽介は春太と智宏を背に、自分たちの部屋に帰っていった。
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