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第二章 勧善懲悪

12.ウサミミちゃん救出作戦①

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 ◆

 俺は、生きてきた中で一番の大声をあげた!
 って言うのも、生きてきて一度も殴り合いの喧嘩をしたことがない。
 他人を威嚇するってのは、これが初体験だ。

「あぁ?! なんだよ。お前も人間なら、この獣人を追い出す手伝いをしてくれよ! この街に居ていいのは、賢い人間と利用価値が高い亜人、それと情報力に富む妖精族と力強い竜人だけだ!」

 金髪モヒカン男は俺の方に歩いてくる。
 ここが東京だったら、俺は一目散に安全地帯まで走って逃げるだろう。
 ただ、ここは異世界だ!
 日本の常識が通じないことくらい分かってら!

「人間ならば、理性があるだろうモヒカン! 弱き者を虐げるのは良くないとママンから教わらなかったか?」

 うひょー!
 スカした言葉を言いたかったんだよな現実で!

「はぁん? 随分と頭がキテんなこいつ。知らないなら教えてやる。この中心地は『ペット禁止』なんだよ」

「ペットだと! あのウサギの女の子はペットじゃない! 獣人だ!」

「だから、獣人のことを『ペット』て言うんだよ! どうしたお前?」

「そ、そうなの?」

 モヒカン男は俺の手前までくると、半世紀前のチーマーみたいに上目遣いで睨んでくる!
 あらやだ!
 思想が古すぎやしませんかね!

 俺は少し周りの人たちが気になって見渡してみる。
 皆、「その通りだぞ」と言いたげな表情で俺を見てる!
 ……これってもしかして、このチンピラが悪いんじゃなくて俺が悪いのかよ!

「ペットはな、野ションするしフンを撒き散らすし、何よりもクセェ! だからな、マスターは仰った! 『獣人(ペット)は立ち入り禁止』だってな!」

 ――それは知らんかったなぁ!
 つまり、俺は無法者を庇うただの無法者……って立ち位置か?!

「だ、だが! この獣人の子に必要以上に言い過ぎだ! それをまず謝るんだ!」

 俺はモヒカン男に果敢に立ち向かう!
 俺はラノベの主人公だ!
 ここで腰が折れちゃ男が腐るわ!

「誰が謝るか! 逆によ、お前は虫を叩いて謝るか? 蟻を踏み潰して墓を建てるか?!」

「うっ!」

 アッパーカット!
 このやろう、頭悪そうな見た目のくせに舌の回転は早いのな!
 口喧嘩はあんまり強くないのよ俺ってば!
『虫だって、生き物だ! 等しく尊い!』って言いたいけど、流石にごめん、無理がある。


「おい、もういい。その非常識なガキよりもコイツの始末の方が先だ。さっさとコイツを叩き出すぞ」

 と、ウサミミの女性の前で立つ巨大なスキンヘッド男がそう言う。
 あの野郎、人間だよな?!
 サイボーグとかそう言う世界観ぶっ壊すようなやつじゃなかろうな?!

「へ、ヘイ兄貴!」

「ま、待て! 俺からの話は終わってねぇぞ!」

 スキンヘッド男の方に向かうモヒカン男の手を掴もうと、手を伸ばす!
 このまま逃せば、俺は自分の信じた事を捻じ曲げたことになる!
 異世界って舞台にまで来て、信念を捨てちまいたくねぇんだよ!

 ――しかし、俺の腕はモヒカンの男まで届かず、気づけば空を見上げていた。
 飛び散る血と、白い歯。
 これってまさか、全部俺のか――?

「ぶばっ!」

 俺は強力な力によって、その場に叩きつけられる!

「人間のくせに、随分と頭の回転が遅い男だ。流石に今の一発は避けると思ったが?」

 俺は地に伏せ、口から流れ出る真紅の血液を、美しい石畳に撒き散らす。
 初めて、歯が折れた!
 虫歯ができた時も歯を抜いたが、この抜け方はどうして治せばいいんだ!

 上を見上げると、そこにはリーゼント男が拳を打ち合って鳴らしていたのだ!
 この男が、俺のことを殴ったのか!
 全く動きが見えなかった!
 おおよそ、コイツの能力は測度に関するものに違いない!
 それに、目の色が虹色で気持ち悪い!
 まさかこの人、人間じゃない、亜人ってやつか?!

「どうした、顎を折られて話もできんか?」

「へっ、なんてことないっての!」

 俺はふらつく体を持ち上げ、どうにかリーゼント男の目線に到達する。
 コイツはかなり強い。
 あんまり喧嘩はしたことがないけど、態度とか仕草でなんとなく分かる。

「どうした、殴ってきてもいいぞ?」

「んじゃ、お言葉に甘えさせていただきますわっ!」

 俺は不慣れな動きでアッパーを繰り出すフリをすると、そこにはもうリーゼントはいない!
 瞬間、俺の背中から滅茶苦茶な威力のキックがぶち当たる!

