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第一巻 第二章 魔王軍殲滅戦線

第二十二話 プレリュード

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 ◆◆◆◆◆◆

 俺は、トレーニングルームでヴァイオリンの持ち方や弾き方などをフーガ先生に教えてもらっていた。
 初めて弾く弦楽器。
 なかなか難しく、正しい音を出すだけでもやっとだった。

「1時間、みっちり基礎だけやりました。あとは、カノンさんとアリアさんに色々と教えてもらってください」

「ありがとうございます! カノンとアリアは今向かってきてるんですか?」

「はい。魔王軍に見つからないようにと伝えていますから、ご安心を」

 フーガ先生がトレーニングルームの出口に向かっていくと、カノンとアリアが中に入って来た。

「すごっ! 透明なヴァイオリンじゃない!」

「さずかリュート様! 私たちとは一味も二味も違いますわ!」

「はい、リュート君はなかなか筋がいい。あとはお任せしました」

「了解よフーガ先生! ありがとさん!」

「私たちが最後まで仕上げますの! ご安心くださいませ!」

「なんとも心強い。私は、エータ君を起こして来ます。何かあれば、私に何なりと」

 フーガ先生はそう言って、トレーニングルームから出て行った。

「さて、リュート! 私たちがしごいてあげるから、覚悟しなさい!」

「明日までには、魔法が問題なく使えるように特訓ですの!」

「あぁ、よろしく頼むよ」

 俺はフーガ先生からもらったミノロコの実を齧って魔力を充填すると、首をコキコキと鳴らした。
 ここからが、俺の本番だ!

 ♠︎♠︎♠︎♠︎♠︎♠︎

 ちくしょう、完全に出遅れた!
 俺はパソコンの前で、ひたすら課題曲を聴き続けていた!

「エータ君、どうでしょう? もう昼の3時です。ちょうど、特訓を始めて24時間が経ちました」

「先生~! 俺、本当に大丈夫っすか?」

「24時間も聴き続ければ、きっと大丈夫です。それと、エータ君の望みである『テルさんとの特訓』も組んでおきました」

「え! テルさんこれから来るの!?」

「はい。アイネさんとトッカータとも合流します。これからは、ここを拠点として、明日を迎えます」

「く~! テルさんが来るなら百人力だ! んじゃ、今からトレーニングルームっすね!」

「はい。それと、エータ君。リュート君の魔法が完成しつつあります」

「え!? 9時間だけで!?」

「はい。彼は予想以上のスピードで成長してくれました。彼を見て行きますか?」

「見たいっす! ぜひぜひ!」

 俺は立ち上がり、急いでトレーニングルームへと向かう!
 くそぉ、やっぱりリュートは器用だな!
 俺みたいななんでもない男とは格が違う!
 さすがは俺が認めた大親友、やってくれるじゃねぇの!

 ◆◆◆◆◆◆

「ふぅ、これで全部だな」

「リュート、あんた凄いわよ。まさか、こんだけの時間でここまで成長できるだなんて!」

「ですわよ! 普通、ありえないんですのよ!」

「へへ、俺は『性欲の勇者』だからな!」

「正確には、『性欲の勇者の異世界バージョン』だけどね」

「でも、大したものですの! これだったら、魔王軍にも太刀打ちできますの!」

「太刀打ちどころか、マジで倒せちゃうんじゃない!?」

 俺は額の汗を拭き取り、壁に寄りかかって座る。
 エータがいなくなって9時間が経過した。
 そろそろ、エータも帰ってくる頃だろう。

 そう思っていると、トレーニングルームがバタンと開いた!

「リュート! お前、ついにやったらしいな!」

 ちょうど、エータが血相を変えて入って来たのだ!

「エータ! お前、魔法は使えるようになったのか?」

「まだ試してない! それよりも、お前! 今、どんな感じだ?」

 すると、カノンが得意げな顔で話に割り込んで、

「ふふん。エータ君、私の教えのおかげで、リュートは完璧な演奏者(シンフォニカ)になったわ!」

「ちょっと! 私もですわよ! カノンだけの力じゃないですわ!」

 俺はフーガ先生からもらった段ボールの中にあるミノロコの実を齧り、強者の風格をエータに見せつける。

「俺の魔法、見てみるか?」

「おう見てぇ! いいのか!?」

「いいぞ。よく見とけよ?」

 俺は全身の骨をコキコキと鳴らし、トレーニングルームの奥の方を向く。

「リュート君。随分と自信がありますね。自信は、演奏の上で大切ですから」

「フーガ先生! 俺、相当で遅れてますよね? 多分」

「大丈夫ですよエータ君。君も、練習すればリュート君のようになれますよ」

 エータは完全に自信を無くしてしまっている。
 まぁ、俺のこの魔法を見れば、奴もやる気が戻るだろう。
 ただの一般人による、魔王軍討伐のための魔法だ!

「心弦解放! プレリュード!」

 俺は透明なヴァイオリンと弓を召喚すると、俺の周りに四つのクリスタルが現れる!
 ピンク、赤、オレンジ、青の輝く宝石が俺を守るようにぐるぐると回っている。

「リュートは、この短時間に4部作を完璧にマスターしたのよ! マジで凄いわ!」

「ですの! 私たちでも、リュート様に勝てるかどうか」

 アリアにそう言われて、俺は少しだけ嬉しくなる。
 だが、慢心は禁物だ。
 俺たちは、負けるわけにはいかない。
 そのためにも、100%の力を出さなければならない。

『春』!!!!!!

 俺は周りに飛び交うピンク色のクリスタルを弓で切り裂くと、桜の様な花びらが舞い散る!
 俺のヴァイオリンは透明から薄桃色に変わり、トレーニングルームに温かい風が吹き始める!

「――綺麗だ」

「はい。これが、リュート君の魔法です!」

 俺はヴァイオリンに弓を置き、ゆっくりと腕を引いた。

 俺の周りには草や花が生え、桜の花びらが舞いあがっていく!

 俺がマスターした、俺の課題曲――!

 それは、ヴィヴァルディ作曲の『四季』だ!
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