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第二巻 第三章 第三部 ハレルヤ

第五十八話 ヒポクリット

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Hallelujah! 褒め称えよ!Hallelujah! 褒め称えよ!Hallelujah! 褒め称えよ!Hallelujah! 褒め称えよ!Hallelujah! 褒め称えよ!

 ハレルヤ大佐の一声に呼応するように、彼女の召喚した石像たちが歌い始める!
 瞬間、空の雲が晴れて激しく明るい太陽光があたりを包み込んでいく!

 僕もレイピアを掲げ、彼女の攻撃に備える!

 ――ハレルヤ大佐の魔法は、対象を無力化する超音波と旱魃を引き起こす太陽光の熱線、そして重力操作だ!
 僕が育てた逸材なのだ、ハレルヤ大佐の攻撃については熟知している!

 僕のレイピア――、ヒポクリットを地面に突き刺し、思いっきり魔力を押し流すと、どこからともなく空に銃が現れて、大量に降ってくる!
 この銃とは、いわゆるフリントロック式銃だ!
 リロードにはかなり時間がかかる、マガジンのない銃だが、それが数百ほど地面に突き刺さる!
 僕はその一本を拾い上げ、引き金を引く!
 爆発音と共に、一発の円形の銃弾がハレルヤ大佐に向けて飛んでいく!

「妾に向けて銃口を向けるとは、実に愚かです」

 ハレルヤ大佐が人差し指をクイっと下に下げると、僕の弾丸が下に向けて加速し、地面にめり込んで消えたのである。
 これが、彼女の重力操作だ。
 防御性能と攻撃性能の両方を兼ね備えたこの魔法の前に、死んでいった人々は成す術が無かったと聞いている。

 ――ただ、僕の魔法を込めた銃弾でさえ、簡単に弾かれてしまうとは。

「神の御前に立ち、あなたは何も感じないのでしょうか? 兎角、首を垂れなさい」

 ハレルヤ大佐の人差し指と中指が下を向くと、僕の周りに光が現れる!
 これは、ハレルヤ大佐が作り出した重力フィールドだ!
 この中にいると、忽ち重力が強くのしかかり、立ち上がれなくなってしまう!
 僕はヒポクリットを、遠くに突き刺さる銃に向けると、体がその銃に引きつけられる!
 僕の得意技である、瞬間移動である!
 僕が召喚した銃にヒポクリットを向けると、その場に高速で移動できる!

 僕はどうにか彼女の魔法を躱すと、重力フィールド内の地面が粉々に砕かれていく!
 彼女の重力操作は相当な威力である!
 これを食らえば、僕はおそらく一撃で死に至るだろう。

「ほう、ラデツキー大佐は瞬間移動ができるのですね」

 ――すでに、僕の奥の手を使用してしまった。
 ハレルヤ大佐は、僕が瞬間移動できることを知らない為、これを利用して一撃を喰らわせる予定であったが、その作戦が破綻してしまった。
 ハレルヤ大佐は基本的にソロでの戦闘が多い為、僕の情報はほぼ持っていない。
 できるだけ、手の内を見せたくはないところだ。

「ハレルヤ大佐! 今一度申し上げます! この戦いは無意味です! どうか、お考えなおしを!」

「これは、妾の意思ではありません。神がこの世界を救済せねばと仰っているのです。その上で、妾は使役されているだけですよ」

 ハレルヤ大佐が手を広げると、太陽光がさらに強くなり、地面から蒸気が噴き出し始める!
 地上の水分が蒸発しているからだ!

Hallelujah! 褒め称えよ!Hallelujah! 褒め称えよ!Hallelujah! 褒め称えよ!Hallelujah! 褒め称えよ!Hallelujah! 褒め称えよ!

 僕は、地面に突き刺さっている銃を抜き、もう一発、銃弾を放つ!
 しかし、必然のようにその弾はハレルヤ大佐には届かず、下へと落下する。

「神を前に暴力は無意味です、ラデツキー大佐。あなたがどれだけ主張しようが、旧世界は何も変わりません。あなたができることは、自分の愚かさを認め、悔い改めて浄化される事のみです」

「僕は悔い改めるつもりです! ハレルヤ大佐を止めることこそ、僕の贖罪であります!」

「……どうやら、頭が醜い思想に侵食されているようですね。神に統治されることに何の不満を感じるのでしょうか?」

 ハレルヤ大佐の赤髪がふわりと舞うと、背後の神父と修道女の像が両手を上げる!

For the Lord God omnipotent reigneth 全能者の神である主が王となったHallelujah! 褒め称えよ!Hallelujah! 褒め称えよ!Hallelujah! 褒め称えよ!Hallelujah! 褒め称えよ!

 彼女の歌う讃美歌により、地面に生えていた草たちがどんどん死滅していく!
 そして、乾涸びた部分が徐々に割れていき、旱魃が引き起こされる!

 おそらく気温は50℃をゆうに超えている!
 このままでは、僕も乾涸びてしまう!

「ラデツキー艦隊、発射用意!」

 僕はやむを得ず、空中に浮かぶ無数の戦艦に命令を下す!
 そして、戦艦の砲台が全てハレルヤ大佐に向いたことを確認する!

 僕は別の銃の場所まで瞬間移動し、掴んだ2本の銃を投げ、そこに瞬間移動し、また投げては瞬間移動を繰り返し――!
 高い空に向けて上に登り、一番巨大な戦艦の上に立った!

「ハレルヤ大佐! 僕も本気を出します! これは致し方がないことです! 仮にあなたが死しても、僕は責任を負えないのです! どうか、停戦を!」

「ラデツキー大佐。随分と自信がお有りのようですね。妾がその魔法で止められるとでも?」

「はい! 僕はハレルヤ大佐よりも強い! どうか、どうか停戦を!」

「その自信はどこからやってくるのでしょうか。神は、傲慢な者を好みますが、虚言は拒みます。訂正するなら、今のうちです」

「訂正はしません! 僕が本気を出せば、ハレルヤ大佐を死なせてしまう! 僕からの警告です、停戦しましょう!」

「……あなたは立場をまるで理解されていませんね。裁かれる側に立ち、なぜ説得出来るとお思いなのでしょう。妾への攻撃は、主への冒涜です。妾に攻撃することつまり、神を攻撃することに同じ」

 ――ここに来て、僕はまだハレルヤ大佐を説得しようとしている。
 なぜ僕はこんな非効率なことをしているのか本当に分からない。
 ハレルヤ大佐を殺そうとすることなんて簡単な話だ。
 だが、躊躇してしまう。

 ――僕は、なぜハレルヤ大佐と戦わなければならないのか。
 全てはフーガ司令官のお考えでの戦闘配置。
 僕と敢えてハレルヤ大佐を戦わせるのには、何かの意味があるのであると悟っていた。
 ただ、やはり僕はハレルヤ大佐を殺めることなんてできない。

 なぜならば、ハレルヤ大佐は僕の大切な人なのだから。
 僕にとって、彼女はかけがえのない存在。
 僕が初めて愛しいと思えた人でもあるからだ。

「ラデツキー艦隊、構え!」

 僕のレイピア――、ヒポクリットをハレルヤ大佐に向けると、戦艦全隻の大砲に紫色の光が集まっていく!
 この一撃が、僕の最大の切り札である!
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