「くばっ!」

 野次馬が騒つく!
 へへ、俺がこんなにも弱くてみんなドン引きしてるんだろうな。
 獣人を必死に守ろうとしている茶髪の少年と、その弱者を淘汰しまいと殴り続ける正論リーゼント。
 さて、見物客はどちらに肩を持ちたくなるものかね?

「ノベル、もういいですか?! アズちゃんが仕留めます! いいですか、いいですかノベルっ!」

 アズリエルの声が聞こえたかと思うと、俺の体が縦回転や横回転でコロコロ転がっていく!

「くっ!」

 俺はすぐに受け身をとって体制を立て直すが、その時にはすでにチンピラ三人衆に囲まれていたのだ!

「兄貴、コイツどうしやしょう! 常識を叩き込むんならオトモしやす!」

「俺はもう殴り飽きたが。鍛錬されてない柔い肉は殴っていて不快だ。しかし、兄貴が殴りたいなら協力くらいはするぞ?」

 このチンピラども、どこまでも卑劣な奴らだ!
 俺を殴って蹴って、挙げ句の果てに俺をリンチしようとしてる!
 いやだ、なんかすっごい怖くなってきた!

「返事してくれないなら、もういいですね! アズちゃんがその3人をやっつけます! 大丈夫です、半殺しですから!」

 アズリエルはすでに鎌を空に掲げており、いつでも戦闘開始できる態勢だ!

「ダメだアズリエル! お前は来るな! 手を出せばお前も向こう側の人間と同じだ!」

「何故ですかノベル! 今にも死にそうな顔ですよ!」

「俺は絶対に殴らない! 心の弱者はな、論破されるのが怖いから拳で解決しようとするんだ! だから、俺は殴らない! ウサギちゃんに謝るまでいつまででも待つ!」

 ――確かに、顔面は血塗れだし、口からは血が止まらないし、服がボロボロだ!
 あぁ、転生者特典なのにこの服!


「大丈夫だアズリエル! こんな奴ら、俺だけで十分だからな!」

「の、ノベルっ……!」

 俺はアズリエルが鎌を下げたのを確認し、再びチンピラ三兄弟に焦点を合わせる。

「どうしやすか? 流石に一般人をこれ以上痛めつけるのはマスターの法律に反するっすよ?」

「大丈夫だ。獣人(ペット)を庇う愚か者を成敗したとあらば、報酬は頂けよう」

 モヒカンとリーゼントが順に話し、それを聞いた大将のスキンヘッド男は、俺のことを見下ろして、

「貴様。何故この獣人(ペット)を庇う? 先ほども告げたが、法に触れた罪人だぞこの者は?」

「ペットって言うなハゲ! 確かに、ウサミミちゃんは悪いことをしたかもしれない! でも、あまりにも可哀想な仕打ちだ! だから、俺はまずその子に謝れって言ってるんだ!」

「拒否する。マスターの法は絶対だ。『獣人(ペット)は否定されて然るべき汚らしい誤り』である。故の、獣人(ペット)禁止だ。雑草が生えていれば引き抜くのに同じく、要らぬ芽は引き抜き捨てる。ちょうど、この街は花壇だ。美しさに欠ける雑草に同情してなんになると言うのだ童」

 スキンヘッドはガンとして俺の言うことを聞こうとはしないし、周りの野次馬たちも黙って見ているだけだ。
 ……こんなの、絶対におかしい!
 ウサミミちゃんが泣いてるんだぞ、孅い女の子が3人掛かりで虐められているのに、誰もそのことに触れようとしない!
 種族がなんだ、獣人がなんだ!

「だったら、俺はこの街のマスターを否定する!」

「「「なっなに?!」」」

 三人衆は揃いも揃って同じリアクションをする!
 はははっ、ラノベのキャラはこんなだから扱いやすい!

「マスターを否定するとはつまり、法律を否定すると言うことだぞクソガキ! お前が法律を否定するなら、俺たちはお前を殺しても罪じゃないってことでいいよな?」

 口達者なモヒカンめ、だったら俺のことを殺してみろってんだ!

「いいぜ、俺を殺せるなら殺せよ! だがな、俺を殺しきれなかったらウサミミちゃんを解放しろ!」

 俺はそんなことを言い放ってやった!
 ここまできたんだ、やってみろよってな!
 でも、そんなことはできないよな?
 俺を殺してしまえば、お前らは明らかに過剰反応を見せた輩だ。
 さて、こうなった時にお前らは獣人を庇って死んだ男を笑み侮辱できるかな?
 周りには俺を痛めつけることに感情が震えて涙を流す人間が居るぞ?
 俺は必死に弱者だ、お前らは虐げる強者だ!
 この構図を前にして、一体どちらに感情の念を抱くかな?
 守りたくなる側はどちらだ、弱者を守るべきはずの強者か、虐げられて痛む弱者か?

 ――宛ら、これは罠である。
 俺は何度でも殴られていい、蹴られていい。
 俺は、お前らのような規則を守るような善に熱い男たちを否定したくない。
 ただ、その善の形が歪んでいるだけのことだ。
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