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第五章 拳銃学・ステイプラー

35.ステイプラー

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 ◆

 ななななななななな!
 なにが起きているんだ今?!

 俺はフカフカの布団の中にいて、そしてフワフワのおっぱいが背中に当たっている?!
 俺のことを優しく包み込む二つの腕と、俺の耳元で聞こえる寝息!
 花の香りといい、背中で感じる柔らかい感触といい、女の子の寝息といい、薄暗い桃色のランプといい!

 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、五感の中の四感が幸せでならん!
 嗅覚、触覚、聴覚、視覚が今、人生で一番研ぎ澄ませれているぞ!

「ノベル」

「は、はいっ!」

 突然、俺の耳元でステイプラーさんの声が聞こえた!
 囁くその声はとても綺麗で、ただ喋っているだけで心が落ち着く。

「ノベルは、銃が好きか?」

「好きです! それもめちゃくちゃ!」

い響きだ。ノベルには私の引き金を握って欲しい」

「えっ……?」

 すると、ステイプラーの柔い手が俺の手を握った!
 引き金、引き金ですか?!
 それは一体どのような比喩なのでしょうか俺には分からないしそもそも俺は女の子の経験はなくてですねその――!
 やばい、目を瞑れ俺!
 これ以上、エロいことを考えていると頭の中がおかしくなりそうだ!

「任せておけ。君は初めてなのだろう? ふるえているのが鼓動で伝わる」

 うひゃぁぁぁぁぁぁ!
 俺はやはり、お姉様系の女性は刺激が強すぎて耐えられません!
 布団から出ます、俺は女性経験はゼロなので、まずは面と向かってお話からでも!

「私にゆだね、撃鉄げきてつを起こせ。照準は初心たる君には任せたりしない。まずは風景を撫でるだけでいい」

「でででで、ですけど! 俺はまだ心の準備ができてないといいますか!」

 俺は流石にどうしようもなくなり、体のほてりが覚めるまでベッドから出ることを決意した!


「現在の時刻、9時13分。北緯30度、東経60度。ノベル、撃鉄を起こせ」

「へっ?」


 ――目を開けると、真っ暗な布団の中にいたはずが、目の前には、カナヤの街の風景が広がっていたのだ!
 さっきまでステイプラーさんのベッドの中にいたと思ったのに、気づくと俺は外にいた……。
 違う、これはステイプラーさんに見えてる風景だ!

『あいつがカナヤで働いているところを見たことがない』

 ハイライターがステイプラーさんに対しての印象だ。
 彼女は惰眠ばかりを貪っている訳ではない、眠っていないとこの能力を発動できないのだ。

 つまり、ステイプラーさんは真っ暗な部屋の中から、夢の中でカナヤの監視をしているのだ。
 この仮説は、多分大体合っていると思う。

「ノベル、撃鉄を」

「はい、分かりました!」

 俺は手元にある幻想の銃を眺める!
 この銃は、中世ヨーロッパで流行ったフリントロック式銃だ!
 爆発音が酷く、1発撃つだけでも強烈な反動が来るとされている最低の代物だ!
 引き金を引いてコンマ数秒後に発射されるために命中率なんてあったもんじゃないし、火花が起きないとそもそも弾丸が飛ばないと言う欠点だらけの銃である。
 ただし威力は絶大で、当時ではこれに勝てる武器など存在しないとまで言われた一級品でもある。
 ――ってか、これをどう見て『拳銃』なんだ。
 どう見ても火縄銃だろこんなの!

 俺は撃鉄を起こし、ステイプラーさんの導かれるがままに手を動かす!
 彼女の手がガイドをしてくれるから、とても安心感があって、背中におっぱいが当たってドキドキ!

「ノベル。あそこを見て。あの場所に見覚えがある?」

「あそこは確か……麻薬密売が横行している地帯とハイライターから聞いてますが」

「そう。今日の朝頃、白昼堂々と取引をするとタレコミがある。ノベル、アイツらを殺して」

「え、は?」

 以前、ハイライターとここへ来て麻薬の密売が起きないか張り込んだ経験があるから分かる。
 この場所は、麻薬の密売人が落ち合う絶好のスポットになっている。
 傭兵の目が届きにくい、視界から漏れやすい危険スポットだ。

「あの二人を殺せば、麻薬のルートが一つ消える。二人の犠牲で、このカナヤは平和になるんだ」

「で、でも、相手は人間ですよ? 国民の頭蓋を貫けと?」

「無法者は断罪しないと、次の犠牲者が増えるだけだ。今、この麻薬ルートを断つだけで、何十人の未来を救えるんだ。ほら、ノベル」

 銃を握る俺の手を、ステイプラーさんの柔らかい手が包み込む。
 そして彼女は殺人を迫るのだ。

 傭兵の目がない今、2人の男たちが小さな麻袋を取り出し始めた!
 間違いない、ここで殺さなければ、麻薬が売り捌かれてしまう!

「引き金を引いて」

「え! でもステイプラーさん!」

「引いて」

「嫌、嫌です! 俺はこの人たちを撃ちたくないです!」

「……何故?」

 ステイプラーさんは俺に胸を押し付け、耳元で息をふぅと吹きかける。
 こそばゆく、俺はぷるりと身震いしてしまった。

「俺はあの人たちは撃ちません! 確かに麻薬の密売はいけないことです! だとしても、殺していい理由にはならない!」

「……!」

 この期に及んで、俺はそんな駄々を捏ねる。
 分かっているさ、この人たちが居るせいで獣人の人たちが犠牲になる可能性があるんだって。
 麻薬密売で儲けた金で新しい奴隷商が生まれるかもしれない!
 それでも、人を殺していい理由にはならない!
 生き物は、生き物を裁いてはならないのだ!
 この人たちだって、明日を夢見て生きてきた俺たちと同じ命だ!
 ――豚や牛だって同じだったはずだ!
 もはや、これは偽善の塊だ。
 ただ、可能な限り俺は生き物の命を取りたくはないんだ!

「ステイプラー!」

「……ノベル、命は好き?」

「あぁ、大好きだ!」


い響きだ」

 そう言い、ステイプラーは少しだけ銃口の向く位置をずらした!

「ノベル」

「分かった!」

 そして、俺は全ての念を込めてフリントロックの引き金をグッと引いたのだ!

 瞬間、爆発的な音を立てて銃口から銃弾が放たれ、麻薬密売者と客の間を貫いていった!
 すると、2人の間に白い粉が巻き上がり、恐れ慄いたのか互いに逆方向に走って行った!

 ――俺とステイプラーのたった数秒の会話により、誰かの命を奪わずに済んだ。
 ただ、あのバイヤーは仕留めることができず、どこかに消えて行ってしまった。

「ノベル。何故、彼らをゆるす?」

「別に、赦した訳ではないです。ただ、俺の手で、あなたのこの美しい手で人を殺したくはなかった」

「ならば、奪うべきだった。早く仕留めなければ、救わなければならない、私が」

「でも、ステイプラーさんが十字架を背負う必要はない!」

「え……!」

 俺はステイプラーさんの手をギュッと握りしめ、額にそれを持っていく。
 ――震えてるじゃねぇかよ、こんなかよわい女の子の手がよ。

「ステイプラー、質問だ。殺しは好きか?」


 最も難しい問題がここにある。
 人は、殺戮をするために生まれてきた罪深い生き物であると俺は思う。
 何故ならば、今日も俺たちは生き物を食べるために生き物を殺しているからだ。
 生き物を殺す者を許さないなら、殺す。
 しかし、それはいたちごっこで永遠に殺人を途絶えることはできないんだ。
 だから、誰か1人がゆるし、誰かを肯定してあげなければならないんだと俺は思う。
 クズ理論だってのは承知の上だ。
 だから、世界で一番難しい倫理の問題なのだ。

 俺は、人を殺さない。
 俺は言ったのだ、これ以上誰も殺戮によって悲しまないようにする。
 例え、倫理的に間違った選択だとしてもだ。


「……好きじゃない。殺しは好きじゃない!」

 ステイプラーは純粋なんだって思う。
 無理やり純粋だから、人を殺すことに対して疑問を抱かないように心を抑制していたんだ。
 本当は人が死ぬことを誰よりも怖がってるくせに、殺さなければ誰かが明日死ぬんだ。
 そのために、彼女が命を背負い、引き金を引くんだ。

「好きなわけない。ノベル……私は正しい選択をしていたの?」

「答えはどこにもないさ」

 ステイプラーは俺の耳元で囁く。
 もう、人は殺したくない。
 でもどうすればいいの?

「俺と考えようぜ。人を殺さずして、人を救える方法をな」
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